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「標的」にされたドイツ銀行。いったい誰が、何のために?=斎藤満

政治的にも経済的にも閉塞感が強まっている中で、現状打破を企てる勢力が少なからずいます。彼らにとってドイツ銀行問題は絶好の攪乱チャンスであり、予断を許しません。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月30日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初は特にお得です!

独GDPの約半分の資産を持つドイツ銀行が狙われる理由

政治的な圧力

ドイツ銀行が不自然なまでに市場で叩かれています。昨日こそ嵐が一服しましたが、一時は株価が10.55ユーロまで下落、年初からは半分になってしまいました。

直接的なきっかけは、米国の司法当局から、かつて住宅ローン担保証券(MBS)を不正販売したとして、140億ドル(約1兆4千億円余)の支払いを求められたことにあります。

ドイツ銀トップはメルケル首相に、米国当局への働きかけを依頼したようですが、メルケル首相がこれを拒否した、と地元誌が報じました。

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欧州の銀行不安が世界市場を冷やすことがしばしばありますが、その中にはイタリアの大手銀行のみならず、ドイツのドイツ銀行やコメルツ銀行、英国のバークレイズ銀行、スイスのUBSなど、超大手銀行が入っていました。

最近では欧州の銀行不安というと、ドイツ銀行の名が必ずと言ってよいほど登場します。新興国向けや中東向け資産の劣化、欧州でのマイナス金利の圧迫が指摘されましたが、今回米国から求められた140億ドルの支払いは半端ではありません。

他の銀行もMBSの不正販売などで支払いを求められたケースはありますが、ドイツ銀の場合は桁が違います

ここにはドイツ銀固有の問題のみならず、ドイツを取り囲む政治的な圧力が強まる中で、ドイツ銀行がその標的にされた感が否めません。

このところドイツと米国や欧州との関係が良くありません。英国のEUからの離脱も、移民に対する不安ばかりか、ドイツが支配するEUに盟主英国が留まることを潔しとしない面もありました。

「ドイツ第4帝国」への警戒感

またドイツが密かに「ドイツ第4帝国」を目指しているとの警戒感が周辺国や米国の中にも浮上してきました。

今日の世界では、中国の覇権主義が目立つ一方で、トルコの「オスマン帝国」復権、イランの「ペルシャ帝国」復権と並んで、ドイツの「第4帝国」構築の動きが警戒されていました。米国にすれば、ドイツとロシアの接近も警戒を強めさせました。

そうした中で、米国は欧州の勢いを削ぐことに勢力を注ぐようになり、なかでもその中心にあって力を増すドイツを攻撃の的にし始めた感があります。

そのドイツの代表企業が、ドイツのGDPの約半分の資産を持つドイツ銀行で、これが攻撃の標的となった可能性があります。140億ドルの支払いは近年のドイツ銀の収益力低下から見ると、著しく大きな負担となります。

Next: 引き続きドイツ銀行の株価動向に要注意、今後のポイントは?



ドイツ銀行の株価動向に要注意、今後のポイントは?

今回、ドイツ銀の経営陣は、資本は十分あり、資本増強の必要はないと言いましたが、安心できません。

銀行規制のもとにある「バーゼル3」では自己資本比率が8%以上とするうえに、グローバルに影響力を持つ大手銀行には最大8.5%の上乗せがあり、最大16.5%の自己資本が求められます。欧米の大手銀行は10%以上の自己資本を持つと言いますが、求める水準自体が高くなっています。

しかも、バーゼル規制では資本の中身を厳しくする上に、リスク資産の計算上でも、一般貸出のリスクウエイトを20%から150%とし、クレジットの低い貸出資産のリスクを大きくしているので、不良債権が大きくなるほどリスク資産が大きくなり、必要自己資本が大きくなります。

この規制が厳しくなるほど、銀行は無理をして余計体力を低下させる面があります。

銀行証券の両方ができる巨大なユニバーサルバンクとしてのドイツ銀が危機に陥ると、欧米銀行にも波及するシステミック・リスクも大きくなります。ドイツ銀の株が大きく売られる時には、米国市場でもゴールドマンJPモルガンなどの株も大きく売られました。

ドイツ銀が経営危機に陥ると、リーマン危機の再現ともなりかねません。

世界の金融市場が長年の超金融緩和の下で株も債券も「バブル」が膨らんでいるところへ、マイナス金利が広がり、まともな金融取引ができなくなり、金融機関が収益を上げにくくなり、資本の論理が実質的に破たんしています。

市場が弱体化しているところにショックが生じると、バブルが弾け、市場が混乱するリスクが高まります。

政治的にも経済的にも閉塞感が強まっている中で、現状打破を企てる勢力が少なからずいます。彼らにとっては、絶好のかく乱チャンスであり、その一環としてドイツ銀が利用されるリスクがあります。

ドイツ政府に救済に出られない事情があるとすれば、ドイツ銀自身の財務体力のみならず米国当局や金融規制当局の出方にも注意が必要となります。


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月30日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初は特にお得です!

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マンさんの経済あらかると』(2016年9月30日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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