現行の為替・株価水準を考えると、7月の日銀金融政策決定会合で何らかのアクションがある可能性は高いです。しかし策を誤れば材料出尽くしと取られるため、厳しい判断になるでしょう。(『元ヘッジファンドE氏の投資情報』)
何らかのアクションがありそうな7月日銀金融政策決定会合の見通し
手詰まりの日銀、ブレグジット・ショックに慌てる
散々追加緩和に消極的な発言を繰り返していた黒田日銀総裁が1月日銀政策決定会合で騙まし討ち的なマイナス金利を導入したせいで、このところ日銀や黒田日銀総裁にネガティブな見方が急速に増えてきました。
超過準備に対するマイナス金利で弊害を受けている民間銀行からも猛反発を受けているせいか、このところの日銀政策決定会合はノーアクション続きです。
物価目標が再度下ブレ気味になっていることや景気減速の兆しが出ていること、そして急速な円高もあるので、6月追加緩和はあっても良さそうでしたがノーアクションでした。
このため、日銀の政策手詰まり感が台頭してきています。
日銀もECB同様に、(これ以上買うと弊害が増えるという)物理的な限界や(民間金融機関の体力を蝕むという)デメリットの増大のため、政策余地が限られてきているのです。
そんな中でのBrexitなので、さすがに談話を発表しました。
7月日銀会合は諸刃の剣
現行の為替水準や株価水準を考えると、7月の日銀政策決定会合で何らかのアクションが出てくる可能性はかなり高いです。
しかし、1月の日銀政策決定会合でマイナス金利導入を決定したら直後に円高になったように、「策を誤れば材料出尽くしと取られて却って円高になるリスクも高い」ことから、かなり厳しい判断をすることになるでしょう。
考えられる選択肢は国債買い入れ額増額か、4月にBloombergが流したガセネタである貸し出しへのマイナス金利適用ですが、次ページのECBの項目で見るように、貸し出しへのマイナス金利適用は先行するECBでも先週開始されたばかりなので、やるにしてももう少し様子を見たいところでしょう。
そうでないと、民間金融機関との関係は完全に壊れると思います。
となると国債買い入れ額増額のみになりますが、既に年80兆円ペースで買い入れているので、これ以上の買いは民間銀行のリスクを高めることになります。
こう考えると、7月の日銀政策決定会合での追加緩和の可能性は高いものの、市場の流れを変えるようなポジティブサプライズにはならない可能性が高く、逆に出尽しと捕えられるリスクも高いと思われます。
一方、日銀政策決定会合までにリップサービスをしてくることも考えられますが、黒田日銀総裁はあまりにも市場を騙しすぎて信頼感を失っているので、「必要なときは躊躇なく緩和をする」という常套文句程度では、マーケットの流れを止めることは出来ないでしょう。
つまり、身から出た錆とは言え、黒田日銀総裁は肝心なときに自身の発言の重みをなくしてしまっているのですから、ドラギECB総裁ほどのリップサービスの影響力はないでしょう。
Next: 「貸し出しへのマイナス金利適用」開始、欧州ECBの現状は?
ブレグジット対策に奔走する欧州ECB
追加緩和を散々してきたECBですが、国債の流動性やマイナス金利の弊害から持ち駒を減らしてきたため、早期の追加緩和観測が遠のいてしまった中でのBrexit混乱が起きました。ECBは一体どういうアクションを取れるのでしょうか?
今年1月のECB理事会後の会見でドラギ総裁が宣言したとおりに、3月上旬のECB理事会では追加緩和が決定されました。しかも、マーケットが期待していた国債買い入れ額増額がメインだったのでほぼ満額の回答です。ここまでは、追加緩和路線でした。
しかし、3月理事会合後の定例会見上でドラギECB総裁は利上げ打ち止めとも取れる発言をしてしまったことで、マーケットには「ECBの追加緩和打ち止め観測」が急速に台頭し、実際、以降多くのECB要人たちが早期の追加緩和に消極的な発言を繰り返しています。そして、4月、6月のECB理事会は多くの要人発言から想像されたとおりにノーアクションでした。
しかし、先週末の英国のユーロ離脱を受けて、何かしないといけなくなりました。
「貸し出しへのマイナス金利適用」は先週から始動したばかり
今用意されている緊急アクションは、金融システム不安に対応するものであって、インフレ率引き上げや景気浮揚を狙うものではありません。なので、マーケットが恐怖の結果パニックになるのを避ける効果はあっても、株価の押し上げ効果は限定的でしょう。
同様に、先週金曜にG7財務相と中央銀行総裁が共同で発言をしましたが、それも同じ内容です。
失血死を避けるために、血液を大量輸血する準備がありますというだけなので、株価の押し上げ効果にはなりません。従って、この報道で先週金曜に欧米株が下げ止まりましたが、依然として下方トレンドは続き易いと判断したのです。
では、追加緩和などの金融政策は出てくるのかというと、現時点では無いともいえません。
4月にBloombergが日銀でも議論しているとガセネタを報道した貸し出しへのマイナス金利適用は、ECBはこの3月に決定したのですが、先週からようやく始動されたのです。
常識的に考えると、まずこの緩和策の効果がどうかを見る必要があります。なので、ドラギECB総裁による緩和リップサービスはあるかもしれませんが、実際の緩和が出てくるのにはもう少し時間が掛かると思います。
しかし、リップサービスで株価が持ち直すかというと、それは微妙です。その理由は、この数ヶ月当面の追加緩和に消極的な理由として、ECBの要人たち自らが「当面の緩和の弊害や限定的な効果」を説明してしまっているためです。
Next: ドラギECB総裁はいつまでリップサービスでしのげるか
ドラギECB総裁はいつまでリップサービスでしのげるか
今までの施策が効果を表すにはしばらく時間が掛かるし、現行の緩和策でも様々な弊害が出てきているので、もう少し様子を見たいと多くの要人が言ってしまった以上、「すごい緩和を間もなくしますよ」と言ってもマーケットはそれほどポジティブには反応出来ないでしょう。
3月ECBで国債買い入れ増額を決定した直後に、ドイツ国債は売られているのが判るでしょう(利回り上昇)。マーケットが期待していた満額回答が出ても、そのときは「当面の追加緩和で尽くし発言」もあって売られてしまったのです。
既に、ドイツ国債はマイナス金利になっていますので、これ以上マイナス金利を拡大させるのは、日本の金融機関同様に金融機関の体力を奪うことなりかねないので慎重にならざるを得ないでしょう。
しかも、ユーロは混迷リスクから急落しています。
なので、今は既に国債は上がり、通貨は下がるという通貨安政策の理想形態になっているのですから、これ以上の政策余地が少ないのです。
このように考えると、金融システム崩壊という最悪を避けるための緊急流動性対策などはするけれど、それは株価押し上げには力足らずで、抜本的な対策になる追加緩和はBrexit前から既に出尽くし気味だったのですから、現実にBrexitになったからといって対応は困難だと思われます。
つまり、ECB発で増えるマネーは短期マネーであり、過剰流動性に影響を与えるような国債マネーの増大にはしばらく時間が掛かるため、ECBの金融政策の方向性は従来どおりと思われます。
勿論、サービス精神満点のドラギECB総裁ですから、マーケットが下がるたびにリップサービスは出てくる可能性は高いでしょうから、今後しばらくはECB発のニュースが日米欧中央銀行のニュースの中では最も重要度が高くなります。
『元ヘッジファンドE氏の投資情報』(2016年6月27日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドマネージャーをしてきたE氏による「安定して稼ぐコツ」「相場の見方」「銘柄情報」を伝授していきます。