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【米中首脳会談】トランプの「北朝鮮潰し」と中国に仕掛けられた罠=斎藤満

注目の米中首脳会談が6日から始まります。トランプ大統領はこの「天下分け目の戦い」を前に北朝鮮問題を持ち出し、中国に対してすでにいくつか「仕掛け」をしています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年4月5日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「北朝鮮カード」はブラフか本気か?一枚上手なトランプ大統領

天下分け目の米中首脳会談

トランプ大統領にとって、「最初の100日」における最大のヤマ場であり、「天下分け目の戦い」となるのが、4月6日から始まる習近平国家主席との米中首脳会談です。

この会談が、トランプ政権の中国に対する姿勢を明確にするばかりか、今後の中国経済、ひいては世界経済を左右することになるからです。

いくつかの「仕掛け」

トランプ大統領は首脳会談を前に、すでにいくつか「仕掛け」をしています。

米国側からは、北朝鮮の管理を中国に押し付けるにあたり、貿易不均衡の是正策で脅しをかけています。つまり、北朝鮮の暴挙を中国の責任で何とかしろ、と言い、そのためには石炭輸入を止めるなど、経済制裁をフルに活用しろと言っています。

北朝鮮問題を持ち出すのは、必ずしも日韓両国への安保上の防衛義務ということでもなさそうです。

中国の責任でと言っておいて、中国がそれを履行できなければ、米国が単独で北朝鮮に行動を起こす「免罪符」にもなり、さらに韓国に配備する高高度ミサイル「THAAD」の正当化にもなります。

できれば日本にも配備したいところですが、中国が北を管理できなければ、文句を言うな、という建前にもなるでしょう。

そして先日3日には米国下院本会議が、北朝鮮を「テロ支援国」に再び指名するよう国務省に求める法案を可決しました。これが通れば、米国は北朝鮮に独自の金融制裁を科すことができるようになります。

そしてその中でも、中国が北朝鮮に影響力を行使するよう求めています。

中国を逃がさない

これまでは、米国や周辺国が北朝鮮問題で中国に圧力をかけても、中国は形だけ従って、実際は北朝鮮を保護してきました。北朝鮮の体制が崩壊すれば、大量の難民が国境を越えて中国になだれ込むのを恐れているためです。

ところが、今回はトランプ大統領が貿易不均衡問題を担保に取り、中国に逃げられないような仕掛けをしました。

Next: 「北朝鮮カード」に仕掛けられた罠とは?米中交渉はトランプ氏有利



「北朝鮮カード」に仕掛けられた罠

中国は米国の貿易赤字の約半分を占めるほどの巨大な貿易不均衡を抱えています。

そこで、北朝鮮問題を処理できなければ、この不均衡を強制的に縮小させるべく、輸入関税をかけ、為替操作国に認定して、力ずくで対処すると脅しているのが、トランプ大統領による「仕掛け」です。

中国は、中国に進出する米国企業に負担になるだけと強がっていますが、高率関税をかけられると、輸出を中心に大打撃となります。

もっとも、その点では、トランプ政権の対中強硬論は最近になって後退したとの見方もあります。

親中派のキッシンジャー元国務長官を派遣して関係改善を図っているとの見方、トランプ陣営の親中派の影響を指摘するもの、逆に習近平国家主席の下で米中冷戦を進めることを視野に入れ、当面は北京政府を混乱させない程度に融和的に進めるとの「戦術論」まで、分析は多岐にわたります。

確かに、トランプ大統領が当初中国叩きでコブシを上げていたものが、後退しているように見えます。就任後、真っ先に中国を為替操作国に指定すると言っていましたが、これは財務省の判断にゆだねると言い、台湾との接触も転換して「1つの中国」を容認し、45%の報復関税もいまだ音なしの構えです。その裏では、米国金融資本が中国の不良債権ビジネスに参画を決めているのも事実です。

しかし、だからと言って米国の対中国姿勢が変わったとは言い切れません。

なぜなら、トランプ政権になってからの「成果」は、TPPからの離脱などごく一部に限られているからです。移民排除は司法の壁に阻まれました。オバマケアや税制改正も、そのための体制づくりや多数派工作が不十分で、法案を通すのが難しくなっています。

結局、トランプ政権は、法案が不要な通商問題で成果を挙げるしかない状況に置かれています。

ジレンマに苦しむ中国。交渉はトランプ氏有利に

一方の中国にしてみれば、北朝鮮の体制崩壊は避けなければならず、かといってトランプによる45%の国境税は中国経済を危機に陥れ、6.5%成長も雇用確保も困難になり、社会不安につながるリスクがあります。

また韓国や日本に「THAAD」が配備されると、広域レーダーで中国の核施設が監視される可能性があり、中国の核戦略にも大きな打撃となります。

つまり、今回の米中首脳会談にあたっては、中国にとっての「弱み」が多々あり、米中の交渉力はトランプ氏に有利な状況になっていると言えます。

Next: トランプ氏は中国を「生かさず殺さず」最大限に搾り取る



中国を「生かさず殺さず」最大限に搾り取る

中国としては、中国に進出する米国企業を「人質」にとるか、中国経済の打撃は世界経済の打撃であり、それは米国にも波及すると主張し、軍事力強化のカードを切るしかないのですが、いずれも決め手に欠けます。

むしろ、トランプ政権の弱体化を図り、国境税も国境調整税も進められないよう、政権幹部を「ハニートラップ」に陥れるか、トランプ氏のスキャンダルをリークして政権転覆を図るしかありません。

2月の米中電話会談でトランプ大統領は「両国にとって互いにプラスとなるような良好な関係を構築することを楽しみにしている」と述べましたが、今の大統領は当時より追い込まれた状況にあり、目に見える「成果」を国民の前に示す必要があります。

今回の米中首脳会談中、あるいはその直前に、北朝鮮がミサイル発射や核実験を行う可能性もあり、そうなれば中国は対応待ったなし、となります。

今回の交渉で、最も穏健な結果となるシナリオは、中国が北朝鮮の「実験」を封印し、高率関税(国境税)を回避し、中国が自主的に輸出を規制して徐々に貿易不均衡を縮小していくケースですが、北朝鮮が中国の言うことを聞く保証はありません。

また米国財務省は大方の予想に反して、今回の為替報告書で中国を「為替操作国」に指定する可能性があります。

トランプ大統領としては、「生かさず、殺さず」の範囲で、最大限に中国から搾り取りたいところ。

これに成功すれば、トランプ氏は「成果」を得ますが、その代償として、中国も世界経済も抑圧されることになります。失敗すれば中国は救われますが、同時にトランプ政権の弱体化が世界に示されることになり、「最初の100日」から「最後の199日」の始まりとなるかもしれません。その意味で、両者にとって極めて大事な米中首脳会談になります。
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年4月5日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2017年4月5日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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