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身ぐるみ剥がれた日本人は「海外リタイア生活」の最期に何を見たのか?=鈴木傾城

今すぐに会社を辞めて、一生のんびりと暮らしたい。だが完全にリタイアする金はない。そんな人が選ぶのが、物価の安い東南アジアでの暮らしだ。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)

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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。

現地の流儀で野垂れ死ぬ覚悟はあるか? 東南アジア逃避行の現実

「今すぐ会社を辞めたい」人たち

少子高齢化に苦しめられている日本政府は、定年を60歳から65歳に延長することを義務づけた定年延長義務化法を2013年4月から始めている。

これによって労働者は段階的に65歳が定年になっていき、65歳の定年後に年金生活に入ることになる。

しかし、誰もが65歳まで働きたいわけではない。それどころか、30代でも40代でも50代でも、今すぐに会社を辞めて一生のんびりと暮らしたいと考えている人も多い。

実際にそれを実行する人もいる。こうした人たちをアーリーリタイア組と呼ぶ。アーリーリタイアというのは「早期退職」という意味だが、働かないで暮らすというのは多くの人たちの垂涎の的になる。

人々がアーリーリタイア組を羨ましいと思っても、自分がそれを実行できないのは、「リタイアする金がない」ということに尽きる。

2017年5月16日に総務省が発表した「家計調査報告」で、二人以上の世帯における平均貯蓄在高の中央値は1064万円だ。アーリーリタイアするには無収入を補う資産が必要だが、一生を支えようと思ったら1064万円くらいでは話にならない。

年間300万円で生活するにしても、3年と少しで消えてしまう金額である。アーリーリタイアするというのは並大抵なことではない。

いくらあれば「アーリーリタイア」できるのか?

いくらあればアーリーリタイアできるのかは人によって違う。自分が今何歳なのか、家族がいるのか、リタイア後にどんな生活をしたいのかで、まったく違ってくる。

30代や40代でアーリーリタイアするとなれば、人生40年から50年を支えなければならないので貯めなければならない額は相当なものになる。

ただ年間300万円程度の生活を延々と続けるのであれば、1億円程度あれば何歳でアーリーリタイアしても問題ないと一般的には言える。

なぜなら、1億円を配当金3%以上で回していれば年300万円以上になるからである。贅沢しなければ配当だけで生活できる。仮に取り崩して生きるとしても、33年は生きられる。

しかし30代や40代で1億円を持っている人はほとんどいない。外資系で働いて有能で高給だったとか、FXや株式の投機で当てたとか、親の遺産が入ったとか、よほどのことがない限り、普通では貯められない。普通であれば、1億円どころか5000万円でも難しい

もう1つの選択「東南アジア暮らし」

それでも、やり方によってはアーリーリタイアすることはできる。どうするのかというと、完全にリタイアするのではなくセミ・リタイアするのである。

セミ・リタイアとは週に数日働いて年間100万円程度の稼ぎを得ながら貯金や配当で生きる暮らしだ。1億円以下のアーリーリタイアは、ほとんどがこのセミ・リタイアとなる。

つまり100万円程度の収入のアルバイトと貯金の取り崩しで何とかしようというのがセミ・リタイアのあり方である。

それと同時に、さらにもっと生活費を削減する方法はないのかと考える人もいる。

方法はないこともない。たとえば、アーリーリタイアして物価の安い国で暮らせば、少ない資産でも帳尻が合うと考える人も多い。実際、東南アジアにはそうしたアーリーリタイア組がたくさんいる。

Next: 「仕事もしないでのんびり暮らす」ことの、本当の怖さに気づけ



「仕事もしないでのんびり暮らす」ことの、本当の怖さ

東南アジアでは、1000万円や2000万円程度の貯えでアーリーリタイアする人たちも多い。タイでもフィリピンでも、そうした人たちが大勢いる。しかし、ほとんどが10年どころかほんの数年ももたないことがよく知られている。

アーリーリタイアは表面的には幸せに見えるのだが、資金が足りないアーリーリタイアの場合、精神的にどんどん追い込まれていくのである。特に海外アーリーリタイア組はそうだ。

仕事もしないでのんびり暮らしているのに、いったい何が問題なのか。

すべてのアーリーリタイア組に言えるのは、貯金を取り崩して生きることに対する底なしの不安感や焦燥感である。

働かない人間にとって貯金はとても大切なものだが、アーリーリタイアすると、その貯金がどんどん切り崩されて減っていくだけになるのである。

明るく豊かな未来に向かうのではなく、暗く欠乏の未来に向かっているのが減っていく預金額で明確に見える。働いていないのだから増えることはない。だから消費が恐怖になり、不安となっていくのだ。

「リタイア地獄」に嵌る日本人たち

さらに東南アジアはもう戦乱の地ではなくなっており、グローバル経済に取り込まれてインフレも進む。

年間100万円で何とかなると思っても、インフレが進むとそうは言っていられなくなってしまう。為替が少し円安に振れてもダメージを受ける。東南アジアでのアーリーリタイアも、想定以上の金がかかるようになっている。

しかし、異国の地で少し働くと言っても現地の言葉もしゃべれず、文字も読めないのでは大した仕事があるわけではない。アーリーリタイア組は人脈もないので尚さらだ。

そんなところで病気になったりホームシックになったりすると、しばしば日本に戻ることになるはずだが、それにも金がかかる。文化の違い望郷の念も時間が経つごとに深まる。そういった問題がすべて同時並行で襲いかかってくる。

だから、東南アジアにいるアーリーリタイア組の多くは精神的にボロボロになって日本に戻ることになる。「仕事もしないでのんびり暮らす」は地獄になってしまうのだ。

Next: 次は誰の番か?「FXで稼ぎながらのタイ暮らし」に挑んだ男の末路



「FXで稼ぎながらのタイ暮らし」に挑んだ男の末路

2000年の半ば頃、「タイで外こもりをしよう」と煽っていた人物がいた。外こもりに関しての著書も出していた人物だ。

外こもりというのは「国外で引きこもり生活をする」という意味なのだが、これもアーリーリタイアの一種と言える。

この人も充分な資産があったわけではないのだが、自己資金でFX(外国為替証拠金取引)を行いながら、タイで暮らす金を稼ぐというのがこの人のアイデアだった。

FXみたいなバクチで生計を成り立たそうというのだから大したアイデアだが、この人はタイで暮らす他人の金までFXで運用して吹き飛ばして、怒り狂った2人の男に殺された

アーリーリタイアして「東南アジアで暮らしながらFXで金を稼ぐ」というアイデアは多くの働きたくない30代、40代を惹きつけたが、そのほとんどは成功していない

FXはレバレッジを使ってトレードするのが普通なので、思惑が外れるとレバレッジ分が飛んでいく。そのため、資金は急激に減少してリタイア計画は破綻する。

身ぐるみ剥がされる「困窮邦人」

破綻と言えば、「困窮邦人」という言葉が2011年以後、広がるようになっている。この困窮邦人の中には、アーリーリタイアに失敗した人の数も少なくない。

2011年7月7日の朝日新聞は、現地の妻に現金も貴金属もすべて持ち逃げされ、不動産は借金の担保として入れられて取られた49歳のアーリーリタイアした日本人男性を取り上げていた。

彼は充分な資産があったが、何もしないうちにフィリピン妻に一切合切を持ち去られてしまったのだ。

彼のように現地の妻にすべてを持ち逃げされたり、殺されたりするアーリーリタイア組はいくらでもいる。一文無しになって困窮して日本にも帰れずに大使館に救援される。場合によってはフィリピン人の妻から大使館の前に置き去りにされる。

“No Money No Honey”(金の切れ目が縁の切れ目)

それは、東南アジアのアーリーリタイア組にとって、誰でも他人事ではない話である。

Next: 「稼ぐのを止める」のは、資本主義社会では許されない贅沢と知れ



「稼ぐのを止める」のは、許されない贅沢と知れ

充分な資産と入念な計画がないのにアーリーリタイアに入ってしまう人は、次々と破綻していく人たちの姿をよく観察し、分析した方がいい。

資本主義の社会の中で「稼ぐのを止める」というのは、よほどの資産がない限りは許されない贅沢であると考えるべきだ。アーリーリタイアが許されるのは、だいたい以下の3点に当てはまる人ではないか。

(1)使い切れないほどの莫大な資産を所有する人
(2)資産を減らさずに不労所得で生きられる人
(3)寿命から逆算して緻密な収支計画が立てられる人

自分がそのどれかに当てはまっていないのであれば、どれかに当てはまるように資産構築を行っておかなければならない。資産が少ない中でアーリーリタイアをすればするほど、ちょっとしたことで人生計画が破綻する。

東南アジアの物価が安いからと言って、少ない資産でアーリーリタイアをしても、想定外は次々と襲いかかってくると思って間違いない。

地獄の沙汰も金次第、身も蓋もない現実

人生は常に波瀾万丈である。決して順風満帆ではないのだ。

今後、インフレが来たらどうするのか。貯金を取り崩すだけの生活でも幸せを感じることができるのか。金がないからと言って無謀なビジネスやバクチにのめりこまない自己統制力は備わっているのか。

裏を持った人間を見抜く力があるのか。現地では大した仕事もできないという認識はあるのか。ホームシックに耐えられるのか。病気になっても日本並みの医療を要求しないで生きていけるのか……。

すべてに問題ないと言える人は優秀な人だ。若干問題があると考える人は、アーリーリタイアするよりも、むしろ今よりもさらに働いて資産形成に励む方が現実的だ。

当たり前の話だが、アーリーリタイアを成功させるには資産が多ければ多いほどいい。身も蓋もないが、それが現実だ。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年6月27日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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