日本は相変わらずデフレだが、雇用は確かに改善している。これはなぜか? そのカラクリを理解すれば、アベノミクスが成功していないこともはっきりとわかるだろう。(『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』三橋貴明)
※本記事は、『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 2017年10月21日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
「安倍政権で雇用は改善している」というレトリックに騙されるな
なぜデフレなのに雇用が改善しているのか?
日本は相変わらずデフレなのだが、雇用は確かに改善していっている。失業率は2.8%。有効求人倍率は1.5倍を超えており、何とバブル期をすら上回っているのだ。
デフレ=総需要不足である以上、ヒトが余るはずだ。ヒトが余れば、失業率は普通は上昇する。
なぜ我が国は、ヒト余りになるはずのデフレが継続しているにも関わらず、雇用は改善しているのだろうか。
謎を解くカギは「総実労働時間」
謎を解くカギは、「総実労働時間」にある。労働者1人当たりの月当たり労働時間(休憩時間は除く)を「実労働時間」と呼ぶ。というわけで、「総実労働時間」と「就業者数」を掛け合わせると、日本全体の延べの総実労働時間が計算されるのだ。
延総実労働時間とは、要するに月当たりで日本の就業者が働いている時間の総計になる。
【日本の就業者数(左)と延総実労働時間(右)】
日本の就業者数は、確かに安倍政権下で増えている。最悪期の2012年と比較すると、185万人増えた。就業者の数は、デフレが始まった97年には及ばないものの、それでもリーマンショック前の数値を回復しているのだ。
ところが、延総実労働時間の方はそれほど伸びていない。最悪期(09年)と比較し、1万7千時間しか伸びていないのだ。リーマンショック後の09年と比較すると、2%未満の増加に過ぎない。就業者数は、09年と比較すると、2.4%増えているにも関わらず、延総実労働時間は1.9%しか増加していないのだ。
延総実労働時間を1997年と比較すると、2016年の数字ですら▲10%である。ちなみに、16年の就業者数は、97年と比較すると▲1.4%と、ほとんど変わらない。
2013年以降の日本では、就業者数は確かに増えているものの、延総実労働時間がほとんど伸びていないという「現実」が分かるのだ。
Next: 今、日本で起きているのは「フルタイムからパートへの切り替え」だ
失業者が減っても増えない延総実労働時間
13年以降の日本で、何が起きていたのか。要するに、「短時間労働」つまりはパートタイマーへの切り替えである。
フルタイムで働いていた「労働時間が長い」団塊の世代が退職し、企業は不足するヒトをパートタイマーでカバーしていったのだ(引退した団塊の世代が、短時間労働で再雇用されるというケースも多いだろう)。
結果的に、就業者数は確かに増えたが、延総実労働時間はほとんど変わっていないという現象が発生したのである。
安倍政権の雇用改善は「ワークシェアリング」の結果
要するに、第二次安倍政権発足後の日本の雇用改善は、フルタイム労働者からパートタイマーへの切り替え、一種のワークシェアリングによりもたらされたことが分かる。
実質賃金が上がらないはずだ。
企業が雇用を給与が高いフルタイムから、安いパートタイマーに切り替えた以上、生産者1人当たりの名目賃金は伸び悩み、実質賃金も下落が続いた(消費税増税という強制的な物価上昇もあったが)。
決してうまくいっていない「経済政策」
というわけで、せめて延総実労働時間がリーマンショック前に戻らない限り、安倍政権下で「経済政策がうまくいった」とは、とてもではないが断言できないのだ。
とはいえ、政権や与党、マスコミなどは、「総雇用者数」のみに注目し、安倍政権の経済政策を肯定しようとする。
これでは、問題を正しく認識することができない。問題を正しく認識することなしに、正しい解決策を講じることは、神様にも不可能だ。
「指標」の中身をきちんと理解し、ブレイクダウン(細分化)や相対化を行わない限り、現実は理解できない。
「安倍政権で雇用は改善している」というレトリックは、実に典型的なケーススタディだ。
※本記事は有料メルマガ『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』2017年10月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』(2017年10月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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