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『ポケモンGO』ヒットで株価爆上げ、任天堂の復活劇に潜むリスク=栫井駿介

任天堂の株価が急騰しています。その理由は、アメリカなどで配信が開始されたスマホゲーム『ポケモンGO』の大ヒットによるものです。時価総額は3兆円を超え、長らく低迷していた株価に光が差しています。しかし実際のところ『ポケモンGO』は、任天堂にどれだけの恩恵をもたらすのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

世界中が熱狂する『ポケモンGO』で任天堂が得る収益はどの程度?

『ポケモン』とスマホの奇跡的なコラボ

ポケットモンスター(ポケモン)は、もはや知らない人はほとんどいないでしょう。

1996年にゲームボーイのソフトとして発売され、豊富なキャラクターやポケモン収集の面白さに多くの子供たちが夢中になりました。

かく言う私も、初代ポケットモンスターにはまった世代です。全世界でシリーズ累計2億本以上を売り上げ、多種多様な関連商品も発売されるなど、比類ない巨大コンテンツに成長しています。

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『ポケモンGO』は、そのポケモンをスマートフォンに搭載して楽しむ次世代型のゲームです。スマートフォンのカメラを通して画面を見ると、位置情報とリンクしてポケモンが現れます。画面上では、まるでゲームの中にいるかのようにモンスターボールを使ってポケモンを捕獲できます。

Matthew Corley / Shutterstock.com


スマートフォンの技術を総動員したAR(拡張現実)の集大成とも言えるゲームであり、私を含めポケモンをプレイしたことのある人にとっては夢のようなゲームです。

世界中で社会現象化、話題性は抜群

日本ではまだ公開されていませんが、先行して公開されたアメリカなどではすでに社会現象になるほど多くの人がはまっています

ポケモンはどこに現れるかわからないので、新たなポケモンを探して人々が街中をスマートフォンの画面をのぞきながら歩き回っているのです。歩きスマホそのものですから、非常に危険な行為だとして注意喚起が出されるほどです。

ゲームのダウンロードやプレイそのものは無料ですが、ゲームを進める上で必要なアイテムを購入することで売り上げとなります。プレイが無料で、アイテムを買うことで売上に繋げるモデルは、スマホゲームでは主流の方法です。

公開からわずか3日でツイッターを上回るユーザーを獲得したとの報道もあり、それだけ多くの人がプレイすればアイテムを買う人の数も半端じゃないと考えられます。

ある調査では、7月7日の配信からの総売上は14億円を超えたとされ、天井が見えない状況です。あまりのブームに、遅れてはならないと多くの投資家が任天堂株に群がっているようです。

Next: いまの株価は割安か割高か?任天堂の期待と不安を整理する



時価総額はかつて国内3位も近年は低迷

任天堂の株価は長期的な下落が続いていました。かつてはWiiの大ヒットで時価総額は10兆円を超え、国内上場企業第3位まで上り詰めましたが、その後は業績が低迷し、ここ最近は2兆円前後の推移となっていました。

任天堂の業績推移

業績が低迷した理由は、いつまでもWiiの成功体験に縛られていたからです。

確かにWiiは全米をはじめ世界中で大ヒットし、「日本のアップル」ともてはやされました。しかし、任天堂のビジネスモデルはハードを売って稼ぐことであったため、一通りユーザーに行き渡るとまた新しいハードを販売しなければなりません。そのため、Wii Uを発売しましたが、残念ながら不発に終わり、コストばかりがかさむようになってしまったのです。

余談ですが、この点アップグレードのたびに買い替えを促すアップルのビジネスモデルは非常に優良です。

そうしているうちに、世界中でスマートフォンが台頭しました。先進国ではほとんどの人が所有し、ゲームを基本無料で楽しめることから、あっという間に据え置き型のゲーム市場を奪っていきました。任天堂が置かれる状況はますます厳しくなり、近年は度々赤字を計上する状況にまで陥ってしまったのです。

高まっていたスマホ対応への期待感

しかし、2015年3月にDeNAとの提携を発表すると、株価は瞬く間に上昇しました。それもそのはずで、これまでスマートフォンとは距離を置いてきた任天堂が、DeNAとの提携によりその殻を打ち破ると期待されたのです。

任天堂<7974> 週足(SBI証券提供)

『ポケモンGO』は、任天堂がスマートフォンへ積極的に進出する大きな契機となるものです。ポケモンの他にも、マリオやどうぶつの森など様々なコンテンツを抱えていて、スマートフォンとの相性は非常に良いと考えられています。

ちなみに、任天堂の地域別売上高は4割近くがアメリカです。日本は約25%で、アメリカは日本以上の巨大市場となっています。『ポケモンGO』が日本を差し置いてアメリカで最初に公開されたのはそのような理由もあるでしょう。

Next: 『ポケモンGO』が任天堂の業績に与える実際のインパクトは?



『ポケモンGO』が任天堂の業績に与える実際のインパクト

任天堂の株価を見る上で重要なのが、『ポケモンGO』の収益がどれだけ任天堂に分配されるかです。

実は『ポケモンGO』は任天堂が販売したものではなく、任天堂が32%を出資する株式会社ポケモン、そしてグーグルのスピンオフであるナイアンティックという会社が共同で開発・販売したものです。

ナイアンティックは、スマホを使った位置情報ゲーム『イングレス』を開発した会社です。イングレスの技術をもとに、ポケモンという強力なコンテンツを結びつけて今回の大ヒットにつながったと考えられます。

アプリの発行者は、このナイアンティックとなっています。したがって、任天堂が受け取る収益は全てということはなく、株式会社ポケモンおよびナイアンティックへの出資分からもたらされる持分利益など一部に限られます。

現在世界で最も売れているスマホゲーム『クラッシュ・オブ・クラン』を販売するスーパーセルの昨年のEBITDA(償却前営業利益)が約1,000億円です。

仮に、『ポケモンGO』が同程度の利益を生み出し、任天堂がその半分を獲得したとしても、増加するEBITDAは500億円にすぎません。任天堂の昨年度のEBITDAは約420億円ですから、合計920億円です。

企業価値はEBITDAの5~10倍程度が適正水準ですから、そのまま代入すると4,600~9,200億円となり、時価総額3兆円は高すぎる印象です。

任天堂<7974> 月足(SBI証券提供)

ちなみに、スーパーセルは先日ソフトバンクが中国企業のテンセントに売却しましたが、その時価総額は約1兆円にすぎませんでした。

Next: 株価急騰は一時の熱狂、ポケモンGOのゲーム性にも一抹の不安あり



株価急騰は一時の熱狂、ポケモンGOのゲーム性にも一抹の不安あり

もちろん、任天堂が持っている他のコンテンツをスマートフォンと結びつけることで、さらに企業価値が増加する可能性はあります。しかし、ゲームの世界は10本に1本当たればいい方であり、次も大ヒットする確率は限りなく低くなります。

これがWiiやDSのソフトであれば、ユーザーは他に選択肢がないので、ハードやソフトの販売で任天堂は継続的にもうけることができますが、スマートフォンのゲームは誰でも参入でき、競争優位を保つことは難しいのです。

『ポケモンGO』それ自体にしても一時的なブームで終わる可能性はありますし、歩きスマホの危険性から何らかの規制が入る可能性もあります。

「悲観で買い、楽観で売る」(ジョン・テンプルトン)という格言もあるように、賢明な長期投資家は、このような一時的なブームに流されることなく、企業の価値をしっかりと見極めて割安な時に株を買いたいものです。

つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年7月16日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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