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限界近づく「CAPEレシオ」 イエレンも恐れる株バブル崩壊の根拠とは?=吉田繁治

昨年くらいから、イエレン議長とIMFのラガルド専務理事は、ともに「ダウで$1万8000はバブルである」と見ています。これは両者のテレビ対談で明確に述べられていることです。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2016年9月14日号を一部抜粋・再構成したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初は特にお得です!

「ダウ1万8000ドルはバブルだ」イエレンとラガルドに共通認識

「復活」した米国株式市場

サブプライム・ローン危機の直前の、米国ダウ(大手工業株30種)の高値は$1万4000でした(07年7月)。リーマン危機の後、2009年3月には$6469へと、$7531(54%)も下落しました。

格言に言われ、本当にその通りになることが多い「半値・八掛け・二割引き=0.5×0.8×0.8=32%)」なら、$4500付近にまで下がるところでした。
(注)日経平均で3万9800円だった1989年末からの日本の株価バブルの崩壊はほぼ70%であり、半値・八掛け・二割引きでした

米国株の暴落は、3度の量的緩和(金額は約400兆円)によって、押しとどめられ、現在、リーマン危機前の高値を$4000も超えた$1万8066(16.09.13)にまで上がっています。

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米国の量的緩和、本当の目的

景気対策と言いつつFRBが行った3度の量的緩和の目的は、2007年の高値から54%下落した株価を上げることでした。株価を上げて、債務超過になっていた金融機関の自己資本の回復を図ったのです。
(注)米国の金融機関の自己資本は、合計で200兆円程度です

イエレン議長に「バブル」の認識

しかし昨年くらいから、イエレン議長とIMFのラガルド専務理事は、ともに「ダウで$1万8000はバブルである」と見ています。両者のTV対談で明確に述べられています。当方も量的緩和とゼロ金利政策により、バブル的に上がっている株価と見ています。

シラーP/Eレシオ(CAPEレシオ)26.4倍

変動の大きな単年度のPERではなく、過去10年の企業の純益を元にした、S&P500のシラーP/Eレシオ(現在の株価÷インフレ調整後の過去10年の1株当たり純益の移動平均)では、26.4倍という高値圏です(16年9月13日)。
(注)シラーP/Eレシオは、CAPEレシオとも言います

このシラーP/Eレシオの25倍越えは、過去135年で3回でした。いすれも、その後に暴落しています。

(1)1929年の大恐慌の直前(シラーP/Eレシオ:30倍)。その後1933年の5倍にまで下落。

(2)2回目は2000年3月までのIT株バブル。利益がまだないITべンチャーの株が、ドット・コムの社名だけで高騰したため、シラーP/Eレシオでは45倍という高値でした。市場は、企業利益を3倍大きく見ていたのです。2000年4月から23倍に下げています。

(3)2007年のサブプライム・ローンバブルの時期、シラーPEレシオは27倍でした。2009年3月には15倍にまで下げました。

4回目の25倍超が現在です。平均(Mean)は16.7倍、59%高い水準です。

イエレン議長が、この株価をバブルと見ていることの意味は、「崩壊の恐れ」を感じているということです。

このため株価の現在以上の上昇を牽制(けんせい)する目的で、「利上げの可能性」を言い続ける。歴史的に妥当な15倍への急落が起これば、リーマン危機の再来になるからです。

Next: 現在の日本株のシラーP/Eレシオはほぼ30倍?危険な領域に



現在の日本株のシラーP/Eレシオはほぼ30倍

日本株に対するシラーP/Eレシオは作られていませんが、ニッセイ基礎研究所の試算では、日経平均1万4000円のとき、ほぼ25倍です。本稿執筆時の株価は1万6614円ですから、ほぼ30倍になっている危険な価格です。

ここまで上がっている原因は、政府のPKO(Price Keeping Operation:株価維持政策)による買いです。米国株が暴落した場合、日本株も暴落を後追いします。日本株の売買の70%は、海外からの売買だからです。

金融資産に占める株式の割合が大きい米国

米国株の時価総額は$20兆(2000兆円)付近であり、日本のほぼ4倍です(本当は3倍が妥当な線)。上がっている2016年5月末は、NYSE(ニューヨーク証券取引所が$19兆、ナスダックが$7兆で、合計が$26兆(2600兆円)で、同時期の日本(東証)の500兆円の5倍以上です。

米国株が半分に下がると、株主資産(60%は金融機関とファンドの資産)に、1300兆円の損失が生じます。これはリーマン危機のときの不良債券と同じ「金融危機」をもたらします。自己資本が合計で200兆円しかない米国の金融機関が、同時に、債務超過に陥るからです。これが、FRBのイエレンとIMFのラガードがもっとも恐れていることです。

(1)日銀の、異次元緩和からの出口政策では、長期金利の上昇が、国債の発行不全をもたらします。
(2)FRBの出口政策でのもっとも大きな懸念は、リーマン危機前の高値をダウで$4000も超えている株価の崩落と、上がっている住宅価格の下落です。

住宅もサブプライム危機前のバブル価格に近づく

米国の主要20都市の住宅価格(S&P/ケース・シラー住宅価格指数)は、2006年6月に205をつけました(2000年1月=100)。リーマン危機後、140へと32%下がりましたが、2012年以降は、住宅金融の超緩和(FRBによるMBSの買い上げ)を主因に上昇に転じ、2016年5月は180です。現在は、前年比5%で上がり続けています。

金融緩和の要因で上がる、世界の株価と大都市部の不動産は、同時に「ゼロ金利バブル」の状態にあるとみています。ただし、バブルの渦中で「バブルだ、いずれ暴落する」と言えば、株価が上がると利益が大きくなる証券会社から、オオカミ少年とされるでしょう。

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ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2016年9月14日号)より一部抜粋、再構成
※記事タイトル、本文見出し、太字はマネーボイス編集部による

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