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低迷フジテレビは誰のせいで「誰も観たくないチャンネル」になったのか?=栫井駿介

フジテレビの視聴率が低迷しています。かつて視聴率トップを誇っていましたが、近年は低下の一途をたどり、気がつけば主要局では下から2番目が定位置となってしまいました。凋落の元凶は一体何なのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

平均年収1,500万円はもう維持不可能?フジ凋落の元凶はやはり…

視聴率は下から2番目に低下。主要局で唯一の減収に

フジテレビと言えば、かつてバラエティ番組を中心に高い視聴率を誇り、テレビ業界のみならず一般的にも影響力の大きいメディアでした。朝の「めざましテレビ」、昼の「笑っていいとも」、夜の「めちゃイケ」をはじめとする番組が常にお茶の間の話題をさらっていました。

しかし、近年の視聴率はぱっとしません。ネット上でも、同局の視聴率低迷を伝えるニュースが連日のように取り上げられています。

視聴率の低迷は、数字にも明確に表れています。ゴールデンタイムの視聴率は2010年度までは首位に立っていたものの、その後日本テレビに抜かれると、あとはズルズルと滑り落ちていくばかりです。首位どころか、主要局では万年最下位のテレビ東京にすら抜かれてしまいそうなところまできています。

視聴率の低下は、スポンサー料の低下を通じて業績に如実に表れます。2011年3月期以降、景気の回復もあり各局が収入を伸ばす中で、フジテレビだけが下落を続けているのです。一度スポンサーが離れてしまうと、それを回復するのは容易ではないでしょう。

※放送・コンテンツ事業における収入をつばめ投資顧問が集計

さすがに危機感を覚えたのか、今年度に入りフジテレビジョン前社長の亀山氏が事実上の更迭となり、BSフジの社長だった宮内氏が社長に就任しました。同時に、長年同社を支えてきた日枝前会長は、代表権のない相談役に退いています。

日枝氏と言えば、2005年に当時のライブドア・堀江社長が起こしたニッポン放送株式買い占めによるフジテレビの敵対的買収問題の際に社長として陣頭指揮にあたった人物です。

当時、堀江氏は「テレビとインターネットの融合」を訴えて、フジテレビの経営権取得に乗り出しました。買収は失敗に終わりましたが、12年経った今考えると、すでにその時からフジテレビの凋落は始まっていたように思われます。

Next: テレビの衰退は時間の問題。なぜ「第二の柱」が出てこないのか?



テレビの衰退は時間の問題。不可欠となる第二の柱

テレビ業界は、かつて我が世の春を謳歌していました。高度経済成長期からバブル崩壊にかけては、テレビが流す画一的な情報が人々の共通の話題となり、世論にも非常に大きな影響力を持っていました。そこから多くのスターが生まれてきたことも事実です。

しかし、インターネットの登場により、次第に流れが変わっていきます。テレビに頼らなくても、必要な情報はいつでもインターネットから検索できるほか、様々なコンテンツがインターネット上に溢れるようになりました。人々はテレビを見ないでも時間を潰せるようになったのです

スマートフォンの普及やそれに伴う動画コンテンツの充実は、テレビにとってもはや直接的な脅威です。すでに、テレビは全く見ずに、YouTubeばかりを見る若者も増えています。その結果、「ユーチューバー」なるものも登場し、テレビスターのように多くのファンを獲得しているのです。

動画コンテンツの普及によるテレビの将来的な衰退は明らかです。どれだけの世帯がテレビをつけているかを表す「総世帯視聴率(HUT)」は、かつてゴールデンタイムで70%と言われていましたが、いまや60%にまで低下しています。これは疑いようのないトレンドです。

各テレビ局も手をこまねいているわけではありません。テレビ事業に加えて、新たな収益の柱を模索しています。

例えば、日本テレビはインターネット動画サイトの「Hulu」を買収し、動画コンテンツの育成に力を注いています。テレビ朝日は「AbemaTV」に出資、テレビ東京も自社コンテンツの配信を積極化しています。

コンテンツ関連だけではありません。TBSはテレビ局の本拠地である赤坂を中心に不動産開発を進めています。そのほか、テレビと親和性の高い通販事業を積極化する動きも見られます。

そんな中、最も関連事業比率が高いのがフジテレビを傘下に持つフジ・メディア・ホールディングス<4676>です。サンケイビルを傘下に抱え、都市部の不動産開発に余念がありません。不動産事業の業績はみるみる拡大してきました。

※決算資料をもとにつばめ投資顧問が集計

利益面においては、放送・コンテンツ事業の利益よりも不動産事業の方が大きくなっています。テレビ事業の衰退が止まらない中、グループとしては今や不動産会社が中核をなしていると言っても過言ではありません。

テレビでは苦戦するフジですが、グループ経営に関しては案外うまくやっているというのが今の現実と言えます。逆に言えば、不動産の利益があるからこそ、本業に力が入らないのかもしれません。

Next: フジテレビに欠けているのはズバリ「コンテンツ制作力」



インターネット時代に必要な「コンテンツ力」の欠如

不動産事業が好調でも、テレビ業界の衰退は待ったなしの状況です。今でこそ黒字を維持していますが、このまま視聴率が低迷してスポンサー収入が減少すれば、平均年収1,500万円もの高給取りを抱える同社が赤字に転落するのは時間の問題です。

フジテレビがここまで凋落してしまった要因は何でしょうか。私は、いまだに過去の栄光にとりつかれていることだと考えます。

フジテレビの番組を見ていてつまらないと思うのは、「昔から変わっていない」か「他局と似たような番組をやっている」からです。過去のコピペ(コピー&ペースト)か、他所のコピペです。要するに、新しいものを作る意欲が欠落しているのです。

ライブドア事件の際に、フジテレビは買収されることを拒み、新たな血を入れることをしませんでした。しかし、当時少しでも「テレビとインターネットの融合」を目指していたとすれば、今頃新たな境地を切り開けていたかもしれません。

インターネットの世界では、いいコンテンツを生み出せれば、たとえ最初に注目されなかったとしても、やがて拡散されて時間をかけてでも世界中から多くのアクセスを集めることができます。中長期的にはそれを収益に繋げることもできるでしょう。

フジテレビに欠けているのは、まさに「コンテンツ制作力」です。これを放棄してしまっては、ただ地上波免許を持っているだけではやっていけない世界になりつつあるのです。そういう意味では、インターネットの登場はコンテンツの質の向上に一役買っていると考えます。

インターネットとのコンテンツ競争が激化する中で、より良いものを作るには、常に新しいことを取り入れなければならないでしょう。もちろん、昔ながらのコンテンツを大事にすることも必要ですが、漫然と同じことをやっていたら視聴者も飽きてしまいます。

Next: あまりに無能な経営陣、日枝氏残留は「変われないフジ」の象徴



日枝氏の残留は「変われないフジ」の象徴

新しいことを取り入れられない姿勢は、人事に象徴的に表れています。

現相談役の日枝氏は、1988年にフジテレビジョン社長に就任してから実に30年近くにわたって会社の中枢に残り続けています。もはや、社内では誰も逆らうことはできなくなっているでしょう。

インターネットに押されているとは言え、地上波の力はなお絶大です。視聴率が10%も取れれば、瞬間的に1,000万人にもアクセスできます。インターネットでこれだけ達成しようと思ったら、どれほどの時間とお金と労力が必要か計り知れません。

現に、インターネットの覇者であるGoogleやAmazonですら、認知度を上げようとしてテレビ広告を打っているのです。これらの企業にありがたがられるメディアはなかなかないでしょう。

それだけの強みを持ってしても利益を生み出せないのなら、経営陣はあまりに無能としか言いようがありません。社長こそ代わりましたが、日枝氏はなお相談役にとどまっています。フジテレビが復活するには、まず日枝氏が退くことこそが最低条件ではないでしょうか


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年8月17日)

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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