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バフェットの心変わり。なぜ賢人はIT企業への投資を決断したのか?=東条雅彦

先日、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が会長を務めるバークシャー・ハサウェイが、2016年に入ってアップルに投資していることが判明しました。実はバフェット氏は2011年からIBMにも投資していて、今年に入ってからも買い増しています。従来「IT企業には投資をしない」とされてきたバークシャーは、なぜ近年このような行動に出ているのでしょうか?(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

IT嫌いで有名なバフェットが、IBMやアップルを買い始めた理由

IT企業に投資し始めたバークシャー・ハサウェイ

2016年7月7日時点での時価総額は次の通りです(1ドル=100円換算)。

バークシャーの投資先の中で、IBMは、クラフト・ハインツ、ウェルズ・ファーゴ、コカ・コーラに次いで4番目の規模です。また、アップルは上から15番目の投資先になっています。

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IBMに比べて、アップルへの投資は約10分の1程度になっており、かなり少なく見えるかもしれません。しかし、これは、バークシャーの運用マネージャーであるテッド・ウェシュラー氏かトッド・コームズ氏のどちらかが投資したためです。

運用担当者という意味では、この2人が事実上、バフェット氏とその盟友マンガー氏の後継者となります。

2人とも投資権限として10億ドル程度までしか与えられていませんが、見方を変えれば、今回のアップルへの投資は、任せられた権限の範囲でほぼMAXに近い金額を投入したことになります。これは自信の大きさの表れとして、受け取ってよいと思います。

バフェットが投資するIBMについては、2011年に6400万株を購入して以降、頻繁に買い増しを実施しています。

この5年間で約26%も持ち株を増やしています。さらにCNBCのインタビューでは、今後2年でさらにIBM株を買い増す公算が高いと発言しています。

バフェット氏がいち早く気づいた「経済の主戦場」の変化

なぜ今、バークシャーはIT企業への投資を拡大しているのか?を考える大前提として、まず、経済の主戦場が「物理空間」から「情報空間」に移行している点が挙げられます。

書籍『資本主義社会の終焉と歴史の危機』(著:水野和夫さん)内で提示された次の図を見てください。この図は、今まで経済の主戦場がどのように変わってきたのかを一発で示しています。

出典:『資本主義社会の終焉と歴史の危機』 図5 資本主義の構造の変化

これによると、1970年代前半まで、先進国はフロンティアを開拓してきました。

海の支配…これは「物理空間」の支配を意味します。世界中で開拓が進み、もはやフロンティアは「アフリカ」のみになってしまいました。

資本主義は常に新しいフロンティアを求めて、開拓していく性質を持っています。しかしもはや物理空間は拡大できなくなったため、新たに情報空間(「電子・金融空間」の支配)を生み出したのです。

恐縮ながら、ここからの話は少し私の個人的な歴史観が入ります。

1965年以降に発生した「日米貿易摩擦」により追い詰められたアメリカが、「電子・金融空間」を作り、新たな支配に成功したというのが私の解釈です。

敗戦後の日本は、1960年代後半の繊維製品、1970年代の鉄鋼製品、1980年代の電化製品・自動車(ハイテク製品)で、アメリカを抜くことに成功しました。

貿易赤字で追い詰められたアメリカは、1971年にドルとゴールドとの兌換を停止すると発表しました。金1オンス=35ドルで交換するのを突然、やめると言い出したのです。当時の米大統領の名前を取って「ニクソン・ショック」または「ドル・ショック」と呼ばれます。

実はこの時から、アメリカの反撃が始まっていたのです。

ドルという通貨を、「物理空間」にあるゴールドと切り離し、「情報空間」に載せてきたのです。

アメリカは、金融というお金を扱う情報空間を創造しました。さらに、この情報空間を自由に操れる人材を育成し始めました。

教育変更の成果で1990年代に入り、マイクロソフト、アップル、オラクル、シスコシステムズなど、世界的なIT企業が誕生し始めます。金融とITという産業を生み出して、その分野を支配するようにしました。

日本は依然として、教育を変更しませんでした。

最新の実情は知りませんが、日本では未だにパソコンが好きな人はクラスの隅っこの方で「あの人はオタクだから」と指をさされているのでしょうか?(密かに私はそうでしたが…笑)

いずれにせよ、日本は物理空間に固執して、情報空間における覇権を取れませんでした。いまや日本が物理空間で獲得したアドバンテージは、徐々に新興国に浸食されつつあります。

経済の主戦場は「物理空間」から「情報空間」に移ったのです。

Next: もうITを無視できない!バフェットを転向させた重大な変化とは?



バフェット氏は「アメリカを強くする企業」に投資している

ウォーレン・バフェット氏は、2016年2月28日に公開した「バフェットの手紙」の中で次のように述べています。

「過去240年に渡り米国に逆張りの投資をするのは最悪の間違いだった」
「今も(逆張り投資)を始める時期ではない」

バフェットはアメリカの長期的な経済成長を確信しています。さらに手紙の中では次のように述べています。

「商業と革新における金のガチョウは、これからもたくさん、大きな卵を産み続ける!」

アメリカは今後も技術革新や民間の創意工夫で成長が続く、という見通しを持っていることを表明しました。

アメリカは「情報空間」において、先進国で唯一の支配者となっています。

金融とIT…この2つを聞いて、ピンと来た人はかなりバークシャー通だと思います。実はバークシャーのポートフォリオの3割以上は「金融業」で占められているのです。
Warren Buffett : Latest Portfolio

この円グラフを見ると、「Financial(金融)」が33%を占めています。

<金融業の代表銘柄>

さらに、「Technology(IT)」が12%を占めています。

<IT企業の代表銘柄>

「Financial」と「Technology」を合計すると、45%になります。バークシャーのポートフォリオの半数が、金融とITで占められているのです。

バフェットはアメリカを強くする企業に投資しています。アメリカは情報空間(金融+IT)で覇権を取っており、バークシャーとしても、IT企業を無視するわけにはいかなくなっているのです。

Next: IT企業への投資でも決して揺るがない「バフェットの投資原則」とは?



IT企業への投資でも決して揺るがない「バフェットの投資原則」

バフェットは「消費者独占型企業」にしか投資をしません。

消費者独占型企業とは、「有料ブリッジ型」の事業を持っていて、その会社の製品やサービスを使わざるを得ないような企業を指します。

例えとしてよく用いられるのが、村に川があって、たった1つしか橋(=有料ブリッジ)がない場合、村人はその橋を使わざるを得ない…という話です。橋の通行料を得られるようなビジネスは、長期的に安泰だというわけです。

その有料ブリッジ型の企業は、次の4タイプに分類されます。

<タイプ1>

長期使用や保存が難しく、強いブランド力を持ち、販売業者が扱わざるを得ないような製品を作る事業

<タイプ2>

他の事業が事業を続けていくために、持続的に使用せざるをえないコミュニケーション関連事業

<タイプ3>

企業や個人が日常的に使用し続けざるを得ないサービスを提供する事業

<タイプ4>

宝石・装飾品や家具などの分野で、事実上地域独占力を持っている小売り事業

IBMは<タイプ3>、アップルは<タイプ1>に当てはまります。

IBMは企業の基幹システムに携わっており、顧客は昔からIBMと共にシステムを構築しています。もし顧客がIBMから別の業者に変更する場合、自社のビジネス、業務知識、システム仕様をゼロから別の業者に説明することになってしまいます。

今までIBMと知識を共有した目に見えない資産が、全て埋没コストとなってしまうのです。顧客としては、IBMと付き合い続けるのが最も賢明な選択となるのです。

アップルは強いブランド力を持っています。ブランドコンサルティング会社ミルウォードブラウンが発表したブランドランキングでも、アップルが世界第2位にランクインしました(去年はアップルが1位でしたが、今年はグーグルに抜かれてしまいました)。

今年こそ僅差で負けてしまいましたが、依然としてアップルのブランド価値は高いです。

そして、この<タイプ1>は「長期使用や保存が難しく」と説明されています。アップルの製品は、それほど長期に渡って使い続けることはできません。

まさか10年前のアップルのパソコンを持っている人は、ほとんどいないのではないでしょうか?スマートフォンにしても、2年ぐらいで買い替える人が多いはずです。

アップルのiPhoneを使っている人がAndroidに乗り換えると、「使いにくい」と感じるようです。確かに私の身の周りでも、アップル派の人は浮気せずに、アップルが出す次の製品に乗り換え続けています。

IT企業であっても、バークシャーはしっかりと投資原則を守っています。「有料ブリッジ」を持つ企業でなければ、投資しないのです。

Next: IBMもアップルも、10年単位で見積もるとかなり魅力的な投資先!



IBMとアップルの2025年の株価予想

IBMとアップルの2025年の株価を予想してみましょう。

<IBM EPS(1株あたり利益)の推移>

2005年 4.87ドル
2006年 6.11ドル
2007年 7.18ドル
2008年 8.93ドル
2009年 10.01ドル
2010年 11.52ドル
2011年 13.06ドル
2012年 14.37ドル
2013年 14.94ドル
2014年 11.90ドル
2015年 13.42ドル

IBMの業績は近年、調子が良くないのですが、それでも10年前に比べて、2.75倍(13.42÷4.87)に増えています。

有料ブリッジ型企業の場合、次の10年も同じようなペースで成長する可能性が高いのです。つまり、次の計算式で2025年のEPSが求められます。

今、IBMの株価は150ドル前後で、PERが約11倍で推移しています。

405ドルが2025年時点のIBMの予想株価です。今の株価の約2.7倍です。

アップルについても、同じような計算式で2025年の株価を求めてみます。

<アップル EPS(1株あたり利益)の推移>

2006年 0.32ドル
2007年 0.56ドル ←iPhone発売
2008年 0.77ドル
2009年 1.30ドル
2010年 2.16ドル
2011年 3.95ドル
2012年 6.31ドル ←今回はここから見積もる
2013年 5.68ドル
2014年 6.45ドル
2015年 9.22ドル

2007年に発売したiPhoneの大ヒットにより、1株あたり利益がものすごい勢いで増えていっています。変革期を入れて見積もると過大評価されてしまうため、アップルの場合は、直近3年で見積もります(それでもスゴイ結果になるのですが…)。

3年で1.46倍なので、年率で13.47%ずつ増えています。2015年のEPS9.22ドルは、10年後の2025年には33ドルになります。今のアップルの株価は96ドル前後です。アップルのPERは約11倍で推移しています。

アップルの2025年の株価は363ドルとなります。今の株価の約3.7倍です。

IBMにしてもアップルにしても、10年単位で見積もると、かなり魅力的な投資先であることがわかります。

Next: 今回のまとめ:バフェットが守り続ける投資の原則と新たな視点



今回のまとめ

経済の主戦場は「物理空間」から「情報空間」へ移り変わってきた。

この「情報空間」(金融+IT)で覇権を取った国は、米国である。

「米国に対して逆張り投資をするのは間違い!」「商業と革新における金のガチョウ(米国)は、これからもたくさん、大きな卵を産み続ける!」と発言しているバフェットは、アメリカを強くする企業に投資する方針である。

実際に、バークシャーのポートフォリオの半数は、情報空間(金融+IT)で利益を上げ続ける企業となっている。

元々、ウェルズ・ファーゴやアメリカン・エクスプレスに投資していたが、情報空間で幅を広げるIT企業も無視できない存在になってきた。

そのため、「有料ブリッジ型企業」に投資するという原則を守りながら、IT企業(IBM、アップル)への投資を拡大するという構図になっている。

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ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年7月10日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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