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強烈なドル高・株高・金利高。「トランプラリー」はどこまで続くか?=藤本誠之

円安基調が続けば、日経平均の予想EPSが上がりやすくなります。さらにEPSが少し増えて1200円になるとすれば、年末の日経平均は18000円以上か、さらなる高値もありそうです。(『グローバルマネー・ジャーナル』藤本誠之)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2016年11月16日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※11月10日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております

プロフィール:藤本誠之(ふじもとのぶゆき)
SBI証券 投資調査部シニアマーケットアナリスト、ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座講師。「相場の福の神」として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌など多数のメディアで人気を集めている。

ドル高進行、日経平均は18000円越えからさらに高値追いも

トランポノミクスが跳ね上げた相場要因とは?

11月の注目ポイントは、やはりドル円相場、そして、トランポノミクスと言われるトランプ次期大統領の影響でしょう。

ドル円の動きを見ると、直近の高値を上抜け、106円に近づいています(※編注:本稿作成時点)。こうしたドル高の最大の理由は、アメリカ10年国債の利回りの推移にあります。10年債利回りはこれまでじわじわと上昇していましたが、選挙後大きく跳ね上がりました。これはトランプ氏が次の大統領に決まったことで、今後財政出動により債務が増えていくと考えられ、アメリカ国債が多く発行されるとの予想から、債券価格が暴落、利回りが大きく上昇したというわけです。

アメリカの金利が上昇した一方で、日本では、日銀が金利を操作して10年国債の金利を0%近辺に釘付けするという政策をとっているので、金利に大きな変化はなく、ずっと横ばいを保っています。日銀の政策が続く間は、こうした動きが続くでしょう。

アメリカは一旦金利が上昇し、しかも今後12月には利上げでさらに上昇する可能性があり、日米の金利差は、一方は2%超、一方はマイナス金利と、2%以上の開きとなります。日本国債を買うよりはアメリカ国債ということで、円からドルに資金が流れやすい状況と言えます。このことから為替もドルが大きく上昇する可能性があると言えるのです。

また、トランプ氏関連で言えば、アメリカには、例えばコカ・コーラのようにアメリカの企業でありながら各国で展開する多国籍企業が多いわけですが、そうした企業の中には日本などで稼いだお金を現地に置いている企業も少なくありません。しかし今回トランプ氏は、アメリカにその資金を戻した時には税金をかけないとして、資金を戻すよう促しているのです。

アメリカの国際企業は内部留保がかなり多く資金が留まっていて、それらを戻すときには、現地通貨を売ってドルを買うことになります。それにより、ドル高円安、ドル高現地通貨安ということが起こるのです。今回トランプ氏の当選でリスク回避の円高に走ると予想されていましたが、一定のところで止まったということが非常に注目だと思います。この円安基調は今しばらく続くだろうと思います。

このように円安基調が続けば、日経平均の予想EPSが上がりやすくなります。予想EPSは去年の11月30日の1275円から、様々な企業決算の発表や資源価格の暴落等により特損が出たことで、一旦1091円まで下がりました。その後また上がり始めて少し戻してきている状況です。この上昇はやはり為替の影響が大きいだろうと思います。大きな流れを見てもドル円が80円から120円まで円安になり、そこから100円まで円高となった動きに伴って、EPSが上下しているのは明らかなので、今後円安が続けば予想EPSは上昇が期待できるでしょう。

今回ピークを迎えた中間決算も、企業業績は当然明暗が分かれていますが、輸出関連企業はこれまで110円に置いていた想定為替レートを、104円、105円へと変更しています。足元の106円ほどの円安水準により業績下方修正懸念はかなり遠のくと言えるでしょう。さらに円安が進めば、上方修正の可能性すら出てきます。

日経平均の動きは、PER15倍を真ん中として上下10%を動いていますが、15倍以上買える水準のときは、今後企業業績が良くなり、EPSが増えそうな時だといえます。EPSが減る可能性があるときは業績の下方修正が予想され、15倍を割れるというわけです。現状、100円台半ばほどの水準であれば、ちょうどど真ん中であり、15倍の水準までは買われるとみられます。さらにEPSが少し増えて1200円になるとすれば、日経平均は年内に18000円以上のところまで十分上昇余地があるとみられます。さらに一段と円安が進めば、さらなる高値もあると思います。

Next: トランポノミクスのポジティブ面とネガティブ面を整理する



トランポノミクスのポジティブ面とネガティブ面

市場では「もしトラ」と言われていましたが、「まじトラ」となり、次期大統領にトランプ氏が決定しました。トランプ氏の主張は、“Make America great again” “Make America safe again” で、実はレーガン元大統領と同じなのです。日本で言えば田中角栄氏と同じような感覚なのだろうと思います。

田中角栄氏は土建屋でトランプ氏は不動産屋、田中角栄氏の日本列島改造計画と同様に、アメリカ大陸改造計画で、インフラ投資が全面的に出てきています。その一方、税金を下げようとしています。これらを見ると、トランプ氏は自分が儲かるように主張しているのだと思います。自分のビジネスが儲かるようにと法人税率を下げ、またインフラ投資をすれば利便性が高まり不動産の価格は当然上がります。いろいろなことを言っていますが、ビジネスを支援する政策となっており、大企業にとってはプラスと言えるかもしれません。

他にも主張の中には、1100万人の違法移民を送り返すなどという無謀なものもありますが、Dodd-Frank法を廃止するといった規制緩和も取り入れています。今まで経営の足かせとなっていた規制を緩和して、企業の成長力を高め、併せて減税も行えば従業員への配分も当然増えます。さらに従業員がもらったお金の所得税率も下げることで、アメリカの消費を拡大する方向へと動くのです。

ただし、このような主張をすると、その結果債務の増加が予想されます。減税して収入が減り、インフラ投資で支出を増やすわけで、当たり前ですが借金が増えるのです。試算ではアメリカの政府債務は10年間で5.3兆ドル増えるとされています。オバマ大統領がかなり絞ってきたので多少無駄遣いをしてもしばらくは保つでしょうが、それがなければ非常に難しい状況です。

トランポノミクスはポジティブな面も大きく、企業にとっては大幅な減税で一株利益が増えることになります。同じ利益でも減税があれば手元に残るお金が増えるわけで、当然企業業績にとってはプラスと言えます。大規模なインフラ投資も景気の回復につながり、規制緩和も企業業績にとってはプラスとなります。今のところ市場はこのプラスの面を大きく見ていると思います。

一方、ネガティブな面は、TPPに反対するといった保護主義政策です。NAFTAはよりアメリカに有利になるように再交渉し、TPP交渉は停止すると言っています。アメリカが復活するためには日本からの車を買わずにアメリカの車を買うべきだとしていて、こうした保護主義的なところは日本の自動車業界にとっては大きなマイナスとなるかもしれません。

また不法移民などの問題もあります。メキシコに工場を作りアメリカに輸出すれば、メキシコの安い労働力が使われることになります。本来はアメリカで作ればアメリカ人の雇用につながるはずですが、それが流出してしまっているので、アメリカで生産したものを買うべきだとしています。移民により安い労働力が流入するのも防ぎ、海外の工場で現地の雇用が増えるのも防ぎたい、これも保護主義的な考えで、マーケットにとってはネガティブだと思います。

さらに化石燃料重視の面もあります。トランプ氏は石炭産業を取り戻すと言って地方での得票につながったと言われています。これはクリーンエネルギーの後退につながります。CO2など環境の問題がいろいろあるものの、せっかく石炭が出ているならそれを使えば良いと言うことなのです。環境よりもアメリカの状況を一番に考えると言うのです。

Next: トランプ氏は「二期目」を考えていない可能性が高い



トランプ氏は「二期目」を考えていない可能性が高い

ただ、トランプ氏は現在70歳で、このまま無事に1月20日に就任となれば、史上最高齢での大統領就任となります。二期目があるならば74歳で選挙を戦い、75歳から78歳まで務めることになります。激務であるアメリカ大統領をその年齢で務めるのはさすがにしんどいと思われます。ましてや全米を飛び回って毎日移動しながら演説をし、選挙戦を戦うのはもっと大変です。その点から、トランプ氏は二期目を考えていないのだろうと思います。

普通は二期を考えるわけですが、その場合、自分が言った政策を実行できなければ二期目は落選してしまいます。オバマ大統領も二期目の選挙はかなり苦労したと思います。その点トランプ氏は二期やるつもりはないと思われ、次の大統領を考える方向になるはずなので、政策も大統領になってみたらやれなかったということも十分あり得ます。

結局トランプ氏はビジネスマンなので、選挙に受かるためにいろいろなことを言ってきたのではないでしょうか。受かってしまえば自分に有利なように進めるだけなのです。そもそも富裕層であり大起業家なので、実際は企業にメリットがあるような政策を打ってくるというのが今の期待になっていて、株価の上昇にもつながっています。

確かに今のアメリカの閉塞した状況を打開するにはクリントン氏よりもトランプ氏の方が良かったのかもしれません。ネガティブな面もありますが、実際は言っているだけで、それほどのことにはならないと思います。政策は大統領だけで決めることは難しく、結局は議会がついてこないと何もできないのです。

共和党議会と言っても、反トランプ派の人もたくさんいて、議会とも折り合いをつけていくことになるので、割と現実的なことをしてくるのだと思います。トランプ氏の政策によって、極端に日本株にとってマイナスとはならず、逆にアメリカが復活すれば、それによって収益の上がる銘柄も出てくるだろうと思います。

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グローバルマネー・ジャーナル』(2016年11月16日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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