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公的資金注入は時代遅れ。IMFがイタリアに仕掛ける「詐欺」の新手口

1998年に破綻した日本長期信用銀行は、国有化され8兆円もの公的資金(税金)を注がれた挙句、最後にはハゲタカ外資に二束三文で売り飛ばされてしまいました。しかし自分たちの税金が奪われていることに気づいた世界中の預金者を、今後も同じ方法で騙すのは難しいでしょう。いま国際金融資本は「新しい詐欺の手口」を必要としているのです。(『カレイドスコープのメルマガ』)

※本記事は、『カレイドスコープのメルマガ』 2016年7月19日第165号パート2の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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公的資金注入詐欺はもう古い。新しい詐欺はすでに始まっている

英国のEU離脱でイタリア銀行株が暴落

ブレグジットの衝撃は、すぐさまイタリアの銀行を襲いました。

欧州中央銀行(ECB)が、イタリアの銀行に債務負担を減らすように求めたところ、世界最古(1472年に創設)の銀行にしてイタリア第3位の大手銀行であるモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行(Monte dei Paschi di Siena)の株が暴落しました。

7月4日、イタリアのミラノ株式市場で、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行の株価は、一瞬、10%も下落しました。後場中場では9%の下落でした。

欧州中央銀行は同銀行に対して、10月3日までに不良債権を削減するための計画を策定するよう求めていました。

イタリアの銀行は、分かっているだけで、およそ3600億ユーロ(約4000億ドル)の不良債権を抱えています。これは、ユーロ圏のすべての不良債権の約3分の1に相当します。

モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行が抱えている不良債権は、約470億ユーロ(約440億ドル)です。(BBC)

この銀行は、2013年に巨額の損失を出したことから、ことあるごとに預金者が本店に殺到する事態が続いています。

ブレグジットによる株価の暴落を受けて「今度こそは本当に破綻だ!」と欧米の陰謀系ブロガーたちが煽っています。

モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行を発信源として、「イタリア全土の銀行で取り付け騒ぎが起こっているぞ!」と。

こうした事件が起こって以来、株価が大きく下がると、確かにイタリアのごく一部の銀行では、すぐにATMに向かう人々が出てくるようになりました。

巧妙に覆い隠されている「危機」

しかし、今回のように「ATMから金が引き出せない!」と騒いでいるのは、欧州で果敢に進められているという「キャッシュレスATM」のニュースと混ぜこぜにされてしまったのか、いゆわるフェイク・ニュース(ガセネタ)の類として地元の人々は受け止めているようです。

とはいえ、イタリアの銀行の貸付資金のうちの約18%が不良債権化し、すでに債務不履行の銀行ローンとなっていることは事実です。それが18%にまで上っているということは、「とっくに破産している」ということを意味します。

「債務不履行の銀行ローン」とは、不良債権に対する資本と担保預金の割合のことです。

通常、銀行の不良債権は10%を超えてくると、その銀行はテクニカル的に見て破産状態と見なされます。

ですから、どうであれしっかり心に刻んでください。取り付け騒ぎが起ころうと、そうでなかろうと、「イタリアは、とっくに破産者」です。

ウニクレーディト(Unicredito)は、ユーロ圏で第1位の資本を持つイタリアの銀行です。
同銀行の株価は、2008年の最高値から比べると94%も下落しています。そして、ドイツ銀行同様に、2015年の高値からも71%も下落しているのです。

もうひとつのイタリアの主要銀行、バンカ・カリージェ(Banca Carige)の株価は、2008年のピークから、なんと99%も下落しました。

これは、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナやウニクレーディト、バンカ・カリージェなど、イタリアの代表的な数行の金融機関だけの問題ではありません。

Next: 「預金者の金を失敗の穴埋めに使え」IMFラガルド氏の計画とは?



IMFラガルド専務理事「預金者の金を失敗の穴埋めに使え」

国際通貨基金(IMF)は7月12日、2016年のイタリアの経済成長率見通しを1%弱、2017年は1%前後にそれぞれ下方修正しました。

つい5月末の時点では、2016年は1.1%、2017年は1.25%との見通しを示していました。

わずか1カ月間での下方修正について、国際通貨基金(IMF)は、3600億ユーロ(約4000億ドル)の不良債権を抱え、今年に入って株価が50%超も下落しているイタリアの銀行こそが、今後の経済見通しへの大きな脅威となるだろう、との見方を示しています。(ロイター)

これからのヨーロッパの「景気気象」は、過去2年間の間の米国のそれより、ずっと冷え込みそうです。

しかし、金融当局者たちは、イタリアの煮えたぎる金融危機にもかかわらず、逆にブレグジットをスケープゴートにして、その深刻さを誤魔化そうとしています。

国際通貨基金の専務理事、クリスティーヌ・ラガルドは、つい先日まで「イタリア経済は深い谷間から徐々に脱しつつある」と楽観的見通しを示してしまいした。

が、今はどうでしょう。一転して、その復興プロセスは「予想より長引きそうであるため、危険領域に入っていくだろう」であると見立てを変更したのです。

この国際通貨基金の気難しいイタリアの経済見通しは、それでも大甘で寛大すぎると言えます。

仮に、欧州中央銀行が急かせている改革が完全に実行されたとしても、EUでもっとも低迷が長く続いているイタリアの場合は、破綻までの単なる引き延ばしに過ぎず、結局は、最終的な破局を迎えます。これは避けられない運命です。

ブレグジットの国民投票以来、経済学者たちが、次々とイタリアの経済展望の見通しを悲観的に変更していく中で、イタリア政界を、その強力なロビー活動によってコントロールしている「イタリア産業総連盟」は、2016年はわずか0.8%の成長、2017年は0.6%にまで落ち込むと、国際通貨基金よりさらに厳しい予想を出してきているのです。

国際通貨基金の長期予測によれば、「イタリアは2025年頃に、ようやく世界金融危機前の2008年のピークに戻るだろう。そして、イタリア以外のEU諸国は、2025年頃には20~25%まで伸びて来るだろう」とのことです。

言い換えれば、イタリアは目下のところ、20年不況のちょうど真ん中にある、ということになります。

イタリアの銀行のリスク関する国際通貨基金のレポートの要点は以下です。

イタリアの金融当局は、歴史的な課題に直面している。

銀行のバランスシートのゆがみを修復し、非常に高い公的債務の水準を下げることを含め、資本バッファ(最低自己資本を上回る資本のこと。資金的ゆとり)が構築されなければならない。

下振れリスクは、銀行の資産の(品)質への対処の遅れから生じる。
下振れリスクが現実のものとなれば、イタリア全体の経済危機が重しとなって、その他の地域や世界に与える副次的影響は重大である。

激化する世界金融市場のボラティリティー(変動性)、また、輸出の重荷になっている世界貿易の低迷、安全保障の脅威となっている難民の流入などが政策決定を難しくしている。

残念であるが、目下のところリスクは下振れに傾いている。

「ベイルイン」で国際金融資本に預金者が殺される

「イタリアの銀行の資産内容の質と収益性の問題について、今すぐに対処しなければ、残りの他のさまざまなシステムの重荷になるだろう」と国際通貨基金は警告してはいるものの、このままでは、イタリアの銀行には援助の手が入らないだろうとも見ているのです。

イタリアの銀行の救済に関しては、ドイツのメルケル、そして、ユーロ圏の財務大臣のトップ、ジェロエン・ヂセルブロエン(Jeroen Dijsselbloem:前オランダの財務大臣)らは、イタリア側が他の強力なEU加盟国(ドイツのような)に繰り返し求めていたベイルイン(※次ページで詳述)を拒否してきました。

クリスティーヌ・ラガルドは、今までもそうであったように、国際通貨基金の伝統的な手口として、ベイルイン(※次ページで詳述)に反対しているメルケルとヂセルブロエンを懐柔し、預金者の金を国際金融資本家の失敗の穴埋めに使え、と言っているのです。

だから、今後、メルケルとヂセルブロエンに対しては、国際通貨基金を実質的にコントロールしているロスチャイルドのような国際金融資本家のメディアがネガティブなキャンペーンを仕掛けるかも知れません。

簡単に洗脳されてしまう大衆は、イタリアの銀行を見捨てようとしている2人に対して、「冷酷な人間だ」と言うでしょう。

しかし、メルケルとヂセルブロエンは、大衆が銀行に預けてある預金を保護しようとしているというのが実際のところです。

Next: 日本も経験した「ベイルアウト」と新手口の「ベイルイン」を比較する



バブル崩壊後の日本も経験した「ベイルアウト」とは?

忘れないでください。今年2016年が「ベイルイン元年」であることを。それは、私たちの資産が合法的に奪い取られるかどうか、に関わってくる話なのです。

EU加盟国の銀行は、去年まではベイルイン方式ではなく、別の方法で救済されることになっていました。

その方式が「ベイルアウト」です。

ベイルアウトを一言で言えば、「公的資金の注入による救済」ということになります。

日本における事例では、バブル崩壊によって膨大な不良債権が表面化し、二進も三進もいかなくなった日本長期信用銀行に8兆円もの公的資金(税金)が注がれた挙句、ハゲタカ外資に二束三文で売り飛ばされていった不良債権処理のプロセスに見ることができます。

潰すほかなかった長銀を、いったん身受けして国有化した後、8兆円もの税金を投入して、すっかり身ぎれいにしてあげた上で、ゴールドマンサックスのヘッジファンド、リップルウッドにタダ同然で売り渡したのです。

その後、旧・長期信用銀行は新生銀行と名前を変えて今に至っています。多くの国民は、このカラクリがいまだに理解できません。

このように、これまでは銀行が破綻するというときに、国が多額の税金を注入して救済してきました。この方法が、「ベイルアウト」です。

新たな詐欺の手口「ベイルイン」とは?

しかし、世界中の預金者は二度と騙されなくなっています。

ベイルアウトの本質が、自分たちの税金が国際金融資本家の金融機関に奪い取られることであると悟ったからです。

これから起こる世界金融恐慌では、連鎖的に巨大な金融機関がバッタバッタと潰れていくでしょう。すでに、めいっぱい量的金融緩和を進めてしまった西側各国政府には、公的資金を注入する資金的ゆとりがなくなっています

また、飽きもせず、同じ手口(ベイルアウト)を各国金融当局が使えば、今度こそ、世界的な暴動に発展するでしょう。

金融帝国の支配者たちは、全世界をカオスに導こうとしていますが、かといって、彼らがコントロールできなくなるような大暴動は避けたいと思っているのです。

そこで考え出されたのが「ベイルイン」です。

ベイルインとは、長期信用銀行の救済のときのように、国が税金を投入して銀行システムの秩序を維持するベイルアウト方式とは正反対で、破綻寸前の銀行が、株主や預金者のお金を合法的に奪い取って、そのお金を不良債権処理に充てることによって自らを救済する方式のことです。

ベイルインもベイルアウトも本質は国民への「ステルス増税」

国民からお金を強制的に奪い取る、という点では、本質的にベイルアウトもベイルインも同じです。

ただし、ベイルアウトの場合は、それが税金なので、国民は、自分たちのお金が没収されたという感覚が薄められているので自覚がないだけでなのです。

国民から奪い取られたお金は、税金(それは増税という形で表れる)であろうと、預金であろうと、国際金融資本家の失敗の穴埋めに使われることにおいては、同じことなのです。
(※臨時増刊号 2015/12/31【Vol.007】 「激変2016年!1月1日からベイル・インを導入する欧州と、預金者を完全に見捨てる米国」にて詳述)

このように金融機関の救済措置は、「ベイルアウト」から「ベイルイン」へ移っています。

ベイルインは、自分が参加している(それが銀行預金口座を開設しているだけの関係であったとしても)金融機関に対して、それぞれ応分の責任を負うべきだ、という考え方から来ています。

結局、その失敗だらけの金融機関の救済に半強制的に駆り出されることによって、再び新たなリスクを背負いこむことになる、という意味では、国際金融資本家たちの詐欺の無限地獄に引きずり込まれることになるのです。

Next: 危機は突然やってくる。イタリアは「次のギリシャ」になるのか?



イタリアは「次のギリシャ」になるのか?

今年1月1日から、EU加盟国の金融機関にはベイルインのルールが適用されています。

しかし、「預金者から金を奪って銀行の損失の穴埋めに使え!」と言っている国際通貨基金のクリスティーヌ・ラガルドとは反対に、倒産しそうな銀行の預金者や株主に損失を生じさせないようにしようという動きも出ています。

つまり、ベイルインを適用しないようにしよう、という動きです。

「もし、EU加盟国の金融機関で広く実施されているストレス・テストの結果が、その銀行が財政的不安定安定に晒されていることを示した場合、イタリアの場合であれば、銀行の資本を増強するために公的資金の注入を検討する可能性が出てくるだろう」と言っているのは、国際通貨基金のイタリアへのミッションの責任者であるリシ・ゴヤル(Rishi Goyal)です。

しかし、彼は、このことを電話会議で述べただけであって公式の発言というわけではあません。(インディペンデント)

「これは、ベイルインのルールを適用して投資家たちに損失を誘発することのないようにと、イタリアとEUとの間で行われた交渉によるものである」とリシ・ゴヤルは言っていますが……。

「EU離脱ドミノ」の大きな火種

この発言の落とし穴は、「ストレステストを行った結果、金融システムの不安定性が定義されるのは、いったいどんな状況の時であるのか」そして「それを決定するのは、誰なのか」ということです。彼は、それについて明言しませんでした。

リシ・ゴヤルは、国際通貨基金の中にあっては、異端ともいえる人間です。

彼は、2013年、国際通貨基金の「ユーロ圏の救済基金による銀行への直接的な資本注入を早期に認めるよう域内政府に強く求め、この銀行支援に関して最初に損失が生じた部分の補償を各国政府に義務付ける」という強行案に強く反対してきた人間です。

とはいえ、結局はベイルインの実施につながったわけですが、これが今後、EU離脱ドミノの大きな火種になるでしょう。

なぜなら、これは、通貨をユーロに一元化することによってユーロ採用国から為替機能を奪い取っておきながら、いざ、その国の金融機関が破綻しそうになったら、「自国でなんとかしろ」というルールですから、ユーロ採用前から通貨が強い国はますます強くなり、ギリシャのような通貨の弱い国の経済は、ますます弱くなっていくことは、あらかじめ決まっていたことだからです。

金融帝国・ロスチャイルドのコントロール下にある国際通貨基金の狙いは、まさにそこにあるのです。それは、EU諸国の整理統合です。これはワン・ワールドへの道程にほかならないのです。

「イタリアには銀行危機など存在しない」の欺瞞

イタリアの公的債務は、すでに2015年にGDP比で132.6%と過去最高に達しています。これはユーロ圏内ではギリシャに次ぐ高い水準です。

英国の国民投票直前では、さらに公的債務は増えて、今年の暮れにはGDPの132.9パーセントという過去最高を更新すると見られていました。

しかし、欧州全体で広がっている現金の廃止を加速化する流れの中で、イタリアにおいても、未確認ではあるものの、キャッシュレスATMを普及させようという動きが出ている以上、一方的に債務が膨らんでいくのかについては議論の余地があります。
(※メルマガ第163号「EUの崩壊と米国の崩壊、暗号通貨がワン・ワールドに導く」で詳述)

何よりの問題は、イタリアの蔵相、ピエール・カルロ・パドアン(Pier Carlo Padoan)が悲痛な面持ちで訴えているように、イタリアの銀行が信頼を取り戻すことができるかどうかということです。

パドアン蔵相は、「イタリアには迫っている銀行危機など存在しない」と言います。

逆に賢明な人々は、芝居の苦手な彼にここまで言わせるほどの危機が目前に迫っている、と理解するようになったのです。

伝統的に、金融当局やパドアン蔵相のような金融の責任者が国民を安心させようとするとき、事態は正反対であり、彼らが政治的な生命をかけている場合であることを人々は、何度も目のあたりにしてきました。

つまり、パドアン蔵相の言う「イタリアには迫っている銀行危機など存在しない」というのは「真っ赤な大嘘」であるということです。

計画された「危機」は突然やってくる

この種のエリートが真実を言うことがあるとすれば、それは崩壊が起こるほんの数日前になるでしょう。そのとき彼らは、「事態が突然急変した」と前置きしながら苦悶の表情を浮かべるのです。

しかし、彼らは、とっくに国民から金を巻き上げる準備を整えているのです。

くれぐれも心に刻んでおいて欲しいのは、ベイルアウトの場合は公的資金を投入するので、ある程度、事前に情報を流しておいて国民の理解を得なければなりません

しかし、ベイルインの場合は、事前に情報が漏れてしまえば、それこそ取り付け騒ぎに発展して失敗してしまうでしょう。

なぜなら、ベイルインとは、銀行と金融当局が銀行の債権者に対して強行するクーデターだからです。
(※参考記事:メルマガ第147号パート2「2016年から始まる悪夢/見えてきた日本の資産バブルと戦争経済」)

ずはり言いましょう…イタリアは次のギリシャです。

Next: イタリアだけで済むわけがない。迫るドイツ銀行の破綻



迫るドイツ銀行の破綻

ギリシャは34%、アイルランドは19%、ポルトガルは12%の債務不履行の銀行ローン(回収の見込みが立たない銀行の貸出資金)を抱えています。

これは、事実上の国家の破産状態を意味します。

にもかかわらず、これらの国に対して、実効のある債務の再構築のための努力は何一つ行われていません。人々は、次の深刻な金融危機を知る由もないのです。

EUは、すでに事実上の破産状態にあるギリシャとギリシャの銀行の支払い能力を維持させ、ギリシャ発の債務危機ドミノがEUの他の国々に連鎖的に波及することを防ぐため、量的金融緩和というポンプで水(資金)を汲み上げ、せっせと通貨市場というプールに注ぎ込んでいるだけです。

このことが、結果として、EU全体の問題をさらに大きくしています。

ドイツ銀行はイタリアの銀行と同じように危険水域を突破しそうです。もちろん、ドイツ銀行はドイツ最大の銀行です。

それは2015年に70億ドルの損失を上積みしたにも関わらず、次の財政危機に至らないよう、なんら援助もないままに放置されています。

ドイツ銀行の株価は、2008年前半と比較すると89%まで下落し、2015年の水準と比較しても一気に62%も下落しているのです。

なぜ、ウォール街や欧米のメディアは、それこそEUが崩壊するかもしれない重大事に背を向けるような態度を取り続けているのでしょう。不気味です。

これらの金融機関に投資した投資家は、今、塗炭の苦しみを味わっています。

また預金者のほうも、ベイルインが実行されれば、進んでギロチンに頭を差し出さなければならなくなるのです。

それどころか、ドイツ銀行が破産すれば、それはメガトン級の衝撃波をEUのみならず世界中に広げるでしょう。

「CoCo債」を発行しなければならなかった理由

2008年の金融危機の後、ドイツ銀行は資本力を高めるために※CoCo債を発行しました。

CoCo債とは、銀行をはじめとする金融機関が発行する「制限条項が付いた転換社債(偶発転換社債)」のこと。

金融機関が一定の資本不足になると普通株に強制転換されたり、元本を削減されたりする点が普通の転換社債とは大きく異なり、投資家のリスクが高くなる分、投資家への利回りが高めに設定される。

2019年にかけて新たに導入される自己資本比率規制(バーゼルIII)において、上積みを求められる中核自己資本への算入が可能になったことから、金融機関で人気化している。

彼らは、株主が保有している株式、および債券保有者を希釈させたくない、という理由で※シニア債(優先社債)を発行しました。

債券は、それを発行した企業が破綻した場合、その企業の残余資産は、最優先で「一般無担保社債」、あるいは「シニア債(優先社債)」に割り当てられて支払われる。その支払いが済んた後で、「劣後債」に最後の残余資産が割り当てられる。

もし銀行に十分なキャッシュフローがあるのであれば、6%のクーポンが払われるだけです。

しかし、支払いができるだけのキャッシュフローがない場合は、CoCo債は自動的に資本金に転換されます。そのとき、CoCo債の保有者は、黙ってそれを見ているしか術がないのです。

高い利回りを期待してCoCo債を買った投資家は、その発行企業が破綻しそうになると、保有しているCoCo債は有無を言わさず資本金に変わるので、つまりは間接的に経営に参加させられることになるのです。

経営に参加させられるということは、その企業が破産したときは、応分の責任を取らされることになるのです。

だから、ドイツ銀行は、他の種類の債券ではなくCoCo債を発行しなければならなかったのです。

Next: シティバンクもHSBCも、世界中が同じ問題を抱えている



世界中が同じ問題を抱えている

つまり、ドイツ銀行の自己資本比率は、同銀行のステークホルダーさえも欺かなければならないほど悪化していたということなのです。それは、貸出資金の焦げ付き予想と、天文学的なデリバティブによるものです。

ドイツ銀行のCoCo債の利回りは、今では12%以上に上昇し、債券価格は大幅に値を切り下げてきました。これは、破綻が近いことを暗示しているのです。

一般の人々には、ドイツ銀行の危機が、いかに重大で深刻なのか、こうした債券の性質をひとつひとつを見ていかなければ分からないでしょう。

ドイツ銀行が、深刻なトラブルに見舞われているなら他の大手銀行も同じです。

ブレグジットの国民投票の前に、一般の債券が帳簿価額で取引されている間、破綻のリスクが、ますます増大し続けるこれらの銀行の有価証券の大部分は帳簿価額を下回る値で取引されていたのです。

すでに資産を次々と売却していたイタリアのバンカ・カリージェ(Banca Carige)などは、なんと、帳簿価額の3%で取引しているのです。

シティバンクは54%、スペインのバンコ・サンタンデルは58%、ドイツ銀行は59%、クレディ・スイスは63%、そしてHSBCは帳簿価額の69%で取引しています。 現在はさらに悪化しています。

そして、EUの銀行の中でも、もっとも高いレバレッジが効いていて、すべての資産が毒化されている銀行…。

クレジット・デフォルト・スワップ(CDS: 主に担保付デリバティブ。債券が紙くずになった時の保険。債券の信用度が高いと低く、反対のときは高い。このCDS自体も市場で売り買いされる)の取引状況から、もっとも高いエクスポージャーの銀行とは…。

それは、ドイツ銀行です!

「デリバティブ核爆弾」で焦土と化す市場

世界のデリバティブ残高は、2015年6月末時点で550兆ドルと見積もられています。ドイツ銀行は、その550兆ドルの“デリバティブ核爆弾”のうちの、なんと10%を保有しているのです。

言い換えれば、550兆ドルの10%のデリバティブ残高とは、ドイツ銀行が帳簿上で54兆7000億ドルのCDSを保有しているという意味です。

JPモルガンも、51兆9000億ドルのCDSがあり、決してドイツ銀行にひけを取っていません。

シティバンクは51兆2000億ドル、ゴールドマン・サックスは43兆6000億ドル分のCDSを持っています、そして、バンク・オブ・アメリカは27兆8000億ドル分を持っています。

市場は、すで破産状態にあるこれらの世界最大級のメガバンクについて、もっと深刻に受け止めなければならないのです。だからといって、未来を変えることができるということでもないのですが…。

でも、ベイルインがあるから大丈夫」ですって?確かに、あることはあります。でも、それは預金者の資産で充当されるのです。

Next: 近づく中国と米国のバブル崩壊――そのときに笑うのは?



近づく中国と米国のバブル崩壊――そのときに笑うのは?

市場は、しかし、こうした事態より、ブレグジットのような政治的要因の余波について、より関心を持っているようです。

あるいは、ジャネット・イエレンが連邦準備制度の金利を0.25%引き上げるかどうかについて。

こうした大悲劇の一歩手前の状況にも関わらず、ロイヤルバンク・オブ・スコットランドは40%の下落、バークレイズは41%の下落、世界最大級の英国系金融グループHSBCはブレグジット以来15%の下落にとどまっているのです。

英国に拠点を置いている国際金融グループは、イタリア、ドイツの銀行と比較すると、やや手堅いようです。

このように、EU加盟国で起こっている一連の悲劇を見ていくと、ブレグジットを決断した英国王室とロンドン・シティーの本当の目的が見えてくるのです。

それは、「支配的なEU支配には、もう我慢がならない」といったエリザベス女王の子供じみたわがままではなく、ドイツ、イタリアなどの国々の銀行の破綻がトリガーとなってEUの債務危機ドミノが生じる可能性がある、ということなのです。

そのとき、英国とロンドン・シティーは、たとえ英ポンドが下落し、GDPが縮小しようとも、EUのカオスに引きずり込まれないように骨身を削る覚悟でブレグジットを決断したのです。

やがて、中国と米国のバブル崩壊がやって来るでしょう。

しかし、英国はそのとき、逆にどこよりも早く立ち直り、EUに対する影響力を増すばかりでなく、英連邦王国の野望に本格的に着手するでしょう――


※本記事は、『カレイドスコープのメルマガ』 2016年7月19日第165号パート2の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】貧乏人は水を飲むな。「水道民営化」を推進するIMF、次のターゲットは日本

「カレイドスコープ」のメルマガ』(2016年7月19日第165号パート2)より一部抜粋、再構成

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