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From 東京都中央卸売市場

豊洲市場「空洞」騒動の真実。なぜデマが世論を席巻するのか?=内閣官房参与 藤井聡

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年9月21日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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「手抜きだ」「汚染塗れだ」「閉鎖不可避だ」過熱報道の裏で

バッシングムードに変化の兆し

豊洲市場の「空洞」騒動は、未だに一日中テレビ、新聞を賑わせています。

これまでの主な「テレビ」ならびに「新聞」の論調は、おおよそ次の様な雰囲気でした。

盛り土手抜きなんて。」「ポッカリ開いた不信の洞穴。」(毎日新聞)
http://mainichi.jp/articles/20160913/dde/001/070/057000c

盛り土にうそ」(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2016_0914_2.html

消えた「盛り土」」(中国新聞)
http://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=282518&comment_sub_id=0&category_id=142

封鎖不可避」「汚染水まみれ」(日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/189919

要するに、「ウソ」をついて「手抜き」をして、結果「汚染塗れ」になって「閉鎖不可避だ」というのが、メディア上の論調だったのです(テレビはより、ストレートなものでしたでしょう)。

しかし、今、少し雰囲気が変わってきているようです。

事実1:たまり水は「ヒ素は検出されたが、70年間毎日2リットル飲み続けた場合でも健康に影響がないとみなせる環境基準は下回っている」ものだった。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB16HFK_W6A910C1EA1000/

事実2:地下の「空洞」「空間」は、万一の対策のため、だった。
http://mainichi.jp/articles/20160918/k00/00m/040/105000c

事実3:地下空間を設ける方が、盛土構造より、コストがかかるものだった。
http://digital.asahi.com/articles/ASJ9L6QYMJ9LUTIL01L.html?rm=364
http://mainichi.jp/articles/20160918/k00/00m/040/105000c

事実4:「技術系職員は全て地下空間の存在を知っており、通称で呼んでいた」(通称=モニタリング空間) しかも、「技術系職員だけでなく、部局トップが空間の存在を知らないということはないはず」のものであった。
http://digital.asahi.com/articles/ASJ9L6QYMJ9LUTIL01L.html?rm=364

上記は毎日新聞と朝日新聞の記事で報道されたものです。

つまり、地下の「空洞」は「ウソ」や「手抜き」で作られたものでもなく、「汚染塗れ」でもなんでもない、という事が、朝日・毎日の報道で明らかにされているわけです。

Next: 事実が明るみに出るにしたがって「気まずさ」を感じ始めた世論



「気まずさ」を感じ始めた世論

その空洞は、技術的には「地下ピット」と呼ばれる極めて一般的な空間であり、かつ、それをつくるのには、盛土にするよりもよりコストがかかり、しかも、万一の場合に備えた「モニタリング」のために必要な空間であり、「手抜き」とは到底言えない存在だったわけです。

もちろん、これまでの都の説明がちぐはぐであったり、建物の下も含めて、さながら全て盛土構造にするということを示唆する内容が都の関係者から発言されていたのは事実のようです。

しかし、そうした説明不足や説明の誤りと、「安全か否か」という技術的な問題は全く別次元の問題です。

言うまでも無く、都民の食の安全にとって何よりも大切なのは、それが「安全で、衛生的なのか?」という一点。仮に誤った説明を受けていることが問題だとしても、より安全・衛生にすることを十分説明しないという事と、その逆(つまり、より不衛生にすることを十分説明しないこと)とでは、その道義的な「罪」のレベルは全く違うと言うこともできるでしょう。

つまり、今回の件は、少なくとも当方が公表されている情報を見る限り、

都の技術者に説明不足があったようだが、悪意があったというよりは、より安全で衛生的にするという善意に基づくものだったのではないか

という風に見えるわけです。

しかし、人間というのは、なかなか冷静にこういう風に物事見ることはできません。

なんと言っても、「ウソ」「手抜き」「不審」「汚染水まみれ」等と、一週間にわたって朝から晩までよってたかって悪態をつき続けたのに、よくよく調べたら、本質的には「シロ」だったわけですから、なかなか世論の方も「引っ込み」がつきません。

今、「世論」は、事実が明るみに出るにしたがって、

気まずい

思いをしているのであって、出来ることなら、東京都の人たちが、やっぱり「悪人」であって欲しいという欲求を、潜在的に強く持つ心理状況に陥っています。

こうした時、人は、この「気まずさ」を解消するために、バッシング対象の「わずかな瑕疵(ミス)」を血眼になって探しだし、ヒステリックにそれを責め立てるという行為に及ぶことになります。

一般的にこうした心理学的現象は、フェスティンガーという社会心理学者の古典的理論である「認知的不協和理論」(cognitive dissonance theory)によってきれいに説明することができます。

これは、人間は、「不協和」な関係にある(つまり、整合していない)認識(認知)を複数持っていれば、その不協和を解消するように動機づけられる、という理論です。

今回の場合は、

認知A:東京都はワルイはずだ!
認知B:東京都が移転先に決めた豊洲は、不衛生的だ!

という2つの認知は全て「協和」します。

その結果、「東京都に悪態をつく」という自らの行為は「正当化」されます。

しかし、この認知Aは、次の認知B’とは、全く協和(整合)しません。

認知B’:東京都が市場移転先に決定した豊洲は、やっぱり衛生的だった。

この認知B’は、東京都が悪いはずだ、という「認知A」と不協和であり、したがって、「東京都に悪態をつき続ける」という自らの行為が『正当化』できなくなってしまうのです!

つまり、認知B’が正しければ、東京都はワルイ奴ではないし、そんなワルイ奴じゃない東京都に悪態をつき続ける私たちは、実はワルイ人なんじゃないか――という、不安に駆られてしまうことになります。

この時、認知的不協和理論は、次の様に「予測」します。

「人間は、現存する『不協和』を解消できるように、一生懸命工夫して、その『不協和を解消』しようと努める」

さて、この認知Aと認知B’の『不協和を解消』するには、いくつかのパターンがあります。以下、いくつか代表的な「対策」、というか、ありていに言えば、

ごまかし方

を列挙しましょう。

Next: 安全なんて関係ない!手続きが問題だったんだ!というごまかし



安全なんて関係ない!手続きが問題だったんだ!というごまかし

対応1(ごまかし方1):認知B’がなかったことにする (一番シンプルなのは、「豊洲は安全」と言っている言葉を「忘れ」たり「聞いてなかったこと」にしたりする一方、「豊洲は危険!」という意見ばかりを無理やり探して、くり返し耳にして安心する、というパターン)

対応2(ごまかし方2):認知B’を主張している人が、邪悪な奴だと決めつける (この場合は、「豊洲は安全だ」と言っている京大藤井等が「邪悪な奴だ」「どうせ、土建屋の回し者だ」「どうせ、東京都と裏でつるんでるんだろ」「あいつは、この問題について専門でも何でもないのに勝手な事を言ってるだけだ!」等と決めつける、というパターン)

対策3:認知B’は認めるとしても、それとは別の認知Cを信ずる(例えば、「豊洲が衛生的かどうかなんて関係ないよ! 問題は東京都が事前にそれを説明しなかったことだ! それは、とんでもない悪いことなんだ!」ということにしてしまったり、実際には安全性にほとんど関係ないデータを無理やり持ち出し、「やっぱ危険だったじゃないか!」とやってしまう、というパターンです)

理論的には、今、東京都を豊洲問題について徹底的に批判し続けてきた人々やメディア関係者は、上記の対応1、2、3をやりたくてやりたくてうずうずしている……という状況に置かれているのです。

そして、(実際、豊洲が危ない、という決定的な証拠が出てくれば別ですが)安全だという認知B’の説得力が高く、「対策1」をとりずらくなればなるほど、人はみな、

対策2:豊洲が安全だと言ってるやつは、邪悪な奴だ!

と思い「たく」なってしまうのであり、それすら困難になってしまえば、最終的には、

対策3:安全かどうかなんて、関係ない、手続きが最初から問題だったんだ!

という「ごまかし」をしてしまうように「動機づけられて」しまうのです。

したがって、これから、世論は、

対策3:手続きが最初から問題だったんだ!

という東京都批判に収斂していくであろうことが、認知的不協和理論から予測されることになります。

Next: 人間の判断は「感情」にゆがめられてしまうもの



人間の判断は「感情」にゆがめられてしまうもの

さて、これから、事態はどのように進展するのでしょうか……?

是非、皆さんも冷静沈着な「社会心理学」の目線で、ことの推移をウォッチいただければと思います。

ところで、なぜ、今回のこの様な不条理極まり無い「豊洲が危ない」というデマを導く、

認知A:東京都はワルイはずだ!
認知B:東京都が移転先に決めた豊洲は、不衛生的だ!

という「2つの認知」が、人々に共有されていたのでしょうか?

これもまた、認知的不協和理論に視点から、次の様に説明できます。

1.東京都民は、東京都知事選で、小池知事を選んでしまった。

2.そして、自分達が選んだ小池知事(都議会)は、東京都と対立している。だから人々は、小池知事を選んだ自分たちを正当化する(=認知的不協和を低減する)ために、「東京都はワルイはずだ(認知A)」と思いたい、という欲求を潜在的に持っている。

3.一方、自分達が選んだ小池知事は、豊洲移転を「延期」といった。だから人々は、小池知事を選んだ自分達を正当化する(=認知的不協和を低減する)ために、「豊洲は不衛生的だ」(認知B)と思いたい、という欲求を潜在的持っている。

……以上、ご理解いただけましたでしょうか?

要するに人々は、いいか悪かわからないうちに選んじゃった小池知事をイイ人にし、それを選んだ自分たちもイイ人にするために、小池知事の判断をサポートする認知(東京都は悪い&豊洲は不衛生)を形成するように「動機づけられて」しまっているのです!

……以上、少々ややこしいお話しでしたが、お判りいただきましたでしょうか?

いろいろとお話ししましたが、要するに、人間の判断なんて時に、全く合理的でも理性的でもなく、感情や世急にゆがめにゆがめられてしまうものなのだ――ということでありました。

皆さんも是非、そういう「真実」を理解いただいた上で、可能な限り理性的な政治的判断を下していただきますよう、お心がけください。

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