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今は生活必需品の「クルマ」を捨ててこそ地方が蘇るワケ=内閣官房参与 藤井聡

記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年10月17日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

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クルマを捨てよ町へ出よう。地域活性化の道はこれしかない

日本の地方は「クルマ」前提でつくられている

総選挙や北朝鮮リスクなど――我が国の命運を分けかねない問題、ないしは危機が眼前に迫りつつある我が国日本ですが、そんな危機の中でも、わたしたちは日々の暮らしを実直に続けなければなりません

…というよりむしろ、そんな危機を乗り越える力は、「足下」がしっかりと固まっていてはじめて、もたらされるものです。

当方はそんな「足下の力」の活性化を企図して20年以上細々と進めてきた研究の成果をこの度、一般の方々に向けて1冊の新書に纏めました。

題して『クルマを捨ててこそ地方は甦る』。

クルマを捨ててこそ地方は甦る
著:藤井 聡/刊:PHP研究所

――こう言うとすぐに、「うちの地域じゃ、クルマなしなんて無理だ。『クルマを捨てる』なんて、ナンセンスだよ」と、反発される方が多数おられるのではないかと思います。

実際、日本全国には、鉄道やバスがほとんど無い様な街や地域だらけなのが実情です。

そんな街や地域は東京や大阪と違って、鉄道やバスが仮にあっても、1時間に数本程度。買い物するにしても、お店はクルマじゃないといけないところがほとんどだし、通勤だってクルマが当たり前。

だからそんな街では、クルマがなければ生きていけないわけです。実際、国勢調査に基づけば、地方では7割や8割以上の移動が「クルマ」だというのが実態です。

だからお店もレストランも、商店街も、はては鉄道の駅に至るまでみんなクルマで行くのが前提になっていて、駐車場のない所なんてほとんどありません。住む場所だって、多くの住宅地が電車からはほど遠いところにつくられています。

つまり、地方の社会は「クルマ」が前提になってできあがっているわけです。

Next: クルマは当たり前という「常識」こそが、地方を疲弊させている



地方衰退の原因は「クルマに依存しきっている」こと

しかし――今地方が「疲弊」している重大な原因は、地方社会が「クルマに依存しきっている」という点にこそ、あるのです!

実はこの「真実」は、今や、地域や交通に着目している研究者、専門家の間では大変有名な「常識」とすら言いうるものなのですが、一般の方にはほとんど知られていないのが実情です。

しかしクルマは、地方を疲弊させる深刻な影響を、実に様々に及ぼしているのです。

第1に、皆がクルマばかり使っていれば(つまり、モータリゼーションが進展すれば)、鉄道はどんどん寂れ、駅前商店街もダメになっていきます。つまり、クルマ社会化は、地域の地元商業や公共交通産業に大きな打撃を与えます。

第2に、クルマ社会化が進めば、郊外の大型ショッピングセンターは大流行(おおはやり)となっていく一方で、それらはいずれも、グローバルマーケットでも活躍するほどの「地域外の資本」でつくられたお店です。だからその利益の大半は地元に戻ってこないで、東京や大阪などの大都市に吸い上げられるのです。

実際、筆者の研究室の調べでは、例えば京都の「商店街」で1万円使えば、5300円が京都に再び戻ってきますが、京都市内の「大型ショッピングセンター」で1万円を使っても、京都にわずか2000円しか戻ってこないのです。

つまり、大資本の大型ショッピングセンターでオカネを使えば、その8割方が、「地元外」に「流出」してしまうのです! そうなれば、住民が一生懸命働いて稼いだオカネが地域外に流出し、地域経済はますます疲弊していく、というわけです。

第3に、そうやってモータリゼーションが進み、地域産業や経済が衰退すればもちろん、地元の市や県に納められる「税金」も少なくなり、行政サービスも劣化していくことになります。

つまり、クルマが便利であることは間違いないし、地方都市ではクルマがなけりゃやっていけないのは事実、だから地方を蘇らせるのに、クルマを排除するなんてナンセンスだ、と思われがちです。

だけどだからといって、クルマに頼り切った社会をつくってしまえば、地域の商業は衰退し、住民所得は地域外に流出して経済は疲弊し、税収も減って行政サービスは劣化し、実に様々なダメージがもたらされ、地方は「踏んだり蹴ったり」の状態になってしまうわけです。

つまり地方ではクルマが当たり前という「常識」こそが、地方を疲弊させているのです。

Next: 地方創生には「クルマ依存からの脱却」しか道はない



地方創生には「クルマ依存からの脱却」しか道はない

だから、地方を豊かにしたい、地方を創生したいと考えるなら、クルマに頼り切る態度からは脱却する他ないのです。

すなわち、クルマを捨ててこそ、地方は甦る、のです。

この本では、一面において「地方の暮らしには不可欠」でもあるクルマが如何に地方を「疲弊」させているのか、というメカニズムを、豊富なデータに基づいて一つ一つ明らかにしていきます。

それと同時に、どっぷりとクルマに使った地方において、少なくとも「部分的」にでも「脱クルマ」の要素を導入し、これを通して地方を活性化し、創成していく道を明らかにしようとするものです。

例えば、富山はLRTという新しい公共交通を導入し、地域の活力を取り戻しています。京都は、人気ラジオ番組の一コーナーをつかって「脱クルマ」を何年間も呼びかけ続け、その帰結として、何万人、何十万人という人々のライフスタイルを変え、クルマの利用を減らし、公共交通利用や歩くことを促進させることに成功しています。

ご自身の街の活性化、あるいは、今与党が勧めようとしている「地方創生」なるものを本気で、具体的に進めたいとお考えの方は、是非、この本を手にとってもらいたいと思います。

そしてこの機会を通して、クルマを毎日使っている人もそうでない人も、都市部の人も地方の人も、郊外の人も都心の人も、便利極まりない一方でやっかいな問題をいろいろと巻き起こす「クルマ」という存在と、どうやれば「かしこく」付き合っていけるのかを、一度じっくりと考えていただきたいと思います。

(そしてこれこそが、しばしば保守論壇で大上段に論じられてきた「近代の超克」なる高尚な取り組みの、具体的な活動の1つのかたちなのです)

追伸:この本は、伝統的な「まちづくり」の取り組みの書であると同時に、「マクロな経済対策」の対局にある「ローカルな経済対策」の具体的一例の書でもあります。是非是非、どなた様もご一読いただきたいと思います。
https://www.amazon.co.jp/dp/456983695X/

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三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年10月17日号より

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