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【日欧EPA合意】「家電の関税撤廃」を日本が喜べない本当の理由とは?=児島康孝

日欧EPAの大筋合意が得られ、日本からの自動車や家電の輸出にかかる関税の撤廃・軽減が報じられました。一見、欧州の大きな譲歩に見えますが、実態は異なります。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)

どこに行けば日本製品があるのか? 欧州で知った悲しいリアル

日欧EPA(経済提携協定)大筋合意

日本と欧州連合のEPA(経済連携協定)が大筋合意と報じられています。各社の報道を見ますと、欧州からの輸出は、ワイン・チーズ・豚肉などの関税撤廃や低減。日本からの輸出は、自動車・家電・日本酒の関税撤廃や低減と伝えられています。

協議を見ていて、欧州は自動車や家電などで大きく譲歩しているように感じます。日本製の自動車や家電の輸出で、欧州から反感をもたれないのか?と思いますね。

しかし、日本から見た場合と、欧州の現実は大きく異なるのです。

「欧州の現実」を日本人は誤解している

日本国内と世界(おもに欧米)を比較した場合、いくつかの誤解が存在しています。

海外の都市の方が日本より進んでいるだろうとか、欧米は資本主義的で、日本は社会主義的だとか、日本製品(メイドインジャパン)は世界を席巻しているなどです。

海外生活が長い方は実感されていると思いますが、これは実は逆なんです。

  1. 東京など、日本の大都市のインフラは、実は世界一クラス
  2. 低所得者への給付は、欧米の方が手厚い
  3. 日本製品は、(とくに欧州では)ほとんど存在感がない

日本には、優れている面と、そうではない面の両方の側面があります。ここまで書きますと、読者の方はピンときたでしょう。つまり、欧州では(特に一般生活者において)、日本製品が脅威となっていないというわけです。

欧州で、日本車や日本の家電の関税を撤廃・低減しても、そもそも欧州では日本製品の存在感がほとんどないので、市場を奪われるとか、そういう感覚が欧州の一般人には全くないのです。

Next: 「日本製」などどこにもない。フィンランドの首都ヘルシンキの現実



ヘルシンキの百貨店に日本製品はあるのか?

例えば、フィンランドの首都ヘルシンキの街や家庭の場合は、こんな感じです。

ヘルシンキの中心部には、老舗の百貨店「ストックマン(STOCKMANN)」があります。茶色の建物が印象的で、日本の進んだ百貨店と比べても違和感はなく、日本人にとっても快適な百貨店です。この百貨店では、デザインが良い生活家電を販売しています。

最近は日本で「蔦屋家電」が話題になりましたが、あのような感じですね。百貨店に家電販売コーナーが違和感なくあるのです。

トースターとかパン焼き器とか、またパソコンなども売っているのです。デザインに優れた欧州だけあって、製品はどれも厳選されています。色や形、飾りでも、家に置きたくなるようなお洒落な感じです。

さて、このヘルシンキの百貨店では、どこの国が作った製品を売っているのでしょうか?

まず、売っているパソコンは…レノボ(中国)です。ヘルシンキの「ストックマン」も売り場は無制限ではありませんので、値段と使い勝手で、生活にふさわしい製品を厳選して展示・販売しています。

いろんなメーカーの製品をたくさん置いているのではなく、吟味して、生活にフィットするものだけを展示・販売しているのです。この辺りは、北欧の「じっくり吟味して考える」という国民性そのものを反映しています。

そして、選ばれているのは、レノボ(中国)のパソコンなのです。

続いて、トースター、レンジ、オーブンも見てみました。ジューサー、泡だて器などもいろいろと見て回りましたが、それが、日本製品がまったく無いのです。おそらくフィンランドの人は、日本の家電製品を見たことがないでしょう。

すべての展示製品のデザインや色が良いので、ちょっと日本製品を並べたとしても、デザイン性で見劣りするかもしれません。

こうした中、「KENWOOD」の製品をみつけました。デザインの洗練度を見ると、他の製品に比べて、2番手という感じがします。日本のデザインだからでしょうか。オーディオ機器の会社が生活家電でがんばっていたのね!と思ったのですが、実は日本のKENWOODとは無関係でした。英国系の同名企業で、生活家電(キッチン用品)の会社なのです…。

ということで、ついに日本製の家電製品はまったく見かけなかったのです。ショッピングセンターなどでも、サムソン(韓国)のスマホやタブレット販売店は見かけるのですが、日本の製品はまったくありません。

Next: フィンランド一般家庭での「メイドインジャパン家電」利用率は?



フィンランドの一般家庭はどの国の家電を使っているのか?

次に、家庭の中にある家電製品を見てみましょう。全自動洗濯機は、LG(韓国)です。これはどの家でも、おもしろいようにLGばかりを見かけます。また、ジューサーなどキッチン関係の家電の取り揃えはどの家庭でも多いのですが、日本製品はまったくありません

そして、テレビ。テレビは、わりと大型のタイプが多いです。フィンランドの家は家具が少なく、面積よりも広々としているように感じるのですが、テレビは大きいものを置いている家庭が多いです。これも、日本製ではありません。圧倒的に、韓国のサムスンが多いです。

ということで、ヘルシンキの人が見かけたり使っているのは、外国のものでは、中国か韓国の家電製品です。

モノを厳選して吟味する国民性であり、念入りに価格や使い勝手で選抜されたのは、日本製品ではなく、韓国製品や中国製品だったということです。

また、自動車も似た状況です。日本車はほとんど見かけません。たぶん、デザインが重視されるのでしょう。

ということで、日本人は、日本製品が世界で評価されてよく使われていると思っていますが、そうではないということです。

日本の大都市のインフラが、実は世界のトップクラスであるという反面、日本製品が世界で評価されて使われているというのは、実は「幻想」となっているのです。

ヘルシンキで見かけた唯一の「日本」

ヘルシンキで唯一、日本風でがんばっている感があるのが、寿司店です。フィンランドの寿司店は、ほかの海外各国にある寿司店とは異なり、日本人が食べてもかなり美味しいのです。

ショッピングセンターでも、10ユーロから15ユーロぐらいで、本格的な美味しい寿司を楽しめます。これが、唯一の「日本風」の例外です。他には、街を歩いても、ショップに入っても、まったく日本的なものを見かけません。これが欧州の現実です。

ですから、欧州がEPA(経済連携協定)で日本製品の関税を撤廃・低減しても、欧州の一般の人からは文句が出ない。そもそも、日本製品を見かけることがほとんど皆無、というのが欧州の状況なのです。

ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2017年6月10日)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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