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「日本の景気は良いのか?悪いのか?」政策議論はここがポイント=斎藤満

選挙戦に入り、すっかり景気の話が引っ込んでしまいましたが、テレビで気になる発言を耳にしました。「今の景気は良い」「いや悪い」という真逆の見解です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年10月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

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景気は拡大?それとも後退?

選挙戦に入って、すっかり景気の話が引っ込んでしまいましたが、最近、一部のテレビで気になる発言を耳にしました。

いざなぎ超えといわれるほど長期間景気が拡大しているので、そろそろ後退に入るのでは?」あるいは、「消費者物価がじりじり上昇しはじめた。賃金物価の良い循環が始まったのでは?」という真逆の意見です。

先週末に発表された景気指標をみると、良い話と悪い話が見える状況です。

「いざなぎ超えからのピークアウト」は心配なし

まず良い話から。生産の数字を見る限り、成熟感も景気後退の前兆もなく、景気はまだ若い段階、と言えそうです。

これは生産在庫のバランスが良いことに加え、そもそも「いざなぎ超え」というのは当局による情報操作・ねつ造とも言えるものなので、景気自体まだ「リセッション」を抜けて日が浅く、若い段階にあるためです。

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まず、生産は増産を急ぐことなく、最近は年率4%前後のステディなペースで拡大しています。予測指数からみると、7-9月は前期比ゼロ近辺が見込まれ、成熟感、減速感を印象付けますが、2四半期ごとに見ると、4-6月が2.1%増で、これと均すと年率4%となり、その前も1-3月が0.2%、10-12月が1.8%増で、これも年率4%増、その前も1.6%増と0.3%増で年率4%です。

そして在庫は8月時点でも前年比3%減となっています。在庫循環から見ると、まだ景気回復の若い段階となります。

実際、企業は2014年度0.5%、15年度0.9%と、2年連続で減産し、昨年度も1.1%の増産にとどめ、在庫減らしを進めてきました。つまり、生産は増加に転じてまだ2年目で、現時点では在庫面から生産を落とす要因は見られません

幸か不幸かすでに一度、景気は後退していた

そして、生産に見られるように、景気は長期間拡大を続けてきたわけではなく、実際には2014年1月をピークに、その後1年半余りの間、景気後退にあった可能性があります。景気動向指数がこれを示唆しているのですが、これを判定する景気循環の判定委員会に対し、所轄の内閣府が「景気後退とは言えない」と結論を半ば強制したのです。

従来の委員会では、内閣府はあくまでデータの提供にとどめ、判定は7人の委員に委ねていたのですが、今回の景気判定では、景気後退と判定されるとアベノミクスの評価に傷がつくとして、景気後退ではない、という判定を強要しました。

その理由は、この間の景気縮小幅が小さいこと、指標の中に縮小を続けていないものもあったため、とされていますが、これは論外です。

いずれにせよ、現実の景気は14年1月まで拡大した後、消費税の引き上げもあり、1年半余り景気後退し、15年の終わりごろから輸出主導の回復に入り、今はまだ回復の2年目にあります。

これから見ても、景気は成熟段階でなく、行き詰まっているわけでもありません。長すぎるがゆえにそろそろ心配、ということにはなりません。

Next: では「景気の悪い話」とは? テレビが報道しない不都合な事実



テレビが報道しない「景気の悪い話」とは?

今度は景気の悪い話です。

8月の消費者物価コアで前年比0.7%、コアコアでも0.2%の上昇となり、日経系のテレビ解説では、「いよいよ物価が上がり始めた」「賃金物価の前向き循環が始まった」とのコメントが聞かれ、「好ましい現象」と指摘していました。これには疑義があります。

まず物価を押し上げているのがエネルギー(0.5%)食品(0.2%)診療費(0.1%)などで、これで0.8%押し上げています。

それぞれの内訳を見ると、まずエネルギーは電気代、ガソリン、ガス代の上昇によるもので、需給の改善や賃金上昇によるものではありません

食料でも、政府の介入でビールの安売りが禁じられ、酒類の価格上昇や、海外高を為替で吸収できないため、というものが多くあります。

診療費の引き上げも含めて、消費者には逃げ場のない、いわば増税のような価格上昇で、これは消費税引き上げと同じような、所得の圧迫、需要減退を引き起こす可能性があります。

実際、実質値の計算に使うデフレーターは、消費者物価でも「帰属家賃」を除いた実態的なもので、8月はこれが0.8%の上昇で、その分、実質所得、実質消費を圧迫しています。

つまり、これは所得増を伴わない物価上昇であり、しかも需給の反映でもなく、原油高、円安による強制的なコスト高政府の介入による押し上げの結果があらわれています。

喜ばしくない物価上昇

消費税引き上げ時と同様に、購買力を圧迫し、需要を冷やすタイプの物価上昇であり、持続力はありません。例えば、季節調整後の前月比では、7月、8月と連続で0.1%上昇しましたが、9月の東京分は0.1%の下落となっています。

そもそも、物価上昇を喜ぶのは「アベノミクスは成功した」と言いたい政府・日銀でしょうが、マーケットから見ると、決して喜べないものなのです。

Next: 政府・日銀が誇る「政策効果」が不景気を招く怖れ



政府・日銀が誇る「政策効果」が不景気を招く怖れ

物価がこのまま上がるとすれば、長期金利にも上昇圧力がかかり、日銀は無制限の指値オペをしないと、10年債をゼロ金利に維持できなくなります。また、インフレが達成されれば、市場が望む緩和の継続ができなくなります。

つまり、マスコミがこの物価上昇をポジティブに評価しても、政府・日銀寄りの姿勢を示すことにしかならず、それは市場の期待とは異なるものです。

それより何より、このタイプの価格上昇では、一時的には良いとしても、結局、需要を冷やす結果、値上げが広がらず、むしろ購買力の全体的な低下から、今後値下げを余儀なくされる企業が増える可能性があります。実質賃金がまた減少しています。

今回の消費者物価上昇の内容は、このように「増税型」のもので、今後需要を冷やす面があります。少なくとも、賃金上昇、需給改善による値上げ、というものではなく、今後も賃金物価の好循環を示唆する内容にもなっていません。

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これが「政策効果」というのであれば、これを続けるとむしろ景気を圧迫するリスクがあることを認識する必要があります。日銀にとっても喜べるものではないのです。

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マンさんの経済あらかると』(2017年10月2日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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