すでにいくつかのメディアが報じているが、先日、ドイツ政府が国民に10日分の水と食料を備蓄するよう勧めた。またドイツのみならずチェコも、10日分の食料備蓄を義務化する方針を発表した。この処置の目的は何だろうか?実は金融危機ではないようだ。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ・高島康司)
※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2016年9月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した内容もすぐ読めます。
ドイツに続きチェコも。「食料備蓄」呼びかけの真意とは?
「冷戦期でもなかったこと」憶測呼ぶ
8月21日、ドイツの大手紙『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』によると、ドイツ政府は、国民に非常事態の際に公的支援が提供されるまでの間、自前で対応できるようにするため、10日分の食料と5日分の水を備蓄するように呼びかけたと報じた。
これは、1995年以来改定されていなかった「民間防衛計画」の見直しを機に発表されたもの。政府は国家安全保障への将来的な脅威の可能性を排除すべきではなく、そのため民間防衛の施策が必要だとして発表に踏み切ったものだ。
しかし、このように直接的な国民への備蓄の呼びかけは冷戦期でもなかったことなので、いまのタイミングでドイツ政府が呼びかけを行った真意が問題になっている。
政府は「通常の国防が必要となるドイツ領への攻撃は、あまりあり得ない」としているが、発表の裏ではドイツ政府が近い将来なんらかの危機が発生することを知っており、それに対する準備なのではないかと疑われている。
実証的な陰謀論系テレビであるアレックス・ジョーンズの『インフォウォワズドットコム』などでは、これは将来ドイツがテロによって誘発される社会不安を警戒してのことではないかと予測している。
チェコも食糧備蓄と銃の購入呼びかけ
ドイツ政府の水と食糧備蓄の呼びかけは、欧州の他の国々にも拡大している。ドイツの隣国のチェコも、同国の食糧備蓄はかなり切迫しており、国家的危機の際には供給量が不足する恐れがあるとして、国民に食糧備備蓄を訴えている。
さらに、今月初めにはチェコのミロシュ・ゼマン大統領は、イスラム原理主義によるテロ攻撃に個人が対応できるようにするため、銃の個人購入を促進させる法改正を検討するとしていた。
以前は大統領は、銃の個人所有に反対だったが、イスラム過激派によるテロが多発しているいま、「国民は自分の身を自分で守るように」と正反対の立場になった。
食糧備蓄の理由(1)テロ対策説
では、ドイツやチェコ政府が国民に水と食料の備蓄を呼びかける理由はなんなのだろうか?
先のチェコ大統領はイスラム原理主義者によるテロをあげている。また先月には、フランスの「国内治安総局局長(DGSI)」は、フランスは内戦まであと一歩であると発言している。
さらに、スイス、デンマーク、ノルウェーの軍事関係者も、イスラム原理主義者が引き起こすテロが深刻な社会不安を国内で引き起こす可能性に言及している。
するとやはり最近欧州で激増している「ダーイシュ(IS)」などのイスラム原理主義者組織や、それに感化されたものによるテロを警戒していることは間違いなさそうだ。
食糧備蓄の理由(2)金融危機対策説
しかしこれだけではなく、ドイツ政府やチェコ政府ははるかに具体的な危機を想定して、国民に備蓄を呼びかけているとの憶測もある。
以前にこのメルマガでも何度も書いたように、「ドイツ銀行」は世界最大の75兆ドル(約8000兆円)のデリバティブを保有している。これは世界のGDP66兆ドルよりも大きく、ドイツのGDPの20倍に達する額だ。
ちなみに、リーマンショックを引き起こした「リーマンブラザース」の自己資本率は3%程度と極端に低かった。これは保有する資産が3%を越えて下落すると、自己資本では損失補填が不可能となるため、破綻する可能性が高まる。リーマンショックではこれが実際に起こり、リーマンは破綻した。
一方「ドイツ銀行」の自己資本率は2008年当時の「リーマンブラザース」よりも低く、3%をゆうに割り込んでいると見られている。他方、抱えるデリバティブの額は「リーマンブラザース」をはるかに上回っている。すると、なんらかのきっかけで、デリバティブや「ドイツ銀行」の保有する資産の下落が始まると、「ドイツ銀行」株の投げ売りが始まり、一気に破綻してしまう可能性は否定できない。
「ドイツ銀行」が破綻すればその規模はあまりに大きく、ドイツ政府が救済しようにも、政府自体が財政破綻する懸念が出てくる。ということでは、水と食料の備蓄を政府が訴えることの背景には、将来の金融危機への対応があるのではないか、という見方もできる。
Next: テロか、金融危機か、戦争か。もっとも可能性が高いのは?
テロや金融危機では「食糧難」は考えにくい
これは、たしかにありそうなことのように聞こえるかもしれない。「ダーイシュ(IS)」によるテロは激増しているし、「ドイツ銀行」の破綻はリーマンショックを上回り、欧州全体を巻き込む金融危機になることは間違いない。
しかし、一歩引いてよく考えて見ると、これらの出来事だけでは水や食料の備蓄が必要となる状況にはならない。
備蓄が必要な状況とは、
- 通貨価値の極端な下落によるハイパーインフレーションによって食料を買うことができなくなる
- 浄水や輸送にかかわるインフラそのものが破壊され、国民の手に届かなくなる
- 国外からの食料の輸入が途絶する
などの3つに限られることが分かる。
1945年の敗戦による日本による経済崩壊は(1)であったし、(2)と(3)は戦争に巻き込まれ、国内の施設が大規模な攻撃の対象となった際に発生する。これは歴史で何度も繰り返してきたことだ。
反面、金融危機やテロ、また大規模な自然災害だけでは発生しにくいことが分かる。
もちろん金融危機がドイツ経済の根本的な崩壊を伴う規模であれば、食料が手に入らない状態に陥ることは間違いないだろう。預金の封鎖が起こった近年のギリシャでは、短期間だがそうした状況が発生した。
だがドイツが、将来ギリシャと同じレベルの経済崩壊を引き起こすとは、少なくともいまの時点では考えにくい。
当然、「ドイツ銀行」が破綻すると、ドイツ経済には大きな痛手であろうが、すでにこれは予測できる危機なので、迅速に破綻処理は実施され、ドイツ経済への余波は最小限に抑えられる処置が取られるだろう。
さらに自然災害やテロでも、食料が全国的に手に入らなくなる状況は考えにくい。東日本大震災のような前例のない大規模災害でも、食料のような基本物資の不足は、被災地とその周辺地域に限定されていた。
またテロであれば、浄水や輸送のインフラが攻撃対象になったとしても、やはり攻撃が実施された施設や地域に影響は限定されるはずだ。
Next: ドイツやチェコが備えているのは戦争か。考えられるシナリオ
ドイツやチェコが備えているのは戦争か
ドイツ政府やチェコ政府さらに欧州各国が、国民に水・食料備蓄を呼びかける状況が近い将来起こることを予期しているとするなら、おそらくそれは大規模な戦争以外にはないだろう。
本格的な戦争か、その予想を越える余波であれば、水・食糧不足は十分に考えられる。しかしいまのヨーロッパで、そのような事態になることが予期できるほど、戦争は差し迫っているのだろうか?
ロシアとウクライナが本格的に衝突?
このように聞くと、そんなことはとてもじゃないが考えられないと思うかもしれない。実はいま、そのような可能性が100%否定できない状況にある。
2015年2月15日、ウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの各国は、ウクライナ東部の親ロシア派が支配するドネツク州およびルガンスク州の個別の地域において、遅滞なく、かつ全面的に戦闘を停止すること、およびこれを厳格に履行することとした停戦合意、いわゆる「ミンスク合意」に署名した。
これで、ウクライナ政府と、分離独立ないしはロシアへの帰属を求めた東部諸州との内戦は、一応終結した。散発的な戦闘はあるものの、停戦合意はおおむね守られ、現在に至っている。
そのため、2014年には大きなニュースであったウクライナ問題も、最近では注目されることはほとんどなくなった。
しかし8月7日、これを覆すような事態が発生した。残念ながら、日本ではこれはほとんど報道されていない。
ロシア特殊部隊とウクライナ工作員が交戦
ロシアの国営メディア『スプートニク』などによると、8月7日の夜半、7人からなる工作員のグループが、ウクライナとの国境に近いクリミアのアルミャンスク近郊へ上陸した。
ロシア保安庁の特殊部隊はこれを発見し、これを阻止しようとして銃撃戦となった。特殊部隊員1人と侵入した工作2人が死亡。残りの5人は逮捕された。
捕らえられた工作員のほとんどがクリミア市民で、そのうち数人はロシアのパスポートを所持していたが、これが本物かどうかは確定していない。
拘束された5人の供述によると、彼らは「ウクライナ国防省中央総局」により上陸訓練も受けたという。また、自分たち以外にもクリミアへは同様の工作員グループが派遣されている事実を明かした。
工作部隊の目的は、人的被害を出さずにクリミア半島にパニックを引き起こし、「観光業を抹殺」することだとしている。
Next: プーチン大統領がウクライナを強く非難、エスカレートする緊張
エスカレートする緊張
一見するとこれは些細な事件のようにも見える。ロシアが併合したクリミアにウクライナの特殊工作部隊が侵入し、爆弾テロを計画したというものだ。ましてや、人的被害の拡大をねらった大規模テロではないように見える。クリミアの観光業への打撃を意図した比較的に穏健なものだ。
しかし、これに対するロシアの反応は厳しかった。8月12日、プーチン大統領は声明を発表し、ロシアはクリミアでのこの事件に対し、必ず報復を行なうことした。
プーチン大統領は、ウクライナ政権は紛争の平和的解決ではなくテロに訴えようとしているとしてこれを非難。強硬な報復策のひとつとして、外交関係の断絶も視野に入れるとしている。
ロシア大手紙の『イズヴェスチア紙』の情報によれば、政府内では外交断絶の案がすでに審議されているが、最終的な決定は大統領自身が下すとしている。
さらに翌日の8月13日、『インタファクス通信』によると、ロシアのメドベージェフ首相は、ウクライナとの関係断絶を排除していないとし、ロシア軍がグルジアに侵攻した2008年「南オセチア紛争」のときのような外交断絶もあり得るとした。
ウクライナとの関係でこのようなシナリオの繰り返しを望んではいないとしながら、この問題に関する最終決定はロシア大統領が行うとしている。
「戦争準備」を進めるウクライナ
しかし、これでも事態は収拾に向かわなかった。8月29日、ウクライナの『ヴェスチ紙』の報道によると、ウクライナ国防省は軍事委員部に対し、緊急動員を準備するよう指令を出した。
国防省の関係筋は、「指導部は国の東部での軍事的煽動を警戒している。そうした煽動がクリミアないしドンバスのいずれの地域で起こりうるのか、現時点では不明。だが早急な動員が全員に指示された」としている。
「緊急動員」と聞いてもピンとこないかもしれないが、これは戦争に向けての全軍配備の指令である。これが、外交関係断絶を匂わすロシアに対するウクライナの反応であった。
記事の内容からすると、ウクライナは親ロシア派が占拠する東部諸州における戦闘を警戒しているようだ。
Next: ロシア軍が国境地帯に展開開始、ウクライナを包囲か
ロシア軍が国境地帯に展開開始、ウクライナを包囲か
一方、ウクライナ軍の「緊急動員」は、ロシア軍の動きに対応したものである可能性もある。
8月18日、有力な情報サイト『ビジネスインサイダー』は、ロシア軍がウクライナを包囲するように北部、東部、そして南部の国境地帯に軍の展開を開始していると報じた。
2015年2月から続いていた停戦合意は破られ、親ロシア派が占拠する東部の都市、「マユルポリ」に近いアゾフ海沿岸の「シロキネ」に展開するウクライナ軍に、親ロシアの分離独立派が20発の砲弾で攻撃を始めたとの情報もある。
また、オンラインの調査報道専門サイト『ワシントン・フリー・ビーコン』の記事よると、米国防省の関係筋の話として、現在ウクライナ東部のロシア国境にある8カ所の軍事拠点には、空軍と戦車部隊に支援された4万人規模のロシア軍が結集しており、いつでもウクライナに侵攻可能な状況であると報じている。
この米国防省関係筋によると、今後ロシア軍は東部国境地帯で軍事演習を実施し、これをカモフラージュとしながら、実際にウクライナに侵攻する可能性も否定できないとした。
ロシア軍がウクライナ侵攻に踏み切る可能性は?
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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ(2016年9月2日号)より一部抜粋・再構成
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