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Albert H. Teich | 360b / Shutterstock.com

見逃せない兆候。きたる2017年のグローバル政治・経済はこう動く=斎藤満

今年の干支の「さる」は、後半に波乱が起き、それが翌年の「とり」年につながると言われます。私が指導をいただくある先生によると、今年は「権威の崩壊」の年と言っておられました。そして来年も金銭的、経済的に大きな変化が予想され、そのヒントとして今年の「事件」にその「予兆」が現れているということです。さて、この見立てを現在の世界情勢に当てはめると、どんな未来が浮かび上がってくるでしょうか?(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年12月26日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

「権威崩壊」の年だった2016年。いったい2017年はどんな年に?

世界が震撼した2大事件

今年の「事件」で注目したいのは次の2点です。まず米国でワシントンの権威を否定し、現状を打破しようとするトランブ氏が大統領選に勝利したこと。

そしてもう1つは日銀の緩和策が行き詰まり、日銀の権威が崩壊するとともに、世界のポリシー・ミックスが金融政策から財政政策に転換しようとしていることです。

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前者は米国のみならず、その前に英国がEUからの離脱を選択した「ブレグジット」にも表れ、イタリアの国民投票などにもつながっています。既存の政治的なフレームが崩れ、新しい形を模索し始めたわけで、これは2017年に大きな潮流として受け継がれます。

後者はすでに米国が金融政策の正常化に向けて舵を切り、日本もユーロも、量的緩和の限界にぶつかり、軌道修正に向かいつつあります。背後に、非公式団体のG30が、金融政策主導主義を改め、財政へのシフトを打ち出したことがありそうです。

この流れは主要先進国ばかりか、中国にも波及しつつあります。

2017年の世界と日本

この2つの「事件」が新年の世界に示唆するものとして、次のことが考えられます。

まず既存の政治スキームの崩壊は、米英からユーロにも波及しそうです。つまり、ユーロの権威が崩れ、統合の流れが逆行する可能性が強まります。

フランスやイタリアなどでもユーロ離脱機運が高まり、ドイツが孤立化するか、北部同盟に縮小する可能性があります。

日本米英ロ連合につくことで安定が得られる面はありますが、日本でも権威の崩壊が随所に見られ、一強体制の安倍自民党も、一見安定のように見えますが、うかうかしていられません。

すでに東京では自公分裂が明確になり、中央政界ではその修復を図ろうとしていますが、公明党が離反する影響は無視できません。

また安倍政権が最後に押し込んだTPP法案年金改革法カジノ解禁への反発が高まり、さらに戦闘態勢に近い南スーダンへの自衛隊派遣沖縄との関係悪化、北方領土問題の期待外れなど、個々には反発を買う問題が続いています。

野党の自滅で救われていますが、公明党が野党共闘に加わると、自民は選挙で議席を減らすリスクが高まります。

もはや「欧米vs中国・ロシア」の時代ではない

中国も習近平体制の強化を進めていますが、反発も強まっています。

しかも国家財政のひっ迫から国有企業の改革を余儀なくされ、これに伴う失業の発生や、国有企業が政府の代役をはたしてきた地元病院、学校、保育所などが維持できずに、地元市民の生活が脅かされる状況が出てきました。

中国経済の債務金融危機も、政府がしっかりと支援できるうちは問題が顕在化することもありませんが、旧ソ連のように、経済危機が政権崩壊につながると、そこで経済危機が表面化します。

今日の中国経済の規模は、かつての旧ソ連より大きくなっているだけに、中国共産党体制が揺らぐと、にわかに世界経済に不安が広がります

従来の西側(欧米)対東側(旧ソ連、中国)といった構図は崩れ、米英ロ連合に日本が繰り入れられ、ユーロは分断、中国は孤立化しそうです。これまで西側の「接着剤」の役割を果たしてきた国際金融資本、軍事部門の吸引力が低下し、新しい引力が働き始めました。

新しい秩序が固まるまでは、ヒト・モノ・カネの流れが悪くなり、経済的にはペースダウンの懸念があります。

Next: 次の危機は中国か新興国か?米国の利上げ加速に翻弄される世界



「悲劇の1930年代」再来も

すでに「トランプノミクス」では、米国第一主義を掲げる中で、TPPやNAFTAを否定し、競争相手国に高い関税をかける意向を示すなど、保護貿易主義の兆しがうかがわれます。

これに中国政府が報復措置を匂わすように、世界規模の報復的な措置を引き起こすと、30年代のような世界貿易の縮小、経済の収縮をもたらす懸念があります。

これに主要国のポリシー・ミックスが金融抑制、財政拡張に傾くと、これも経済面で反グローバル化を促す面があります。

主要国の金融緩和は、日米欧から周辺国、新興国にマネーが流れ込む役割を果たし、結果として経済のグローバル化を促進しました。しかし、この蛇口を閉め、代わって国内本位の財政拡張にシフトすると、この流れが大きく変わります。

つまり、拡張財政策をとれる国は、自らに財政資金が投下され、需要の追加がなされます。その恩恵は時間を経て貿易を通じて新興国に還元されますが、金融緩和のような直接的なマネーの流入に比べると、影響は限られます。

しかも、主要国が流動性供給の蛇口を閉めるだけでなく、米国のように利上げを進めると、むしろ資金は逆流し、米国が潤い、新興国が干上がります

米利上げ加速で中国が懸念材料に

新年にはFRBが利上げペースを加速すると見られます。米国経済に供給余力がない所へ、トランプ次期政権が大型減税、インフラ投資を予定しているため、インフレ懸念が高まるためです。

新年の予算教書で計画が明確になれば、利上げスタンスも固まるでしょう。また財政・貿易の「双子の赤字」拡大も米国の長期金利上昇をもたらします。

すでに新興国では、ここまでの金利高、ドル高で、新規の社債発行が大幅に減少し、自国通貨安を阻止するために利上げを余儀なくされるところも出ています。

新年には、米国経済は良いとしても、中国や南米など新興国の経済は、資本流出と通貨安で、大きな負担を強いられます。

同時進行する米国経済の拡大と新興国の縮小

米国経済の拡大と新興国の縮小が同時進行すると何が起きるか。かつて「デカップリング」という言葉が広がりましたが、好不調の経済が分断したままの状況は長続きせず、最後はどちらかに引っ張られることが分かりました。

リーマン危機時は中国の大規模景気対策で底割れは回避できましたが、中国がその後バブルや祖債務問題の遺症に苦しみました。

米国での財政拡大、景気拡大は新興国にプラスの面はあるにせよ、新興国の悪化が米国経済を冷やす面も無視できません。世界が大規模金融緩和を織り込んできた分、その修正、引き締めが起きると、グローバル経済では収縮力が大きく、米国の財政需要だけではカバーしきれないと見るのが妥当だと思います。
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※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年12月26日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2016年12月26日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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