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なぜ日本人は「中古住宅」購入を敬遠するのか?政府が対策に本腰=川瀬太志

政府が、中古住宅購入時のリフォーム費用を最大50万円補助する制度を発表しました。ただ日本では新築志向が強く、大きく2つの問題点から中古住宅が敬遠されているのが現状です。(『ハッピーリッチアカデミー 私的年金をつくろう』川瀬太志)

プロフィール:川瀬太志(かわせふとし)
ハイアス・アンド・カンパニー株式会社 取締役常務執行役員。1967年、愛知県生まれ。慶応義塾大学商学部卒。大手都市銀行、経営コンサルティング会社チーフコンサルタント、住宅・不動産関連会社取締役を経て現職に。住宅・不動産を個人が納得し安心して取引できる環境をつくり、個人の持つ資産の価値を守るためのサービス開発に従事。

「GDPのかさ上げに貢献しない」中古住宅に政府が注力する理由

中古住宅購入時のリフォーム費用に補助金

まずはこちら。中古のマンションや一戸建ての住宅を買ってリフォームしようと考えている人にとってはとてもいい話です。今後は、こういう中古やリフォームを促進するような施策がどんどん出てくるかもしれませんね。

政府は中古住宅を購入する際に必要なリフォーム工事の費用を、1件当たり最大で50万円補助する制度を創設する。欧米に比べて少ない中古住宅の取引を活発にし、深刻になっている空き家問題の解消につなげる。対象を40歳未満の購入者に絞り、若年層が使えるお金を増やして個人消費を底上げする狙いもある。

出典:中古住宅購入時に補助金 改修費最大50万円 – 日本経済新聞(2016年8月21日)

今年の第2次補正予算案に250億円の予算を入れ込む予定だそうです。1件最大50万円の補助金ですから、少なくとも5万戸くらいの利用を見込んでいます。早ければ年内にも取り扱いが始まりそうです。注目しておきたいですね。

ポイントを整理しますと、下記となります。

どんなリフォームにどれくらいの補助があるのかは、現時点では明らかになっていません。おそらく耐震補強や省エネ改修など、住宅の性能向上に関するものに対してということになるのではないかと思います。

金額がちょっと小さいかな、という印象もありますが、中古流通市場の活性化に向けた具体的な施策のスタートでしょうし、十分に価値のある取り組みだと思います。他にも、若年層の持ち家促進、空き家の活用、インスペクションの普及、住宅ストックの性能向上など住宅業界の様々な課題解決につながっていくことでしょう。

Next: それでも新築志向が強い日本、中古住宅市場が抱える2つの問題とは?



日本の中古住宅市場が抱える2つの問題とは?

日本国民は新築志向が強いと言われています。住宅市場に占める中古の割合は、欧米では7割以上なのに対して日本では15%程度です。古い住宅を維持・修繕をしながら継承していくというよりも、壊して新しいものを建てた方が良いという価値観が確かにあります。

政府としては、この成熟した環境共生時代に従来のようなスクラップ&ビルドを続けるのではなく、欧米のように中古住宅の市場を拡大していこうという方針があります。2025年までにリフォーム市場を今の約7兆円から12兆円まで伸ばす目標を掲げています。

背景には大きく2つの問題があります。

問題点(1):空き家問題

ひとつは空き家問題です。今、空き家は全国で約850万戸程度あります。今後20年くらいで少子化と人口減少で空き家はさらに増えて「2000万戸を超える」と予測する研究機関もあります。

家は手入れをしないとどんどん劣化していきます。老朽化した空き家が放置されたままだと地域の防災や治安、衛生面で悪影響を及ぼします。マンションでも空き室が増えると、維持管理のための修繕や改修の合意形成が難しくなります。空き家は放っておいてよい問題ではないのです。

空き家は過疎化が進む地域だけでなく、都市部にも多く存在します。そういう利便性の高い地域にある空き家からでも今回の施策で流通が進むといいなと思います。

問題点(2):住宅ストックの質・性能の問題

もうひとつは日本の住宅ストックの問題です。消費者から見て中古住宅流通の活性化を考えたときに懸念されるのが、新築と中古の性能の差です。今、日本の住宅は耐震性、耐久性、断熱性、省エネ性などにおいてすごく進化しています。住む人の命を守るためには家が耐震性を備えているのは必須ですし、健康やエネルギー消費のことを考えると断熱性省エネ性は高くあるべきです。

しかし、今の日本の既存住宅ストックの性能の現状はといえば…、厳しいものがあります。平成28年3月に閣議決定された「住生活基本計画」(国土交通書)の資料の中に、日本の住宅ストックの現状の表があります。それによると、

昭和56年以降に建築された住宅では、

となっています。

つまり、将来世代に継承できる良質な性能を兼ね備えた住宅はわずかに200万戸のみです。日本の住宅の性能が最近良くなっていると言っても、平成21年から始まった長期優良住宅として認定されているストックはまだ70万戸程度です。

これでは中古住宅を安心して買うことは難しいと言わざるを得ません。日本の住宅ストックは性能的に刷新する必要があるのです。だから今回の中古住宅リフォームへの補助についても、耐震性や断熱性などの性能を向上させるリフォームを促進するものになるのではないかと思います。質の悪い住宅を流通させるのは国のエネルギー政策にとっても国民の健康や財産価値にとっても良いことではないですからね。

Next: 中古住宅流通に向けて、いよいよ政府が本気になってきた



いよいよ政府が本気になってきた

今回の施策は、住宅ストックの性能的刷新と中古住宅流通に向けていよいよ政府が本気になってきたなと感じます。日本は経済再生の途上にあり、政府はその状況を国民や世界から注視されています。

その重要な指標がGDP(国内総生産)成長率です。先日公表された2016年4~6月期のGDP速報値は年率換算で0.2%増でした。このプラス成長に最も寄与したのが住宅投資です。マイナス金利などを要因として、前期比5.0%も増加しました。これがなければマイナスだったでしょうね。

新築住宅は国の経済成長においてとても重要なのです。新築の着工戸数が落ち込むと経済が落ち込んだかのように見えてしまいます。そしてご存知の通り、中古住宅取引や建物修繕・営繕はGDPには含まれません。GDPは、一年間に生産された全ての財・サービスの付加価値の総額のことです。中古品や土地や株などの資産がいくら取引されてもそれは所有者が入れ替わっただけに過ぎず、新しい価値が付加されていないからGDPには含まれないのです。

政府としては新築を促進したいはずです。中古住宅取引が増えてもGDP成長率という観点では経済は成長しませんからね。それであっても、「空き家を減らし、中古住宅ストックの質を刷新し、中古住宅取引を増やしていこう、それが中長期的に日本のためになるから」というのが政府の意思だと思うのです。私はそれを評価したいと思います。

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ハッピーリッチアカデミー 私的年金をつくろう』(2016年8月23日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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