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理論株価を再推計して見えてきた日経平均株価「値動きの習性」=日暮昭

当マガジンは日経平均の妥当な水準として統計的処理で求めた理論株価をもとに、足元の相場の位置づけを評価する材料を提供するものです。原則として日経平均と理論株価の位置関係を示すグラフと表に若干のコメントを合せて毎週1回配信いたします。皆様のより良い投資成果のための一助にして頂ければ幸いです。

なお、今回はアベノミクス一服後の情勢を織り込んで理論株価の再推計を行いましたので、結果をご紹介します。※「理論株価」についてはこちらをご覧ください。(『投資の視点』日暮昭)

筆者プロフィール:日暮昭(ひぐらしあきら)
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を用いた客観的な投資判断のための市場・銘柄分析を得意とする。

信頼度76%から83%へ。新決定式で精度がアップした理論株価

アベノミクス相場一服を織り込んで再推計する

株式相場は2015年の終盤から下落基調が続いています。日経平均は2015年12月1日に2万0012円と2万円台をつけた後、直近の7月22日には1万6627円と3385円、約17%の下落となっています。2012年11月の衆議院解散から始まったアベノミクス相場は一服模様の様相です。

今回はこうした相場の変動を織り込んで新たに推計した「理論株価」についてご紹介します。

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当マガジンの理論株価はこれまで年1回、前年の12月までの相場実勢をもとに推計を行ってきました。今回は2016年初からの相場の変調を考慮し、より精度を高めることを目的として、推計期間を直近の6月まで6ヶ月間延長して推計を行いました。

理論株価の基本構造は、株価は業績で決定されるという株価決定の基本原則に基づいて業績をメインの相場決定要因とし、それでカバーしきれない相場変動を為替で補うことで実用性を高めるものです。業績を表す指標として日経平均ベースの予想1株当り利益(予想EPS)を、為替としては米ドルレートを採用します。

推計期間は様々なケースを試みた結果、推計結果が安定することで可能な限り長い期間で推計することとしました。すなわち、説明要因の予想EPSが連続して得られる最古期である2002年5月を推計開始期とします。したがって、今回の推計期間は2002年5月から2016年6月までの約14年間、170ヶ月となります。

以下で日経平均とこれらの説明要因の関係を見てみましょう。

日経平均と予想EPSの推移(月次終値ベース)
2002.5~2016.6

図から、全体として日経平均と予想EPSの連動性は高く、予想EPSを日経平均の主要な説明要因とすることに基本的に問題はありませんが、2008年9月のリーマン・ショックから2012年11月の衆議院解散までの期間は予想EPSが回復しているのに対して日経平均は低迷を続け、両者がかい離している点が目につきます。

このかい離を埋めるのが為替の動きです。下の図は日経平均と米ドルレートの月次終値の推移を示すグラフです。

日経平均と米ドルレートの推移(月次終値ベース)
2002.5~2016.6

日経平均と米ドルは2006年まではほとんど連動していませんが、米国の住宅バブルが顕在化し始めた2007年から連動性を高め、リーマン・ショック後は一段と連動性を強めています。特に2012年の衆議院解散を機にスタートしたアベノミクス相場では、両者はほとんど一体の動きを示しています。アベノミクス相場の立役者が為替であったことがわかります

この構図は2016年に入ってからも変わらず、年初からの相場下落の主役(主犯?)はやはり為替であることを示しています。

導き出された「理論株価」の新しい決定式

さて、上の2つのグラフから、リーマン・ショックまでは業績が、それ以降は為替が日経平均の動きを主に説明していることで、これら2つの要因を合わせることで日経平均の動きをうまく捉えられることが分かります。この関係を最も妥当な(誤差が少なくなるような)形で定式化したものが理論株価の決定式です。

今回、結果として得られた理論株価の決定式は以下の通りです。

新理論株価=-3756+74.1(予想EPS)+103.1(米ドルレート)
推計の信頼度(決定係数):0.834

ご参考:これまでの理論株価の決定式
旧理論株価=-3630+74.7(予想EPS)+101.5(米ドルレート)
推計の信頼度(決定係数):0.763

新しい推計結果は、定数の部分が100円程度小さくなった他、予想EPSの理論株価に対する寄与度はほぼ変わらず、米ドルレートの影響度が1円当たり2円ほど高まった程度で全体として大きな変化はありません。ただし、推計の信頼度(決定係数という指標で表されます)は76%から83%へと高まり、日経平均を説明する精度が向上した点は注目されます。

新しい推計結果に基づく「理論株価と日経平均の相対関係」は次ページの通りです。

Next: 精度がアップした最新の「理論株価」で相場感を向上させよう



日経平均と理論株価の推移(月次終値ベース)
2002.5~2016.6

理論株価は2008年9月のリーマン・ショックによる急落、その後の2012年11月までの低迷時期、衆議院解散後のアベノミクス相場の急騰、そして2016年からの相場の下落の各局面をよく追っていることがわかります。

理論株価は、色々な相場状況に対して安定的に適応する頑丈な構造であると言えます。

さて、この新しい理論株価で近時の相場を評価してみましょう。下図は2015年初めから直近の2016年7月22日までの日経平均と理論株価の動きを日次終値ベースで示したものです。

日経平均と理論株価の推移(日次終値ベース)
2015.1.5~2016.7.22

全体として、日経平均は理論株価をはさんで上下に変動を繰り返しています。これは逆に言うと理論株価は日経平均の変動に対する“イカリ”の役目をしており、相場が行き過ぎた時に戻る場所のメドとなることを示しています。

特に日経平均が理論株価から急激にかい離した時は、直後に急速な反転を見せている点が特徴として読み取れます。2015年9月29日、2016年に入ってからの1月21日と2月12日、そして先般のイギリスのEU離脱国民投票の結果による6月24日の日経平均の動きをご覧ください。

これらの急落については、いずれも中国経済の先行き不安、為替の急激な変化、また世界的なリスク要因の突然の出現などが背景として説明されますが、実際にはそれらを含めた様々な無数と言える要因が絡み合った結果と見るのが妥当ではないでしょうか。こうした必ずしも特定できない無数の要因による変動の中から、安定した位置を見出すのが理論株価(がベースとしている統計学)の得意とするところです。

近時の不安定な相場変動の中で、根拠のある相場感を得る一助として理論株価を使っていただければ幸いです。

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『投資の視点』(2016年7月26日号)より

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