今日は日本マクドナルドHD(以下・日本マクドナルド)<2702>を取り上げます。日本マクドナルドは、株主優待株として人気があります。しかし、株価は半年で約15%下落しています。今こそ投資すべきなのでしょうか?今回は、ファーストフード業界の市場動向や、日本マクドナルドの歴史を振り返り、投資判断を行います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
ファーストフード業界は好調である
日本マクドナルドホールディングス<2702>日足(SBI証券提供)
まずは、ファストフード業界の市場動向から見ていきましょう。コロナ前の2019年から2023年にかけて、国内外食産業の店舗数は約8%減少している一方で、市場全体の売上高は7%増加しています。
洋風ファーストフード業界に限定すると、店舗数は0.6%減少していますが、売上高は36%増加です。ちなみに、ファミレス業界の店舗数は約9%減少 、売上高が約1%減少、居酒屋業界は店舗数は約30%減少、約35%減少であることを踏まえると、ファーストフード業界はコロナを乗り越え好調と言えるでしょう。
この背景には、コロナ禍でもテイクアウトやデリバリーに対応できたことで、コロナ禍でも相対的にダメージが少なかったことが影響していると考えます。
出典:日本フードサービス協会 外食産業市場動向調査 より作成
ではファーストフード業界における日本マクドナルドの立ち位置はどうでしょうか?実は業界トップはマクドナルドなのです。(ゼンショーHDは牛丼カテゴリー<すき家>、ダスキンはミスタードーナツ)
出典:業界動向リサーチ
なお、ハンバーガー業界内では、店舗数も圧倒的なトップです。
出典:各社ホームページより作成
このように、ファーストフード業界全体として好調であり、その中心にいるのが日本マクドナルドHDなのです。ここからは、日本マクドナルドの中身を見ていきます。
日本マクドナルドの苦境と復活
まずは業績を見てみましょう。業界内で圧倒的な地位を確立しながらも、必ずしも順風満帆ではありません。
日本マクドナルドホールディングス<2702>通期業績推移(SBI証券提供)
2010年ごろから業績が悪化しています。その理由として、当時の日本マクドナルドの資料には「外食市場が縮小したことに加え、家に持ち帰る調理済み料理に代替された」とありますが、本当の原因はそこではないと考えます。店舗オペレーションが顧客視点ではなかったのです。
注文時間の短縮を目指してカウンターメニューを廃止した施策は、顧客から「わかりづらい」と言われ、会計から商品を渡すまで60秒を超えたらハンバーガー無料券をプレゼント、という施策では「60秒を超えた方がお得」と批判が殺到しました。
この状況で、トドメの一撃になったのが2014年と2015年に起きた「期限切れ鶏肉使用問題と異物混入問題」です。これによって消費者からの信頼を失ったことで、234億円の営業赤字を計上しています。
しかし、その後はV字回復しています。日本マクドナルドはどん底から現在の好調まで、どのような施策を行っていたのでしょうか?
Next: 営業利益は過去最高益を更新、マクドナルドの強みは一体なに?
日本マクドナルドHDの事業改革
「食の安全」や「清潔さ」を失い、品質問題のどん底の中にあった日本マクドナルドは、まずは不採算店舗の整理を始めます。2015年は150店舗以上が閉店しました。表参道など、コストが高い一等地などもその対象になりました。
同時に、当時のCEOだったサラ・カサノバ氏(2013から2024年3月までCEOを担当)は従業員の給与を上げ、社員のモチベーションをあげようとしました。前CEOの原田泳幸氏はカウンターメニューの廃止など、効率性とコストカットを追求しましたが、異なる方針を取ったのです。
その後、メニューや店舗運営の観点でも様々な施策を打ち出します。
商品受け渡しシステムの変更や、コーヒーのリニューアル、季節性商品のスクラップアンドビルドなど、一般消費者から見ても分かるような改善が行われています。近年はモバイルオーダーを導入することで、注文や商品受け取りの行列が緩和されている傾向があります。
プロモーションの観点では、顧客から名前を募集する「名前募集バーガー」や、人気のハンバーガーを投票で決める「マクドナルド総選挙」など、顧客参加型の企画を打ち出すことで話題となりました。
一方で、出店戦略はフランチャイズを活用しています。直営店店舗をフランチャイズオーナーに受け渡すことで、中長期的に人件費や店舗投資などを抑制しています。
これらの施策を行うことで、営業利益は過去最高益を更新しているのです。
出典:日本マクドナルドHD 決算説明資料より作成
したがって、品質問題は乗り越えたと言えるでしょう。次は、マクドナルドの本質的な強みを考えていきます。
マクドナルドの強み
品質問題を乗り越えたその原動力を考えてみます。
それは世界中のマクドナルドが掲げる、マクドナルドの経営理念にあると思います。それは創業者のレイ・A・クロックが掲げた「QSC&V」という理念です。
出典:日本マクドナルドHD ホームページ
具体的な考え方を見てみましょう。
- 品質:世界中で同じ美味しさを維持するために、各国の品質管理担当者によって会議が行われ、基準の統一を図る
- サービス:“FUN PLACE TO GO” 「マクドナルドに行けば何か楽しいことがある」と感じていただける、子供達が喜ぶ心地よい空間作りを目指す
- 清潔さ:創業者レイ・A・クロックは、”Clean as you go” 「行くところすべてきれいに」と指導。店舗・厨房の清潔さを徹底して追究している
- 価値:品質、サービス、清潔が結びついたとき生まれるのが、さまざまな価値。それは、おいしいものを食べられる素敵な空間、くつろぎの場、いつ行っても楽しい場所、車に乗ったままで買えるドライブスルーという形で現れる
品質問題後は、食の安全さを見直すだけでなく、顧客の利便性や話題性を考えた施策を打ってきた印象があります。その背景には、QSC&Vの考えに基づいた「あるべきファーストフードの実現」によってなされたものと考えます。
経営の観点では、世界で多店舗展開するスケールメリットを活用し、良質な原材料を安く安定的に調達できることから、競合他社よりも低いコストを実現するコストリーダーシップの戦略をとっています。さらに、フランチャイズ展開によって商品やサービスが画一化されていることから、コストの優位性に拍車をかけ、営業利益率という形で優位性があると言えるでしょう。
出典:SPEEDAより作成
これらを踏まえて投資するべきか考えてみます。
Next: 投資のリスクは?株主優待は?投資するべきか徹底分析
リスクは?優待は?投資するべき?
日本マクドナルドの復活劇と、その根幹をみてきましたが、投資リスクはないのでしょうか?
やはり品質問題のリスクがあることは注意すべきです。2014~2015年の品質問題は、厳密に言えば鶏肉を供給していた中国系の企業が消費期限切れの鶏肉を使っていたことが原因です。このようなサプライヤーによる品質管理の不備は、日本マクドナルドがコントロールするにはやや限界があります。万が一、同様の事件が起きた場合には、業績が悪化する可能性があります。
一方で、コロナ禍で他の外食産業が窮地に立たされた中、ファーストフード業界は業績を伸ばし続けました。それは従来からテイクアウトが習慣化されていたため、フードデリバリーなどにも早くから対応していたことなどが関係しているでしょう。
現在は、原材料高の悪影響がありながらも、業績は好調です。2015年の第4四半期から2024年の第1四半期まで34期連続で既存店の売上がプラスとなっています。したがって、景気悪化などの景気変動の影響を受けづらい側面があると言えるでしょう。
日本マクドナルドに投資を検討される方の中には、株主優待に期待する人もいると思います。
100株購入するとバーガー・サイドメニュー・ドリンクと交換できる無料券が18枚手に入ります。バーガー・サイドメニュー・ドリンクの合計注文が1,000円だった場合、優待利回りはおおよそ1%です。(チケット3枚:1,000円×6=6,000円分の無料チケット、24年7月現在の優待の最適取得額は約610,000円)
ただし、1年以上の継続保有が条件です。ここは注意してください。
出典:日本マクドナルドHD 株主優待
個人的には優待利回りは高くはないため、優待はおまけ程度に考えるべきだと思います。
では、中長期的な観点で日本マクドナルドに投資できるか?というと、悪くはないと考えます。それは競合他社を上回る利益率や、コロナ禍でも業績を落とさなかった実績、「値上げを行ったとしても、まだマックが安い」というコストリーダーシップの実現性などが評価できると思います。
品質問題以降(16年から24年)の平均PERは約36倍であるのに対し、24年7月現在のPERは約30倍です。株価はやや割安感があると言えます。これらの情報をもとに投資判断をしてみてください。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2024年7月26日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。