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怪物トランプのトンデモ政策を「絶好の投資チャンス」にする考え方=斎藤満

今年は大きな投資チャンスかもしれません。トランプ政治には数多くの無理・矛盾があるため、市場のボラティリティが高まり、上にも下にも大きく動く可能性を秘めています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年1月16日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

トランプの「無理と矛盾」が、投資家の収益機会を拡大させる

ピンチはチャンス

トランプ次期政権が打とうとしている経済政策には、多くの無理・矛盾が含まれています。

その典型が、失業率が4.7%とほぼ完全雇用の状況のなかで「最大の雇用創出大統領になる」と言い、財政政策や企業への口先介入で雇用創出を図ろうとしていることです。トランプ氏は、国内の人手不足を海外からの移民で賄う道も閉ざしています。

市場では、すでに「トランプラリー」と呼ばれるように、この新しい政策への期待で株高、金利高、ドル高が進んでいますが、この無理・矛盾を内包した政策が実現できない可能性や、無理に実現しようとして市場に大きな軋轢をもたらす恐れは否定できません。

ただし同時にそれらは、市場に新たな「変動」をもたらし、投資家にとって様々な「チャンス」を与えてくれる面もあります。

トランプの「無理」は通るか?

例えば、今の米国で減税やインフラ投資などで財政赤字を拡大することには、当然のように、学会や議会から2つの理由で反対の声が上がる可能性があります。

1つは、すでに労働需給がタイトな中で財政需要を追加するとインフレになる、との批判。そしてもう1つが、債務が拡大する中で、さらに財政赤字を拡大することへの反発です。

これらの声によって減税や公共投資の規模が制約されると、ここまで期待が大きかったぶん失望の動きが出て、金利低下(債券価格上昇)、ドル下落、株安となります。これはドル売り、株売り、債券買いのチャンスになります。

逆に、トランプ氏の意向そのままに「無理が通る」と何が起きるでしょうか?その場合は人手不足の中で、内外の企業がトランプへのご機嫌取りで米国内への投資を増やし、雇用機会を作り、さらに財政で需要をつけることで、労働市場が一層ひっ迫し、賃金上昇によるインフレ圧力が高まり、長期金利は3%を超えて大きく上昇し、ドルは一段と上昇します。そこでは恐らく株価も一段高となるでしょう。

この場合、投資家としては一層の米国債売り、株買い、ドル買いが利益に繋がりますが、市場はまだ十分に織り込んでいません。財政赤字を抑えるために、インフラ投資は財政資金の利用を抑制し、内外の民間資金を導入するはずで、それにはドル高期待が重要です。したがって新政権はある程度ドル高を利用し、これを黙認するはずです。

高関税により世界景気は悪化も

それでも、ドル高は米国製造業に負担となります。

そこで次期政権は、輸入品に高い関税(ボーダー・タックス)をかけ、輸入の抑制を図ります。これで輸入が減れば、ドル高でも貿易赤字が減少しますから、国内企業と雇用を守れます。

しかし、それだけ関税が上乗せされることで輸入品は価格が上昇し、賃金上昇とも相まってドル高にも拘らず米国内のインフレが高まり、FRBは引き締めを強化し、金利は一段高となります。

FRBの内部には、政策金利が1%程度になれば、FRBが保有する国債などの資産を圧縮するとの声があり、今年中に資産売却が始まる可能性があります。そうなると、一段と長期金利は上昇し、企業や個人の金利負担が高まり、景気を冷やす面があるとともに、新興国ではドル高金利高で債務負担が急増し、債務危機、金融危機が勃発するリスクがあります。

新興国の中でも、外貨建て債務の大きな中国資源を持たない新興国がまず危機に陥り、ついでブラジルや南米諸国やアジアの資源国でも債務の借り換えが困難になり、経済が圧迫されます。その影響は米国の輸出にも出ます。政治的に輸入を抑制する一方で、米国の輸出相手国である中国や中南米が疲弊すると、米国の輸出も減少します。

しかもトランプ氏の反グローバル主義で、米内外の企業は、コストの安い市場での生産機会を失い、コスト高の米国で生産をすることになれば、よほどの便益をもらわない限り、コスト高になり、企業収益が悪化するリスクがあります。世界貿易の収縮は世界景気の悪化にもつながります。

Next: 米ドルの大幅切り下げも?トランプが雇用創出に失敗してからが本番だ



トランプの「ドル高容認」は長く続かない可能性

そうなると、トランプ氏が掲げる「雇用創出」も難しくなります。前任のオバマ政権では、2期目の4年間で1千万人以上の雇用を拡大しています。年間平均250万人以上です。これを上回るのは容易でなく、最近のように月に15万から17万人の増加では年間200万人にも届かず、ドル高、金利高、海外景気悪化が米国を冷やすと、これさえも困難になります。

就任1年で早くも「チェンジ」の期待を裏切ったオバマ大統領と同様に、雇用創出の公約が果たせないまま景気悪化が出てくると、トランプ大統領への評価も厳しくなります。そこまでくると、いよいよドル高の容認も限界となり、政治的に働きかけて第2のプラザ合意がなされ、ドルの大幅切り下げが誘導される可能性があります。その前にドルは売らねばなりません。

ボラタイルな値動きを逆手に取れ

資源国は原油などの価格上昇で一息入れていますが、原油減産の合意は、ロシアによるトランプ氏への「ご祝儀」としてまとめられ、原油相場を押し上げた面があります。原油の減産自体が実施されるか怪しく、しかもトランプ氏が原油増産に向けて規制緩和を予定し、シェールやアラスカ原油の増産も予想されます。

これらは原油相場を冷やすので、資源国も不安定になります。

また、米ロの蜜月についても、新政権幹部の中にはロシアのサイバー攻撃やクリミア併合を批判する者もあり、また中東問題で、ロシアはイランを仲間として親密に付き合う反面、トランプ政権はイランの核開発を認めません。

このイランの扱いなどから米ロの蜜月が崩れる懸念や、米中の緊張が高まり、南シナ海で紛争が勃発するリスクもあります。

非常識でとんでもないことをしでかす可能性があるトランプ政権だけに、上に紹介した事例だけでも市場のボラティリティは高まり、上にも下にも大きく相場が動く可能性を秘めています。

これ以外にもトランプ次期政権の無理・矛盾は数多くあります。市場関係者にとって、今年は大きな投資チャンスになるかもしれません。
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・トランプ政策の矛盾にマーケット・チャンス(1/16最新号)
・日銀の自信と背中合わせの危機リスク(1/13)
・新年の中国リスク(1/11)
・2017年の日本経済、ここに注目(1/6)
・2017年の世界経済予想(1/4)


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年1月16日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2017年1月16日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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