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米国の手のひらで「平成のインパール作戦」へと突き進む黒田日銀の勝算=斎藤満

日本は先の大戦で、短期決戦に失敗し敗走を余儀なくされながら、ずるずると戦争を続けて大きな犠牲を払いました。今の黒田日銀はこれと同じ道を辿っています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年9月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

日銀は米国に取り込まれた? 戦力の逐次投入がまねく日本の悲劇

「無謀な作戦」の悪夢再び

21日の黒田日銀総裁会見を聞いて、「やっぱりか」と思う節がありました。それは、「ブレーキなき暴走は怖くないか」と問われた黒田総裁が、「全く問題ない。これからも緩和を続ける」と言い、「欧米が出口に向かう中で日銀だけ緩和を続けることをどう思うか」という問いに対して、「よくあることで何ら問題はない」と涼しい顔で答えたことです。

本来、この2点は日銀が危機感を持ち、あるいはよほど真剣に考えなければならない問題です。

かつて日本は、第二次大戦を決断する際、日米の経済力の差から長期戦はできないとして、1年の短期決戦を前提に総力を傾けました。しかしその結果は、1年では米国を攻略できず、2年目から敗走を余儀なくされながら、終結の決断ができずに大きな犠牲を払いました。

今回、日銀は2年の短期決戦を前提に異次元の大規模緩和に打って出たのですが、2年目には敗色濃厚となりながら、作戦の見直しをせずにその後も戦力の逐次投入を繰り返すばかりでした。長期戦に耐えられる金利操作に戻したと言いながら、いまだ量的な大規模緩和の旗も降ろしていません。

これは日銀のみならず、日本経済全体を疲弊させるもので、日銀は危機感を持って当たらねばなりません。

日米は裏で何を「にぎって」いるのか?

そして米欧金融政策との逆行性については、決して「よくあること」ではなく、また本来は日銀が勝手にできない代物です。なぜなら、逆行する政策は、互いに政策効果を打ち消してしまう面があるためです。今でも利上げをする米国に円資金が流出し、米国の引き締め効果を緩和させる反面、日本は資金が流出する分、量的には引き締め効果を持ってしまいます。

そのために、これまでは「政策協調」が求められたのですし、米国が緩和したい場合に日本もこれに協調して緩和することで、緩和効果が強まると考えられていたのです。ですから、米国が引締めをしたいなら、日本は少なくともその邪魔をしないよう、抑制的な政策が必要です。それを逆行して緩和を強化すれば、米国に資金が流入して米国の引き締めを阻害します。理論的には「大いに問題あり」となります。

ところが、黒田総裁は意に介さず、悪びることもなく、「全く問題ない」と答えました。黒田総裁が金融の「ど素人」でなければ、その裏に何がしかの「にぎり」があると考えざるを得ません。それは何でしょうか?

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米欧の「尻拭い作戦」に駆り出される日銀

その「にぎり」とは恐らく、FRBに続いてECBが金融緩和の正常化に舵を切る際に予想される金融市場での副作用を、日銀に吸収させようとの意図と思われます。

つまり、FRB、ECBの引き締め転換を、日銀が尻拭いさせられることになるようです。米国の利上げは、事実上のドルペッグを維持する中国の金利上昇、引き締めにもなるわけで、一気に主要中銀が引き締めに転じれば金融市場への影響は甚大です。

通貨マフィアなどによる非公式会議のG30が、FRBに続いてECBにも金融政策の正常化を求めたようで、ドラギ総裁など、南欧系の幹部は戸惑っています。FRBの中にもこのまま利上げを進めることに異論も出ています。

そもそもインフレ率が目標の2%を下回り、経済に過熱感もないだけに、「引き締め」が必要な状況ではありません

言い換えれば、FRBにもECBにも引き締めで経済を冷やす意図は全くありません。むしろ、異常な金融緩和によって随所にゆがみが生じ、中銀の株主にも迷惑がかかるような状況を放置できなくなったとの判断です。

このため、金融緩和を修正する分、財政支援を高める「政策組み合わせ」へのシフトを打ち出し、併せて日銀に緩和を続けさせて穴埋めさせようということになりました。

敗戦国日本の「正常化」は後回し

従って、FRBもECBも引き締め効果は全く意図していないわけで、日銀まで協調して引き締め転換すれば、欧米経済も世界も大変なことになる、との思いがあり、あえて日銀の逆行性を認めたはずです。

BIS(国際決済銀行)によれば、昨年末の世界の総債務(政府と民間の合計)は159兆6000億ドル余りと、この10年で63%も増大しています。リーマン危機後の金融緩和が主因です。

そこへFRBが資産の圧縮開始を決めました。ECBも来年にはテーパリングが予想されます。中国人民銀もFRBに追随します。債務の増大が世界経済の成長を支えてきました。それをいっぺんに修正し転換すれば、世界市場は混乱し、世界の成長は減速します。

だからこそ日銀にはその分も緩和を続けさせよう、ということです。敗戦国日本の「正常化」は後回し、となります。

Next: 「ブレーキなき暴走」を止められない日銀は戦場で徒手空拳になる



「ブレーキなき暴走」を止められない日銀

今でこそ主要国経済は堅調ですが、いずれ政策支援が必要な「景気後退」に陥る可能性は否定できません。そのときに金利ゼロでは金融緩和の「武器」を持たないまま「景気の敵」と闘わねばなりません

FRBECBもその武器を密かに手に入れるため、引き締め効果を出さないように、市場に事前リーク(説明)しながら正常化を進めています。

日本も次の景気悪化時には追加支援策が必要になりますが、今のままでは金融政策による支援は絶望的で、財政に頼らざるを得なくなります。

政府日銀もそれが分かっていて、財政規律を放棄し、プライマリー・バランスの黒字化は事実上あきらめました。しかも、次の景気悪化時を待たずに、解散総選挙の「にんじん」代わりに、すでにばらまき財政に傾斜しています。

今の日銀には、残念ながら「ブレーキなき暴走」を自ら止めることもできず、むしろ戦勝国中銀が「緩和の武器」を先行して取り戻すのを支援し、あるいは尻拭いし、自らの正常化、緩和の武器取得には動けない状況を見せつけられた感があります。

米国服従の安倍政権が変わらないと、日銀の主体性も回復しないようです。

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市場は「無謀な作戦」に気づき始めている

黒田総裁ももう少し上手くごまかさないと、メディアも市場も、異次元緩和の限界、副作用に気づき始めています。

株高はうれしいはずの株式市場からETFの買い入れはやめてくれ、の声が上がり、債券市場からは日銀の国債買い占めに悲鳴が上がり、銀行からはマイナス金利に絶望感が広がっています。早晩、黒田日銀総裁も涼しい顔ではいられなくなります。

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マンさんの経済あらかると』(2017年9月25日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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