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「トランプ大統領」誕生を睨んだ安倍・プーチンウラジオ会談の意義=斎藤満

これまで日ロ外交が進みそうになると、大概、米国から横やりが入って、交渉がうまくいきませんでした。ところが今回は、米国から何ら圧力がかかっていないようです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月2日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初のご購読は得にお得です。

米国も密かに後押し?日ロ首脳会談に色濃く滲んだ「トランプ色」

日・米・露の関係に大変化

中国で4~5日にG20会合が開かれるのに先立ち、安倍総理は9月2日、ロシアのウラジオストックでプーチン大統領と会談し、大統領の12月訪日の予定を詰めると言われています。

その中で、日本によるロシアの原発施設への資金面も含めた協力など、経済面での相互協力の話し合いが進み、その先に日ロ平和条約北方領土問題の進展が期待されています。

これだけオープンに日ロ外交が論じられること自体、大きな変化であり、新しい力の台頭を感じます。

これまで日ロ外交が進みそうになると、大概、米国から横やりが入って、交渉がうまくいきませんでした。

ところが、今回はラオスでの日米首脳会談が予定される直前の日ロ首脳会談であり、これに何ら圧力がかかっていないようです。

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変わるパワーバランス

一体何が起きているのでしょうか。米国がオバマ政権の末期で、事実上すでにレイム・ダック化している面もありますが、次期大統領候補のトランブ氏を睨んだ動きとも取れなくありません。

クリントン候補がネオコン勢をバックに、反ロシア、反中国路線をとるのに対し、トランプ候補はロシアのプーチン大統領を評価し、親ロ路線を見せています。

さらにトランプ氏は、日本の防衛に関し、米国に2倍の金を払って米国に守ってもらうか、自力で守るかだと言い、日本の核武装さえ認める構えです。

日本がロシアの原発支援をし、必要ならロシアからウランやプルトニウムを購入し、日本が原爆を作成する道も開けます。核兵器の漸減を主張するオバマ政権の判断とは相容れないように思えます。

Next: 日本政府は「トランプ大統領」誕生を確信している?



日本政府は「トランプ大統領」誕生を確信している?

ここにはいくつかの注目点があります。米国大統領選挙では、世情ではクリントン候補がリードと言われていますが、日本は「トランプ大統領」の情報を得ているのでしょうか。

そして日本の「核三原則」に対して、ロシア経由で核を入手するルートが開けると、日本自身の核保有の可能性が出てきますが、国民には何ら説明がなされていません。

そして北方領土問題に道が開けることは朗報ですが、ロシアは日本接近を探るプーチン大統領だけではないので、ロシアの対日戦略、アジア戦略にも十分な研究が必要です。

そして日本がロシアと接近することは、やはりロシアと近いイラン、シリア、トルコ、イスラエル戦略にも影響が出ます。

さらには、中国が包囲されることになり、中国の対日、対アジア戦略も変わってくる可能性があります。

何より、トランプ大統領になれば、これまでのような米軍依存というわけにはいきません。米国に代わる抑止力を、ロシア、インド、東南アジアとの連携の中から構築する必要がありますが、中国との緊張が高まる一方で、そちらの体制づくりは遅れています。

日本の外交は米国偏重のきらいがあり、一部親中国派からなる偏った体制にあります。今回のロシア外交も、米国の後押しもあるようで、日本が独自の外交力で動いているとも思えません。

世界のパワーバランスが変わろうとしているならば、日本の外交体制、戦略も機動的に修正する必要があります。

日本にとって大きなチャンス

一方、経済的には閉塞感の強まる今の日本を打開する大きなチャンスになります。核の問題は重要な問題であるだけに、国民の厳しいチェックが必要ですが、その他では新たなフロンティアが期待できます。

官邸もすかさず「ロシア経済分野協力担当大臣」を新設し、世耕経済産業相を兼務させる積極姿勢を見せています。

Next: 日本の成長に大きく寄与? 北方領土、そしてシベリアの可能性



日本の成長に大きく寄与? 北方領土、そしてシベリアの可能性

まずエネルギー問題ですが、米国が支配してきた中東が、ロシアの影響力下に置かれた際に、日本は高価なシェール・ガスや中東のオイルに頼らなくとも、安価なロシアのガス、石油の輸入を増やすことができます。

エネルギー・コストはさらに低下し、日本の交易条件を良くします。

また、北方領土の使い方は様々ですが、拠点となる北海道や北方領土での開発投資は増えるはずです。

さらに、ロシアが望む東シベリア開発は、現地の資源が豊富で、それが日本の利用に供される道が開け、さらに従来永久凍土として使えなかった北シベリアから北極圏が暖冬で利用可能となり、北極海航路の利用も可能になります。

日本は人口が減り、国内市場はじり貧で投資の魅力がない一方で、ロシア、シベリアが日本の新たなフロンティアになる可能性があり、これが日本の成長にも大きく寄与する可能性があります。

米国の対ロ姿勢が緩んでいる時がまさにチャンスです。エネルギー分野だけでなく、ロシア、シベリア・ビジネスに関わりそうな企業をリスト・アップする必要がありそうです。


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月2日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初のご購読は得にお得です。

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マンさんの経済あらかると』(2016年9月2日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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