マネーボイス メニュー

Krista Kennell / Shutterstock.com

騙されたバフェットが、ウェルズ・ファーゴをナンピン爆買いする理由=東条雅彦

ウェルズ・ファーゴの前代未聞の不祥事。同社はウォーレン・バフェットが唯一、「永久保有銘柄」に認定する超優良銀行です。一体この先バフェットはどう動くのでしょうか?(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)

「永久保有銘柄」米ウェルズ・ファーゴの不正に賢人はどう動く?

前代未聞のあり得ない不祥事

先月明るみになった、ウェルズ・ファーゴの前代未聞の不祥事。ウェルズ・ファーゴの行員は、顧客に許可を取らずに預金とクレジットカードの口座を不正に開設していました。

その数、なんと200万口座に達します。

米政府と協議した結果、ウェルズ・ファーゴは1億8500万ドル(約190億円)を支払うことで決着しました。また、顧客への損害賠償として500万ドルを支払うことになっています。

同行はこの問題で、過去数年の間に5300人の行員を解雇したことを認めました。

ウェルズ・ファーゴの全従業員数は265,200人です(2015年度)。解雇された5300人という人数は、全体の2%弱(1.99%)に当たります。100人のうち2人が、この不正行為に関わっていたわけです。

「知っている、知っていない」で言えば、もっと多くの行員が、この問題を認識していた可能性が高いでしょう。

ウェルズ・ファーゴはウォーレン・バフェットが唯一、「永久保有銘柄」に認定している超優良銀行です。一体、この先、バフェットはどう動くのでしょうか?<中略>

【関連】「韓国と北朝鮮の統一」に賭けるジム・ロジャーズの未来予想図=東条雅彦

バフェットはウェルズ・ファーゴの何を気に入っているのか

米国の銀行は大きく分けて投資銀行と商業銀行があります。

投資銀行はモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、メリル・リンチ、ベア・スターンズなどです。

これに対して預金を預かる商業銀行は、シティバンク、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ等が有名です。

投資銀行は金融危機の度に、業績が大幅に悪化するハイリスク・ハイリターンなビジネスになっています。
※リーマン・ブラザーズも投資銀行でしたが、2008年に倒産しました

一方、商業銀行はハイリスクな金融商品への投資は行わず、預金者から預かる資金を活用して、企業融資や住宅ローンの販売を行っています。

その中でウェルズ・ファーゴは、最も堅実な経営を行っていることで有名です。

堅実な経営、つまり、ハイリスクな投資を行わず、しっかり審査をして、担保を確保して、融資をするというスタイルです。

バフェットはここを気に入っています。

金融危機が発生して、銀行が倒産しそうになる中、ウェルズ・ファーゴは普段から慎重な経営をしている分、他の銀行より体力を温存した格好になっています。

不況期や金融危機が起きた時、体力のあるウェルズ・ファーゴは、他の銀行を吸収してビジネスを拡大することができます。

事実、リーマン・ショックが起きた2008年には、米銀大手ワコビア(総資産5207億ドル)を約151億ドルで救済合併しました。

みんながビジネスを拡大している時には控えて、不況期にビジネスを拡大する、独特の経営スタイルです。

Next: バフェットがウェルズ・ファーゴを「永久保有銘柄」に指定する理由



バフェットがウェルズ・ファーゴを「永久保有銘柄」に指定する理由

ウェルズ・ファーゴは、商業銀行の中ではJPモルガン・チェースの次に利益を出している銀行です。直近の2015年度の決算では純利益・経常収益ともに第2位につけています。

<米国の主な商業銀行>

JPモルガン・チェース  (経常収益)435億ドル (純利益)244億ドル
ウェルズ・ファーゴ   (経常収益)453億ドル (純利益)228億ドル
シティバンク      (経常収益)466億ドル (純利益)172億ドル
バンク・オブ・アメリカ (経常収益)392億ドル (純利益)158億ドル

経常収益は一般企業でいう「売上高」のことです。経常収益でも、シティバンクの次にウェルズ・ファーゴが多くなっています。

ウェルズ・ファーゴはカリフォルニア州サンフランシスコに本社を置き、西部を地盤としています。営業網は6,250店舗以上に上り、米国の西部では寡占的な地位を占めるようになっています。

また、ウェルズ・ファーゴは経営効率がとても良い会社です。バフェット流投資のセンターピンであるROE(株主資本利益率)は、常に10%以上をキープしています。
※ROEが高い程、資本をうまく活用しており、経営効率が良いと言われます。

<ウェルズ・ファーゴ ROE>

2011年 11%
2012年 11%
2013年 12%
2014年 12%
2015年 11%

経常収益でトップを走るJPモルガン・チェースのROEは次の通りです。

<JPモルガン・チェース ROE>

2011年 9%
2012年 10%
2013年 8%
2014年 9%
2015年 9%

ROEは車でいうと「燃費の良さ」を意味します。ウェルズ・ファーゴの方がJPモルガン・チェースよりも2%、燃費の良い車です。燃費の良い車(=ウェルズ・ファーゴ)の方が、時間の経過と共に他の車を追い抜いていくはずです。

Next: もし銀行が1つしかなかったら…ウェルズ・ファーゴの強みとは?



もし銀行が1つしかなかったら…ウェルズ・ファーゴの強み

ウェルズ・ファーゴの強みは、米国の西部を地盤にして、信用創造を効率的に生み出している点にあります。

話をわかりやすくするために、米国にはウェルズ・ファーゴしか銀行が存在していなかったとします。そのイメージがコチラの図です。

全員のメインバンクがウェルズ・ファーゴだった場合

AさんもBさんもCさんもDさんも…全員のメインバンクがウェルズ・ファーゴだった場合、とんでもないことが起きます。

銀行ビジネスで生み出される信用創造額を、独り占めできます。ウェルズ・ファーゴが目指しているのはまさにこの状態です。

銀行がたくさんある状態だと、信用創造額が各銀行に分散されてしまいます。分散されて、自分の銀行システムの外にお金が流れ出るのは望ましくありません。

ウェルズ・ファーゴからお金を借りた企業が取引先にお金を支払ったとします。その取引先のメインバンクもウェルズ・ファーゴだった場合、ウェルズ・ファーゴの銀行システム内の持ち主が変わるだけです。←ココ、重要です!

お金を自分の銀行システム内に閉じ込めて、くるくると還流させることができれば、ものすごく収益率が高まります。

銀行は昔から統廃合の多い業種です。ウェルズ・ファーゴのように好況期にリスクの高い取引をしない銀行は、今後も不況期に他行を救済統合していくでしょう。

そうなれば、銀行システム内の持ち主を変えるだけで、収益が上がっていくという望ましい状況が生まれます。

バフェットがウェルズ・ファーゴを永久に持ちたいと考えているのは、長く持てば持つほど、次の不況期に他行を救済合併して、シェアを拡大できると考えているからです。

バフェットが気づいた銀行ビジネスの「変化」

「準備率」というマジックを使って稼ぐ銀行ですが、バフェットは近年、銀行ビジネスについて弱気な発言をしています。2014年10月8日のロイターの記事より、発言内容を引用します。

同氏は大手銀行について、かなり利益が見込めるビジネスだったが、うまく行った場合に利益があげられるビジネスに変わった、と語った。

出典:米銀行ビジネス、かつてほどの収益期待できない=バフェット氏 – ロイター

ロイターの記事では、この発言について何も解説がなされていません。これは一体、何を意味するのでしょうか?背景には、低金利の定着があると思われます。

アメリカ政策金利の推移

米国だけに限らず、先進国に共通した現象ですが、21世紀に入って、金利が上昇しなくなってきました。

商業銀行は融資して、得られる金利で儲けているので、そもそも低金利では利益が出しにくい環境だと言えます。

風がないのに、海をヨットで走れ!と言われても、なかなか速度が出ません。銀行には一定水準以上の金利という「風」が必要です。20世紀と21世紀では状況が変わったのを、バフェットは察知したと推測します。

Next: バフェットは不祥事を起こしたウェルズ・ファーゴをどう思っている?



バフェットは不祥事を起こしたウェルズ・ファーゴをどう思っている?

バフェットは、不祥事を起こしたウェルズ・ファーゴをどう思っているのでしょうか?

先日9月22日、ウォーレン・バフェットはメディアからの問い合わせに対して、次のような見解を表明しています。

「その件やそれ以外の件に私が発言を始めると、話が広がりすぎてしまう。従ってこの件や選挙、それ以外のことについて話すのは11月まで待つことにする」

出典:バフェット氏:ウェルズFに関する発言、11月まで控える-フォックス – Bloomberg

バフェットは混乱を避けるため、発言を控える意向です。

今回の不祥事は顧客の保有口座数を平均8つに増やす「グル-エイト」と呼ばれる同行の取り組みに問題があったとされています。

行員は営業成績を上げたいがために、顧客に許可なく、不正に口座を開設してしまいました。

ただ、その不正に作られた口座は顧客が認識していないものとなるため、ほとんどのケースで活用されることはありませんでした。

同行の業績に寄与することもなく、単にウェルズ・ファーゴ内部の営業得点稼ぎのために不正行為が繰り返されていました

既に米政府とは1億8500万ドル(約190億円)の制裁金を支払うことで決着がついており、この問題についてはこれ以上、情報は出てきません。

この賠償額は2015年度の利益228億ドルの約0.8%に当たります。業績への直接的な影響は軽微です。

問題は、今回の不祥事を受けて、顧客がウェルズ・ファーゴから離れるかどうかです。

顧客の方も大きな実害があったわけではないので、ウェルズ・ファーゴから離れて、他の銀行の口座を開設して資金を移すという所までは行かないでしょう。

メインで使っている銀行口座は、クレジットカードや公共料金の引き落とし等で利用されていることが多く、移管するのも結構、手間がかかるものです。

Next: ウェルズ・ファーゴの株価が下がれば、バフェットは買い増しに動く



ウェルズ・ファーゴの株価が下がれば、バフェットは買い増しに動く

最後に、バフェットのウェルズ・ファーゴの買い増し状況をグラフで示します。

ウェルズ・ファーゴ株 保有数の推移

バフェットは、リーマン・ショック(2008年)の翌年から、ウェルズ・ファーゴ株をすごい勢いで買い増しています。

2008年の2.9億株から現在は4.7億まで増やしています。(約1.6倍の増加)

銀行ビジネスについて弱気な発言をした2014年以降も、株数は多くはありませんが、毎年、買い増す量を増やし続けています。

<直近の保有株数の状況>

2013年12月31日 458,170,323株
2014年12月31日 463,458,123株 (5,287,800株 追加投資)
2015年03月31日 470,292,359株 (6,834,236株 追加投資)
2015年12月31日 479,704,270株 (9,411,911株 追加投資)
2016年06月30日 2015年末と同じ株数をキープ中

この継続的な買い増しは、バフェットがウェルズ・ファーゴのことを信頼している証拠です。ウェルズ・ファーゴの株価は今回の不祥事を受けて、50ドル近辺から45ドル台まで下落しました。

WELLS FARGO<WFC> 月足(SBI証券提供)

顧客が離れないことを確認できて、かつ、株価がまだまだ下落するのなら、バフェットは買い増しに動くはずです。

【関連】バフェットの心変わり。なぜ賢人はIT企業への投資を決断したのか?=東条雅彦

【関連】不意打ちでも安心!? 「預金封鎖」に対抗して資産を守り抜く方法=東条雅彦

【関連】ウォーレン・バフェット氏はウォルマートを見捨てたのか?=東条雅彦

ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』(2016年9月25日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~

[無料 週刊]
■電子書籍『バフェット流投資入門(全292頁)』をメルマガ読者全員に無料プレゼント中♪世界一の投資家ウォーレン・バフェットの投資哲学、人生論、さらに経済や会計の知識が、このメルマガ一本で「あっ」と驚くほど簡単に習得できます!!著者はバフェット投資法を実践して、6000万円の資産を築き、さらにヒッソリと殖やし続けています。(ブログよりも濃い内容でお届け☆彡)●バフェットの投資法を小学生でもわかる例え話で学べます。●複利マジックで経済的自由の達成を目指します。●日本経済の現状から取るべき投資戦略がわかります。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。