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日本一のトヨタがトランプに突きつけられた「これからのルール」=児島康孝

駅スタンドで見かけた日経夕刊一面に「トランプ氏、トヨタに介入」の大見出し。問題がおかしな方向に進まなければよいのですが、安全保障とか、とんでもない分野まで飛び火する可能性もあります。(『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』児島康孝)

トランプ勝利でアメリカのルールは「雇用ファースト」に変わった

古いルールから新しいルールへ

これまでのルールは、

グローバル化>雇用

こういう図式でした。しかし、先進国の雇用喪失(=途上国の雇用創出)が極端に進んだことでルールは変わったのです。トランプ米次期大統領のルールは、

雇用>グローバル化

です。米国民も雇用の創出に重大な関心があります。それでトランプ氏が当選したわけです。

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トヨタ「メキシコ新工場問題」の本質とは?

トヨタのメキシコ新工場の問題も、こうした点から考える必要があります。NHKによると、トヨタはメキシコ生産車の91%をアメリカに輸出しているといいます。さらに対米輸出向けの新工場をメキシコに? これはトランプ次期大統領にとって、「あり得ない」ということでしょう。

メキシコに工場をつくり、メキシコ国民に販売するのであれば、トランプ次期大統領は文句を言ってきません。しかし人件費が安い雇用だけ国境の先のメキシコ、販売先はアメリカ、これは「あり得ない」と言っているわけです。

この問題は、雇用の喪失・創造による社会的コストの増減にも影響します。つまりアメリカは、雇用が減った(本来あった)分だけ、社会的コスト=低所得者や失業者への支援が増加。メキシコで儲けた企業の利益分だけ、アメリカでは国家の社会的コストが増加する可能性があるのです。

また景気の面では、雇用が失われるとクレジットカードで商品は買えなくなるし、住宅ローンも借りられない。信用収縮により深刻な消費不況、デフレ・スパイラルに陥りやすくなります(日本はこの状態でした)。

つまり、国家にとって雇用喪失は損失だということです。

「雇用ファースト」をいち早く理解した孫正義氏

トランプ大統領の「雇用ファースト」の考えをいち早く分析し、雇用創出計画を手土産に本人と会談したのがソフトバンクの孫正義氏です。孫正義氏は、アメリカ企業並みのスピードで動けます。

メキシコの工場移転計画の取りやめを発表したフォードの記者会見をみれば分かるように、アメリカの企業トップは早く動き、世論に考えを示します。

要はトランプ次期大統領向けというより、アメリカ国民に対して、ということです。見ているのはアメリカ国民なのです。アメリカ国民は消費者であり、お客さんでもあります。

Next: いまトヨタが本当に問われていること。対応次第では日米関係に懸念も



いまトヨタが本当に問われていること

こうした中でトヨタが問われているのは、これまでの貢献とか、そういうことではありません。

「雇用ファースト」についてどう思うのか?アメリカ国民に協力する気はあるのか?こういうことです。

「雇用ファースト」であれば当然、アメリカで販売する車はメキシコではなく、アメリカで生産すべき(雇用すべき)となります。人件費の安さを使って、メキシコからすぐ隣のアメリカに輸出するのはあり得ない、ということになります。

ですからトヨタは、トランプ次期大統領の背後に控えている多数のアメリカ国民に、「雇用ファースト」なのか違うのか、それを説明するように迫られているわけです。

今後の日米関係に懸念も

トヨタが賢明なご判断をされることを願っていますが、問題がこじれた場合、日米関係にも影響します。アメリカ国民も「トヨタ=日本」と認識するでしょう。

ややこしくなると、孫正義氏の雇用創出計画が忘れ去られる可能性もあります。

アメリカの国民性としては、フェアプレーを評価する傾向があります。逆に、トヨタのメキシコからの対米輸出がフェアでないと思われると、リスクは大きいです。

たとえばトヨタが、アメリカに新工場の建設と雇用拡大を表明し、ゆくゆくはメキシコ工場からの対米輸出を減らすとか、そういう展開になれば話は沈静化すると思いますが…。

せっかく実質的な日米関係が、これまでより好転しようかという時期(従来は中国重視)。トヨタの立ち回り方によっては、安全保障とか、とんでもない分野まで飛び火する可能性もあります。

「雇用ファースト」へのルール変更にうまく対応できるかどうか。くれぐれも日経夕刊の見出しの雰囲気のように、ナショナリズム的というか、企業介入という視点での捉え方はしないほうがよいかと思います。

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ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』(2017年1月7日)より抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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