この夏は「EU離脱懸念」以外にも様々なリスクが台頭しそうです。中国リスクもありますが、それよりなにより「イエレン・ショック」がマーケットを駆け巡るかもしれません。(『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』藤井まり子)
峠を越えつつあるEU離脱懸念、それでも夏場の株価調整は近い?
EU残留派が優勢
皆様ご存知のように、先週末、イギリスでは「EU残留派」の女性政治家が、「EU離脱派」のテロリストに刺殺されるという大変痛ましい事件が起きました。胸が痛みます。
排外主義・排他主義・保護主義者の中には、必ずと言っていいほど、極左と極右の不満分子の過激派が紛れ込んでいます。
しかしながら、この事件がイギリス国内の世論の流れを大きく変えたようです。何の慰めにもなりませんが、彼女の死は無駄ではなかったかもしれません。
週明けの世論調査から、「EU残留派」が「EU離脱派」を上回るようになりました。イギリスの「ブックメーカーのオッズ」に至っては、「残留派」が、80%前後を占めるまでに盛り返しています。
「マーケットでは慢心は厳禁」ですが、「イギリスのEU離脱懸念」は大きく後退したと言えるでしょう。「イギリスEU離脱」懸念と、これに恐怖した「マーケットのリスクオフモード」は、一山超えたように見受けられます。
マーケットの流れは速いですね。
今夜からアメリカ株が下がるとしたら、それは、「イギリスEU離脱懸念」で下がっているのではなく、「アメリカドル国債バブルの崩壊懸念」(後述)で下がっているのかもしれません。
万一、EU離脱なら大バーゲンセール到来
さて、可能性としてはとても低くなりましたが、万が一、6月23日のイギリス国民投票で「EU離脱派」が勝利するような事態が起きたならば、それこそ、ドル円相場は1ドル100円ラインを瞬間風速で割り込んでゆくでしょうし、日経平均は1万4,000円を目指すでしょうし、ユーロ円も1ユーロ100円あたりを目指すでしょう。新興国株式も先進国株式もそこそこ大きな調整局面へと入ることでしょう。
ありとあらゆるリスク資産が大バーゲンセールになる「ビックチャンス」が訪れるかもしれません。
というのは、「イギリスのEU離脱」そのものは、離脱派が勝利したとしても、実務的には向こう数年かけてゆっくり進行するものです。イギリスへの経済的なダメージは残留派が宣伝するほどには大きくないかもしれません。が、マーケットにはこの機会に便乗して「下げたい人々」が相変わらず多いからです。
反対に、6月23日に「EU残留」が決まれば、アメリカ株式市場で調整が始まらないかぎり、とりあえずは、日経平均が再び1万7,000円ラインを目指すことも考えられます。
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あらためて日経平均のフェアバリューと「底値圏」を考えると
今現在の日経平均の予想EPSはおよそ1194円。日経平均のフェアバリューをPER14倍からPER17倍と考えると、1万6,716円から2万298円。すなわち、おおよそ1万6,700円から2万300円の間です。
日経平均が1万6,000円の大台を割り込むのは、長い目で見れば(中期的に見れば)、「大バーゲンセール」が始まっているということです。
では、日経平均の乱高下局面での底値圏でのPERは、過去平均では一体全体どれくらいなのでしょうか?
過去平均のPERから算出すると、底値圏のPER平均は13.4倍です。ですから、今回の「イギリスのEU離脱懸念」での底値は、おおそよ1万6,000円(=1194円×13.4)なのです。
昨日から今日あたりの日経平均は、「いくらなんでも、そろそろ底打ち!」と言っているんですね。
PER13倍割れ
しかしながら今回は、「黒田日銀の追加緩和見送り」と「イギリスのEU離脱懸念」とが重なって、日経平均は1万5,500円ラインを割り込み、PER12.90倍(6月16日:1万5,395円)まで売り込まれてしまいました。
この「PER13倍割れ」というのは、過去に遡ること、今年2月12日のグローバル規模でのパニック売り以来。当時は「日経平均:1万4,865円、PER12.97倍」でした。
さらには、2014年5月21日、消費税が5%から8%へ切り上げられた結果、日本の景気後退が明らかになった時にも、PER13倍割れは起きています。当時は、「日経平均:1万4,042円、PER12.86倍」でした。
2014年5月のPER13倍割れと言い、今年2016年2月12日のPER13倍割れと言い、直近6月16日のPER13倍割れと言い、どれも「外人による大きな売り越し」が起きたときでした。
ここまで大きく売られる筋合いはないものの、日本株式市場には「円安・日本株高」に賭けている「時代遅れのヘッジファンドたち」がまだ残っていたようです。
彼らは、「リスクオフモード」になって、慌てて日本株式市場から撤退したようなのです。「日銀イベントレード」を行っている投機筋も、まだ残っていたんですね。
今後は内需関連株中心に
「アベノミクス第三幕」は、「第一幕」「第二幕」と違って、金融緩和は主エンジンではありません。第三幕は財政出動が主エンジンです。ですから、「第三幕」のマーケットは、しつこいようですが、「ドル円の為替レートは安定して推移、内需拡大関連の株が中心になって上昇」なのです。
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後手後手の「アベノミクス第三幕」
それにつけても、安倍自民党政権の景気刺激策の発表が後手後手に回っています。政策発動の動きが遅くて、困ったものです。
安倍自民党政権は、「消費税増税の先送り」は発表したものの、積極的な財政出動についての「具体的な全容」をまだ発表していません。
選挙公約としては、自民党のホームページで、「超低利の財政投融資資金を活用して、官民協調で、今後5年間、合計30兆円を目途にインフラ投資などを目指す」「その対象は、リニア新幹線開業の前倒しや整備新幹線へのインフラ投資、超低金利の奨学金給付」などなどが公示されています。
演説・討論会などでも、時折、与党の政治家たちから、「特別会計の見直し」「行政改革」などという言葉が飛び出してきます。ちょっと一安心ですね。
日本財務省の反感を買うと、埋蔵金は取り崩してもらえませんから、与党も分かりやすく「霞が関の埋蔵金の取り崩し」という言葉は使えません(「埋蔵金」という言葉を使うと、「埋蔵金は全部取り崩せ!」と一揆が起きてしまいます。こうなると、自民党政権と財務省の「取引」が成立しなくなります)。「特別会計の見直し」という言葉を使っています。埋蔵金は、外国為替資金特別会計や労働保険特別会計に合計20兆円規模で眠っています。
「30兆円インフラ」の財源については、「財投債発行おそよ20兆円規模」で賄われると言った情報も一部漏れ伝わってきています。が、正確なところはまだわかりません。
「ばらまき」については、給付型税額控除(主に低所得者層を中心にした減税や現金付)、給付型の奨学金制度(返済する必要のない奨学金の給付)、子ども手当、期限付き商品券の給付などなど、様々な案が出されています。が、これらインフラ投資「以外」の「ばらまき」が、どれくらいの規模でどれくらいの期間行われるのか、なかなか全容が明らかにならないのです。
財政出動と金融緩和「二本立て」の時代へ
ただし、折しも、アメリカ大統領選挙でも両陣営とも、「アメリカでは、今後、およそ日本円にして27~28兆円規模の財政出動」を国民に約束している時代なのです。
2016年の世界経済は、金融緩和一本やりの時代を終えて、「財政出動と金融緩和の二本立て」の時代へと、静かに、大きくシフトしているのです(大きな声で言うと、緊縮マニアの猛烈な反対に遭遇するので、小さな声でしか言えません)。
マーケット関係者の多くが、「金融緩和の限界」を未だにしたり顔で云々言っていますが、時代は既に「積極財政出動の時代」にシフトしているんですね。
ちなみに、繰り返しになりますが、日本の場合は、財政出動は単年度の単発では駄目なんですね。日本経済の場合は、デフレ脱却できるまで、景気刺激的な財政出動をし続けなければなりません(その規模およそ30兆円!?)。
後述するように、生産性低下に悩むアメリカ経済の場合は、生産性が向上するまで景気刺激的な財政を出動し続けなければなりません(その規模日本円にしておよそ27~28兆円?)。
積極財政のもっと具体的な中身と、黒田日銀による追加のバズーカ砲の中身は、このままでは、発表は7月末日以降、あるいは、臨時国会が開かれる秋以降にずれ込むかもしれません(黒田日銀の追加バズーカ砲は、財投債とドル国債買い入れになるのではないのか?)。
日本株投資は「じっと我慢」の時
少なくとも現在の段階では、安倍自民党政権の対策発表が、後手・後手に回ってしまっています。日本株投資はそれまで「じっと我慢」ですね。
アベノミクスはまだ道半ば。財政出動による景気刺激では、金融緩和策による景気刺激の時のような、ドラマチックな市場の上昇は起きらない可能性が高いです。「気が付いたらいつの間にか株価がコツコツ、コツコツ地道に上昇していた!」みたいな感じです。みなさん、「大バーゲンセール」になるたびに根気良く拾ってゆきましょう。頑張りましょう。
大規模財政出動が発表されて、黒田日銀の追加の金融緩和策が発表されたならば、2016年末の日経平均1万9,000円~2万円も、決して夢ではないのです。
Next: 本家アメリカで、「イエレン・ショック」がとうとう走るのか?
本家アメリカで、「イエレン・ショック」がとうとう走るのか?
この夏は、「EU離脱懸念」以外にも、様々なリスクが台頭しそうです。「中国リスク」も台頭しそうですが、それよりなによりも、「イエレン・ショック」「アメリカドル国債バブル崩壊」のようなものが、この夏のマーケットを駆け巡るかもしれません。
この夏のリスクマーケットの調整局面の震源地は、イギリスでもなければ中国でもないかもしれません。震源地はアメリカになるかもしれません。アメリカ経済減速懸念です。
イエレンFOMCは、6月15日のFOMCで大方の予想通りに「二度目の利上げ着手」を見送りました。
今回のFOMCでも、再びFOMCメンバーのドットチャート(FFレートの見通し)が下方修正されました。さらには、FOMCメンバーのFFレートの長期見通し(=中立金利)も下方修正されました。
この日のFOMC発表の中身でも、アメリカ経済減速懸念が徐々に徐々にマーケットに台頭しています。ジワリじわりと浸透し始めているのです。
今回のドットチャートでは、「今年2回の利上げ」を予測するメンバーは17人中9人と「変わらず」でしたが、「今年1回の利上げ」を予測するメンバーが17人中6人と急増しました。
さらに、「来年2017年は2回だけの利上げ」を予測するメンバーが6名にものぼりました。
ちなみに、このドットチャート、毎回毎回、予想を引き下げて来ています。
2017年、2018年の「利上げはゼロ回」のメンバーが1人現れたことは、かなりの「驚き」でした(米セントルイス地区連銀のブラード総裁だと見られます)。
ちなみに中立金利とは、景気刺激的でもなければ景気抑圧的でもない金利水準のことです。
この長期の中立金利の予測については、前回は、3.250%とする人が多数派(7人)でしたが、今回は、3.00%とする人が多数派(6人)になり、2.75%とする人も3名も現れてしまいました。また引き下げられたのです。
アメリカ経済は長期停滞へ?
これは何を意味するかと言うと(詳しく説明していたらきりがないのですが)、FOMCメンバーの中でも、「アメリカ国内の経済の生産性が低下している疑いを持つ人々が急増している」「アメリカが長期停滞に陥っているのではないかと再び考え始めている人が急増している」ということです。
新自由主義の下、アメリカ政府は永らく「小さな政府」を目指し過ぎて、アメリカ国内の港湾や道路はボロボロになっているところが大変多くなっています。
一方、民間部門では、永らく設備更新しないできた多くの企業たち。新自由主義経済の下で、企業経営者たちは、借金してまで、「高配当」や「自社株買いによる高株価」を維持して、自らの報酬を巨額にしていました。生産性をアップして業績を上げて、従業員の賃金アップを目指していた「正統派の企業」は、アメリカではマイナーだったようなのです。
中間層及び下層の労働者たちは、資本家に搾取されるだけ搾取されて、アメリカでは中間層が崩壊。まじめに働く労働者が激変しているようなのです。複合汚染ですね。
もちろん、アメリカは、人口が年率およそ0.8%前後で増加している国です。今のところ、アメリカ国内の住宅価格や株価は高い水準を保っていますから、資産効果で個人の購買力も高い水準に保たれています。
けれども、6月3日の「雇用統計ショック」(非農業部門の雇用創出が4万人に満たなかったこと)が示すように、完全雇用がほぼ達成されつつあるアメリカ国内の多くの企業では、生産性が低下しているせいで、これ以上企業業績を上昇させることが出来ずに、これ以上の賃金上昇には耐えきれないところが続出しているのではないでしょうか?賃金上昇の結果、雇用を手控えている企業が続出しているのではないでしょうか?
ここ30年ばかり、アメリカの生産性の年率の伸び率は低下し続けて、今年はマイナスに転じたのではないかとの指摘もあるほどです。
2015年12月にイエレンFOMCの「11年ぶりの利上げ着手」で、「アメリカ経済は健やかな成長軌道にあるから利上げ着手は可能だ(イエレン&フィッシャー派)」と、「アメリカ経済は長期停滞の中にあるから利上げは不可能だ(ローレンス・サマーズ派)」という「利上げ反対派」との間での論争は、いったんはイエレン派に軍配が上がったものの、2016年6月に入って、再び、「長期停滞論」者がFOMC内部で急増してきているようなのです。
何を隠そう、イエレンFRB議長その人も「長期停滞論者」であるとの噂がウォールストリートでは飛び通っています。
Next: 米国債バブルは崩壊するか?新債券王・ガンドラックの警鐘
米国債バブルは崩壊するか?
アメリカ・ドル国債の利回り低下が止まりません。
「イギリスのEU離脱懸念」の影響もあるでしょうが、アメリカドル国債10年物の利回りが、とうとう1.60%台に突入しています(6月16日には1.52%を記録)。
これはアメリカドル国債バブルです。これは何を物語っているかと言えば、国債マーケットが「向こう10年間のアメリカの名目成長率は、平均で1.60%台の低成長に留まる」と判断しているということなのです。
マーケットは、「向こう10年間、平均で2%インフレ成長を達成すれば、アメリカは平均すると実質で年率0.4%のマイナス成長に陥る」と言っているのです。あるいは、「向こう10年間、平均で1%インフレのディスインフレのままならば、平均で実質0.6%台の成長しかできない」と言っているわけです。
国債マーケットは、今後のアメリカ経済については、デフレかディスインフレ懸念を抱いているわけです(中央銀行が国債を買い支えて人為的に超低金利にしている日本国債やドイツ国債に至っては、10年物の利回りは、それぞれマイナス圏に水没しています)。
折しも、アメリカ国内の株式市場は、再びイケイケの「ゴルディロックス相場」に入っています。「ゴルディロックス相場」とは、しつこいようですが、「FOMCが二度目の利上げに着手するほどには、アメリカ経済は過熱していない。けれどFOMCが二度目の利上げを先送りしなければならないほど、アメリカ経済は減速していない」といった「熱からず寒か
らずの大変身勝手な相場」です。
いずれ必ず解消されるマーケットの「ひずみ」
アメリカドル国債市場が予測しているアメリカ経済と、アメリカ株式市場が予測しているアメリカ経済との間に「大きなかい離」が横たわっています。マーケットのひずみです。ひずみは必ず解消されます。
どちらのマーケットが将来をより正しく予測しているのか?
アメリカドル国債市場が将来のアメリカ経済を正しく予測しているのか?それとも、アメリカ株式市場のほうが正しく予測しているのか?
「アメリカドル国債バブル」もバブルですから長続きはしません。「ゴルディロックス相場」も長続きしたことはありません。どちらのマーケットも間違っているのです。
6月15日のイエレンFOMCは「超ハト派」であったのみならず、その後の記者会見の内容も、イエレン女史にしてはやや支離滅裂でマーケット関係者を落胆させています。この日のイエレン女史は、「アメリカ経済の回復に長期的に自信を抱いている」ようには、全く見えなかったのです。
ですからこそ、アメリカの次期大統領候補たちは、どちらが大統領になるにしろ、生産性アップのための27兆円~28兆円規模のインフラ投資を唱えているわけなんですが…。
イエレン女史は、次期大統領の大規模財政出動と歩調を合わせられるように、極力早いうちに、利下げか追加の金融緩和策へと方針転換しなければならないのではないでしょうか?
イエレン女史は引き返せるのでしょうか?
新債券王・ガンドラックの警鐘
折しも、新債券王の異名をとるガンドラックも、6月に入ってから、「銅はほぼ12か月も安値にある。世界経済は弱く、株式は危ういように見える」と、アメリカ株式市場に警鐘を鳴らし始めています。
折しも、アメリカドル国債10年物は、6月16日に1.52%と3年ぶりの安値圏を更新、その後急上昇を始めています。3年前と言えば、バーナンキがTaperingを開始したころですね。アメリカドル国債バブルは弾け始めているのではないでしょうか?
今現在進行形のアメリカ国債バブルが弾けて、アメリカ国内の金利が急騰して、アメリカ株が大きく調整するのか?
この夏はドル国債市場もアメリカ株式市場も、危ういように見えます。アメリカのマーケットが調整したならば、国債市場にしろ株式市場にしろ、日本やヨーロッパ市場にも大きな影響を及ぼすことでしょう。
『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』2016年6月21日号より一部抜粋、再構成
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