今回分析する企業は「にじさんじ」で有名なANYCOLOR<5032>です。VTuberにまったく興味がわかない層にとっては、なぜ人気なのか理解ができないでしょう。しかし、分析してみると、ROE(自己資本利益率)68%・営業利益率37%・自己資本比率71%(※23年4月期実績)とかなりの優良企業であることがわかります。にもかかわらず、直近で株価は20%も下落しました。この記事は、ANYCOLORのビジネスと儲かる理由、今から投資してもよいのか?などについて解説します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
ANYCOLORは収益性が高い企業
ANYCOLORはVTuberビジネスを手がける会社です。
VTuberグループの「にじさんじ」を運営し、YouTubeなどで動画配信を行っています。
出典:ANYCOLOR ホームページ
VTuberとはアニメキャラのアバターがYouTubeなどに動画を投稿したり、ライブ活動を行う方のことです。代表的なクリエイターとして「キズナアイ」などが有名です。
ANYCOLORはVTuberのタレント事務所のようなビジネスを行っています。多数のVTuberタレントを抱え、様々なビジネスを行っています。
業績は綺麗な右肩上がりです。
出典:決算短信より作成
ポイントは24年4月期の予想営業利益率は約40%であること。大変な高収益なビジネスを行っているのです。
ANYCOLORは具体的に、どのようなビジネスを行っているのでしょうか?
VTuberビジネスが儲かる「裏側」
主な活動場所がYouTubeであるため、ついつい「Googleの広告収入やライブの投げ銭で稼いでいる」と思いがちです。
しかし、ANYCOLORの主たる収入源はそこではありません。グラフの通りコマース事業、つまり所属VTuberのグッズ販売などで収益を上げているのです。
出典:ANYCOLOR 24年4月期 第3四半期 決算説明資料
もしも、広告収入が中心であった場合、生きるも死ぬもGoogleに握られているようなものですから大きなリスクです。つまりYouTuber事務所のUUUMのように「ショート動画の台頭で、YouTube広告収入が減少し赤字」といったことは起きる確率が低いと考えられます。
特に、グッズ販売の中で面白いのは、所属VTuberの限定音声を500円から5,000円前後で販売している点です。タレントの声を録音し、自社サイトで販売しているため、ほとんど原価率が0と考えて良いでしょう。
加えて、近年成長しているプロモーション事業の内容は、文房具や携帯電話、寿司チェーン店やスーパー銭湯とのコラボです。基本的には所属VTuberを稼働させる時間が短く、こちらもコストが低く稼げるビジネスと言えるでしょう。
出典:ANYCOLOR 24年4月期 第3四半期 決算説明資料
VTuberビジネスは、製造業のような大きな設備投資は不要です。また、VTuberがそのままブランド確立の役割を果たすことから、SaaS企業のように広告宣伝費をかけ、ユーザー獲得に向けたコスト競争になりにくい、とても儲かるビジネスなのです。
しかし、3月14日の決算後株価は20%暴落しています。
ANYCOLOR<5032> 日足(SBI証券提供)
どんな決算の内容だったのでしょうか?
Next: なぜ株価は急落したのか?市場自体は成長中だが…
成長鈍化の可能性が高い?
それは、成長鈍化の可能性が高まったためです。
24年4月期3Q単体の営業利益は前年同期を下回りました。成長率は年々下落しています。
ついに営業利益がマイナスの成長となったことが、市場がネガティブに捉えたものと考えます。
出典:決算短信より作成
ANYCOLORの説明では、23年12月に開催された「にじさんじフェス」のコストが想定を上回ったことが原因のようです。
しかし、そもそも売上が伸びていれば、そのコストも回収できるはずです。
売上減少となる要因を考えてみましょう。
市場自体は成長中だが…
まず、ANYCOLORが参加するVTuberの市場の動向をみてみましょう。
結論、拡大しています。
出典:矢野経済研究所
2016年のキズナアイの誕生をきっかけに、コロナ禍で巣篭もり需要が増えたことが追い風となり、VTuberの認知度が高まりました。
しかし、上記のグラフを成長率で考えると、115%→67%→53%と成長率自体は鈍化しています。したがって、ANYCOLRの売上成長率が伸び悩む理由は、
「コロナ禍で急速に認知度が高まったVTuber市場の成長ペースが落ちているため」
と考えることができます。
では、その市場参加者の動向、つまり競合の観点ではどうでしょうか?
ホロライブは強力なライバル
この市場はANYCOLRと、ホロライブを運営するカバーの寡占と言えるでしょう。
出典:ジェネリック集計人「Vtuber業界地図 2023年総集編」より引用
では、ANYCOLORとカバーの違いはどんなところにあるのでしょうか?
大きな特徴は、「ホロライブ」のカバーは在籍VTuberの人数は少ないものの、チャンネル登録者数は多く、在籍VTuber一人当たり年間収益もANYCOLORを上回ります。
つまりカバーには、「チャンネル登録者数100万人を超えるような大型VTuberが多い」と言えるでしょう。
では、ANYCOLORはダメなのか?というとそうではないと考えます。
特定のタレントに収益源が集中することはリスクとなります。むしろ、カバーの倍近いVTuberを抱えながら、営業利益率はカバーを大きく上回ります。
(参考:23年度 予想営業利益率 カバー:18%、エニーカラー: 38%)
むしろ、うまく経営ができているのは、ANYCOLORの方だと考えます。とはいえ、寡占市場の中でも強力なライバルがいることは、脅威の1つとして認識すべきです。
Next: ANYCOLOR株は買い?売り?今後の成長を考えると…
買い?売り?今後の成長を考える
ではここまでの分析をまとめます。
ここまでを踏まえて、投資判断を行います。
24年3月18日終値現在のPERは18倍です。競合他社のカバーは37倍ですから、カバーよりは割安です。ANYCOLORの上場来の平均PERは36倍であるため、過去の推移を見てもやはり割安と言えるでしょう。
成長鈍化の兆しがあるものの、高い収益性(予想ROE 52%)は評価できます。
今後の成長戦略として、撮影スタジオの開設やM&Aを想定しているようですが、寡占市場であるが故に、有力なM&A先も見当たらないはずです。
出典:ANYCOLOR 24年4月期 第3四半期 決算説明資料
あくまで私の意見ですが、仮にM&Aを行うのであれば、VR/AR関連の企業ならば面白いと考えます。VR/AR市場の成長を機会と捉え、技術力を強化し「にじさんじ」が他のVTuber等に模倣・代替されないような存在になれば、さらに成長していきそうです。
しかし、まずは自社の設備投資等を進め、更なるコンテンツ作成に励むことが、最も確実性の高い成長戦略に思えます。
また、今回は触れませんでしたが、海外展開強化の方向性もあります。すでに売上の約25%がアジア・米国による売上です。設備ビジネスではない分、他業種よりもスピード感を持って海外展開できるでしょう。
最後に私が考える、投資する上でのポイントを説明します
決して悪い会社ではないと思いますが、いかんせん先が読みづらい印象を持ちます。
それはこの会社の問題ではなく、VTuber市場の問題です。新規市場であるが故に、ユーザー(視聴者)が何を求めているのか?今後も成長が続くのか?市場が縮小するケースはどのようなものなのか?正直わかりません。
しかし、この収益性が高いビジネスモデルと、鈍化してるとはいえ成長力がある企業が、PER18倍ですから、お買い得とも考えられます。
自社の強みと、市場の不確実性を総合的に考えると「絶対投資してはいけない企業ではないけど、ポートフォリオの中心になるような安心感はない」このような評価になります。
長期的に安心感があるか?と言われると、まだ見極めが必要な企業/市場であると考えます。あなたのポートフォリオの状況を考えながら、投資判断を行ってみてください。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2024年3月15日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。