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安倍総理の本音と大義。なぜ今が衆院解散のベストタイミングなのか?=近藤駿介

永田町に解散風が吹き始めた。確かに今は、解散総選挙に打って出るのに絶好のタイミングである。安倍総理の狙いと、有権者向けに用意される「大義」を分析してみよう。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任し、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える切り口を得意としている。

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「政治生命をかけた冒険」に足を踏み入れた安倍総理の真の狙い

今月28日解散、10月22日投開票へ

メディアで火あぶりにされた元民主党のジャンヌダルク、山尾志桜里議員から出た絶好のスルーパスに安倍総理が素早く反応した格好で、永田町に突然解散風が吹き始めた。善悪はともかく、安倍総理のこうしたゴール前の嗅覚はさすがといったところ。

突然吹き出した解散風に関して、早速、北朝鮮問題が緊迫するなかで「政治的空白」を作ることは許されないという批判が出てきている。

確かに、北朝鮮が軍事的挑発を繰り返していることを考えると、こうした指摘はもっともなものではある。しかし、北朝鮮がすぐ近くに存在している限り「地政学リスク」から逃れることはできないという現実を考えると、「政治的空白」を作るという理由で解散権を縛るのも問題である。

政治の専門家の見立てによると、もし総選挙になれば、安倍総理は選挙応援に飛び回るのではなく、有事に備えて官邸で待機することになるとされている。そして、こうした官邸に籠ることにお墨付きを与えるような専門家の指摘は、安倍総理にとって願ってもない追い風だと言える。

今なら街頭演説に立たずに済む?

都議会選挙の最終日、秋葉原の街頭演説で演説を妨害する人たちに向かって「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と発言し、大きな批判を浴び大敗の原因を作った安倍総理。こうした批判が「安倍一強体制」を揺るがす一因となったのは記憶に新しいところ。

もし総選挙になれば「こんな人たち」は、再び安倍総理の失言を引き出すために、演説会場に押し掛け、総理の演説を妨害するような行動に出ることは十分に考えられること。

都議選での失敗を経験した安倍総理が同じ失敗を繰り返すことは考えにくいが、こうしたリスクを排除するためには街頭演説等はできる限り避けた方が賢明だと言える。

つまり、街頭演説で「こんな人たち」と再度遭遇するリスクを避けたいと考えている安倍総理にとって、「即応体制を保つために官邸を離れることはできない」という大義が立つ北朝鮮情勢が緊迫化する中での選挙は、願ったりかなったりの状況なのである。

Next: 敵は身内にあり。安倍総理は何を取り戻そうとしているのか?



安倍総理の「大義」と「争点」

永田町で吹き始めた解散風を止めることは難しい。したがって今後の注目点は、安倍総理が解散風にどのような「大義」や「争点」を添えていくかというところになる。

「戦後初めて安全保障上の危機が迫っている中、安全保障法制が実際にどう機能するかも含めて、国民の理解を得ることが必要だ」

羽生田幹事長代行はこのように述べ、安全保障関連法の評価が争点の1つになるという見解を示した。しかし、「安全保障関連法の評価」というのは、解散総選挙の大義としてはあまりにも弱すぎる

ほとんど忘れかけられているが、ここで思い出されるのが、7月28日に突然官邸に現れ安倍総理と昼食をともにしたフリージャーナリストの田原総一朗氏が発した、内閣支持率をV字回復させる秘策として安倍総理に進言したという「政治生命をかけた冒険」発言である。

突然吹き始めた解散風は、この「政治生命をかけた冒険」の序章だと考えるべきではないだろうか。

「安倍一強体制」を取り戻す

田原氏は「解散のような細かな問題ではない」と言っていたが、同時に「自民党内には反対する人がいる」「今やるべきこと」「安倍総理しかできない」「(首相は)やるつもりじゃないか」といったヒントも残している。

これらのヒントから想像されることは、「政治生命をかけた冒険」が、政権維持を優先した「解散」である可能性はほとんどないことである。

「政治生命をかけた冒険」は、「自民党内には反対する人がいる」なかで、「安倍総理しかできない」「今やるべきこと」を実行することを意味するはずだからである。そしてそれこそが今回の解散の「大義」「争点」として総理が掲げようとしている「隠し玉」であろう。

重要なのは、自民党内で「安倍一強体制」が崩れかけている今、「自民党内には反対する人がいる」なかで、総理が「やるつもり」の「今やるべきこと」を実行していくのは難しい、ということだ。

それ故、それを実行するためには、自民党内での「安倍一強体制」を取り戻す必要がある。安倍総理はそのためには「解散」が最善手であると判断したのだろう。

もとより、対野党で見た場合、「自民党一強体制」が揺らいでいるわけではなく、総選挙で野党に敗北することは考えにくい状況である。こうした状況を考えると、「解散」は政権を維持するために行うのではなく、自民党内での「安倍一強体制」を取り戻すために行うものだと考えるべきだろう。

こうした認識に立てば、今こそ安倍総理にとって「解散」に打って出るには絶好のタイミングだということがわかる。

Next: 28日解散は理にかなった戦略、安倍総理にとって失うものがない戦い



28日解散は「理にかなった戦略」

森友、加計問題防衛省と稲田防衛大臣問題、さらには7月の都議会選挙大敗など失態続きで支持率が急落したことで、自民党内での「安倍一強体制」は予想外に早く崩れてしまった。

それによって、安倍総理は8月の内閣改造で思い通りの組閣をすることができなくなっただけでなく、必ずしも意向通りの顔ぶれでない内閣を「結果本位の仕事人内閣」と命名せざるを得なくなった。

安倍総理にとって唯一の救いは、「結果本位の仕事人内閣」の誕生が国会閉会中の8月3日であり、これまで国会で「結果」を出す機会がなかったことだ。しかし、9月28日には臨時国会が召集され、「結果本位の仕事人内閣」が「結果」を出す機会が訪れることになっている。

ここでもし、不本意な「結果本位の仕事人内閣」が、臨時国会で失いかけていた安定感を発揮し支持率が回復してしまったら、自民党内で「安倍一強体制」を取り戻すことは一段と難しくなるはずである。

自民党内での「安倍一強体制」を取り戻すために、28日の臨時国会冒頭で解散し、「結果本位の仕事人内閣」に国会で活躍する場を与えないのは、安倍総理が自民党内で「安倍一強体制」を取り戻すことを目指しているとしたら、理にかなった戦略だと言える。

失うものが少ない戦い

与党が野党に勝利することが確実視されている総選挙の焦点は、勝敗そのものではなく、自民党の議席減がどの程度になるかになっている。

自民党が勝利するのと同じくらい、自民党が議席を減らすことが確実視されている中では、自民党は議席減を最小限に抑えることに注力するはずで、選挙戦で表立った安倍批判は封印されるはずである。

安倍批判が封印されるなかで勝利を得れば、安倍総理の実績が評価されたと解釈することも可能で、「安倍一強体制」を取り戻すうえでの第一歩となる求心力を回復させることはほぼ確実である。

つまり、このタイミングでの解散総選挙は、安倍総理にとって失うものが少ない戦いになるはずである。

Next: 安倍総理の「隠し玉」どんなサプライズが飛び出すか?



安倍総理の「隠し玉」は何か?

10月22日に実施される可能性が高まった解散総選挙の真の「大義」は、安倍総理が自民党内での「安倍一強体制」を取り戻すことである可能性は否定できない。

しかし、こうした「大義」を正面切って掲げて選挙を戦うわけにはいかない。当然、有権者向けには、他のもっともらしい「大義」が必要になってくる。

以前に拙コラム“「政治生命をかけた冒険」安倍総理が消費税減税を決断するこれだけの理由”に記した通り、筆者は安倍総理の「政治生命をかけた冒険」とは「消費税減税」であり、総理はその是非を問うことを総選挙の「大義」として掲げることを目論んでいるのではないかと考えている。

「消費税減税」のサプライズ効果

消費税に関しては、有識者を中心に「消費増税によって財政再建に取り組む姿勢を見せることが責任政党の責務である」という意見が支配的である一方、「経済を立て直さない限り財政再建を達成することはできない」という意見も根強くある。こうした消費税に関わる長年にわたる論争に決着をつけることは、総選挙の「争点」として相応しいものである。

もし、安倍総理の隠し玉が「消費税減税」であったとしたら、田原総一朗氏の指摘する通り「言ったらぶち壊れてしまう」可能性は高い。それ故、安倍総理がどのタイミングでどのようにして「大義」を国民に披露するかが極めて重要になってくる。

安倍総理が、小泉元総理のように、「庶民の味方の安倍さんが、消費税減税に反対する財務省や自民党内の強大な抵抗勢力に立ち向かう」という構図をうまく作り出すことができれば、「安倍一強体制」を取り戻せる可能性は高い

安倍総理がこのタイミングで解散に打って出たことに対して「政権維持」が目的であるという見方が一般的のようだ。しかし、憲法改正を果たして歴史に名を遺す野望を持っているといわれる安倍総理が、今の弱い野党に勝利して「政権維持」をするという「ちっぽけな目標」で満足するだろうか

安倍総理の野望の大きさを考えると、解散・総選挙で目指しているのは野党に勝利して「政権を維持」という「ちっぽけな目標」ではなく、自民党内での「安倍一強体制」を取り戻すくらいの「壮大な目標」であっておかしくない。

首相は、消費増税分の使い道の見直しの意向を25日の経済財政諮問会議で表明し、衆院選で民意を問う考えを示す。

出典:消費増税、使途変更問う 首相、教育無償化に 衆院選 財政健全化遠のく – 日本経済新聞(2017年9月19日配信)

メディアは今回の解散、総選挙の「争点」は、「消費増税分の使い道」になると報じている。しかし、総理が「安倍一強体制」を取り戻す「壮大な目標」を目指しているとしたら、「消費増税分の使い道」などといった「ちっぽけな政策」を「争点」にするとは思えない。

「壮大な目標」を達成するためには、それに相応しい「壮大な政策」を「争点」を掲げるのが当然だと考えるからである。

【関連】日本郵政の危ないマネーゲーム。個人をはめ込む政府株売却の本音と建前=近藤駿介

安倍総理は「安倍一強体制」を取り戻すために、「政治生命をかけた冒険」に足を踏み入れたようである。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年9月19日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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