今回の記事は高配当銘柄として有名なLIXILグループ<5938>を分析します。配当利回りは4.75%、10年以上に渡って減配もありません。国内の住宅市場は衰退へ向かっているように見えますが、一方で補助金という追い風も吹いています。LIXILへの投資はアリでしょうか?(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
住宅設備の最大手「LIXIL」グループ
LIXILグループの中核事業会社「株式会社LIXIL」は、2011年に国内の主要な建材・設備機器メーカーのトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合して誕生しました。
前身のトステムの、そのまた前身まで考えると1923年まで遡る歴史が古い会社です。
LIXILと聞くと窓やトイレのイメージがありますが、様々な商品を販売しています
では、業績はどうでしょうか?
業績は低迷…厳しい国内市場
結論、業績は伸び悩んでいます。
売上・営業利益ともに、成長しているとは言えません。
出典:決算短信より作成
セグメントごとの事業利益(=営業利益)で見てみると、特にドアや冊子などを取り扱うハウジングテクノロジー事業がやや安定性にかけることが分かります。
出典:決算短信より作成
ちなみに、2019年は熊本や北海道で最大震度6を計測する大きな地震があったことで、需要の落ち込みがあったことに加え、売却済みの海外子会社において想定外のコスト増加があった影響で赤字となりました。
そして現在の日本の市場の様子は、国内の新設住宅着工戸数は減少し、歯止めが効かない状態です。
出典:コアシス
このように、日本の市場が縮小するリスクがありますが、LIXILの主戦場は日本です。
出典:決算短信より作成
日本の売上が大きく沈んだ2021年3月期は、新設住宅着工戸数も減少しています。したがって、LIXILは今後も国内市場の縮小の影響を受けるものと予想されます。
これが、LIXILのリスクですが、魅力もあります。
それは配当金です。
Next: 高配当は続くのか?LIXILが注力している事業とその将来性は…
LIXILの配当は続くのか?
投資家であるあなたは、「事業は多少厳しくても、配当が続くのなら大丈夫」と思うかもしれません。しかし、現状は厳しい状態です
表の最後の通り、24年3月期の配当を予定通り捻出した場合は、配当性向が234%となる計算です。つまり、稼いだ利益以上の配当金を、これまでの利益を切り崩しながら分配しているのです。
なぜこのような配当政策をとっているのでしょうか?
それはリフォーム需要の追い風がきているため、と考えられます。
リフォームで活路を見出せるか?
先に述べたとおり、新築需要はすでに下火であり、好転することは考えづらいでしょう。代わりにLIXILが狙うのは、リフォームによる成長です。
すでにウォーターテクノロジー事業の半分以上が、リフォーム需要によるものです。
出典:決算短信より作成
市場の予測では、住宅リフォームの市場は団塊ジュニア世代のリフォーム需要増加や、単価の上昇によって、長期的に拡大する見込みです。
出典:矢野経済研究所
この波をうまく捉えることができれば、新築需要の減少をカバーできるかもしれません。
そして、目先LIXILにとって嬉しいトピックがあります。
それは、政府の補助金です。
先進的窓リノベ事業が追い風になる
その補助金とは、先進的窓リノベ事業です。ガラス工事(既存窓のガラスのみを取り外し、既存サッシをそのまま利用して、複層ガラス等に交換する工事)や内窓工事(既存窓の内側に新たに内窓を新設する、または既存の内窓を取り除き新たな内窓に交換する工事)を行うと一戸あたり200万円まで政府から補助金が出るのです。
窓・内窓ともにLIXILの主要製品ですから、この政策は事業にプラスです。実際、最新の24年3月期3Q時点では、補助金による需要増加と値上げを行なったことで、利益率が改善しています。
出典:決算説明資料
問題はこの補助金の継続性です。参考になる文を引用します
新たに新設された先進的窓リノベ事業は、経済産業省と環境省による支援事業です。
「この事業がつくられた背景には、2050年カーボンニュートラルの実現や、それに向けた2030年度の目標達成などがあげられます。目的は、既存住宅に設置されている窓の断熱性能を高めることで、既存住宅の省エネ化や冷暖房費の負担の軽減などがあります」
この動機であれば、先進的窓リノベ事業が、中長期的に継続する可能性も考えられます。ホームテクノロジー事業で窓やドアを取り扱うLIXILにとっては、新設住宅着工戸数の減少に対応できる1つのトピックかもしれません。
Next: LIXILグループは買いか?長期投資家が判断すべき高いPERの妥当性
高いPERを正当化できる?
ここまでのLIXILのリスクと期待について解説しました。ここで現状をまとめます。
これを踏まえて投資判断を行います。
3月14日終値時点のPERは50.1倍です。確かに、LIXILはリフォーム需要の増加の波を捉え、政府補助金の効果も重なり、来期以降業績を伸ばす可能性はあると思います。
しかし、現状は高い配当利回りが株価を下支えしている可能性も否定できません。
したがって、減配は大きなリスクとして認識するべきでしょう。
つまり、減配の発表と同時に、株価が下落するダブルパンチを喰らう可能性がある企業です。
あくまで私の意見では、いくら補助金効果があるからと言ってもPER50倍を正当化する理由にはならないと考えます。かなり無理をしている配当性向であることが気になります。
ロジカルに考えれば補助金は継続しそうですが、本当に継続するかは分かりません。
補助金打ち切りとともにさらに業績が悪化する可能性も考えられます。
またリフォーム需要が伸びたとしても、新築向けが右肩下がりである以上、大きな成長は見込めないかもしれません。よくてわずかな成長、あるいはトントンくらいのイメージを持ちます。この成長の確度でPER51倍は到底受け入れることはできないと思います。
補助金等リフォーム関連の追い風と減配や補助金打ち切りのリスクを総合的に考えると、投資判断は慎重に行うべきだと思います。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2024年3月15日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。