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なぜ「トヨタがこけると日本全体が危うい」のか?今そこにある国家の危機=児島康孝

市中で円紙幣が不足する中、日本がデフレ対策が取れるのはトヨタが健在な間だけです。そして今、EV(電気自動車)を巡りトヨタの雲行きが怪しくなっています。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)

日本経済復活のタイムリミットとトヨタの命運はリンクしている

今こそ低所得者に紙幣の給付を

デフレは紙幣が不足している現象で、どんどん配布をすれば解消します。これは、紙幣を増刷すればよいのです。これができるのは、インフレ率が2%を超えない間です。

は、内部留保の増加や国際化(リスク対応通貨)による円の必要性の高まりから、市中での流通量が不足しがちです。これはスイスフランも同様の傾向にありますが、偽造が少なく経済クラッシュなどのときには価値が増すため、その備えとしてのニーズが最近は高まっているからです。

プリンストン大学教授のシムズ氏が「もしものインフレ対応」について言っているように、インフレに対しては様々な対応策があるので、物価上昇率が2%を超えてくれば、それからでも十分に対処できます。

低所得者に紙幣が渡ると、何らかの形で、ほとんど消費されます。生活のために、衣食住の支出が必要な状況であるためです。つまり、個人消費の刺激効果が十分にあるのです。

一方で、内部留保に使われるような場合は、「生活」の必要がありませんから、そのまま滞留しがちです。インフレがなければ(=デフレ)内部留保はまったく目減りしないので、何年もそのままで、何も困らないからです。

ですから、低所得者に紙幣を渡して消費してもらうことが、個人消費の刺激GDPの成長につながり、景気対策となります。

また、低所得者に紙幣が渡ると、ブラック企業や保育所不足の問題も緩和してきます。切迫感が緩和され、余裕が生まれるからです。

デフレ対策が可能なのは「トヨタ」が健在な間だけ

こうしたデフレ対策が可能なのは、トヨタが健全なうちだけです。ところが、なにやら、EV(電気自動車)をめぐって怪しい雲行きになってきましたね。

デフレ対策が可能な条件は、インフレ率が低く、デフレ傾向で、先進国の場合です。いまの日本では、円紙幣を増刷する条件が整っています

ところが、もし日本経済の最後の牙城である自動車産業の「トヨタ」がおかしくなり、
日本が先進国から途上国風の経済になれば、紙幣の増刷は不可能です。

途上国では、不景気や恐慌に対して金利の引き上げなどの緊縮策をとり、通貨を防衛する必要が生じるためです。経済クラッシュの時に、途上国は利上げをしていますね。経済の振幅幅は大きくなりますが、通貨防衛をしなければ、途上国の通貨は暴落してしまうからです。

ですから日本は、先進国経済のうちに紙幣を増刷し、個人消費と内需主導によるGDPの成長・経済力のアップをはからなければ、タイミングを失います。さながら、ミッドウェー海戦の兵装転換のようなものです。

このデフレ脱却の抜け穴をふさぐかのように、EV(電気自動車)の話が中国や欧州を中心に、最近、巻き起こっているのです。

Next: トヨタと日本の戦略は何が間違っているのか?



世界はEV(電気自動車)へ向かっている

トヨタは、次世代の自動車として、EV(電気自動車)を重視していませんでした。これは、充電に時間がかかるとか、走行距離を伸ばすにはバッテリーを増量する必要があるとか「まともな」理由からでした。

おそらくトヨタは、水素自動車が次世代の車と思ってきたのでしょう。水素自動車が排出するのは水蒸気だけなので環境に優しく、日本は技術面の蓄積も十分です。また外見上は、ほとんどガソリン車と変わらないのです。

水素を扱う技術は難しく、電気は容易です。日本の自動車産業は、水素車の技術面でリード可能な「立ち位置」にいたのです。

水素は、次世代のエネルギー源として有望なのですが、一連のEV(電気自動車)をめぐる動きをみて、危惧すべき点があります。

それは、自動車で直接「水素」を使う必要があるのかどうかという話です。難しい技術を使って、車1台1台に水素を使用するエンジンを装備する必要があると考えられてきたわけですが、発想を転換すると、違った方法も浮かび上がります。

それは、「水素は水素発電で大規模に電気をつくるために使用し、自動車ではその電気を使えばよい」という発想です。電気自動車は構造が容易で、いわば「車の家電化」です。技術的に高いレベルの「水素車」でなくても、水素発電でつくった電気で「電気自動車」として車を動かせばよいのではないかということです。

これは何か、以前の携帯からスマホへの転換とか「ルールの変更」に弱い日本勢の、過去に見たことがあるような展開になってきています。

そして、英メディアのBBCが「中国、ガソリン車やディーゼル車の生産・販売禁止を検討」と報じています。

中国は2025年までに自動車販売の少なくとも5分の1を、電気自動車やプラグインハイブリッド車(PHV)にする目標を掲げている。

出典:中国、ガソリン車やディーゼル車の生産・販売禁止を検討 – BBCニュース(2017年09月11日配信)

すでに英国とフランスが、環境汚染対策や二酸化炭素の排出量削減などを目指し、2040年までにガソリン車とディーゼル車の生産・販売を禁止する計画を発表している。

出典:中国、ガソリン車やディーゼル車の生産・販売禁止を検討 – BBCニュース(2017年09月11日配信)

こうした環境に関する取り組みは、前倒しされることも常です。そして、中国は、電気自動車のバッテリーの量産が得意です。まるで、点と線が織りなされているかのようです。

もちろん目的は環境保全ですが、これによってEV(電気自動車)では、日本の強みが失われる可能性があります。日本勢が「大きな衝撃」を受けることになるのは、間違いありません。

Next: トヨタが力を失えば、日本は先進国のポジションを喪失する



米テスラ、株価上は巨大企業に

一方、アメリカでは、電気自動車メーカーのテスラの株価は、366.23ドル(2017年9月13日終値)に達しています。時価総額は586.26億ドル。日本円では、6兆4764億円余りになります。

ちなみに、有名な投資銀行(証券)のゴールドマン・サックスの株価は226.56ドルで、時価総額は904.52億ドルです。テスラと同業である自動車業界のゼネラルモーターズの株価は38.21ドル、時価総額は513.96億ドルです。

いかに、テスラが株式市場で巨大な存在か、ゴールドマンやゼネラルモーターズとの比較でも伺えるでしょう。

日本で例えれば、トヨタを上回る電気自動車メーカーが、突然(5年で株価が10倍となり)株価上では評価されているというようなものです。

株価は将来を見越して動くことがありますから、いわば「バーチャル」が、時価総額の増加とともに現実化するパターンも多いのです。

テスラが今後どうなるかはわかりませんが、株式市場のプロの間では、テスラは巨大な企業へと成長するとみられているのです。

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トヨタがこけると日本が危うい

中国・欧州・アメリカでこうした動きがある中で、今後、トヨタが力を失えば、日本経済は先進国のポジションが危うくなります。

そのときには、円紙幣の増刷などはとても行えない状態になります。さながら、デフレ脱却の抜け穴を塞がれているようなもので、日本は動けずにいるのです。

そのために残された時間はそれほどなく、いち早くデフレ脱却をして、内需中心・個人消費型の経済大国に舵を切るべき時なのです。

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ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2017年9月14日号)より抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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