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中東にミサイル売り込み?危なすぎる北朝鮮の金儲け戦略とセールス術=高島康司

北朝鮮は「外国へのミサイル販売」を重要な外貨獲得手段としている。先日の中距離ミサイル発射には「グアムへの攻撃能力誇示」以上の意味がありそうだ。(『未来を見る!ヤスの備忘録連動メルマガ』高島康司)

※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2017年9月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

結局は金なのか?「ミサイルは外国に販売するために作っている」

ミサイル発射を強行

8月29日早朝、首都ピョンヤンに近い西岸のウサンから、中距離弾道ミサイル1発が発射された。ミサイルは日本上空を通過し、北海道襟裳岬の東方約1180キロの太平洋上に落下した。自制を求めてきたミサイル発射を強行し、さらに事前通告なしに日本を飛び越える発射をしたことで、北朝鮮を巡る緊張は一段と高まっている。

ちなみに今回の発射は高高度を飛行するロフテッド軌道ではなく、遠距離の着弾をねらった通常軌道の発射であった。また、北朝鮮のミサイルが日本本土の上空を通過したのは2009年以来。1998年にも同様の打ち方をしており、その際は今回のように事前通告がなかった。

発射の動機

北朝鮮による今回の発射は、これまで以上に計算されたものであると考えられている。かねてより北朝鮮は、アメリカが8月21日から月末に予定されている米韓合同軍事演習「ウルチ・フリーダムガーディアン」実施による挑発行為をやめないと、中距離弾道弾の「火星12型」を4基発射し、グアム島周辺の30キロから40キロに着弾させるとしていた。

グアムに向けたミサイル発射の発表の後、中国は、「仮に北朝鮮が先にアメリカに向けてミサイルを発射し、アメリカが反撃した場合は、中国は中立を保つことを明らかにすべきだ」と警告していたので、それに答えるように「火星12型」の方向を変え、日本に向けて発射したと見られている。

発射の方向を変えることで北朝鮮は、アメリカを過度に刺激しないようにしながらも、必要とあればグアムに向けてミサイルを発射する能力があることを証明するのが目的だったとされている。したがってこの発射は、戦争を引き起こさないようにして北朝鮮のメッセージを伝えるように巧妙に計算されたものだったので、大きな戦争の引き金になるようなものではない

北朝鮮のもうひとつの動機、中東情勢との連動

たしかにこれが、今回のミサイル発射の中心的な動機であったことは間違いない。しかし、これが動機のすべてではないことも確かだ。あまり注目されていないが、もうひとつの動機があるようだ。それは中東情勢とのリンクである。

Next: 核兵器の入手先を探す湾岸諸国が、北朝鮮にラブコール!



2つのパイプライン計画とイランとロシアの勝利

周知のように、いま中東では、トランプ政権の混乱によるアメリカの覇権の凋落、ならびに中国、ロシア、イランの同盟を核とした一帯一路の経済圏の拡大で、巨大な地政学的な変化が起こっている。

これまで中東では、サウジアラビアを盟主にしたスンニ派の湾岸諸国がアメリカの中東支配の拠点としての役割を担っていた。ちなみに湾岸諸国とは、サウジアラビア、クエート、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーン、オマーンなどの産油国だ。

一方反米でシーア派のイランは、中東の地域覇権国となるべく、イラクとシリア、そしてイエメンにまで影響力を拡大した。この結果、サウジアラビアを盟主とし、アメリカが支持するスンニ派連合と、ロシアや中国がバックアップするイラン中心のシーア派諸国とが鋭く対立する関係が続いていた。

他方ロシアに大半のエネルギー供給を依存するEU諸国は、過度なロシア依存を脱する方法を模索していた。そのひとつとして、カタールの天然ガスや原油をシリアを中継して南ヨーロッパに送るパイプライン計画を立案した。

この計画の実現のためには、イランに近いシリアのアサド政権を打倒し、親米派の政権に転換する必要があった。これに対しイランは、ロシアと協力してパイプラインを付設し、イランとイラクの天然ガスと原油を、やはりシリア経由でトルコを介し南ヨーロッパに送るパイプライン計画を立案した。

このような状況で、アサド政権のシリア内戦における勝利が確定した。これは、ロシアとイランの軍事介入の結果である。アサド政権の存続が確定したため、シリアはロシアとイランの勢力圏に入り、パイプライン計画もロシア・イラン案が実現する運びとなった。

これはアメリカに支援されたスンニ派連合が負け、ロシアに支持されたイランが、中東の地域覇権国として台頭することが実質的に決定したことを意味する。これはアメリカの覇権と影響力の凋落である。

そして、このような情勢の変化を見たカタールは、ペルシャ湾における天然ガス田を共有しながらも、これまで敵対していたイランに接近し、国交も全面的に回復した。これはサウジアラビアを盟主とするスンニ派連合から見ると、完全な裏切り行為だったので、これらの諸国はカタールと断行した。

このような状況でイランは、2015年に核兵器の開発を断念することを条件に、アメリカとその同盟国が課していた経済制裁を解除され、正常な国際関係への復帰が許された。核合意の成立である。

恐怖し、核兵器の入手先を探す湾岸諸国

イラン・ロシア連合がシリアで勝利し、勢力を拡大し地域覇権国へと向けて動き出したイランとの核合意は、サウジアラビアを始めとした湾岸諸国にとっては安全保障上の最大の脅威となった。将来イランは、秘密裏に、または公然と核兵器の開発を行う可能性は捨て切れない。

このような状況はやはり長年イランと敵対しているイスラエルにとっても、大きな脅威となる。このため、サウジアラビアをはじめとした湾岸諸国とイスラエルは、核合意を締結しイランを国際社会に復帰させたアメリカに強く抗議した。

こうした状況に現実的に対処するためには、イランの核武装を想定し、湾岸諸国が核兵器の保有へと動くしかない。すると、核やその運搬手段であるミサイルの確実な入手先が問題となる。湾岸諸国の支援者であるアメリカは、核不拡散の原則から核を売ることは絶対にしないし、イスラエルも表向きは核兵器を持っていないことになっているので、核兵器を売ることはない。すると、他の選択肢として残るのは、パキスタンの闇市場である。

しかしパキスタンは、イランとの緊密な関係を築いているため、イランと敵対する湾岸諸国に核兵器を売ることには大変に消極的だ。

Next: 北朝鮮がミサイルの供給先として熱い注目を集める理由



供給先として注目される北朝鮮

そのような状況なので、核兵器とその運搬手段であるミサイルの供給先として熱い注目を集めているのが、北朝鮮なのだ。北朝鮮はイランとも良好な関係にあるが、基本的には需要さえあればどんな国にも兵器を売る。すでに2015年6月にアラブ首長国連邦は、北朝鮮から1億ドル相当の兵器を購入していることが、米国務省からリークされたメモで分かった。アラブ首長国は購入した兵器を、イエメンでイランの影響下にあるフーシー派を排除するためにサウジアラビアが行っている作戦を支援するためだとされている。

またこの兵器購入は、イエメンのフーシー派が北朝鮮からの武器の購入を阻止するために、アラブ首長国連邦が先行して北朝鮮の市場になる目的もあるとされている。さらに、このような兵器の取引を行うことで、将来イランに対抗するために必要になる核兵器やミサイルを入手しやすくさせるための処置でもあると見られている。

このような動きは湾岸諸国の盟主であるサウジアラビアも注視しており、イランとの対抗の必要性から将来北朝鮮に接近する可能性も残されている。

イランと良好な関係の北朝鮮

また北朝鮮は、イランとは伝統的に良好な関係にある。1980年から8年間続いたイラン・イラク戦争では、イランの兵器の需要は大きかったものの、イランはイスラム原理主義の国家として孤立しており、兵器の供給先が見つからなかった。この要請に応え、兵器を供給したのが北朝鮮である。それ以来反米で一致する両国は、良好な関係を維持している。

北朝鮮がイランに売却したスカッドB短距離ミサイルは、イランが開発したシャハブ・ミサイルの原型になったと見られている。現在でも両国には相互の軍事技術者が滞在し、軍事技術の交換を行っている。

いまはイランの豊富な原油と、北朝鮮の先端的なミサイル技術がいわばバーターのようなかたちで取引されていると見られている。また両国とも核開発の経験があるので、この分野でも技術の取引が可能だ。

経済制裁が厳しいほど軍事技術に依存する

このように、北朝鮮のミサイルや核兵器の需要は大きい。特に、アメリカの覇権が凋落し、イランが中東の地域覇権国になるにしたがって激化している湾岸諸国とイランとの敵対関係は、北朝鮮のミサイルや兵器、そして核兵器に対する需要を増大させている。また北朝鮮は、中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程1300キロ)をパキスタンなどに輸出し、パキスタンはこれを元に改良型のミサイルを開発したとみられている。

一方北朝鮮には厳しい経済制裁が課せられている。中国の新制裁案には、北朝鮮との合資企業新設、既存企業の増資が禁じられることが盛り込まれた。14日にはすでに北朝鮮の石炭、鉄、鉄鉱石、鉛、海産物の輸入禁止が通達されている。2つの通達を合わせると、中国が北朝鮮に対して実施した経済制裁はこれまでにない厳しいものであることが明らかになった。

これに伴い、石油不足など北朝鮮にも経済的な影響が徐々に現れつつある。折からの干ばつによる農業生産の打撃と合わせて、北朝鮮は経済的に追い込まれた状況にある。

そのような北朝鮮から見ると、中東を中心に需要の多いミサイルと核兵器は、外貨を稼ぐための貴重な手段であることは間違いない。

Next: 北朝鮮はアメリカにもミサイルを売り付ける?



今回のミサイル発射実験の意味

さて、このような視点から日本上空を飛び越えた「火星12型」の中距離弾道弾の発射の意味が見えてくる。もちろん米韓軍事演習を実施しているアメリカに、北朝鮮がグアムを攻撃する能力があることを示す動機はあるものの、それだけが動機ではないのだ。

重要な外貨の獲得手段であるミサイルの性能を、中東の湾岸諸国やイランに示し、製品としての品質の高さをアピールする必要があったのだ。それが今回、長距離の大陸間弾道弾の試射ではなく、中距離弾道弾であった理由である可能性がある。中東のミサイル需要を当て込んだ試射だとすれば、大陸間弾道弾は必要ない。中距離か短距離のミサイルで十分だからだ。

ましてや「火星12型」は今回の発射も含めても、まだ2回しか発射に成功していない。外貨が獲得できる製品としての完成度を高めるためには、試射を何度も繰り返す必要がある。そのように見ると、北朝鮮は今後も「火星12型」のような中距離のミサイルの発射実験を何度も繰り返すはずである。

アメリカにもミサイルを売り付ける?

また、北朝鮮がアメリカにもミサイルを売り付けようとしたという話もある。29日、米民主党下院トップのペロシ院内総務は、韓国のムン・ジェイン大統領と会談したとき、以前北朝鮮を訪問した際、北朝鮮当局者が「ミサイルは外国に販売するために作っているが、アメリカは購入する用意はないか」と発言したことがあると述べたという。

ペロシ院内総務が北朝鮮側から聞いた時期は不明。ムン・ジェイン大統領は、北朝鮮の核やミサイル開発自体も問題だが、製造ノウハウが外部に伝えられるのも大問題だと応じたという。

もし北朝鮮がアメリカにまでミサイルを売り付けようとしたのなら、北朝鮮は想像以上にしたたかであると言えるだろう。ということは、今後もミサイルを発射する場合も、大きな戦争を誘発しないように周到に計算した上で発射すると考えてよいだろう。

そのように見ると、北朝鮮情勢はすぐに戦争に至る状態ではないと判断できる。いずれにせよ、注視しなければならない。

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※本記事は、未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 2017年9月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ(2017年9月1日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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