マネーボイス メニュー

2017年3月27日時点の理論株価=1万8080円

なぜ日経平均は上がらないのか?高まる「市場リスク」を可視化する=日暮昭

株式市場はかなり注意深い対応が必要な状態です。実態が見えない「市場リスク」の大きさを表す指標として「資本コスト」に注目し、これをグラフ化して読み解いてみましょう。(『資産運用のブティック街』日暮昭)

プロフィール:日暮昭(ひぐらしあきら)
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を用いた客観的な投資判断のための市場・銘柄分析を得意とする。

※本記事は有料メルマガ『資産運用のブティック街』2017年3月28日号を一部抜粋・再構成したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

今の東京株式市場は注意深い対応を必要とする危うい状態にある

相場波乱の主犯は“市場リスク”?

3月27日の日経平均は270円余り下落し1万9,000円を割るなど、株式相場はやや不穏な動きを見せています。為替は1ドル110円台と円高・ドル安の様相を見せていますが業績には大きな変化はなく、ファンダメンタルズが大きく悪化したとは言えません。そこで、相場波乱の主犯として米国、欧州そして足元では日本も含めての政治的な不安による市場のリスクの高まりがやり玉に挙げられているようです。

しかし、この市場のリスクというのは言葉としては納得し易く、リスクオン、あるいはリスクオフといった言葉も抵抗なくすんなり耳に入るのですが、その市場に対する具体的な影響の度合いという実際的なことになると、その実体は極めてつかみづらいのが現実ではないでしょうか。

市場リスクの大きさを表す「資本コスト」

そこで、市場リスクの大きさを表す格好の指標として「資本コスト」が注目されます。資本コストについては前回の当講座で取り上げましたが、近時の相場状況に照らして再度取り上げ今後の日経平均の見通しの一助としたいと思います。

資本コストの元来の意味は、株主が株式投資をした際にその投資に伴うリスクに対する当然の見返りとして求める収益、とされます。すなわち、リスクが高ければそれに見合って要求するリターンも高くなる、つまり資本コストはリスクの大きさと対応する指標となるのです。

下図は2016年初から直近の2017年3月27日までの日経平均と「理論株価」、そして理論株価を基に算出される「通常変動の上側と下側」を日次ベースで示したグラフです。

日経平均、理論株価と通常変動の上側と下側(日次終値)
2016.1.4~2017.3.27

図中の(1)~(4)はこの間の以下の相場の節目を示します。

(1)中国を始めとする新興国の経済不安ショック(1月21日、2月12日)
(2)英国のEU離脱:Brexit(6月24日)
(3)トランプ・ショック(11月9日)
(4)日経平均が上方へシフト、通常変動の上側の境界に到達(12月9日)

いずれの変動もファンダメンタルズに目立った変化はなく、したがって市場のリスクの変化による相場変動と見ることができます。このうち、(1)~(3)はリスクが高まったことによる相場下落、(4)は逆にリスクが低まったことによる相場上昇というわけです。

こうした相場変動に対応するリスクの指標として資本コストを使います。資本コストは前回講座の繰り返しになりますが、米国の3人の研究者(Edward、Bell、Ohlson)の頭文字をとった“EBOモデル”と呼ばれる株式価値の決定式をもとに求められます。モデルの構造はやや煩雑になりますので詳しい解説は別の機会にゆずるとして、ここでは結論を述べます。結果的に会社の価値は以下の式で示されます。

会社の価値=直近の1株当たり純資産+(1株当たり純利益─直近の1株当たり純資産*資本コスト)/資本コスト

今、上の式を組み替えると資本コストは次のように示されます。

資本コスト=1株当たり利益/会社の価値

ここで、1株当たり純利益に“日経平均の1株当たり純利益”、会社の価値に“日経平均会社の価値”を入れると、日経平均に対応する資本コストが次の式で得られます。

日経平均の資本コスト=日経平均の1株当たり利益/日経平均の会社価値

(*)「理論株価」、「通常変動の上側」、「同下側」、および日経平均の1株当たり純利益は個人投資家向けの投資学習サイト、『資産運用のブティック街トップページにある「理論株価で測る相場の位置づけ」内の「理論株価」の解説をご覧ください。日経平均会社の価値は日経平均を“日経平均倍率”で割って求められます。日経平均倍率は日本経済新聞に毎日掲載されます。

Next: 標準的なリスク水準に相当する日経平均は1万8,400円程度だが…



資本コストの実際

下図は上の図と同じく2016年初から2017年3月27日まで、日経平均の資本コストとこの期間の平均値、および平均からの平均的な変動の範囲を示したグラフです。

日経平均の資本コストと平均値、平均変動幅(通常の変動範囲)
2016.1.4~2017.3.27

図中の(1)~(4)は上の日経平均等の図の(1)~(4)に相当します。ここではこれらが上の図とは逆の動きとなっています。すなわち、相場がファンダメンタルズと関係のない外的な要因(新興国ショック、Brexit、トランプ・ショック)で急落する時にリスクは跳ね上がります。

一方、トランプ・ショック後、12月半ばに日経平均が通常変動の上側まで相場がシフトアップする(3)から(4)の過程では一貫して低下しています。資本コストは確かにファンダメンタルズで説明できない相場の変動を説明していると言えます。

また、図中に3本の横線がありますが、中央の黒線は2010年5月から直近の2017年3月までの資本コストの平均値、黒線を挟んで上下にある赤線は平均値からの平均的な変動幅を上下にとった位置を示します。
(*)2010年5月はリーマン・ショックの異常事態から正常に戻った時期です。すなわちこの期間は実際に使えるデータを可能な限り全て使うことを意味します。

平均値の意味は、資本コストは過去の局面で様々な値をとってきましたが、投資家は株式投資に対して要求する収益として過去のリターンの平均を確保すればよしとすることとして、標準の資本コストを表すものとします。値は6.57%で、株式投資において投資家は平均的に6%台半ばのリターンを要求することを示します。

また、平均値の上下にある赤線の範囲は、資本コストがこの範囲内にあれば通常の変動の範囲内ということで、資本コスト、つまりリスクは異常な状態にはなっていないと判断できる基準を示します。

実践の場に適用するには

こうした中で足元の資本コストの動きを見ると、一時低まったリスクが高まる傾向にあります。ちなみに、市場がリスクの水準を標準的なリスク水準(資本コストの平均値、6.57%)を求めると、これに相当する日経平均は1万8,400円程度になります。一方、要求するリターンが再度低下し、平均変動幅の下側である6.1%まで低下するとこれに対応する日経平均は1万9,800円程度になります。リスクの評価が1割弱変わることで相場水準は大きな影響を受けることが分かります。株式市場はかなりセンシティブで注意深い対応が必要な状態にあると言えそうです。

なお、為替市場でドル安が進む局面ではリスクが高まる傾向がある点は留意すべき特徴と言えます。
続きはご購読ください。初月無料です

<初月無料購読ですぐ読める! 3月配信済みバックナンバー>

・国際投資環境の視点から:「EUの陰の盟主――バランサー国家オランダ」(3/21)
・チャートの先生実地指南:「エンベロープを使う」(3/14)
・F.マネージャーの視点/銘柄選定とその背景:「個人投資家が作る株価」(3/13)
・F.マネージャーの視点/市場の切り口:「二大投資家の活動を再認識(3/7)


※本記事は有料メルマガ『資産運用のブティック街』2017年3月28日号を一部抜粋・再構成したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】カリスマ経営者・鈴木氏を追い出したセブン&アイが欧米勢に狙われるワケ=児島康孝

【関連】新・大塚家具、久美子社長はなぜ「過去最悪赤字」に追い込まれたのか?=栫井駿介

【関連】日経平均株価の奇妙な一致。市場で囁かれる「91~93日周期説」=櫻井英明

資産運用のブティック街』(2017年3月28日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

資産運用のブティック街

[月額550円(税込) 毎月第1火曜日・第2火曜日・第3火曜日・第4火曜日(祝祭日・年末年始を除く)]
資産運用は一部の人々の特別な関心事ではなくなりました。「資産運用のブティック街」はじっくり腰を落として、資産運用の柱というべき株式投資を学ぶ講座です。株式投資を真に身に付けるには以下の3つの要件が欠かせません。(1)中立の立場で提供(2)実務の専門家(講演の専門家ではない)による講義(3)もれのない体系だった講座当講座は大手経済新聞社OBを中心に、ファンドマネージャー、チャーチストが集結してこれら3つの要件を満たす学習講座を提供いたします。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。