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投資家が身構えた「11.9 日本株乱高下」値幅860円が意味するものとは=馬渕治好

日経平均が11月9日のザラ場中に乱高下。これは市場の脆弱さをはっきりと表わす「事件」と言えます。折しも米国市場も、じわりと怪しさを増してきました。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年11月13日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。市場急変時には号外の配信もあります。

市場に広がる怪しげな動き。足元の上昇トレンドはあまりに脆弱だ

市場の脆さをはっきり示した乱高下

先週 11/9(木)は、ザラ場中に日経平均株価が乱高下することがありました。これは、最近までの日本株の上昇の主因が「海外短期筋が日経平均先物を買い上げたこと」にあり、企業業績の改善はそうした投機的な買いの口実であったという、市場の脆弱さがはっきりと表れた「事件」でした。

特に日本国内で日本株が下落するような材料はありませんが、米国市場がこれまで無視し続けていた種々の悪材料が重石となり始め、米国株がじわりと調整し始めると、日本株もそれによって下落気味の推移を始めたところで、週を終えました。

「業績改善を好感した買い」はどこまで本当か?

先週の日本の株式市場で広く話題となったのは、11/9(木)の乱高下ぶりでした。前日水曜日(11/8)の日経平均株価の終値は22913.82円と、23000円を下回っていましたが、この木曜日は、まず一気に23000円を大きく上回り、ザラ場高値は23382.15円に達しました(前日比468.33円高)。ところが後場ではそこから急落し、ザラ場安値は22522.83円となりました(前日比390.99円安)。

この860円近い高値から安値への大幅な下落は、「一部の」プログラムに基づく売買資金が日経平均先物を売ったためと報じられています。

最近の日経平均株価の急速な上昇基調は、日本企業の業績改善を評価した外国人の長期投資家が、有望な銘柄への投資を拡大しているため、と、諸マスコミでは解説されてきました。確かに、足元の決算発表をみても、総じて日本企業の増益基調は一段と鮮明になっています。また、そうした業績の良さを踏まえて、個別銘柄を買い進めている海外投資家はいるとは思います。

日経平均「ばかりが」上昇していた

しかし、当メールマガジンでも継続して指摘してきた通り、最近の国内株式市況は、NT倍率(日経平均÷TOPIX)の急上昇にも表れているように、日経平均「ばかりが」上昇している感が強かったです(それは、小型株の劣後や、マザーズなど新興市場株の頭の重さにも示されています)。

こういった現象は、海外短期筋が日経平均先物を投機的に買い上げているためであり、そうした推測が正しければ、短期筋が買いを控えるなり反対売買の利食い売りを増やしたりすれば、日本株市況は反落しかねない、と懸念していたわけです。

「先物売り」に対抗する買い支えなく

もし市中の解説のように、最近の株価上昇が業績期待に基づく個別株への長期投資家買いによってもたらされていたのであれば、11/9(木)に多少の資金が先物を売ったところで、あれほど株価が急落するはずはありません(個別銘柄の買いが、株式市況をきちんと支えるはずです)。

そうでなく、実際には乱高下になったということは、やはり今の日本の株式市況が、先物によって振り回されている脆弱な状況にあることが、如実に示されたと考えています。

このように、国内株式市況の相場付きは脆弱で、悪材料が現れると危うい、とは考えますが、日本国内から湧き上る大きな悪材料は見出しにくいです。しかし、海外では徐々に懸念材料が積み上がり始めており、そうした悪材料を無視し続けていた米国の市場もじわりと怪しさを増しているため、それが日本株に悪い外部要因として働き始めたと推察しています。

Next: じわり広がる「米国市場への懸念」が株価の重しに



じわり広がる「米国市場への懸念」

まず、米国の状況を見ますと、これまでは、税制改革(減税案)やそれを含む予算審議については、予想以上に順調に進展してきました。それは、当初の大統領と共和党指導部協働の減税案や、それを受けた予算決議(予算を大まかに示すもの)の上院、下院での可決、さらに具体的な税制法案の下院共和党からの発表(11/2、木)などでした。

ところが、11/9(木)に上院共和党が公表した税制法案では、連邦法人税(国の法人税)の35%(現行)から20%への引き下げは、下院案のような2018年ではなく、2019年からとされました。

今後上下院で一本化へ向けての協議が行なわれるため、最終的に上院が下院に大きく譲歩し、2018年からの税率引き下げとなる展開は否定はできません。ただ、上院の案は、共和党内に根強い、財政規律を守るべきだとする勢力の強さを示すものであり、それを受けて、ようやく米国株式市場がじわじわと減税策の行方について懸念し始めた(減税が議会で可決される時期の不透明化も含めて)と言えます。

この他には、連銀人事に関連して、先行きの金融政策にじわりと不透明感が漂い始めています。来年2月のイエレン現議長の任期切れ以降は、パウエル理事が議長に就任すると11/2(木)に発表され、市場は現在の連銀の金融政策がそのまま維持されるだろうと、安心感を抱きました。

ところがニューヨーク連銀総裁であるダドリー氏(任期は2019年1月まで)が、来年2018年半ばまでに退任すると、11/6(月)に明らかになりました。パウエル氏指名の直後であり、かつトランプ大統領が米国を離れているタイミングでの退任表明は、唐突感があります(ただし、ダドリー氏本人は」かなり前から決めていたことだ」と語っています)。

これにより、来年はイエレン現議長パウエル総裁(ニューヨーク連銀総裁は、常にFOMCのメンバーであるという特別な立場にあります)が退任し、今年10月に任期途中で既に辞任したフィッシャー前副議長を合わせて、これまでと人事ががらりと変わります

新しい連銀が、いったいどういう金融政策を取るのか(とは言っても、いきなり方向性が変わるわけでもないですが)について、じわじわと不透明感が市場に広がりつつある状況です。

以上に述べた米国についての不透明感は、急激に表れたものすごい悪材料といったようなものではありません。ただ、じわじわと広がりつつある懸念が、じわじわと米国の各市場に重石となり、市場に怪しげな動きが始まりつつあります

Next: 長期金利に異変あり? 米国市場の「怪しげな動き」



長期金利に異変あり? 米国市場の「怪しげな動き」

怪しげな動きというのは、まず米国長期債市場について、10年国債利回りが、10/27(金)の2.46%から、11/8(水)に2.30%近辺に低下していたものが、特に金利上昇要因が現れないにもかかわらず、週末11/10(金)は、じわりと2.38%に上昇して引けています。

これまで長期金利は、米国の堅調な経済や連銀の緩和縮小を無視する形で、低位で推移してきました。このため、特に材料がなくても、長期金利に上方へ水準訂正が生じるのは、不思議ではありません。また、先週末までの金利の上昇幅は限定的で、特に騒ぐようなものでもありません。

ただ、これまでの米国株式市場やジャンク債(低格付け債)市場は、「長期国債利回りが低すぎて、これでは十分に投資収益が得られないから、リスクを取って株式やジャンク債にも投資しよう」という投資家の資金シフトに支えられてきた面が大きいです。

したがって、今後さらに長期金利が上がっていくような展開になれば、株価やジャンク債価格の下落が本格化する恐れがあります。実際週末の市場では、株式市場で長期金利の上昇を懸念する声がありましたし、ジャンク債に投資しているファンドの価格下落を心配する向きもあったようです。

加えて、米ドル円相場についても、今のところは「米長期金利上昇→日米金利差拡大→米ドル高・円安」という解釈が優位です。しかしこれが、いずれ「米長期金利上昇(米長期債価格下落)→米株安、米ジャンク債安→米国から他国に資金逃避するとの懸念→米ドル安・円高」に化ける恐れがあります。

実際に先週後半の米ドル円相場は、徐々に114円台を取り返しにくくなり始めたようにも感じられます。

【関連】「戦争前夜」の不気味な株高。割安を謳歌する東京株式市場の死角とは?=斎藤満

今週の展望:材料ナシも米国市場から調整が進みそう

今週は、内外ともに大きな材料がありません。ただ、米国では徐々に不透明感が強まり始めており、サウジ情勢やトランプ政権の人事面での懸念要因など、これまで米国市場が無視し続けてきた材料が、市場心理の悪化により、今さらのように悪材料視される恐れも――

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※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年11月13日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した「来たる花~今週(11/13~11/17)の世界経済・市場の動きについて」の詳細解説もすぐ読めます。

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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2017年11月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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