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【3月米雇用統計】「全戻し」念頭に戻り売り狙いも、米シリア攻撃どう影響?=ゆきママ

いよいよ本日は雇用統計ということで、その数字に注目が集まっています。しかしながら、ここ数日で状況は激変しており、さらに米軍によるシリア攻撃が起こったことで、単純に数字の良し悪しで相場を語るのが難しくなりつつあります。雇用統計の展望を描くうえで現在の状況を正確に把握することは非常に重要ですから、ぜひこの点を意識してお読みいただければと思います。(『ゆきママのブログでは書けないFXレポート(無料板)』『お値段以上!?ゆきママの「週刊為替予測レポート」(有料板)』FXトレーダー/ブロガー・ゆきママ)

「全戻しパターン」の可能性が高く、想定レンジは108.50~112.00円

利上げについては完全に視界不良状態に

今年の相場のテーマとして「利上げ(金利の引き上げ)ペース」を挙げ、雇用統計記事でも何度もその見通しが相場に影響するとしてきました。というのも、昨年9月に日銀が長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入して以後、ドル円相場は米国の長期金利(10年債利回り)の動きと高い相関性を保ち続けているからです。

日銀の政策下(金利操作)において日本の長期金利が0%にペッグ(ほぼ固定)され続けるならば、米国の長期金利の先行きを考えるだけで、自ずと将来的な日米金利差がわかることになります。であるならば、この米長期金利の見通しについてさえ行けばよい、という非常に単純なロジックで市場関係者は相場の展望を描いてきたわけです。

しかしながら、ここ数日に発生した2つの要因によって米国の利上げ見通しが視界不良状態に陥りつつあり、次の展開を読むことが非常に難しくなりつつあります。

突然の辞任劇とバランスシート削減の意味

その2つの要因とは、1つはラッカー・リッチモンド連銀総裁が突然辞任したこと、もう1つは年内中にバランスシートの削減に着手すると唐突な議論がFOMCで繰り広げられていたことです。どちらも市場関係者を困惑させるのに十分な材料だったように思います。

まず、4月4日にあったラッカー連銀総裁の辞任についてですが、これは2012年に発生したFRBの情報漏洩がきっかけとなっています。2012年10月のメドレー・グローバル・アドバイザーズという会社の顧客向けレポートにおいて、FRBの内部情報がかなり詳細かつ、相場を大きく動かしかねない内容が含まれていたことが2015年に発覚して大問題となりました。

イエレンFRB議長も関与したのではと見られていますが、メドレー社との接触は認めたものの情報漏洩自体は否定しています。2015年当時は民主党のオバマ政権だったこともあり、イエレン議長はこれをネタにした共和党の攻撃から守られてきた経緯があります。

流れを考えればラッカー連銀総裁を辞任に追い込んだのは共和党絡みの圧力ということになり、今は後ろ盾を失った状態のイエレン議長も場合によっては辞任に追い込まれる可能性があります。また、今後の金融政策についても何らかの圧力が加わることが考えられるため、これまでの政策路線が維持されるかどうかがわからなくなりつつあります。

加えて、年内にバランスシートの削減を行う可能性があるということが、4月5日に発表された3月分のFOMC議事録から明らかとなりました。

このバランスシートの削減とは、FRBが国債やモーゲージ債を買い入れる量的緩和と呼ばれる手法によって、膨張させてきた金融市場に対して逆のことを行うことになります。つまり、ドルを大量に放出してシャバシャバに薄めることの反対ですから、利上げなどと同じく金融政策の引き締めということです。

ただ、利上げすらままならない状況で、同時にバランスシートの削減が行えるのかといった当然の指摘がありました。ましてや量的緩和は劇薬とされるほどでしたから、逆のことをしても同様に激しい副作用を伴うことになるでしょう。

しかし、つい先ほど本日の日本時間10時30分頃、米国がシリアに巡航ミサイルで攻撃したとの報道がありました。もし戦争が発生することによって大幅な原油高になるのであれば、かなりのインフレに見舞われることになりますから、利上げ程度の引き締めでは十分でなく、バランスシートの削減という劇薬に手を出す必要があるということで準備をしていたのかもしれません。

いずれにせよ金融政策全体が一旦振り出しに戻ったというか、政策動向を見極めるためには今後のFRB関係者の発言やFOMCにおける議論の推移、米国の経済状況や世界情勢を見守るしかないため、雇用統計の結果から今後の展望を描くのは困難というほかありません。このことは値動きを考えるうえで非常に重要ですので、しっかり頭に叩き込んでから雇用統計の結果がどうなるかを考えていきましょう。

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先行指標は十分な強さ。今夜は特に賃金上昇率に注目したい

前置きが長くなりましたが、それでは雇用統計そのものについて考えていきたいと思います。まずは先行指標から見ていきましょう。

先行指標の結果(数値はいずれも速報値)

赤い数字が目立ち、前月からは悪化した指標の方が多いです。とはいえ、昨年10月から計算式を変えたことで相関性が高まったと評判のADP雇用報告は、+20万人を大きく上回りました。先月の速報値を下回ったとはいえ、非常に好調な数字です。

さらに、ISMの製造業部門における雇用指数2011年6月以降で最高ということで、期待感はかなり高まっていると言えるでしょう。ISMの非製造業部門の雇用指数が久々に下振れているのはやや気がかりですが、問題のある数字とまではいえませんからね。

これらを受けた雇用統計の事前予想値については、非農業部門雇用者数+18.0万人、失業率4.7%、賃金上昇率・前月比+0.2%となっています。ただ、ADP雇用報告の上振れはかなりのものなので、非農業部門雇用者数についてはもう少し上を見込んでいる可能性が高そうです。

一般的に賃金水準が高いとされる製造業において雇用が好調ですから、最も重視されている賃金上昇率についても強めの結果を織り込みたいところではあります。ただ、相場の流れを変えるには、最低でも賃金上昇率(平均時給)が前月比で+0.4%といった数字になることが必須でしょう。

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戻り売りが有力だが、近年は「戦争=株高・ドル高」の構図も

地中海の米軍艦船がシリアの軍事施設を標的に巡航ミサイルを60発超発射」との速報が入り、ドル円が急落。本校執筆時点(7日12:50時点)のレートは1ドル=110.50円近辺となっています。

冒頭でも書いたように、利上げ動向を見極めるのが難しくなって将来的な金利展望が描けなくなったこと。また、米軍によるシリア攻撃という大きめなノイズがあったことを考えれば、ある意味で過去の数字である3月雇用統計を元に短期的に相場を動かしていくという状況ではなさそうです。

となると、ポジションを大きく傾けられないために動きにくくなるわけですから、強弱どちらかによほど偏った数字が出なければ、発表直前の水準に帰着する全戻しパターンの可能性が最も高いと考えています。

また、これまで初動は非農業部門雇用者数の数字に影響されることが多かったのですが、先月、先々月辺りからは賃金上昇率の数字で初動が決定されている感がありますので、今回もそうなると思われます。

そして、メインシナリオは先行指標の強さから、非農業部門雇用者数、賃金上昇率共に予想並かそれ以上の数字が出て、やや強めの値動きが出ることを想定しています。

これらのことを踏まえたうえで今回の雇用統計のトレード戦略について考えると、やはり有力なのは戻り売り(ショート)ということになります。上値目処は、今週の高値となった111円半ばから21日移動平均線(111.97円)のある112.00円がせいぜいと予想しています。先週も112円台での定着には失敗していますからね。したがって、賃金上昇率が前月比+0.5%といった数字が出てこない限りは、この辺りから狙っていきたいところでしょう。

ただし、早ければ今夜から、あるいは来週以降は株価が大きく上昇する可能性があるため、NYダウ先物などが昨日の終値である20,662ドル台をしっかり上回っているようなら、戻り売りは控えた方が無難です。

これは近年では戦争=株高という構図ができあがっており、ドル円も株価に引っ張られて短期的な上昇トレンドを形成することがあり得るためです。特にシリアはアメリカ本土からも離れていますし、不確定要素がほとんどありません。仮に大規模な戦闘が続くといった話になれば、軍需関連を中心に株は買われることになるでしょう。実は、リスクを完全に算定できない金融危機の方が相場にとって悪材料なのが現実です。

米ドル/円 日足チャート

このほか、賃金上昇率がマイナス圏になるといった非常に弱い数字が出て大台となる110.00円ラインを割り込んだ場合には、ストップロスを巻き込んで一段下に落ちることになるでしょう。下値目処としては上記チャートに示されている200日移動平均線(108.52円)が挙げられます。ここは、昨年11月のトランプラリーから一度も割り込んだことがありませんので、110円割れの水準からエントリーしてトレードする際には、この手前で一旦利食いすることを検討していただければと思います。

やはりドル円は上昇するスピードよりも下落するスピードの方が速いですから、こういった不確定な局面では、ショート(売り)を基本にしてトレードしていきたいところです。しかし、あくまで全戻し想定ですので、下落した場合のツッコミ売りをする際には要警戒ということで。

それから、繰り返しになりますが、米中首脳会談やシリア攻撃などセンシティブな話題を控えており、今夜は雇用統計がメインとならない可能性は十分ありますので、無理をせず柔軟に対応することを心がけましょう。それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年4月7日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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