マネーボイス メニュー

利上げめぐる米中の駆け引きは「アメリカ有利」 7月利上げの可能性高く=斎藤満

6月6~7日に米中戦略・経済対話が開催されます。米国からはジャック・ルー財務長官などが参加するために訪中しました。これを巡って、すでに両国の担当者から駆け引きと思われる発言が聞かれます。特にFRBが進めようとしている政策金利の引き上げをめぐる駆け引きが注目されます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

利上げを阻止したい中国、中国の不良債権ビジネスを狙う米国

アメリカと中国、それぞれの思惑

まず、この米中戦略・経済対話を前にした2日、中国の朱財政次官はロイター通信に対し、「FRBの政策変更は、中国と世界経済に多大な影響を及ぼす。今日の世界経済は大幅な下振れ圧力に直面している。それだけに、中国や市場とのコミュニケーションを改善すべきだ。」と述べ、FRBの利上げをけん制しています。

【関連】低迷に喘ぐ中国経済は「10月信用危機」を切り抜けられるか=斎藤満

一方、米国側ではルー財務長官が3日、中国に渡る前にソウルでロイター通信に対して、「中国が市場開放や経済改革という目標を後退させれば、中国経済や米国との二国間関係において『非常に悪い結果』が生じる」との認識を示しました。

そして米中戦略対話では、改革や過剰設備の削減に取り組むよう圧力をかけると述べました。

つまり、中国は何とかして米国の利上げを阻止するか、遅らせたいと思い、米国は中国に改革を進めさせ、そこに米国がビジネス面で関わりたい、という認識が伺われます。

米国の場合は、中国が過剰設備、債務での改革を進める過程で、不良債権ビジネスをやりたい、という事情があり、これらを巡って両者の駆け引きが行われることなります。

対中強硬路線に舵を切るアメリカ

米中間では、前回の上海G20で「上海密約」があったと言われ、米国が李首相に経済改革を促す一方で、FRBは利上げを見合わせた経緯があります。

その当時に比べると、現在の米国では、対中強硬路線をとるネオコン(新保守派)勢力が影響力を高めています。それだけ、中国から見ると交渉のハードルは高まっています

一方で、中国では李首相が音頭をとって過剰設備の削減などの改革と景気対策をとってきましたが、その最終権力者である習近平がこれに難色を示し、改革が進みにくくなっています。

そして習主席と李首相の関係が必ずしもうまくいかななくなっています。この夏の北戴河の会合では、来年の人事が大きなテーマになりますが、李首相を外すとの構想が指摘されます。

Next: 6月は見送りでも、7月利上げは譲らないアメリカ/中国経済に大打撃も



6月は見送りでも、7月利上げは譲らないアメリカ

このバランスからすると、米国が利上げの脅しをかけやすいのですが、米国の事情として、6月23日に英国がEU離脱の是非を問う国民投票を行い、その結果いかんで市場が不安定になるリスクがあり、これを見極めたいこと。また5月の米国雇用が予想外に伸び悩み、市場が6月利上げはないと見始めたことなどから、自ら利上げを留保したい状況になっています。

中国が米国の足元を見れば、6月利上げの見送りだけでは簡単に飲めないでしょうが、ネオコンが優勢となった今の米国に、7月も利上げを見送らせることはかなり厳しいと見られ、中国自体、習主席が改革に消極的になっていて、これと言ったカードを米国に提示しにくくなっています。

結局、米国は中国の不良債権ビジネスに米国企業が関われるようにするのと引き換えに、6月利上げを見送るまでは良いとしても、7月利上げの見送りまでは譲歩しないと見られます。

すでに不良債権ビジネスには米国企業が関わるようになっているので、後は不良債権処理を促進させるべく、中国に圧力をかけると見られます。

中国経済に大打撃を与える米利上げ

中国の不良債権は、公表上は銀行資産の1%台にとどまっていることになっていますが、当局も足元で急増していることを認めています。

民間機関の推計では、現実の不良債権比率は何倍にもなり、中には実際の不良債権は公表値の10倍以上ある、との試算もあります。これにKKRやゴールドマンなどが触手を伸ばしていると言います。

米国が利上げに出れば、結果として中国からの資本流出が進み、経済、金融の混乱が進み、銀行の不良債権はさらに高まります。

FRBの利上げは、直接金融機関に付利金利の引き上げで利益になるばかりか、中国ビジネスでの商機拡大にもなります。米国財務省、FRBは金融資本のロビイスト機能を果たしているとも言えます。

【関連】安倍首相「リーマン危機前夜」に世界が失笑。伊勢志摩で日本が失ったもの=斎藤満

マンさんの経済あらかると』(2016年6月6日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

マンさんの経済あらかると

[月額880円(税込) 毎週月・水・金曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。