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なぜポンドを売らなかった?ジョージ・ソロスのポジションを読む=岩崎日出俊

「ソロスが英国EU離脱を的中させた」との一部報道は必ずしも正確ではありません。彼は、英国ショックのみに賭けて、現在のポジションを取っているわけではないということです。(岩崎日出俊の金融サバイバル【Q&Aコーナー】

プロフィール:岩崎日出俊(いわさきひでとし)
1953年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、日本興業銀行へ入行。スタンフォード大学経営大学院で経営学修士(MBA)を取得。J.P. モルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズの各投資銀行でのマネージンング・ダイレクターを経て、経営コンサルティング会社「インフィニティ」を設立。著書に『投資銀行』(PHP研究所)、『気弱な人が成功する株式投資』(祥伝社新書)、『不透明な10年後を見据えて、それでも投資する人が手に入れるもの』(SBクリエイティブ)など。日経CNBCテレビでコメンテーターを務める。

ソロスが見据える、英EU離脱後の「もう一波乱、二波乱」とは?

メルマガ読者からの質問

ジョージ・ソロスがマーケットに復帰し、株式相場下落にベットするポジションを取り、金(ゴールド)などにも投資しているようですが、これをどう考えますか?

【関連】7月日銀会合 Bloomberg日高記者の「ガセネタバズーカ」復活はあるか?=E氏

岩崎日出俊氏の回答

■ソロスのポジションについて

5月16日(月)、ジョージ・ソロスが運用するSoros Fund Managementの今年3月末時点での運用状況が政府に報告され、その詳細が明らかになったことからニュースになりました。
Billionaire Soros Cuts U.S. Stocks by 37%, Buys Gold Miner – Bloomberg

これによると、ソロスは米国の上場株投資の残高を37%ほど落とし、35億ドルにしたとのこと。

併せて、SPDR 500のETFのbearish optionsを購入。これは米国株式(S&P500)が下落すると利益を上げる金融商品です。

さらにSPDR Gold Trustのbullish optionsも購入し、金価格上昇にベットしました。

加えて米国の上場会社であるBarrick Gold Corp.の株も購入。この会社は金を産出する会社でソロスのファンドは同社の1.7%を所有するに至りました。

こうしたソロスのポジションは5月17日にはニュースとなって開示され、誰でも知ることが出来るようになりました。

そしてソロスと同じように動いた人は、今回の「英国によるEU離脱」でかなりの利益を上げることが出来ました。

金価格は先週金曜日の1日で、1263→1322ドルへと、4.7%上昇(COMEX金先物)。Barrick Gold Corp.の株価は、5月17日の19.35ドルから、先週金曜日には20.47ドルに。

もっともBarrick Gold Corp.の5月17日の株価は、「ソロスが買った」と言うので他者も買いを入れ、値を上げた直後でした。だから、これと先週金曜日を比べても、さほどの上昇にはなっていません。

ソロスの持分開示の基準日である3月31日と比べれば、13.56ドル→20.47ドルと、51%上昇したことになります。

■一部メディアの不正確な報道とソロスの狙いについて

なお「ソロスは今回の英国によるEU離脱を当てた」と一部メディアで報じられていますが、これは必ずしも正確ではありません。彼は、

「もし英国がEUを離脱すればポンドは対ドルで15~20%も下落することになるだろう。そして離脱が判明する6月24日(金)は Black Fridayとして人々の記憶に残るだろう」

と警告を発したのです。

結果は、1ポンドが1.49→1.19ドル(20%の下落)になることはなくて、今のところ1.36ドル(9%の下落)でとどまっています。しかしソロスが述べたように、「英国によるEU離脱」は、Black Fridayに近いインパクトを人々の脳裏に焼き付けました。

ここで、もうひとつ重要なことがあります。

それはソロスが今回の英国によるEU離脱のみにかけて、上記のようなポジションを取っているわけではないことです。

Next: ソロスが懸念する2つの波乱要因とは?/ソロスの得意と不得意



■ソロスが懸念する「もう一波乱、二波乱」について

もしもソロスが英国によるEU離脱を読み、それに賭けたというのであれば、ソロスは大胆にポンドをショート(事前に“ポンド売り”に走る)したはずです。

しかし実際に彼が行ったのは「米国株の売り」「金(および金関連株式)の購入」です。

かねてから報道されていたように(そしてソロス自身も発言していたように)、ソロスは中国経済に対して懐疑的です。

人民元は過大に評価されていると考え、中国はいずれハードランディングを余儀なくされ、世界経済に大きなインパクトを与えるかもしれないとの立場です。

そしてアメリカ経済の先行きもあやしい。

こうしたことが懸念となってソロスが上記ポジションを取っているのだとすると、これから先の相場は別な要因で、一波乱、二波乱あるかもしれません。

■ソロスの「得意」と「不得意」について

もっともソロスが常に相場で勝ってきているわけでもありません

彼のファンドは、1999年のIT相場とその後の崩壊局面では、これを見誤りかなりの損失を出しました。

リーマンショックの際は住宅価格の下落などによる金融危機到来を予言していましたが、実際に大きな利益を上げたのはジョン・ポールソンやデイビッド・アインホーンのファンドでした。

またソロスが得意とするのは1~2年先の相場の動きですが、長い目で見てアメリカ経済の成長を信じ、リーマンショックに際しても株を積極的に買って儲けたウォーレン・バフェットのような人もいます(彼は金投資に否定的)。

結局、我々凡人には、ソロスやバフェットが何を考えどう動いているのかを理解しつつも、自分の資産状況や資金ニーズに合わせて、自分なりのポジションを取ることしかできないように思います。

これは、リーマンショック時に果敢に投資するバフェットを見て、私が実感したことでもあります。

5兆円とか6兆円の個人資産を持つバフェットであれば、3兆円とか4兆円を失うかもしれないポジション・テークが出来る。

しかしほとんどの個人投資家は危機に際して大胆な投資は出来ず、どうしても保守的になってしまう…。

■余談・ソロスの奥さんについて

余談ですが、今年86歳になるジョージ・ソロスは、今から3年前の2013年に、3人目の奥さんをもらいました(2人の前妻たちとはそれぞれ離婚)。新しい奥さんは42歳も年下の女性。Tamiko Boltonさんといって日系アメリカ人の方です。

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