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レオパレス21集団訴訟を起こしたLPオーナー会・前田和彦代表

突撃取材「家主の私がレオパレスを訴えた理由」集団訴訟はなぜ起きたか?=姫野秀喜

レオパレス21(以下「レオパレス」)でアパートを建築したオーナーで結成された「LPオーナー会」が中心となり、2016年11月25日、レオパレスを相手取った「集団訴訟」が始まりました(※「LP」はLong Peaceの略)。

テレビのCMでもお馴染みですが、レオパレスのアパートの特徴は、家具・家電付きであることです。入居者にとっては、テレビや冷蔵庫などの購入費用が抑えられるため、メリットの大きい仕組みと言えます。

実は今回、物件のオーナーらが起こした集団訴訟は、この「家具・家電」にまつわるものです。本稿では、今回の訴訟の中心となったLPオーナー会の前田和彦代表にお話を伺い、レオパレスの抱える構造的な問題点や、サブリース(物件の一括借り上げ・家賃保証)契約のリスクについて検証していきます。(『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』姫野秀喜)

プロフィール:姫野秀喜(ひめの ひでき)
姫屋不動産コンサルティング(株)代表。1978年生まれ、福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円超え企業の会計・経営計画策定などコンサルティングに従事。合間の不動産投資で資産1億円を達成し独立。年間100件以上行う現地調査の情報と高い問題解決力で、顧客ごとに戦略策定から実行までを一貫してサポートしている。

「家賃保証は幻想だ」オーナーらが告発するレオパレスの罠とは

129名のオーナーが大結束!「レオパレス21集団訴訟」が始まった

通常、レオパレスのアパートオーナーは、「家具・家電総合メンテナンスサービス」(以下「レンタル契約」)を契約しています。

これは「家具・家電」をレオパレスからオーナーがレンタルする契約であり、レンタルした「家具・家電」は、レオパレス側の費用負担で定期的に(7~14年)新品に交換してもらえるという内容でした。

一見すると妥当な内容の契約ですが、そこに問題が潜んでいました。契約年数が経過しているにも関わらず、家具・家電が新品に交換されないケースがあるというのです。

何十年も使用できるアパート本体と異なり、家具・家電は5~10年くらいで買い換えるのが普通でしょう。物件の条件にもよりますが、家具・家電が新品か中古かで、客付けに大きな差が出ることは、不動産投資をやっていない人でも簡単に想像できると思います。

しかも、家具・家電が新品になっていないにも関わらず、オーナーは毎月一戸あたり2,000円のレンタル料を天引きされ続けているのです。

ちなみに、一般的な不動産の管理料は、賃料の5%程度(東京近辺)が相場です。家賃が50,000円なら2,500円、家賃が20,000なら1,000円くらいになります。家賃相場が高い都心エリアであれば問題ありませんが、家賃が安いエリアで、毎月一戸あたり2,000円のレンタル料を支払い続けると、手取りはかなり減少することが想像できます。

LPオーナー会代表の前田和彦氏は、2014年8月から2015年4月にかけて、契約の年数を経過した家具・家電について新品に交換するようレオパレスに要請しましたが、その回答は期待した内容ではなかったと言います。

レオパレス側の回答(分かりやすく要約しています)は、

というものでした。

そのため前田氏を含む多くのオーナーが、2015年12月と2016年6月の二度にわたり、家賃からレンタル料として天引きされた金額分の「未払い請求」を行いました。それでもレオパレス側からの回答が変わらなかったため、集団訴訟に踏み切ったのです。

今回、LPオーナー会のメンバーを中心に129名(請求総額は約4億8,684万)が一致団結しての集団訴訟となったことで、同様の問題に頭を痛めているオーナーが他にも多数いるであろう実態が浮き彫りになったと言えます。

「レオパレスファンだった」前田氏が裏切られ、戦いを決意した最初の事件

それまでレオパレスを信じていた前田氏が、なぜ、LPオーナー会を立ち上げ戦おうと決意したのか、そのきっかけは意外なものでした。

「LPオーナー会は、今回のレンタル契約ではなく、別の問題がきっかけとなって発足しました。それは太陽光発電です」

もともとはレオパレスのシステムを好意的に見ていて、営業に来るレオパレス社員との人間関係も良好だったと語る前田氏。かつては、レオパレスが発行するオーナー向け雑誌『クラスL』に掲載されるほどの信頼関係があったと言います。

しかし、前田氏が所有するアパートに太陽光発電を取り付けるための「見積もり」がきっかけとなり、その信頼関係は崩れていきました。ことの発端は、レオパレスの見積もりが、市価の5割くらい高いものであったことに始まります。

自身も建築設備士の資格を持つ前田氏は、太陽光発電設備の原価を知っているため、レオパレスの見積もりを「ちょっと高すぎる」と考えました。

前田氏「レオパレスは我々など恐るるに足らず、と高をくくっていたのかもしれません」※左は筆者

しかし、レオパレスのことを好意的に見ていた前田氏は、できることならその業績にも貢献したいという思いで、太陽光発電の値引き交渉ではなく、補助金を使った工事費の削減を試みます。

「この補助金を受ける条件は、母子家庭や身体障害者など、入居が困難な方や困っている方への賃貸募集をすること。コスト削減のみならず、社会貢献にもなると考えました」

当時、前田氏のアパートには対象となる空室が6室ほどあったため、この6室分をもって困っている方への賃貸募集と補助金の申請を行おうとしたのです。

ところがその矢先、これまでずっと空室だった6室すべてで突然、入居者が決まってしまいます。空室がなくなったため(本来であれば喜ばしいことですが)、補助金の申請もできなくなりました。

そこで、困った前田氏は地元の業者をあたります。何とか安く工事してもらえないかと依頼したところ、ついに納得のいく価格を提示する工務店を見つけることができました。そのまま、その工務店に工事を発注してもよかったのですが、それでも前田氏はレオパレス側の営業業績にこだわり、レオパレス経由で工事を発注することを考えました。

具体的には、地元の業者にお願いして、

オーナーレオパレス地元業者アパート工事実施

という形で、レオパレスのためのマージンを100万円ほど上乗せして工事を行いたいと申し出たのです。

ところがなんと、この申し出はレオパレスから断られてしまいます。同時に、突然入居が決まった6室の住人も3ヶ月で退去し、また空室になってしまいました。

レオパレス側責任者H部長との対話

それでも諦めない前田氏は、レオパレスへの熱い想いを伝えるため、レオパレス側責任者のH部長との対話を申し出ます。しかし残念なことに、この対話が新たな軋轢を生むことになるのです。

前田氏は、H部長の予定に合わせわざわざ出向いて行ったその席で、「大量発注できるはずの大手(レオパレス)の太陽光発電が市価の5割も高いのはなぜか」と質問をぶつけましたが、レオパレスは取り合わず、ただ「工事費が高いんだ」と居直りの姿勢でした。

前田氏は、度重なるレオパレス側の対応に業を煮やし、LPオーナー会を立ち上げることを決意したと言います。2013年11月1日の夜から約2日間、徹夜でLPオーナー会のホームページを作成し、責任者H部長と再度対話を行いました。

しかしそれでも責任者のH部長は、前田氏に対して表面上の謝罪をするのみで、太陽光発電について誠意のある回答はありませんでした。LPオーナー会のホームページを示し、オーナー側が結束して戦う意思を見せても「やれるものならやってみろ」という態度。

前田氏は激怒します。

「オーナーの多くは高齢でインターネットに疎いため、レオパレス側は、LPオーナー会のホームページなど恐るるに足らず、と高をくくっていたのかもしれません」

反撃

インターネットでホームページを見ることができないオーナーに、直接訴えるにはどうすればよいだろうか?前田氏はその方策を考え、地道にそして迅速に活動を開始します。

まずはレオパレス物件の住所から、法務局登記情報を調べ上げました。その数なんと2万3000棟。同時に、LPオーナー会のパンフレットを作成し、日本全国のオーナーにそれを送付しました。

登記情報自体は法務局(オンライン申請も可)で誰でも調べることが可能ですが、1件あたり300円ほどの費用がかかります。登記情報調査の費用、パンフレットの印刷代、発送費用等、これらの活動により前田氏の退職金はほとんどなくなってしまったと言いますから、相当の出費です。

このように前田氏がたった1人で身銭を切って始動したLPオーナー会は、2014年1月に正式発足。日本全国で今年7月までに61回の説明セミナーを実施し、今では多くのオーナーから支持されるに至りました。

そして全国のレオパレスオーナーから前田氏のもとに、様々な問題点が寄せられはじめたのです。

Next: 全国から悲鳴殺到! レオパレスオーナー「7つの悪夢」



全国から悲鳴殺到! レオパレスオーナー「7つの悪夢」

全国のオーナーたちから寄せられる生の声は、サブリース(※)のみならず、従来の不動産営業そのものに対し根本的な疑問を提起するものばかりです。
※「サブリース」とは、業者が物件を一括で借り上げ、入居者に転貸(又貸し)すると同時に、オーナーに対して空室期間中も一定の家賃収入を保証するしくみのこと。

1. 強引すぎる営業スタイル

とあるオーナーの話では、かつてレオパレスの営業マンは、土地を持っている農村をマイクロバスで訪問して回っていたと言います。気の良い農家の軒先に上がり込んでお茶を飲み、話をしたら最後、契約をするまで帰らない

「玄関で門前払いできる気の強い人は大丈夫だが、家に上げてしまうと大変なことになる」というのが、このオーナーの感想です。

2. 悲劇的な「サブリース解約」

リーマン・ショック後の2009年、「終了プロジェクト」と呼ばれる、レオパレスのサブリース解約プロジェクトが始まり、すさまじい解約交渉が行われました。

全国のLPオーナー会セミナーでも、オーナーから数多くの悲鳴が上がっており、あるオーナーは鬱病になり入院したところ、その病院にまで営業マンが来て契約をさせられたと言います。

別のオーナーは、減額交渉に応じるまで家から帰らないと言われ、仕方なく契約に応じたという話もあります。

また、東日本大震災の後、茨城県のあるオーナーは、地盤沈下で何千万円もの修繕費用をレオパレスから請求され、支払えなければサブリースは解約されると言われました。

この修繕費用は物件を新築できるほど巨額であり、さすがに高すぎるため地元の業者に見積もりを依頼したところ、レオパレスによる請求額の3分の1になったとのことです。

3. レオパレスを増長させた「借地借家法」の欠陥

あるオーナーは契約で「10年間、家賃は固定」とあるので安心していたが、契約を無視してサブリースの減額交渉をされてしまったそうです。

なぜレオパレスは、契約を無視することができるのでしょうか?それは、現行の借地借家法が極めて借主に有利にできているからです。

借地借家法に基づくと、「10年間、家賃は固定」というのは借主に不利な条件のため、たとえ契約書に記載されていても無効になってしまうのです。

このオーナーは、レオパレスの営業マンから「減額しなかったらサブリース契約を解約する」と言われ、しぶしぶ減額を了承したとのこと。

サブリース問題のみならず、「家余り」の時代にそぐわない、あまりにオーナーに不利な借地借家法の改善が必要ではないでしょうか?

4. 「家賃保証」の幻想を生み出した営業トークと固定観念

ほとんどのオーナーは、30年間、家賃は下がらないと思い込んでいました。

これはもちろん幻想なのですが、最初10年間の家賃固定の契約があることで、「家賃は下がらない」という固定観念を持ってしまっているオーナーが多いとのことです。

それに加えて、家賃はずっと下がらない、という趣旨のレオパレスの営業パンフレットや収支シミュレーション、営業マンの言葉をそのまま信じているという方も多いと言います。

ちなみにLPオーナー会の前田氏自身は、レオパレスとサブリース契約をする際に、30年間家賃は下げないという営業マンの言葉を書面にし、レオパレス社長押印済の覚書きを取り交わしたそうです。

Next: サブリースを解約されるとすべての部屋が空室になるカラクリ



5. 最大の問題は「自分で調べて物件を建てる」プロセスがないこと

レオパレスでは、自分で調べて物件を建てるというプロセスがありません。

通常、賃貸アパートを建築する際は、1LDKにするか2LDKにするか等の間取りの選定や、その地域のニーズ家賃相場などを自分で検討します。

しかしレオパレスの場合、間取りは決められており、地域のニーズに合っているか、家賃相場は適正かなどの検討をオーナーが行うことも少ないのです。

そのため、事業計画にある想定家賃と実際の相場との違いに気がつかないまま契約してしまい、(周辺の家賃相場が低いため)数年後に大幅な家賃減額を受け入れざるを得なくなる、というケースもあるようです。

本来、難しい事業計画を検討しなくても賃貸経営ができることがメリットであったはずの「サブリース」が仇となり、自分で建てる、自分で調べるプロセスが欠如した結果、多くの問題が生み出されていると言えます。

6. サブリースを解約されるとすべての部屋が空室になる!

サブリースを解約されると、その物件はオーナーが自分で管理しなくてはならなくなるのですが、その際は多くの物件が「全空(すべての部屋が空室)」になると言います。

中にはそこに住み続けたいという入居者もいるので、すべてではありませんが、基本的に解約時は空室になり、住民は近隣の別のレオパレス物件に移動するそうです。

もちろんオーナーは困ってしまいますが、入居者の連絡先を知らないので為す術がありません。

サブリース解約後の「全空」を避けるため、あるオーナーは、夕方の数時間アパートの前に立って、入居者が帰宅するのを待ち、直接交渉しなくてはいけませんでした。また別の高齢オーナーは、サブリース解約後に別の管理会社を探すことが難しく、半年間も管理会社を見つけることができませんでした。

仮に半年間、そのアパートが全部空室だったとしたら、銀行への返済などで大変苦労されたと思います。

私(姫野)自身も、レインズでレオパレスのアパートが売りに出ているのを時々見かけるのですが、「引き渡し時には全空になる」との注意書きが存在する理由がやっと分かりました。

7. 建物メンテ契約に「オーナー所有ではない」ガス設備が含まれている

通常、レオパレスオーナーは、「建物メンテナンス」と呼ばれる契約を行っているそうです。これは毎月一定の金額(平均して家賃の約7%)を支払って、建物や付帯設備をメンテナンスしてもらう契約です。

ところが、そのメンテナンス対象になっているプロパンガスの設備が、オーナー所有ではなかったそうです。

一般的にガスを契約する場合、都市ガスであれば設備はオーナーが自費で購入しますが、プロパンガスの場合はプロパンガス会社が無償もしくは権利金(キャッシュバック)付でレンタルする場合が多いのです。

そしてレオパレスの物件では、ガス会社の所有で多数、プロパンガス設備が導入されていました。オーナー自身は、まったくそのことを理解しておらず、プロパンガス設備も当然自分の所有だと信じ込んでいたようです。

ここで問題になるのは、毎月費用を支払っている建物メンテナンス契約の対象に、自分の所有ではないプロパンガス設備が入っていることです。

レオパレスのプロパンガス設備は、メンテナンス対象に含まれるべきものか、外されるべきものか。LPオーナー会では、この問題についても引き続き対応していくとのことでした。

Next: 諸悪の根源?「サブリース」の本当のメリットとデメリットを検証する



諸悪の根源?「サブリース」の本当のメリットとデメリットを検証する

ここまでは、今回のレオパレス21集団訴訟の中心であるLPオーナー会の前田氏にインタビューした内容を要約してお届けしました(お忙しい中取材にご対応いただき、誠にありがとうございました)。

さて、ここからは、「なぜ一部の不動産投資家はサブリースを使うのか?」「サブリースを使う派、使わない派の投資家は、それぞれどのような考えを持っているのか?」について、実際の投資家さんにインタビューした内容をご紹介します。

問題点が多そうなサブリースですが、まずは「使わない派」と「使っている派」両方の意見を聞いてみましょう。

サブリースを使わない派の意見

なぜサブリースを使わないのか?

・契約を解約すると全部空室になるかもしれないし、将来的に家賃を下げられそうで怖いから、サブリースが入っている物件の購入は避けている

・仮に周辺の家賃相場が下がっていなくても値下げを要求されそうで怖い

・サブリースだと、自分の裁量で賃貸経営ができなくなるので面白くない

・投資は無駄なコストをそぎ取って最大限に利益を追求する行為。サブリースはその投資の原則に反している

低需要エリアにサブリース物件を建設・購入してしまったらどうするか?

・そもそも需要のないエリアに物件を建設・保有した場合、どうやっても損失が出そう

・万一そういう物件を買ってしまったら、損をしてでも売る「損切り」を行い、高い授業料だったと思って自分を納得させるしかない

いずれもシビアな意見です。LPオーナー会でのインタビューにもありましたが、家賃減額や「全空」になるリスクもきちんと把握されており、さすが不動産投資家の意見だと思います。

インタビューする前から何となく分かっていましたが、やはり積極的に動いている不動産投資家の方は、自分の裁量で賃貸経営ができなくなるサブリースを好まないのですね。私自身も、自分で動きたい人間のひとりです。

では次に、実際に現在サブリースを使っている方の意見を見てみましょう。

サブリースを使っている派の意見

なぜサブリース契約を行ったのか?

・知識のない頃に投資を始めたため、他の選択肢を知らなかった

・サブリースの物件を購入する際に、初期費用が不要で買いやすかった

・(年収が2,000万円以上あり)節税目的で購入した

サブリースの良いところは?

・賃貸経営はあくまでサブであり注力したくない。本業のビジネスに集中したいため、面倒なことをすべて任せられるサブリースは便利だと考える

・賃貸経営のノウハウがないため、サブリースが楽だと考えた

・銀行の融資が通りやすい

サブリースを使っている派の方は、基本的に不動産投資はサブで、お任せしたいという思いがあります。本業が忙しく、また十分なお金を稼いでいるので、不動産に意識や時間を割きたくないということです。

使わない派と大きく違うのは、サブリース物件購入の目的に“節税”が挙がっていることです。資産形成やキャッシュの充実が目的ではないため、サブリースに係るコストに寛大な傾向があります。

不動産投資をやっていると、とかく敬遠されがちなサブリースですが、人によってはちゃんとそのメリットを享受しています。そういう意味で、仕組みそのものに良い悪いはなく、自分自身がどちらの立場で不動産と付き合っていくか、それが重要だと思います。

Next: どちらがお得?「通常の賃貸経営 vs サブリース契約」のチェックポイント



どちらがお得?「通常の賃貸経営 vs サブリース契約」

それでは、通常の賃貸経営とサブリースはどちらが良いのでしょうか?それぞれの特徴を比較しながら、先入観を捨てて見ていきましょう。

通常の空室対策(入居付け) vs サブリース(家賃保証制度)

空室対策(入居付け)には、「事前の対策」と「事後の対策」があります。まず、通常の場合、「事後の対策」には以下のようなものが考えられます。

などなど、要は工夫次第で何でもできるということです。

それに対してサブリースでは、基本的にこのような工夫をすることができません。なぜなら、大家はサブリース業者と賃貸借契約をしているわけで、サブリース業者が行う空室対策(入居付け)に口出しすることはできないからです。

さて、上記は「事後の対策」でしたが、本当に大事なのは「事前の対策」です。「事前の対策」は、物件を購入(建築)する前に行います。

通常の賃貸経営では、常に空室になるリスクが存在します。特に3月や9月など節目の時期は、転勤や卒業などがあるため空室が発生しやすくなります。そのため賃貸経営では、空室について以下の点をあらかじめ検討しておく必要があります。

これらを言い換えると、その物件があるエリアの需要を調査するということです。つまり「事前の対策」のキモは、起こりうる空室に対してマーケットの中でちゃんと対応可能かをあらかじめ調査することなのです。

このエリアの需要調査は、サブリースを利用する場合でも同様に行わなくてはいけません。

しかし残念なことに、サブリースを利用する人の大半は、物件購入前の需要調査を行わない傾向にあるようです。

空室になっても業者が家賃を保証してくれるため、ついつい脇が甘くなってしまうだけでなく、サブリースを利用する人は、そもそも賃貸経営のノウハウを知らない人が多いからだと思います。

私は、大家さんとして最初の何棟かは、家賃保証をつけずに、自分で通常の空室対策(入居付け)をすることをオススメしています。

最初からサブリースを利用すると、事前の空室対策の大事さや、事後の空室対策のやり方を学ぶ機会を失ってしまうからです。サブリースを利用するのは、事前・事後の空室対策などを経験してからでも遅くないと思います。

Next: 「家具・家電を自分でメンテ vs メンテサービスを利用」軍配は?



家具・家電を自分でメンテナンス vs メンテナンスサービスを利用する

サブリース業者が実施しているような家具・家電付きのサービスに、一定の需要があることは確かです。

そこで、家具・家電を自分でメンテナンスする場合と、サブリース会社のメンテナンスサービスを利用する場合について比較してみます。

一般の賃貸経営では、家具・家電をつけることはあまりないのですが、エアコンなどは大家さんが準備することが多いので、エアコンの事例から考えてみます。

ある大家さんは、大手家電量販店でエアコンのセールがあると、そのセール品を10台まとめ買いするそうです。通常3万円のところセールで2万円になるだけでなく、取り付け工事費などが無料になるお得な時を狙って買います。

そして、壊れたエアコンや古いエアコンなどを、格安かつ取り付け工事費無料で交換することでコストを大幅に下げるそうです。

このエアコンのように、テレビ、冷蔵庫、洗濯機なども工夫して購入すれば、テレビは2万円、冷蔵庫は1万円、洗濯機は2万円で購入できます。これは決して無茶な金額ではなく、個人でも工夫すれば家電量販店などで新品を購入可能な金額です(家電は一人暮らしサイズを想定)。エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の合計で7万円くらいでしょうか。

一方、メンテナンスサービス月々2,000円などの固定費を支払います。7年に一度新品に交換してもらえるとして、期間中に支払うメンテナンスサービスの合計金額は約17万円です。

家電を自分で交換するよりも10万円くらい高いです。まあ、メンテナンスサービスは上記4つの家電だけではないので、それ以外の家電を含めると、その差はもう少し縮まるのかもしれませんね。

自分で清掃・修繕を行う vs 清掃・修繕サービスを利用する

サブリース業者に限らず、物件の清掃・修繕を行ってくれる管理会社は多いです。

テレビCMなどを行っている大手管理会社では、月々一戸あたり数千円の固定費を支払うことで、電球交換や水道パッキンなどの簡単な修理などを行ってもらえます。

清掃に関しても、多くの管理業者が小規模・中規模の賃貸物件向けに、一棟あたり月々5,000円から1~2万円のサービスを展開しています。

このサービスに関しては、使い方次第で善し悪しが決まると私は考えます。

例えば、物件が遠方にあって頻繁に清掃できない場合や、オーナーが超多忙であったり、高齢であったりして、清掃や修繕を自ら行えない場合などは積極的に利用すべきだと思います。

簡単な掃き掃除、ゴミ拾い、除草剤散布などを月に1~2回(除草剤は年に1~2回)実施するだけでも、物件の雰囲気は変わるからです。

割れたガラス窓を1つでも放置していると、次第に周辺のガラス窓も割られてしまうという “割れ窓理論”は、アパート経営においても完全にあてはまります。

数多くの物件を調査して分かったのですが、共用部の掃除が行き届いていない物件は、入居率も悪く、入居者の共用部使用マナーも悪いことが多いです。

これは、共用部をまったく掃除しないことで入居者のマナーが悪化し、ゴミのポイ捨てなどが常態化し、マナーを守る入居者に敬遠されるという悪循環を招いているからです。

少なくとも業者が月に2回以上、掃き掃除、ゴミ捨て、不法投棄物の廃棄などを適切に行っていれば、こういった悪循環に陥ることはありません。

ただ、可能であれば物件購入後、最初の頃は自分の手で掃除をしてもらいたいと私は考えています。

というのも自動車の洗車と同じように、掃除することで物件の細かなヒビ割れや、ペンキの状態などを把握できるからです。

新築であれば問題ありませんが、中古物件を購入したのであれば、どこかしら痛んでいるところがあるはずです。掃除をすることは、それらの問題箇所を早期発見するきっかけになります。

「物件のメンテナンスは掃除から」の心がけで、購入した物件の掃除を楽しんでみてはいかがでしょうか。

Next: 「サブリースの費用 vs 通常の管理費用」詳細な比較で見えてきた真実



サブリースの費用 vs 通常の管理費用

サブリースの内容によっても費用は異なるので、あくまで一例を見てみます。東京都内のある業者の場合、サブリースにかかる費用は以下の通りです。

空室時の免責賃料とは、空室になって最初の2ヶ月間は募集に時間がかかるから、その間の賃料は支払わないという内容です。つまり、空室が3ヶ月以上にならないと家賃がもらえないんですね。何のための家賃保証なのか、矛盾を感じます。

また、リフォームなどは指定業者のことが多く、自分で職人に発注してコストを抑えることはできません。指定業者の場合、割高になることも多いと聞きますので、相見積もりは必須でしょう。

リフォーム代は毎月引き落とされている場合と、リフォーム時に請求される場合とがあります。ただし、月々一定の金額をリフォーム用に引き落とされていても、修理代金が不足する場合は別途請求されることもあります。

清掃・管理費用とは、物件の清掃や電球の交換などを行うサービスです。これもサブリースの契約によりけりですが、契約必須の場合もあることが通常の管理と異なるところです。

次に、通常の賃貸経営(不動産屋に管理委託)の費用は以下の通りです。

シンプルでわかりやすいですね。

もちろん、空室になればその期間の賃料は入らず、リフォーム代がかかるわけですが、少なくとも強制的にリフォーム業者を決められたりしないので、工夫次第でコストを抑えることができます

このように、費用については圧倒的に通常の賃貸経営(不動産屋に管理委託)に軍配が上がります。

それでも、サブリースが最高に役に立つ瞬間とは?

さて、こうして見ると良いところがなさそうなサブリースですが、実は最高に役に立つ瞬間があります。それは、同族会社サブリースによる「相続税対策」です。

ただし、間違えないでいただきたいのは、これは外部の業者が行うサブリースではありません。あくまで同族会社とのサブリース契約のことです。

詳しい内容は、以前の私の書評に載せていますが、簡単に説明すると、

  1. 父親が土地・建物を所有
  2. それを同族会社とサブリースを結ぶ
  3. 父親の建物を子供に贈与する
  4. 将来、父親の土地の相続を行う

上記の順に手続きをすることで、土地評価減を獲得するという方法です。このやり方は、現時点でのサブリースの最も有効な活用法だと思います。
【書評】金持ちファミリーの「相続税」対策、ここを見逃すな=姫野秀喜

こうして考えると、サブリースという仕組みは本当に奥が深いです。

サブリースを契約する人は一般の消費者と異なり、事業者であると世の中から認識されます。それは消費者庁の保護から外れ、自己責任を追及される立場になるということです。

つまり、自分自身で事業を行っているという自覚を持って経営しなくてはなりません。

どんなに魅力的に見える投資案件でも疑ってかかる、第三者の意見を聞くという自己防衛の姿勢が必要なのだと思います。

医療におけるセカンドオピニオンの重要性が認識されつつあるように、不動産投資でも別の不動産業者に確認するセカンドオピニオン、サードオピニオンが必要なのではないでしょうか。

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年11月27日)
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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