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中国が発表する経済指標の「粉飾」を見極める3つのポイント=栫井駿介

中国のGDP統計はそもそも目標値に向けて「作られている」と見られ、そのまま受け取ってもあまり意味がないでしょう。しかし、内訳を見ると今の中国経済の概況が把握できます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

いつ起こってもおかしくない「チャイナ・ショック」の全体像を把握せよ

目標値に向けて作られた「中国のGDP」

中国の2016年7~9月期の実質GDP成長率が年率6.7%と発表されました。これで、3四半期連続で同じ数字が並びました。

習近平政権は、実質GDP成長率の目標値を年率6.5~7%に設定しています。その中で6.7%という数字はあまりに居心地の良すぎる水準です。中国のGDP統計はそもそも目標値に向けて「作られている」と見られ、そのまま受け取ってもあまり意味がないでしょう。

【関連】ウソまみれの中国。6.9%成長の裏で進行する「第2のアジア通貨危機」=北野幸伯

しかし、内訳を見ると今の中国経済の概況が把握できます。10月20日付の日本経済新聞でも取り上げられていたように、中国経済の現状を表す3つのポイントは、公共投資、不動産、借金です。

【参考】中国経済「安定」の幻影 7~9月も6.7%成長(日本経済新聞)

公共投資、不動産、借金に依存する成長

中国経済は諸外国と比べて経済成長を投資に大きく依存する傾向があります。過去20年においては、世界の工場として民間企業による投資も盛んでしたが、人件費の上昇に伴い、外国企業が設備投資を行う優位性が薄れています。今年の1~9月期の統計においても、民間企業による投資は2.5%の増加に止まっています。

一方で、大きく増えているのが国有企業による投資やインフラ投資です。それぞれ1~9月において前年同期比20%前後の増加となっています。昨年チャイナ・ショックで一瞬後退しかけた経済を、政府指導の積極投資によりカンフル剤を打っている状況です。

同じように、GDP成長の大きな部分を占めているのが不動産投資です。1~9月におけるマンションやオフィスの販売は、昨年同期比41.3%の増加となっています。特に北京や上海などの大都市で顕著だということです。

注目すべきは、中国の上場企業が今年上期に稼いだ利益・売上高増加の半分は不動産業によるものだということです。裾野の広い製造業などではなく、不動産に依存した経済体質が浮き彫りになっていると言えます。

Next: あのIMFやBISが「チャイナ・ショック」を警戒する理由とは?



IMFやBISは債務残高の増加に警鐘

さらに、企業や家計の借金依存がますます顕著になっています。収益性の低い国有企業の借金が膨らんで返済が困難になっているため、政府は借金を棒引きにして株式化するデット・エクイティ・スワップ(DES)を推進すると発表しました。国有企業の過剰債務は、銀行部門の不良債権として、中国経済を大きく揺るがすことになるでしょう。

同じように借金が膨らんでいるのが家計部門です。向かっている先は主に不動産です。価格が上がり続ける不動産を逃すまいと、無理に借金をしてでも不動産を購入しています。これは中国の個人投資家が、不動産価格の下落に見舞われたとたんに物件の売却もできなくなり、返済が困難になることを意味しています。これもまた、不良債権を通じて中国経済を不安定にさせるでしょう。

企業や家計の債務残高は、GDP比で2008年の147%から2016年3月時点では225%に急増し、統計に表れないものを含めるとさらに多いと考えられています。過去にこれだけ急速に債務残高が膨らんだ国は、必ずその後金融危機を経験しています。IMF(国際通貨基金)やBIS(国際決済銀行)は、債務残高の増加に対して警鐘を鳴らしています。

世界経済への影響は避けられない

債務の大部分は中国国内で完結しているため、日本のバブル崩壊のように国内問題で終わると見る向きもありますが、世界のGDPの16%を占め、経済成長の約1/3を牽引する経済が減速するようなことがあれば、実体経済を通じて世界の景気を悪化させるでしょう。

もちろんチャイナ・ショックが起きたとしても、リーマン・ショックがそうであったように、長い時間をかけてもとの経済状況に持ち直してくるでしょう。そう考えると、ショックはバリュー投資家にとってまたとないチャンスと言えます。

しかし、実際にショックが起きるまでは、これから起きるであろう大きな動きのことを頭に入れて投資に臨まなければなりません。

つばめ投資顧問は相場変動に左右されない「バリュー株投資」を提唱しています。バリュー株投資についてはこちらのページをご覧ください。記事に関する質問も受け付けています。

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2016年11月2日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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