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年金5兆円損失をついに「自供」 GPIFを待ち受けるかつてない試練=斎藤満

2015年度のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用で、5兆円を超える損出が判明しました。正式な数字の発表は参院選後の7月29日に予定されていますが、発表遅延に対する周囲からの批判もあり、これに先立って、その概算が明らかになったものです。問題は、今後もGPIFの運用で利益を期待できるものがほとんどないことです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月4日号の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です!

犯人のGPIFは「一喜一憂しない」などと意味不明な供述をしており

「顧客」としての国民を無視する詭弁

今回明らかになった5兆円超の損失は、今年初めに世界的な株安、円高になったことから、1-3月に4兆円を超える大きな損失を出したのが堪えています。

もっとも、その前の13年度、14年度には大きな利益を上げているので、長い目で見れば資産拡大に貢献しており、1年だけの損失に目を向けるべきではないとの反論も聞かれ、また各期の「成果」に一喜一憂しないよう、今後は四半期ごとの結果を発表せず、年間の数字を一度だけ公表しようとの動きが出ています。

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しかし、政府周辺のこの認識は危険です。年金の運用環境は異常な政策の結果もあって、今後は一段と不安定になり、年金の損失は、昨年限りの「一時的」なものとは言い切れないからです。

それだけに、国民の掛け金を預かり運用する立場のGPIFは、常に「顧客」としての国民に、運用結果を逐次報告する義務があり、これを回避すべきではありません。

厳しさを増す年金の運用環境

年金の運用環境は、以下に見るように、今後は一層厳しくなります。短期的な要因中長期的な要因とから見てみましょう。

まず、短期的な「プラス」環境がもはや終わってしまったことです。特に次の2つが重要です。1つは、アベノミクスによる円安、株高の推進力がなくなり、昨年後半からはむしろ逆流していることです。

13年度、14年度でのGPIFの利益は、円安と株高に支えられていますが、為替は昨年半ばの1ドル125円をピークに、以降は円高に、株価もこれと連動して下げています。

これは日銀による異次元緩和をもってしても、もはや円安誘導できなくなったためで、そこには米国がこれ以上ドル高を受け入れなくなったこと、ドル調達コストが高まり、それがドル債投資を抑制し、逆に外人がその裏返しで、円債を買いやすくなり、これが円高に作用するようになったことが背景です。

もう1つは、GPIFの運用割合を変え、自ら株や外貨資産を買っているときは、それが円安株高をもたらしましたが、運用枠(株50%、外貨資産35%)に達してしまうと、自らの買いで相場を押し上げられないことです。

すでに、GPIFの運用は、この上限枠に近づいてしまい、相場が下げた時に、評価額が減って枠が余った分を買い増しするくらいしかできません。

つまり、13年度、14年度のGPIFの利益は、アベノミクスによる円安株高誘導と、GPIFのリスク資産の運用枠拡大に伴う自らの「買い上げ」による面が大きかったのですが、これらがいずれも限界に達し、逆流さえ見せ始めました。

GPIFによる株や外貨資産の運用拡大は、国際金融資本からの助言や、政府にとっても株高が内閣支持率の上昇につながるメリットがあったためですが、では、これら短期的な「プラス」要因がなくなっても、株や外貨資産の運用で利益を上げられるのか、チェックしてみる必要があります。

Next: GPIFの運用で今後の利益が期待できるものはほとんどない!



国内株でも国債でも運用は困難

まず、「高い運用利回りを得るためには、大きなリスクをとる必要がある」との「欧米の常識」が日本には当てはまりにくいことがあります。確かに、欧米では長期的にみると、債券よりも株での運用が高いリターンを上げています。

しかし、日本では80年代後半のバブルで相場が歪んでしまったこともあり、90年以降は株での運用はマイナス傾向にあります。

同様に、長期的に円高傾向にあるため、外貨資産の運用は、金利差が有利でも、為替差損により、なかなか利益が上がらない実績があります。むしろ、この四半世紀の時期においては、一般に安全資産と言われた国内債券(国債)での運用が、もっとも安定的で大きな利益を上げてきました。

かつてのバブルで株価や不動産価格が異常に高まってしまい、その崩壊で20年以上も調整を余儀なくされたこともありますが、さらに、この10年では人口減少の影響が経済にも表れ、低成長、デフレ圧力が意識されるようになりました。それだけ国内市場の成長が期待薄となり、企業の成長を抑制するようになりました。

そこへアベノミクスが株価を押し上げたため、昨年にはまた第2の「バブル」が発生しました。今度は、不動産ではなく、国債など、債券でバブルが生じています。特に国債は600兆円以上がすでにマイナス金利となり、値上がり益しか収益を産まなくなっています。それだけに、今後は国内株も国債も、リスクが大きくなり、今後は相場反落の懸念が高まっています

再開した円高で外貨資産も目減り

更に、外貨資産については、ブレグジットの影響や引き続く中国リスクが市場を不安定にさせる面があり、為替では日本の経常黒字の拡大により本源的なドル売りが続き、物価の安定で購買力平価が一層の円高を正当化させ、さらに利上げが予想されて買われたドルが、利上げ機運の低下とともに売られやすくなり、これがドル安円高に作用します。

そうなると、外貨資産の相場下げリスクに加えて、為替がさらに円高になり、為替面からも外貨資産の目減りを起こしやすくなります

GPIFはキャッシュポジションを高めよ

このようにみると、GPIFの運用では、今後利益が期待できるものがほとんどありません。4-6月の運用でも、国内株は下落し、外株、外国債券はいずれも円高で目減りしています。唯一国債がマイナス金利で利息収入はないにしても、値上がり益が期待できるだけです。従ってGPIFの運用成果は、2四半期連続のマイナスになったと見られます。

更に、日本国債も、一段の利下げがないと、マイナス金利をカバーする値上がり益が出ず、債券運用も難しくなります。逆にいずれ金利が上昇局面になると、今度は国債の損失が大きくなります

つまり、年金の運用はかつてなく難しい状況になり、今の運用枠を維持すれば、どの運用でも損が出やすくなっています。

従って、この異常な市場が終息し、価格の正常化が進むまでは、年金の損失をいかに抑えるか、今の140兆円の資産価値をどうやって維持するかが、最大の使命となります。現在の運用枠には、いずれも「幅」をもたせ、ある程度の弾力化は認められています。しかし、株と債券、国内と海外の入れ替えではカバーできない面があります。

いっそのこと、嵐が過ぎ去るまでは、損失の出ない「現金」で守り、嵐が去ってからまたリスク資産にシフトするのも一案です。つまり、GPIFの運用枠をあまり固定せずに、株や債券でのバブルが十分調整されるまでは、リスクをとらない、というのも損失回避には必要かもしれません。


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月1日号の一部抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は特にお得です!

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マンさんの経済あらかると』(2016年7月4日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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