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From Youtube(GPIF channel)

GPIFの運用成績に一喜一憂する日本人が知らない「年金問題の急所」=持田太市

年金問題を考えるとき、私たち日本国民が見なければならないのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用パフォーマンスではなく、むしろ毎年の過不足金額です。(『週刊「年金ウォッチ」-自分年金作りのためのメルマガ』持田太市)

プロフィール:持田太市 (もちだたいち)
SBIハイネットワース株式会社 代表取締役。2007年にSBIホールディングス入社。住信SBIネット銀行開業を経験後、ウェブマーケティング部署を経て、海外でのオンライン金融事業の進出プロジェクトに従事。2013年よりロシアのモスクワに駐在し、インターネット銀行サービスを導入。2015年に帰国後、ウェブを活用した国際資産運用の情報プラットフォームプロジェクトを立ち上げ、現在オンライン金融サロン「ヘッジオンライン」を運営中。

日本国民が直視すべき「年金の問題点」はGPIFの成績ではない

「運用益が出て良かった」は思考停止

以下は、日本経済新聞の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に関する記事です。

今回この情報をシェアするのは、私たちの年金を運用するGPIFの運用益がかなり出ていて良かった、ということをお伝えしたいからではありません

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用する公的年金の運用成績が、2016年10-12月期に2四半期連続でプラスとなった。野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストの試算によると、同期の運用益は10兆700億円。四半期の運用益としては過去最高となった公算が大きい。国内株で4兆円、外国株で5兆2千億円の利益をあげた。

出典:公的年金の運用益10兆円超 16年10~12月、民間試算 – 日経新聞(2017年1月11日)
※有料会員向け記事になりますので、有料会員でない方はリンク先で全文を確認できない点ご了承ください

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トランプ当選によって一気に円安株高に動きましたので、国内株は大幅なプラス、外国株も外国の株高と円安の2つが乗っかりましたので相当なプラスリターンがでています。

要するに、為替が円安になれば大きくプラスに、円高になれば大きくマイナスに、このように為替によって年金ファンドのパフォーマンスが左右されているということをお伝えしたいのです。

しかしながら、これが悪いということではありません

国内資産だけでは運用リターンが期待できないですし、そもそも国際分散投資をすることでリスクを軽減(ブレを小さく)して、リターンを狙うことになりますので、GPIFが最適化がされているかは別として、こういった動きになってしまうのは致し方ない、という話です。

海外資産を持つということは、どうしても為替に影響を受けてしまうということです(付け加えれば、輸出や海外資産からの配当で潤っている日本の上場企業たちは、同じく為替に影響を受けてしまいますので、日本株も為替にどうしても左右されます)。

今回の例で国内株について言えば、2016年初から夏にかけて大きく下がり、それが年末にかけて戻っただけですので、今年1年でみればあまり変化はありません。したがって、この結果に一喜一憂すること自体がナンセンスであることがわかります。

ここで見るべきポイントを言うならば、長期分散投資をすると、途中ではマイナスになることがあっても、期間が長くなればそれが平準化されて、上下を繰り返しながら、長期的なプラスリターンが期待できる、という観点です。

GPIFのような年金運用であれば、四半期ごとの数字を追いかけるのではなく、最低でも数年単位でみないとあまり意味が無いはずです。

昨年10-12月の公式結果は来月か再来月に出るかと思いますが、何か報道で運用益がかなり出たので安心してください、という話があったとしても、本質的にはそういったことではない、ということをご判断いただけると良いかと思います。

Next: 日本の年金問題は「GPIFの運用益」で解決できるほど甘くない



日本の年金問題は「GPIFの運用益」で解決できるほど甘くない

私たちの厚生年金や国民年金の保険料を運用しているGPIFの運用資産額は、直近で132兆円(2016年第2四半期末)となっています。この132兆円が多いのか少ないのか、ということが気になると思いますが、1ページで概要を説明してくれている厚生労働省の資料が参考になります。

出典:厚生労働省(平成27年度予算ベース)

こちらにある通り、

(A)国民からの保険料:35.1兆円
(B)年金に対する国庫負担:12.2兆円
(C)受給者に対する年金支給額:54.2兆円

ざっくりと状況はこうです。働く世代の保険料(A)と国の負担(B)を合わせた金額が【約47兆円】に対して、年金受給者への支給額(C)は【約54兆円】で、その不足する金額(差額である【7兆円】)について年金積立金を取り崩している計算になります。

この不足額を年金運用でカバーできれば良いのですが、単純計算で年率15%での運用利回りをとらなければなりませんので、これは非現実的なことです。

これからますます少子高齢化が進み、(A)保険料は減り、(C)支給額は増え、という構造的問題がありますから、よほど大きな改革をしなければ制度破綻は免れない、ということは小学生にでもわかるでしょう。

改革としてはシンプルですが、(A)保険料を増やす(働く世代の負担を増やす)、または(C)支給額を減らす(年金受給世代の負担を増やす)という話です。

昨年12月に厚生労働省主導のもと、年金改革法が成立しました。ここで一番議論になったのは、野党が「年金カット法」と批判した「年金額の改定ルールの見直し」という項目です。
年金改革法(平成28年法律第114号)が成立しました – 厚生労働省

詳しくは上記サイトをご覧いただきたいのですが、一言でいえば、賃金変動に応じて年金額を見直します、という話になります。世の中の賃金が減っているのであれば、年金支給額も減らしましょう、ということです。

例えば、世の中の物価が2%上昇したとします。りんごが100円から102円になりました。しかし、賃金は1%下がったとします。1000円もらっていたのが、990円しかもらえなくなります。物価が上がっていく過程において賃金が上がらなければ、実質的に私たちの生活は苦しくなります(この場合、リンゴが10個買えなくなるのです)。

一方、年金支給額について、物価が上がり賃金が下がる場合、それを相殺させるようなかたちで金額が決定していました。上記の例でいえば、これまで1000円支給されていたものが、1010円もらえるようなイメージです(賃金下落があるので、物価上昇を全て反映しないのです。ただしこれは例ですので厳密な計算ではありません)。

現役世代の賃金が下がっているのに、年金支給額は増えるケースもあるのですね。

これは当然フェアではありませんので、現役世代の賃金動向に合わせて見直します、ということを定めたのが今回のルールです。仮に物価が上がっていたとしても、賃金が下がっているのであれば、年金支給額も減らします、ということです。

Next: 「年金カット法案」は、同時に「年金公平化法案」でもある



「年金カット法案」は、同時に「年金公平化法案」でもある

そしてもう一つあります。賃金が上がっていくケースを想定してください。

賃金が上がればそれに応じて年金支給額も増えることになるのは上述した通り。しかしその増額幅を減らす調整をします、というルールがもともとありました(これをマクロ経済スライドと呼びます)。

例えば、賃金が2%増える場合、年金支給額は1%だけ増やします、ということです(数字はイメージです)。年金支給額が抑えられるので、年金制度の維持に貢献します。

一方で、賃金が0.5%増えるケースだとします。この場合、本来であれば調整が入りますので、年金支給額は-0.5%減らすことにしないといけません。しかし名目上は支給額を維持します、ということにしているため、年金支給額の増減は無し(±0)となります。

しかし今回の新ルールでは、この「-0.5%」をキャリーオーバーさせて、将来に負担をまわしますということを決めています。

極端な例でいえば、毎年0.5%の賃金上昇があって、しかし年金支給額はずっと±0%で、それが10年続いてしまった場合、キャリーオーバーは-5%にも上ります(-0.5%×10年)。

そしてもし賃金が一気に5%上昇するようなケースがあったとしても、年金支給額は過去のキャリーオーバーをここで相殺させますので、賃金上昇分を一切反映させずに、支給額を増やすことはしないことになります。

あくまで例ですが、5%もの賃金上昇がある場合、相応に物価上昇(インフレ)が発生しているはずです。インフレがあるので、年金支給額を増やさなければ、実質的に目減りしてしまいますが、上記の通りキャリーオーバーがあれば支給額を増やしませんので、年金受給世代の生活は厳しくなってしまいます。

以上の通り、年金支給の負担者である現役世代の賃金に合わせて、受給額を公平に調整していくことを目的としていることがわかるかと思います。

このルール改定にご興味あれば以下のサイトをご覧ください。1ページのスライドにまとめられています。
年金額の改定ルールの見直し – 厚生労働省(PDF)

これは以前もメルマガで記載した話ですが、この法案について、年金受給世代からみれば「年金カット法案」であり、働く世代からみれば「年金公平化法案」となります。立場が変われば、見方が変わります。

Next: GPIFの運用パフォーマンスではなく、毎年の過不足金額が問題だ



GPIFの運用パフォーマンスではなく、毎年の過不足金額が問題だ

(C)年金支給額を減らすことをしていかなければならない、ということは日本政府もわかっていて、それを粛々とやっていくしかありません。そしてその間に、不足額はなるべく年金運用でカバーするように努力しないといけません。

それでも上記の単純な計算によって、不足額は毎年相当の金額になっていくのは明らかですから、いずれ積立金も枯渇していくでしょう。

前回のメルマガで、2030年頃には抜本的な見直しを迫られる、実質的に年金制度破綻がある、と申し上げたのはここが根拠になっています。単純計算ですが、毎年7兆円が不足して、それが15年間あれば、100兆円以上もの積立額が無くなります。

その間に、受給者は右肩上がりで増えていきますし、あるいは日本の財政自体が維持困難になっていくということで(B)国庫負担額が減らされるかもしれません。(A)年金保険料が大幅に増えるわけではありませんから、大きな痛みを伴わない限り、制度破綻は避けられない、と考える方が自然です。

しかし勘違いをしてはいけませんが、全くもらえなくなる、ということではありません

なぜなら(A)年金保険料という年金原資があるからです。この原資を受給者に分配することができますから、金額は大幅に減るでしょうが、年金制度自体は残ることになります。ちなみに前回も書きましたがこれを「賦課方式」と言います。

現在の(C)年金支給額の6割くらいが(A)です。現実的に考えれば、2030年頃になっていれば、年金受給額は現在の6割くらいになっているだろうと予想できます。前号でも書きましたが、現在の受給額が平均20万円/月であれば、その6割なので12万円/月、という計算になります。

不足額7兆円という金額がゼロに近づけば年金制度は維持されるという単純な話ですが、私たち日本国民がみなければならない点はGPIFの運用パフォーマンスではなく、むしろ毎年の過不足金額だと指摘しておきたいです。

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週刊「年金ウォッチ」-自分年金作りのためのメルマガ』(2017年1月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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これまで年金は国や企業が用意してくれました。しかし昨今の日本経済は、それが困難になっているのも事実です。だとしたら、自分で作っていくしかありません。しかし、自分で作りなさいと言われても、どうしていいかわからないし、むずしいことや面倒なことは、したくありません。それが人として、普通です。このメルマガを読めば、自分の年金作りに対する考え方やアクションが理解でき、新たな一歩が踏み出せる。さらに、他の情報源はいいから、このメルマガだけ読んでいれば年金作りはOK、と言っていただけるようにするつもりです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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