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北朝鮮に舐められた日本が決して忘れてはならぬ「最強の戦略」とは?=北野幸伯

なぜ北朝鮮と米国は挑発を繰り返すだけで、本格的な対話の場を持たないのでしょうか。その根底にある両国の思惑と、日本がとるべき戦略について考えます。(『ロシア政治経済ジャーナル』北野幸伯)

金正恩の焦りとトランプの真意。日本にとってベストの戦略は?

考えられる3つの「対北朝鮮政策」

「対北朝鮮政策」には、大きく3つの方向性があります。

1つ目は、「戦争」。これは、多くの犠牲者が出る。「韓国人は、最低100万人は死ぬ」といわれています。それで、アメリカの歴代大統領も、決断できなかった。

2つ目は、「国連安保理を通じ、制裁を強化していくこと」。私は、これを支持しています。「緩衝国家・北朝鮮」を守りたい中国、ロシアが、抵抗する。しかし、北が、安保理を無視してバンバン挑発を繰り返すので、中ロも守りきれなくなっている。それで、制裁が徐々に強化されてきています。

3つ目は、「北朝鮮と対話すること」です。「平和を希求する日本人」だと、「対話すればいいのに」と考える人も多いのではないでしょうか? 正直いうと、私も「対話すればいい」と思います。しかし、やるなら、「アメリカ、韓国と一緒」でなければならない

日本が単独で交渉してはいけない

日本が勝手に対話をはじめれば、アメリカは、「そうか、俺たちを無視してそういうことをやるのか、日本は!」と激怒することでしょう。

キッシンジャーはかつて、田中角栄がフライングして中国と国交回復したことに激怒。彼は、「ジャップは最悪の裏切り者!」と憎悪を露わにした。日本が北と単独交渉すれば、トランプの「顧問」であるキッシンジャーは、「ジャップは、相変わらず最悪の裏切り者!」と叫び、トランプも納得することでしょう。

するとどうなるか? アメリカは、日本に内緒で北と秘密交渉をはじめ、

  1. 北朝鮮の核兵器は、黙認(もちろん公表されない)
  2. アメリカを攻撃できるICBMは、廃棄
  3. 日本、韓国を攻撃できる弾道核ミサイル保持は黙認
  4. アメリカは、北朝鮮の体制存続を保証する

なんてことになりかえない。

え? ありえない? そんな人は、歴史を知らないのでしょう。アメリカは70年代、共産党の一党独裁国家中国と和解するために、台湾と断交したではないですか?(日本も追随)

アメリカは、こういう恐ろしい国なので、「猪木さんを団長に、日北交渉を単独で開始しよう」などとやっては絶対にいけない。日本は、あくまで、アメリカ、韓国と「チーム」で北にあたる必要があります。

ところで、アメリカは、なぜ「対話」を拒否するのでしょうか?

Next: なぜ北朝鮮とアメリカは対話のテーブルにつかないのか?



アメリカの条件

「対話」は、目的をもって行われます。アメリカの「目的」は、なんでしょうか? 北の、核兵器とICBMがアメリカの脅威になっている。だから、目的は、「核兵器と、ICBMの破棄」となるでしょう。

しかし、北も「無料」では、同意しないですね。「見返り」はなんでしょうか? これは、金王朝の「体制保証」でしょう。つまり、「核、ICBM」を破棄すれば、アメリカは、「北朝鮮を攻撃しないし、クーデターを画策したりしない」と。

皆さん、どうですか、これ? 金正恩にとっては、「いいディール」だと思いませんか?

北朝鮮の条件

ところが、北の条件は違います。北は、「核兵器、ICBMを保持したままで、体制保証」を求めてくるでしょう。なぜでしょうか? 北は、アメリカを信用できないからです。なぜ?

アメリカはこれまで、「反米独裁者」を殺してきた。たとえば、イラクのサダム・フセイン。フセインのイラクには、「大量破壊兵器」も「アルカイダとの関係」もなかった。しかし、彼は殺された。アメリカは2013年から現在まで、シリアのアサドを殺そうと、努力をつづけている。

そして、金正恩にとって「最良」(?)の教訓は、リビアのカダフィでしょう。カダフィは03年、核開発中止に同意した。それで、欧米との仲がよくなった。しかし、わずか8年後の2011年、米英仏はリビアを攻撃。カダフィは殺されました。金正恩は、「カダフィは核開発を放棄したから殺された」という教訓を得たことでしょう。そして、「アメリカを絶対信用するな」とも。だから、「核兵器保持」は譲れないのです。

Next: 北朝鮮とアメリカの挑発合戦の真意



挑発合戦の真意

アメリカは、戦争を望んでいるでしょうか? 普通に考えたら、望まないでしょう。戦争がはじまれば、まずソウルが火の海になり、最低100万人が死ぬといわれている。金正恩が、「もうすぐ俺は殺される」と思えば、「韓国人、日本人も地獄に道連れにしてやろう」となり、核を使うかもしれない。

北朝鮮は、戦争を望むのでしょうか? 普通に考えれば、望まないでしょう。北は、アメリカに勝てない。では、繰り返されるミサイル発射と核実験は何なのでしょうか?

北は、「もはやアメリカですら、わが国を攻撃すれば、無傷ではすまない」「あきらめて、わが国の核兵器保有を認め、体制を保証し、制裁を解除せよ!」と訴えている。

アメリカは、挑発に対し、

で応じています。これは何でしょうか? 「おまえたちは国際的に孤立している。戦争になったら、勝ち目は1%もない。だから、おとなしく核兵器を放棄せよ! そうすれば、体制保証について、考えてやる」と。かみ合わないまま、「挑発合戦」は続いていきます。

Next: 中国が北朝鮮の核保有を認めたくない本当の理由とは



北朝鮮の「核保有」を許したらどうなるのか

ところで、北朝鮮の「核保有」を許したらどうなるのでしょうか?

第1に、クレイジーな独裁者(と思われている)が核を持つことで、アメリカの安全が脅かされる

第2に、北朝鮮の核保有を認めれば、他の国の核開発を止めることが難しくなる。これ、とても重要ですね。

アメリカが、北朝鮮の核保有を認めた。イランは、「北朝鮮がよくて、イランがダメな理由はなんだ?」と迫ってくるでしょう。そして、アメリカにも国際社会にも、「北がよくてイランがダメな理由」は説明できません。

さらに、中ロが恐れているのは、日本と韓国の核武装です。「北朝鮮が核をもっているのだから、日本も核を持たざるを得ない」となれば、なかなか反対するのが難しい。中ロが、「緩衝国家」北朝鮮を守る一方で、制裁強化に同意しているのは、そういう背景があるのです。

ちなみに、日本人は自国について、「わが国は、気概を失ったダメダメ国家だ」と思っているでしょう? しかし、世界はそう見ていません。「かつて中国(清)に勝った国、ロシアに勝った国、アメリカに挑んだ国。いまはおとなしくしているが、目覚めたら怖ろしい」と思っている。だから日本は、「おとなしく」していた方がいい。トウ小平も言いましたが、「警戒されないこと」はとても大事です。

【関連】中国が恐れるトランプの経済侵略と北朝鮮「北京核テロ」の脅威=斎藤満

「日本も剛腕プーチンを見習って」などという人もいます。しかし、ロシアは、世界有数の石油、ガス大国で、アメリカよりも多くの核を保有している。資源もない、核もない日本がプーチンのマネしたら、すぐにつぶされるだけです。

話を元に戻しましょう。アメリカと北朝鮮がなかなか「対話」しない。その理由は、アメリカは「核放棄」を求め北は「核保有」を求めているからなのです。

image by:aradaphotography, Gino Santa Maria / Shutterstock.com | 首相官邸ホームページ

【関連】著名投資家のジム・ロジャーズが「北朝鮮の内部崩壊」を確信するワケ=東条雅彦

【関連】「今の場所」で自分は本当に勝てるのか? 賢明な投資家の情報収集術(完)=俣野成敏

ロシア政治経済ジャーナル』(2017年9月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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