まず、ヤニス・バルファキス前ギリシャ財務相の見方
これとは少し異なるニュアンスの予想をしているのが、前ギリシャ財務相で経済学者のヤニス・バルファキスだ。オートバイにさっそうと乗り、EU首脳部との交渉に望んだバルファキスの姿を覚えている読者も多いことだろう。
バルファキスは25日、英大手紙の『ガーディアン』に今後を予測する記事を発表した。以下が要約だ。
私は英国のEU離脱には断固反対した。しかし、キャメロン首相のように現在のEUを容認するのは間違いだと考える。いまのEUは国民投票によって選ばれたわけではないEU官僚が各国の経済と政治を支配している。この構造こそ全面的に改革しなければならないのだ。その改革のためにこそイギリスはEUに残留すべきだったのだ。
いまEUは、離脱の計り知れない影響におののいている。市場は暴落し、不安定になっている。だが、時間が経つと不安定な市場は回復し、元の状態に戻ることだろう。激烈な危機の時期は長くは続かない。
しかしながら、EU解体に向けた本格的な危機はその後にやってくる。現在のドイツのメルケル政権が主導するEUは、徹底した緊縮財政を強制するだけではなく、各国から独自の経済政策を立案する権限を奪って主権を剥奪し、超国家的な共同体への参加をひたすら押し付ける。
この方針が原因で、多くの国々でEU離脱の世論を高めたにもかかわらず、EU首脳部がこれまでの方針を変更する兆しはまったく見られない。厳しい緊縮財政と主権の制限を強制するだけである。
だとするなら、これからEU離脱への勢いは一層激しくなることは間違いない。EUは確実に解体に向かっている。
以上である。
やはりEUは解体なのか?
このように、ソロスはこれから深刻な金融危機の発生を予測している一方、バルファキスは市場の変動は短期的で、金融危機はないと見ている。
6月29日から世界各地で株価は上げているので、一頃心配された金融危機の発生はひとまず回避されたと見ることができる。その意味では、バルファキスの予想の方が当たっているといえるかもしれない。
だが、ソロスもバルファキスもEUが解体過程に突入したとする認識では共通している。ソロスは金融危機と分離運動の高まりから一気に解体するというが、バルファキスは、解体の危機にあっても緊縮財政政策の強制を一向に改めないEU首脳部に各国が嫌気を差し、静かにEUを去って行くと見ている。
ソロスとバルファキスの分析を見たが、これらはいまEUで出回っている2つの中心的な見方を象徴している。プロセスはどうあれ、EUは解体に向かっているという認識だ。
CIA系シンクタンク『ストラトフォー』の見方
他方、イギリスの離脱後、EUはドイツとフランスの強い指導力で仕切り直され、価値観を共有した国々の連合として強化されるのではないかとする意見も見られる。欧米の記事にはそのような内容のものも多い。
しかし、CIA系シンクタンクの『ストラトフォー』はそのようには見ていない。6月25日、『ストラトフォー』は世界各地域におけるイギリスのEU離脱の影響を分析した「ブレグジットが世界に意味するもの」という長文のレポートを発表し、ドイツとフランスが主導するEUの強化という方向性は実質的に不可能であるとした。
『ストラトフォー』の分析は、CIAや米政権内部の見方も反映しているので極めて重要だ。次ページである。