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ポケモンではない本物の怪物「トランプ大統領」相場で何が起こるか?=斎藤満

今回は、現時点で市場がほとんど織り込んでいない「トランプ大統領」誕生相場についてシミュレーションしてみます。このとき、市場は2段階の反応を示すでしょう。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月25日号の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

想像を絶するテールリスク「トランプ大統領」を織り込まない市場

ポケモノミクスに酔いしれるマーケット

日米市場はアベノミクスではなく、ポケモノミクスに沸いています。米国では共和党大会でドナルド・トランプ氏が指名を受け、相変わらず過激な発言を続けても、株価は最高値を更新し、日本市場でも任天堂株が主導して市場を賑わせ、街中も『ポケモンGO』でモンスター・ハントの若者が闊歩し始めました。

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市場はまるでトランプ候補をポケモンのような「仮想世界」と見ているような感がありますが、こちらは現実の世界で、実際に彼が米国大統領になれば、経済政策から外交政策まで、これまでの米国が180度転換するような大きな変化をもたらす「リスク」があります。

一部ではこれを、可能性は低いが起きれば大きな影響を持つ「テールリスク」と捉えています。

彼のスローガン「米国第一」をとらえ、米国経済にはプラスと期待する向きもあるようですが、裏を返せば、米国が孤立主義に出ることで、お隣のメキシコとのヒト・モノ・カネの流れが停滞するだけでなく、中国などアジアとも中東とも経済の壁が厚くなり、世界貿易が滞ります。

これはカネの流れも悪くし、経常赤字を抱える米国や資源型債務国に負担となります。

決して低くない「トランプリスク」が無視されている

この「トランプリスク」は想像を絶するものとなりかねないのですが、市場はこれをほとんど織り込んでいません。

実際には、そんな恐ろしいものは見たくない、というのが本音かもしれませんが、それをいくつかの理由で正当化しています。そもそも、トランプ氏は全米の選挙ではヒラリー・クリントン氏に勝てない、と言い聞かせています。

第1に、トランプ候補は白人の中下層階級からは強い支持を得ているものの、有色人種や旧来の伝統的保守層の支持は得られない、というもの。第2に、米国で勢力を強めているネオコン勢はヒラリー・クリントン氏を支援しており、その意向はかなり強力だ、というものです。

ところが、前にもご紹介したように、ネオコン勢力はヒラリー・クリントン氏だけでなく、トランプ氏にも「相乗り」している感があります。

例えば、「米国第一」というトランプ氏のスローガンは、ネオコンの発想そのもので、すでにネオコンがトランプ氏の選挙戦略にも影響力を行使しています。ネオコンとしては、クリントン氏でもトランプ氏でも構わない形にしています。

ネオコン勢にしてみれば、トランプ氏の破天荒な言動も、かつてレーガン氏を手名付けたように、いずれネオコンの思いのままに操れる、との読みがあります。

従って、ネオコンからしてみれば、どちらが勝っても良いようにしており、後は使いやすい方を勝たせればよいことになります。

もしネオコンがトランプ氏の方が使いやすいと思えば、選挙に向けてマイノリティの投票を邪魔したり、場合によっては、票の読み取り、コンピューター集計など、集計時に操作することも可能とされます。

Next: 「トランプ大統領」誕生、そのとき市場はどう動くか?



「トランプ大統領」誕生、そのとき市場はどう動くか?

もし、9月から10月にかけて株式市場が大きく下げれば、現職政党(今は民主党)が不利になり、トランプ氏に票が流れる面もあります。

つまり、ネオコンが支配する今の米国では、どちらが大統領に選出されるかわからない、ということで、「トランプ大統領」の可能性も想定しておかねばならないと言うことです。

そこで、「トランプ大統領」相場について、一度は頭の体操をしておくとよいと思います。特に、市場は2段階の反応を示すと見ます。

第1段階は、やはり世界経済の収縮リスクをみて株安、金利低下、ドル安円高が想定されます。ブレグジット・ショックのように、それまで想定せずに、選挙結果を見て「ショック」で急変するのか、事前に「トランプ優勢」とみてあらかじめ織り込みにかかるかは、それまでの経緯にもよりますが、方向は上記のような「リスク・オフ」型と思われます。

そして次の段階では、「偉大な米国」というネオコン路線が前面に出て、ドル高、軍需拡大が表に出てきます。外交面では反中国色が強まります。これはネオコン路線の方向なので、仮にクリントン氏が勝っても、軍需拡大、反中国、ドル高は変わらないと思われます。

ただ、ここでのリスクは、トランプ氏がレーガン大統領のように、ネオコンに操られて動くかどうか。

彼が背後の勢力を無視してトランプ色を前面に出し続ければ、この第2段階の動きは弱まりますが、ネオコンからは「邪魔な存在」となり、何らかの形で排除される可能性もないではありません。ケネディ、リンカーン大統領などの例があります。

もちろん大統領の意向がそのまま政策に反映されるわけではありません。議会の反対でメキシコ国境に壁を設けることは通らないでしょう。

またあまりトランプ色が突出しないよう、副大統領で中和する動きも見られ、ネオコンが徐々に手名付けると思いますが、「トランプ大統領」をまだ市場が織り込んでいないだけに、第1段階の動きはどこかで生じると見ておくとよいと思います。


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月25日号の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2016年7月25日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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