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なぜ豊洲炎上劇場では「デマ」がまかり通るのか?物語分析の視点から=内閣官房参与 藤井聡

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年10月11日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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小池劇場の笑えないカラクリとは? 「物語分析」の視点で読み解く

「炎上」する豊洲

今、豊洲が「炎上」しています。

ところが、豊洲市場は、複数の「市場問題PT」の専門家の見解によれば、決して不衛生でも危険とも必ずしも言えないようなもののようです。
http://www.j-cast.com/2016/09/29279374.html?p=all
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/876974765736801

つまり、その炎上の根幹にある「豊洲はヤバイ」という信念は、「デマ」である疑義が濃厚なのですが、それにも関わらず、なぜ、豊洲が今、危ない、不衛生だと「炎上」してしまっているのしょうか?

以前、この「謎」を解くために、社会心理学を使った解説をお話ししましたが、

【関連】豊洲市場「空洞」騒動の真実。なぜデマが世論を席巻するのか?=内閣官房参与 藤井聡

今回は、さらに大きな視点からこの問題を考えるため、社会現象を「物語」として解釈して全体を把握するという「物語アプローチ」(narrative approach)を使って考えてみたいと思います。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/archives/116
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/Fujii/201101-201106/research/fujii_narrative.pdf

「物語アプローチ」で理解する豊洲問題

この豊洲炎上問題、その事の発端は、小池知事が「改革派知事」として、有権者と日本中の期待を集めて勝利した都知事選挙の「翌朝」に、行った記者会見にあります。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201608/CK2016080102000232.html

小池知事は、日本中が注目する選挙の興奮冷めやまぬ8月1日の朝、大量のカメラと取材陣の前で宣言します。

「(築地市場の江東区豊洲への移転に関して)いったん立ち止まって考える。都民の食に関係するので、確認して結論を出していきたい」

そもそもこの豊洲問題は、長年もめにもめた事案で、未だに反対する声も根強く残っている案件で、選挙時の争点の一つでした。つまり、そこに炎上する「火だね」があったわけです。

マスメディアは、この問題にもちろん、飛びつます。その時の彼らの「ノリ(プロット=脚本)」はもちろん、次のようなもの。

“悪い”舛添をみんなの力で追い出した後に、みんなが誕生させた小池知事。この善玉の小池知事は、どんな凄い劇を見せてくれるんだろう!?

こうしたマスコミ世論の「ノリ」によって、豊洲を巡る「火だね」は徐々に大きくなっていきます(その様はまるで、アメリカン・プロレスWWFの風情です)。

まず、「内田氏を中心とした古い抵抗勢力」が登場し、「都議会の闇」が演出され、小池知事就任後一ヶ月間は、小池知事の抵抗勢力との「たたかい」が描写されていきます。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/187918
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/188745/1
http://www.sankei.com/premium/news/160820/prm1608200037-n3.html

そして小池知事は、一ヶ月間の「たたかい」を経て、抵抗勢力に打ち勝って、「移転延期」を宣言します。
http://www.sankei.com/life/news/160830/lif1608300028-n1.html
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/188895
http://www.j-cast.com/tv/2016/09/08277470.html?p=all

ただし、内田氏を中心とした抵抗勢力のパワーは強く、小池知事の「たたかい」もすんなりと進むわけではありません。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49600
https://www.youtube.com/watch?v=bUkTPA1gntQ

そんな戦いのさなか、知事からの反対勢力への「強烈な一撃」として繰り出したのが「豊洲の地下空洞問題」でした。
http://www.sankei.com/politics/news/160910/plt1609100021-n1.html

この「一撃」が決定打となり、マスコミ世論は大いに盛り上がります(まさにプロレス)。当初は小さな「火だね」に過ぎなかったものが、ここで一気に大きな炎へと、「炎上」していきます。

TVでは連日、文字通り、朝から晩まで、豊洲の地下空洞が危ないだの、強アルカリだの、基準値を超える汚染物質だの、不衛生だのといった発言がTV上で繰り返されていき、それが今日に至っている――という次第です。

以上は、単なるマスコミ世論の「プロット(脚本)」にすぎず、「真実」と一致する保証はありません。そもそも、物語研究では次の様な事が明らかにされています。つまり、「物語」を作るとき、辻褄の合わない要素はそれが仮に真実であったとしても徹底的に無視され、隠蔽され、抑圧される、という社会学的なパワーが強烈に働く、という真理です(その最悪のパターンが、言論弾圧、です。例えばコチラ http://ja.yourpedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E9%83%BD%E6%A7%8B%E6%83%B3%E8%A8%80%E8%AB%96%E5%BC%BE%E5%9C%A7%E4%BA%8B%E4%BB%B6)。

Next: メディア上で垂れ流される、マスコミの「プロット(脚本)」を警戒せよ



事実、小池知事の豊洲移転の延期宣言直後から、理性的には、移転延期は正当化できない、むしろ、豊洲は、少なくとも築地よりも衛生的なのだから、移転を迅速に進めるべきではないか、という声が明確に存在していました。

「築地市場の豊洲移転延期 小池都知事の剛腕に大義なし」
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/100452/090400012/?rt=nocnt

こうした声は、地下空洞の暴露という小池知事の強烈な「一撃」によって、一旦はかき消されマスコミ世論の「プロット(脚本)」に沿った専門家発言が、メディア上で垂れ流される状況になっていきます。

(ネット上にTV番組情報がシステマティックには掲載されていませんが、例えば下記の一般の方のブログに等、ご参照ください。
http://blog.goo.ne.jp/moja_gd/e/573b0f5ea1fc6a165bb30cd699ae37fa
http://blog.goo.ne.jp/moja_gd/e/300bb63940b19e206d3a02230d7a93f9

しかし、マスコミ世論のプロット(脚本)の正当性を脅かす「豊洲の地下空間・ピットは、実は技術的に見れば衛生的、かつ、安全だ」という技術論がメディア上でも指摘されるようになります。

「豊洲新市場の地下室は、盛土よりも衛生的で安全である、という技術論」
https://www.mag2.com/p/money/22807

「豊洲地下空間、「作ったのは英知」 都の有識者会合で委員が絶賛」
http://www.j-cast.com/2016/09/29279374.html?p=all

「豊洲・6人に緊急アンケート!築地移転はどうなる?」(TV上で豊洲が危ないという技術情報を提供し続けている“専門家”1名を除く、全員が豊洲の安全性を主張)
http://e.jcc.jp/news/11417155/

そうした流れを受けて、先日の10月9日には、上記の「小池劇場」のプロット(脚本)の世論形成にも大きな役割を担ってきた『TVタックル(テレビ朝日)』にて、これまでのプロットの正当性を脅かす技術論が、改めて放送されました。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/877282985705979?pnref=story

この技術論の解説に耳を傾けていたビートたけしさんは、次のように発言します。「これ見て、『ちゃんとしてるじゃないか』ってなっちゃうと、われわれはどうなっちゃうの?」。同じく、阿川佐和子さんも、次のように発言されました。「ちゃんとしてる――、どうすんの?」。これはまさに、これまで、使ってきたプロット(脚本)が覆され、途方に暮れる状況を、(笑いの形で)端的に表すものと言えるでしょう。

事実、その直後には次の様な会話がスタジオで展開されました。
たけし「豊洲万歳!」
阿川「よかったね!」
たけし「よかったよ」
藤井「これは要するに、都民は『勝手に安全にしやがって!』って怒っている状況なんです」
せいじ「ピットはね、全部にあるのは僕よく知っています。若手芸人がピットの掃除をするんですよ。ぜひね、このままで行ってください、これは!」

これはまさに、たけしさんを中心とした『TVタックル』の議論のプロットが、これまでの桝添悪玉論に端を発する小池劇場プロットから、別のプロット(豊洲実は安全じゃん、プロット)へと「転換」した瞬間がそこに訪れた事を示しています。

(なお、この番組時の藤井発言の細かい技術的補足は、下記をご参照ください。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/877282985705979?pnref=story

Next: 変換を余儀なくされるマスコミの脚本。「真実」が力を持ち始めてきた



もちろん、TVは連日朝から晩まで番組を流しており、これまでのプロット(脚本)に沿った論調がこれからも繰り返されていくことは想像に難くありません。しかし、ここに来て、マスコミ世論のプロット(脚本)も、方向転換を余儀なくされつつあるのかもしれません。

事実、TVタックル以外でも、次のような、これまでの「小池劇場炎上」とは真逆(正反対)の「逆炎上」が生じているのです!

『炎上した「豊洲市場の柱の傾き」報道 フジテレビが「真摯に反省」した1分半の検証』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161009-00010000-bfj-soci&p=1

もしも、小池劇場のプロットの「炎上パワー」がこれまで通り強烈なものであったら、こうした「逆炎上」は生じなかったでしょう。

つまり、上記のTVタックルでのたけしさんやせいじさんの発言や、この逆炎上現象は、ここに来て小池劇場プロットの勢いが弱まり、「真実」が少しずつ力を持ち始めてきていることの証左と言えるかも知れません。

いずれにせよ、現代は好むと好まざるとに関わらず、「炎上」が大きな力を持つに至っている時代。そんな世の中で、ウソやデマに惑わされないためにはどうすべきなのかがますます重要になってきています。

そんな一つの答えが、本稿で紹介したような、「物語分析」の視点から一つ一つの報道や情報を、相対的、俯瞰的な視点から読み解く、という方法だと思います。ぜひとも読者各位も、こうした視点も含め、報道と情報の洪水に溺れないリテラシーを身に付けて頂きたいと思います。

P.S.1
以上は「社会学的視点」のマクロ分析ですが、「心理学的視点」のミクロ分析にご関心の方は、下記も合わせてご参照ください。
https://www.mag2.com/p/money/23270

P.S.2
こうした分析に、学術的に(つまり、ガチで)ご関心の方は、下記書籍を是非一度、じっくりとご一読ください。
https://goo.gl/C4GnD9
ならびに
https://goo.gl/QL5lzC

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