AIが人間を打ち負かす時代。ゴールドマンサックスがトレーダーを削減という報道を見た読者さんから、「トレーダーの失職」について質問を受けたので回答します。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
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囲碁・将棋の世界ではAIが人間を打ち負かした。投資はどうだ?
読者の質問「人工知能(AI)はトレーダーを失職させるか?」
先日、週刊現代に『銀行員の大失職時代』という記事が載っていました。銀行員といえば、高給取りのイメージがありましたが、今は昔のようです。カネ余りや低金利による手数料ビジネスの終焉、AIの進歩による「ローン審査の自動化」などが影響して、トレーダーも削減傾向にあるようです。
日経新聞にも、ゴールドマンサックスのトレーダーはかつて2,000人が在籍していたのに、いまは2人になったという記事が載ってました。
特に関心があるのは「トレーダーの失職」ですが、最近のトレーダーの状況について、教えていただけますでしょうか。それでも、生き残るトレーダーは生き残るのでしょうか。
囲碁・将棋の世界では完全にAIが人間を打ち負かしましたが、トレーダーやディーラーの世界はどうなのでしょうか。
矢口氏の回答「AIの導入とトレーダーの失職は無関係」
まず、日経新聞の記事ですが、「2,000人が2人になった」というのは、どちらの数字にも信憑性がないと思います。というのは、債券・株式・為替の流通市場での商品には限りがあり、どんなに細分化しても、数百人止まりだからです。また、2人では発行市場や派生商品までを担当することができません。
数値が正しいとすれば、前者にはセールスやバックオフィスも含むトレーディング部門全員を含み、後者には担当役員だけしか数えないことになります。
AIの導入も、トレーダーの失職とは無関係だと思います。囲碁・将棋は1対1の勝負ですが、AIが勝ったからといって、棋士が失職する理由とはなりません。加えてトレーダーの場合は、1対1の勝負ではないので、AIが勝ったからといって、自分が負けることにはなりません。
相場では様々な勝ち方があります。なかには、インサイダーや噂を流すなど、理不尽な勝ち方もあります。仮にAIが導入されれば、より透明で、合理性のあるトレードが機能するようになると思います。
Next: 「大失職時代」の銀行員やトレーダーが生き残るには?
自分の身は自分で守るしかない
「銀行員の大失職時代」は、国の方針によって引き起こされています。日銀が銀行ビジネスへの悪影響は避けられないとし、金融庁が地銀の6割は本業で赤字になると明言する「マイナス金利政策」が政府の方針ですから、銀行のスリム化は国策だと言えます。つまり、カネ余りも国の政策ですから、「銀行員の大失職時代」は国の政策だと言えるのです。
問題は、銀行から溢れ出す数十万人の失業者をどうするかです。
優秀で高学歴な人も多いため、他の業種を圧迫することも考えられます。他山の石、あるいは銀行嫌いで小気味いいと思う人がいたとしても、自分たちの業種に流れ込んでくる可能性は否定できません。
単純な銀行業務にあれだけの人員がいるかどうかは別問題だとして、過去30年ほどの日本の経済政策の理不尽さ、不適切さを見ていると、つくづく自分の身は自分で守るしかないと痛感します。
トレーダーが削減傾向だとすれば、その理由は収益が上がらないからです。収益が上がらないのは、相場を知らない人が多すぎるからだと思います。
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『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2017年6月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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