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EU解体「第2幕」の始まり~ジョージ・ソロス&ストラトフォー最新分析=高島康司

今回は英国のEU離脱決定後に発表されたジョージ・ソロスの論文CIA系シンクタンク『ストラトフォー』の分析を紹介する。プロセスはどうあれ、EUは解体に向かっているようだ。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ・高島康司)

※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2016年7月1日号の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です!

EU解体は避けられないのか? ソロス&ストラトフォーの見方

「歴史的な転換点」となる英EU離脱

今回のテーマはイギリスのEU離脱と今後の予想である。これは明らかに、歴史的な転換点になる出来事である。離脱は、政治や経済のみならず領土紛争まで、あらゆる危機の連鎖をさまざまな地域で多発させるスイッチの役割を果たす可能性がある。<中略>

影響が多方面に及ぶ出来事なので、当然1回の記事で書ききれるものではないが、数回に分けてあらゆる方面から解析してみよう。

国論を二分した国民投票後の政治空白

まずは基本的な事実の確認である。もはや改めて解説するまでもないだろうが、6月23日、EU離脱の是非を問う国民投票で、大方の予想に反して離脱派が僅差で上回り、イギリスのEU離脱が決定してしまった。投票の最終結果は、離脱が51.9%残留が48.1%という国論を二分する結果だった。

これを受けてEU首脳部は、EU基本条約の「リスボン協定」が定めた第50条の離脱規定に基づいて、イギリスができるだけ早く離脱の意志を通知するように迫っている。

一方イギリス国内では、国民投票後の政治状況が混迷している。キャメロン首相が辞任の意志を表明する一方、野党労働党のコービー党首も残留に積極的ではなかったと党内から批判され、労働党の影の政府も辞任した。

さらに、保守党で離脱運動を率いた元ロンドン市長のボリス・ジョンソン下院議員も、もともとEU残留支持だったのが人気取りのため離脱運動を率いたのではないかと非難されている。

ジョンソン下院議員は次期首相の最有力候補と見られていたため、イギリスではまさに次の指導者がはっきりしない政治的な空白の状況になりつつある。このためイギリスは、EU本部に離脱の意志を通知することができない状況にある。

他方、ジョンソン下院議員は、リスボン協定第50条の適用ではなく、2020年の離脱を目標にEUとの新たな協定を再交渉する方針を打ち出している。だがEU本部は、これを拒否している。次のリーダーが決まらないいまのような状況では、第50条に基づいて離脱を通知するのか、それともイギリス主導で交渉するのか、明確に決定することができなくなっている。

ポンド安と世界同時株安

このようななか、ポンドは過去30年来の記録的な水準まで下落した。さらに、イギリスはEU諸国の最大の輸出先のひとつであるため、EU諸国を中心として世界同時株安が発生した。日本7.92%、ドイツ6.8%、フランスで8%、スペイン12.4%、イタリア12.5%、そしてアメリカで3.6%という大きな下落であった。

このように大幅に株価が下落した背景は、ポンド安による輸入価格の上昇からイギリス経済が失速する懸念があったからだ。輸入価格の高騰からインフレが発生し、イギリス国民の実質所得は下落する。すると、イギリス国内の個人消費は冷え込み、輸入は大幅に落ち込む。

ドイツの自動車産業イタリアのワイン産業などをはじめとして、イギリス市場に依存する産業は非常に多い。そのためポンド安は、こうした産業の低迷の原因となると見られたのだ。

ロンドンのシティから逃げ出す金融機関

またEU離脱は、イギリスの主要産業である金融産業を決定的に低落させる原因になる。EUに加盟している現在、金融機関はロンドンで金融業のライセンスを取得すれば、ほかのすべてのEU加盟国で同時にビジネスができた。

しかし離脱によってこれが不可能となるため、多くの金融機関はEUで新たにライセンスを取得する必要に迫られる。このため、多くの金融機関が、拠点をロンドンのシティから、パリやフランクフルトへ移転する準備をしている。

「JPモルガン」「ゴールドマンサックス」「バンク・オブ・アメリカ」「シティグループ」「モルガンスタンレー」などが静かに準備を進めている。ちなみに英大手経済紙の『フィナンシャルタイムス』によると、「JPモルガン」は16000人のスタッフのうち4000人を、「モルガンスタンレー」は1000人の移転をすでに決定したとしている。

この動きは、海外だけではなくイギリス国内の金融機関も例外ではない。英最大手行のひとつである「HBSC」は、1000人の移転を決めた。また2600人の社員のいる野村・インターナショナルも人数は明らかにしていないが、移転を検討している。

イギリスの経済ではサービス業がGDPの72%を占めており、なかでも金融産業の割合は際立って高い。そのような状況でロンドンのシティからの金融機関の移転は、イギリス経済にとって大きな損失になることは間違いない。

Next: 解体に向かうイギリス連邦、各国に飛び火するEU離脱運動の脅威

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