マネーボイス メニュー

「OWNDAYS」海外300店舗展開で大成功。JINSやZoffにはない強みとは?インド眼鏡大手との経営統合でさらなる躍進へ=山口伸

OWNDAYS(オンデーズ)は国内257店舗、海外で約300店舗を展開するメガネ屋チェーンである。競合の「JINS」と同様に安さが特徴だが、ファッション性も訴求するブランドとして知られる。以前は債務超過に陥っていたものの、2008年から経営権を握る田中修治氏により事業を再生し、現在でも成長を続けている。人気の秘訣はどこにあるのだろうか。事業再生の経緯と近年の成長について調べてみた。(山口伸)

【関連】日高屋、なぜ業績が急回復?サイゼリヤと並ぶ前年比2割増の客数増加率となった当然の理由=山口伸

プロフィール:山口伸(やまぐち しん)
本業では化学メーカーに勤める副業ライター。本業は理系だが、趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連や不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。

店舗数は国内6位、価格帯は競合「JINS」よりやや高め

店舗数で数えるとOWNDAYSは国内6位の規模だ。1位は全国各地にFC展開する「眼鏡市場」で店舗数は約1,030。2位のパリミキは600店舗、3位のJINSは490店舗展開する。4位は430店舗のメガネスーパー、5位は300店舗のZoffである(公表時期が異なるため店舗数はいずれも概算)。そして冒頭の通りOWNDAYSは国内で257店舗を展開する。

全国各地に展開し、東京30店舗・神奈川32店舗、大阪16店舗・福岡24店舗と都市圏の店舗数が多いが、沖縄には27店舗を構えている。

眼鏡一式の基本価格帯は概ね6,000円~2万4,000円とJINSやZoffよりはやや高く、パリミキよりは安い設定だ。参考までに各社の平均単価はJINSが約1万200円、パリミキが約3万1,600円である。

もともとビックカメラのメガネ事業として1989年に開業し、興銀出身の創業者が2002年にオンデーズを設立した。後記の通り田中修治氏による事業再生劇が有名だが、前任者もテレビ出演や本を執筆するなど、当時はある程度注目されていた。約50店舗を展開し、今も昔も一式単価が平均3万円のメガネ業界において、2004年当時のオンデーズは5,250円~1万1,500円で提供して価格破壊をもたらした。ちなみに当時はJINSの黎明期にあたり、現在のように安価なメガネが一般的でなかった時代だ。

田中氏が債務超過状態で引き継ぐ

とはいえ極度の安売りが経営を圧迫したのか、オンデーズの業績は悪化した。2008年当時、年間20億円の売上があったものの月2,000万円の営業赤字を出し続けており、14億円の負債を抱えて債務超過状態に陥っていた。

そんななかデザイン会社を経営していた実業家の田中修治氏が個人でオンデーズを買収し、筆頭株主になる。第三者割当増資により個人で3,000万円の増資を引き受けた形だ。当時、田中氏は家族も大きな資産も持たず、守るべきものがない一方で事業を拡大したいという思いがあり、買収に至ったようだ。

だが、経営悪化に陥った企業の典型例のように社員のモチベーションは低かったという。接客は悪く、店先で呼び込みをしないどころか、カウンターの裏でゲームをしていた店員もいたようだ。中年以上の男性の店員が多く、消費者の間では“安いだけ”のメガネ屋として認識されていた。

また、店舗の売れ行きが悪い時は店員による自腹も横行していたという。このような状況を打開すべく田中氏は各店舗を周って巡回、飲み会も交えながら社員と積極的にコミュニケーションをとった。自腹制度も当然ながら禁止し、その月に最も売った店員には10万円を渡しに行くという荒業も行った。

また、給与制度をオープンにし、店長やエリアマネージャーなど上司を選挙で選ぶ制度を導入し、社員のモチベーションアップに努めた。ダメになった店舗を見回り、店員の意識改革に努める姿勢は国内のマクドナルドを再生したサラ・カサノバ氏の改革に重なる。

Next: 競合との差別化にも成功。オンデーズはどのように復活したのか



ファッション性の重視でJINSと差別化

とはいえ、店員のモチベーション向上だけでは売れない。商品面で田中氏が重視したのはメガネのファッション性である。

当初は安さだけを訴求していたため、中国製のメガネが数多く売れ残る状況も起きていた。ダサいイメージを払拭すべく、自らデザイン案をまとめて福井・鯖江のフレーム会社に持ち込み、新商品の開発を進めた。

現在、OWNDAYSは自社製品として様々なプライベートブランドを取り揃えているが、どれも個性的で似たような印象はない。質素なものからやや奇抜に見えるものもあり、店内はまるで様々な専門店ブランドが集まったメガネモールのような様子である。田中氏は「JINSがユニクロなら、OWNDAYSはZARA」と随所で主張している。

このようなファッション性重視の姿勢は、JINSとの差別化につながっていると考えられる。JINSも近年では高付加価値商品を投入しているが、安さ目当てで訪れる客が多く、ファッション性やトレンド性の印象は薄い。

JINSやZoffよりは凝った商品を買いたいが、パリミキほどはお金を出せない。そういった客層をOWNDAYSは取り込んでいるのではないだろうか。

JINSよりやや高めの中価格帯設定もブランド力を醸成しているだろう。廉価品より高い商品は消費者に品質の良さを印象付ける。現に国内の店舗数は2011年に100店舗を突破、コロナ禍で200店舗を達成し、現在に至る。出店先は主に商業施設や駅ビルであり、路面店は少ない。

田中氏個人による宣伝効果も大きい。特に17年から19年にかけて田中氏によるOWNDAYSの事業再生劇が注目され、メディアやSNS等で頻繁に取り上げられた。そもそも知らなかった人が知るきっかけにもなっているはずだ。

いち早い海外展開で事業を拡大

そしてOWNDAYSについて特筆すべきは、海外事業の成功である。

約300を数える海外店舗数は国内(257店舗)より多く、JINSの海外店舗数(約250)をも上回る。初の海外店はまだ債務超過を解消していない2013年にシンガポールで構えた。田中氏が旅行でシンガポールを訪れた際、現地のメガネ屋の様子を見て出店を決めたようだ。

現地ではメガネの販売に国家資格が必要であり、価格も高く、病院のような接客をする店舗が多い。JINSやOWNDAYSのように企画から店舗販売までを担うメガネのSPA(製造小売業)モデルは東南アジアでは珍しく、圧倒的な価格競争力で店舗数を増やした。日本と同じく追加料金ゼロのシンプルプライス制や素早い作成も人気の理由だ。ちなみにSPAは中間業者を省くことで最終価格を抑えられるモデルであり、他業態ではユニクロやニトリ、サイゼリヤなどが挙げられる。

海外店は2017年に100店舗を超え、2019年に200店舗を達成した。現在ではシンガポールのほか、タイ、マレーシア、インドネシアなど各国に進出し、インドやUAEにも出店している。

国内外の店舗数拡大もあってオンデーズの売上高は17年2月期に100億円を突破、20年2月期は220億円となり、報道によると直近の24年3月期は405億円となっている。

余談だが海外初出店を果たした直後、店舗数を増やそうとしたが債務超過を解消していないため銀行から融資を得るのが難しかったという。そこで、既に10店舗ほど展開していた沖縄に現地子会社を構え、同社を通じて沖縄振興開発金融公庫から融資を得た。事業機能をもつ株式会社オンデーズは東京に本社を構えるが、沖縄の現地子会社は持株会社として“格上げ”され、現在のOWNDAYS株式会社となっている。資金調達における柔軟な姿勢も、当初の事業再生に貢献したといえる。

Next: 海外事業が大成功。「破天荒」な成長は今後も続くか?



22年にインド企業の傘下へ

2022年に既存株主であったPEのLキャタルトンと三井物産企業投資の両社はOWNDAYSの全株式をLenskart(レンズカート)に譲渡し、グループはレンズカートの傘下に入った。

レンズカートはインドのメガネチェーン最大手であり、インドを筆頭にシンガポールなど各地で1,400店舗以上を展開する。JINSのように安さを訴求するチェーンだ。

レンズカートにはアジアでの店舗数を増やしたいという狙いがあり、OWNDAYS側にはDXやITの面で自社に弱い部分があるという認識があった。レンズカートはECに強みを持つ。なお、OWNDAYSは海外でも中価格帯路線をとるため、アジアでの展開にあたってレンズカートとは直接競合しないという。近視人口が増えていくなかで今後、両者の事業拡大が期待される。

非公開企業のため憶測になるが、今回のレンズカートへの売却により田中氏自身も膨大な利益を得ているのだろう。これまでも随所で株式を売却し、キャピタルゲインを得ているといった趣旨の発言も過去にしている。

そして今年4月にはOWNDAYS社長の座を譲り会長に就任した。田中氏個人に焦点を当てるなら、業績が悪化した企業を安値で買って再生し、価値を上げて自らの資産も増やした経緯を持つ。それは経営者・投資家として教科書通りの人生といえる。

【関連】株価ピークから8割減「バルミューダ」株は買いか?スマホ事業失敗だけじゃない赤字転落の理由。唯一の活路とは=山口伸

【関連】閉店が相次ぐ「ヴィレッジヴァンガード」株は買いか?客足が減った2つの要因。効率化で業績改善も魅力が失われる危険性=山口伸

image by: beeboys / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年6月15日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。