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安倍内閣の支持率と官製相場を急落させる「逆賄賂」発覚リスク=吉田繁治

加計学園問題で明らかになった松野文科相の新文書は、安倍政権の命運を左右する決定的なものとなり得ます。「学校法人の認可は利益供与である」という視点で見れば、森友問題と加計問題は、首相の関与があった時点で「政府の法的な不正行為=逆賄賂」になるからです。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2017年6月21日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

「加計のための国家戦略特区」に世論が気付くとき何が起こるか?

安倍政権の思わぬ窮地

「戦略特区」の推進方法の問題から、安倍政権が「思わぬ窮地」に立っています。17年3月の森友から加計までの問題を、政権側は「知らぬ、存ぜぬ」で押し切れると考えていました。このため、「関与があれば責任をとる。政治家すら辞める」という答弁をして、政治問題を引き起こしています。

この発言をさせたのは、50%を超えていた政権支持率です。権力とは、相手がいやがることでも強制できる能力です。政治権力とは、反対があるにもかかわらず政策を立案・実行する強制力です。

政治権力の根拠は「政権の信用」にあり

この政治権力は、当該ポジションに就いた大統領や首相に、自動的に備わるものではない。ポジションではなく、国民の支持率の高さが政権に与えるものです。

これは民主政体ではない王制でも同じです。中国の習近平国家主席や、北朝鮮の金正恩委員長のもつ政治権力も、共産党でのポジションが与えるものではなく、その意思と政策に従うという国民の支持の高さ、言い換えれば、政権の信用に根拠があります。

安倍首相は国会答弁で「根拠のないことをあげつらってばかりいるから、民進党の支持率が低いんです」という、質問とは無関係な野党非難をしています。

蓮舫代表の民進党への支持は8.3%(産経新聞:17年5月)と低い。産経新聞では、読者層の関係で、与党の支持率が高く、野党が低く現れますが、逆の傾向を示す毎日新聞でも、6.7%(17年3月)でしかありませんでした。

「乱暴な答弁」本当の原因

安倍首相の「関与は一切ない。その質問には答えない」という乱暴さは、国民の支持率が高いという慢心によるものです。安倍首相自身が、全面否定で乗り切れると判断していました。

野田政権の自滅のため、政権発足時(2013年)から支持率が60~70%と高く、海外での集団的自衛権を認める安保法案を強行採決で通したとき(17年7月)、一時的に30%台に低下したものの、その後急回復し50%以上となっていました。

政権の4年半、歴代内閣より高い支持率を誇ってきたのが安倍政権です。安倍首相に強い政治権力を与えてきた根幹がこれです。

「政治家であること」が最大の目的である議員は、「安倍政権なら当選を続けられるから」という理由で服従します。田中角栄が見透かしていたように、議員は落選という恐怖で動かせるからです。

逆に言えば、この調査結果が自分の当落の危険水準になると、「反政権」の動きが出るのです。その意味では「国民の気分」が、政権の権力の命です。力のない1票としてですが、国民も政治参加できています。<中略>

加計問題の特異性

加計問題の特異性は、政府である文科省の前川前次官が「事実は違う、官邸の関与を示す文書がある」と言い、安倍首相に反逆したことです。政府内部からの「告発」であったことです。

省庁の規制緩和を行う行政改革において、内閣府は、官邸が持つ役人への人事権を背景に、省庁の上に立つポジションに位置しています。その内閣府の実務を取り仕切っているのが、事務次官会議を主催する萩生田光一(はぎうた)内閣官房副長官です。

国会閉幕後の6月20日には、文科省の松野大臣により、「安倍首相の近い友人である萩生田官房副長官が、総理は2018年4月の開設という『おしり(期限)』を切っているという主旨の発言をした」ことを示す新文書が公開されました。

この文科省の文書の日付は、「国家戦略特区諮問会議」の創設1ヶ月前、16年10月21日です。諮問会議が創設されたのは16年の11月でした。

文書の通りなら、岩盤規制を突破するという戦略特区の政策の前に、加計学園獣医学部の新設が官邸から指示されていたことになります。これは決定的な文書になり得ます。なぜなら、「特区の諮問会議で獣医学部新設を審議して認めた」のではなく、「加計学園のために国家戦略特区諮問会議を作った」ことになるからです。

Next: 国民が「学校法人認可は利益供与だ」と気付けば、支持率はさらに下がる



学校法人の認可は「利益供与」だ

政府による学校法人の認可は、実は利益供与です。政府から学校法人とされると、政府・自治体からの様々な補助金や助成金が支給されるからです。

そのため、認可に公正さがない場合、特定の企業に対する政府からの「利益供与(税金の分配)」だったということにもなります(逆賄賂)。メディアにはこの視点が欠けているため、仮に安倍首相が関与していても違法ではないと言っているのです。

私学の学校法人の申請を指導していた人から聞いたことがありますが、「学校法人の認可にはいろんな条件があって、きわめて難しい」と言っていたことを記憶しています。

所得税、固定資産税、不動産取得税、寄付金などが無税になる優遇税制があり、しかも、政府からは規定の補助金が出て、履修すれば獣医の受験資格も与えられるからです(私立大学等経常費補助金交付)。単なる私塾では、これらの特典はありません。

「学校法人の認可は利益供与である」という視点を持てば、森友学園問題と加計学園問題は、首相の関与があった時点で「政府の法的な不正行為」になります。民主党とメディアが、なぜこの視点をもたないのか不思議です。

安倍政権は「忖度」だらけです。アベノミクスの効果に対する疑問を審議会で述べただけでも、「あなたはアベノミクスに反対するんですか!」という剣幕で、発言を封じ込めてきました。アベノミクスもまた「絶対」だったのです。

当然に、菅官房長官(大臣のとりまとめ役)と萩生田官房副長官は、疑惑は事実無根で捏造だと否定しています(官房副長官は次官会議を主催し、省庁に対して強い権力をもっています。事実上、省の次官より上の立場です)。

疑問

文科省の松野大臣は、野党から要求のなかった文書を、なぜ公開したのか?安倍首相の承諾を得て公開したのか、そうではないのか?首相の威を無断で借りて、萩生田官房副長官が自分の発意で言ったことであり、自分の指示はないとしっぽ切りで逃げ切るためか?あるいはマスコミに漏れてしまい公表を迫られたのか?

「危険水域」までたった10%

国会開催中の内閣支持率は、時事通信調査で45.1%へと約10ポイント急落しています(6月9日から12日)。不支持は5ポイント増えて33.9%です。

朝日新聞調査では、支持率が47%から41%への下落です。与党寄りの読売新聞調査でも61%から49%に下落し、むしろ下落幅はもっとも大きい。現在の支持率はもっと低下しているでしょう。説明不足という世論が85%だからです。

そして、この内閣支持率が40%付近に下がると、与党の政権維持の危機が始まります。学校法人の認可が利益供与であると国民に知られれば、支持率はもっと低下するでしょう。

政府は、今週からの東京都議選の選挙戦で「決められない小池知事」と非難することで、自民党が勝利することに賭けているのか?「人の噂も75日」と、国民的な人気のある議員を登用して内閣改造を行い(予定は17年8月)、メディアからの「雑音」の沈静化を待つのか?

現状、小池都知事の支持率は、当初の67%から最新調査で51.2%という微妙な線です(6月18日:JX通信)。FNNでは65.7%となっています(FNNの就任当初の調査では、支持率は90%と極めて高かった)。

安倍内閣は、疑惑の完全否定により、問題の初期対応を誤りました。国民はこれを忘れて赦免するでしょうか?すべては世論次第になってきました。安部首相もこれを深刻にとらえているようです。支持率が30%台へと、あと10%下がれば、自民党内で政局(次期首相選び)が動くからです。

Next: 民間に金が回らないアベノミクス、内閣支持率低下でついに終焉か



内閣支持率低下で終焉に向かうアベノミクス

安倍政権の支持率低下は、異次元緩和推進のリスクにもなっています。アベノミクスの中核の政策だった「異次元緩和」に、まだ微妙ですが変化が見え始めました。

日銀信用(バランスシートの資産・負債金額)は、17年6月で504兆円に膨らみ、資産における国債保有は430兆円、負債における日銀当座預金は350兆円に達しています。このままなら1年後に584兆円、2年後には664兆円になります。

目的だった消費者物価指数の上昇は17年4月では0.4%にとどまり(総合)、政府がメドとしていた生鮮食品とエネルギーを除くコアコア指数では、前年比で0%です。消費税の増税(3%)で2%分、円安で1%分上がりましたが、それを除くとほぼ0%台です。デフレこそ脱した感じですが、インフレではない。

まるで「無意味」な異次元緩和

日銀は、16年9月の金融政策決定会合で、10年債の金利を0%付近に誘導するとし、80兆円という国債買い入れ枠をあいまいに消しています。10年債の金利は現在0.055%で、ほぼ0%です(過去の1%の10年債は、残存期間が6年なら、約5%流通価格が上がっています)。

日銀の国債買いのペースは、年間80兆円から60兆円幅へと微妙に減っています。銀行が金利がついていた国債を日銀に売り、マイナス0.1%金利の日銀当座預金になると、赤字になるからです。

銀行団の総資金利回りが赤字にならないためには、総資金利回りでは最低でも1.0%、利益を出すには1.3%が必要です。日銀の信用創造は、前号メルマガで述べたように、銀行が赤字にならない範囲という上限を持ちますが、その上限まで残り少なくなっています(160兆円はないと思えます)。

わが国の銀行団は、日銀に国債を売ったお金で、国内の貸し出しを増やすことはしていません。1%の貸し倒れを見ると業務利益が赤字になるからです。かわりに、為替差損を顧みず、2.1%の利回りがある米国10年債やドル証券を増やしています。

このため日銀が増発した円は、1年間で平均20兆円も米国とユーロ圏に流出しているのです。国内のマネーサプライは十分に伸びていません。

しかしそもそも異次元緩和の目的は、マネーサプライ(≒世帯と企業の預金)を6%以上(80兆円)増やすことで、需要主導型のインフレを定着させることでした。

Next: 安倍首相と黒田日銀総裁はなぜ政策を誤ったのか?致命的「勘違い」



安倍首相と黒田日銀総裁の「勘違い」

日銀の当座預金はベースマネーであり、銀行団が日銀にもつ準備預金です。この日銀当座預金が1年に80兆円増えても、マネーサプライ(M3:1297兆円:17年5月)は年3.4%(40兆円付近)でしかない。

マネーサプライ(日銀用語ではマネーストック)は、銀行団(金融機関の全部)が、世帯と企業への貸出(企業と世帯側では借入金)を増やすことによってしか、その総量は増えません。

わが国では、世帯と企業のストックの預金の純増(年40兆円)により、マネーの流通速度が4%低下するので、4%以上の増加(40兆円以上)がないと需要型のインフレにはならないのです。2%のインフレには、1年に6%(77兆円)のマネーサプライの増加が必要です。

これが、岩田日銀副総裁などのマネタリストが目標としている、「M(マネーサプライ増加:7%)×V(マネーの流通速度:-4%)=P(物価水準:+2%)×T(実質GDPの増加率:+1%)」が意味するところです。。

マネーサプライは、日銀ではなく、銀行団の信用創造(貸し出し)によって増えます。日銀が国債を買い上げて増やせるのは銀行団が日銀にもつ当座預金であり、これはマネーサプライではありません。

安倍首相、日銀の黒田総裁、岩田副総裁は、ここを「勘違い」していたように思えます。日銀が国債を買って日銀当座預金を増やせば、マネーサプライ(世帯と企業にの預金)が増えるとしていました。このため、当初から政策を誤ったのです――
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ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2017年6月21日号)より一部抜粋、再構成
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