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北朝鮮の核を世界が容認? 「情報操作」の裏でいま何が起こっているのか=斎藤満

北朝鮮問題に新たな動きが出てきました。米軍の軍事行動による核の強制的排除以外にも問題解決の道が開ける可能性が期待されます。まずは北朝鮮が動きました。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年1月10日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

半島問題の「解決」で、南北朝鮮と日米の間にできる深い溝とは?

北朝鮮が動いた

北朝鮮問題に新たな動きが出てきました。米軍の軍事行動による核の強制的排除以外にも問題解決の道が開ける可能性が期待されます。まずは北朝鮮が動いてきました。

北朝鮮の金正恩委員長は、今年の「新年の辞」で、韓国との対話に柔軟な姿勢を見せました。これまでの無視の姿勢から明らかに転換しました。そして3日には南北のホットラインの運用を再開しました。そして北朝鮮のフィギュア・スケートの選手をピョンチャン冬季五輪に参加させる意向を示唆しました。そして9日午前10時、両国の統一相を中心とした閣僚会議が板門店で開催されました。

ここでは冬季五輪参加の話のほか、南北関係改善に向けた対話もなされた可能性が報じられています。この動きに対して、中露両国は歓迎の意を表し、トランプ大統領も表向きはこれを歓迎するとし、韓国の要請に基づき、米韓合同軍事演習をピョンチャン五輪後に先送りすることに合意しました。

「情報操作」の可能性

もっとも、米国はこれまでの強硬姿勢を崩していません。トランプ大統領自身は対話による解決も排除していませんが、背後にいるネオコン・軍産複合体が強硬論を促している可能性があります。日本も米国と同じ立場を表明しています。ここに南北朝鮮と日米との間に大きな溝ができる形となりました。

米国サイドからは、北朝鮮が近々ミサイルの発射実験を行うとの情報が流されましたが、これは情報操作の可能性があり、北はネオコンにそそのかされても、今回は慎重に行動すると見られます。北は核の抑止力を持って米国と対等の交渉力を持つことが目的で、本気で米国と核戦争をする気はありません。口での脅しはタダでできます。

Next: なぜ北朝鮮は韓国の誘いに乗ったのか? その背後にある思惑



北朝鮮が韓国の誘いに乗った理由

ここで考えるべきは次の2点です。1つは、北がなぜ韓国の誘いに乗ったのかその背後に何があったのかです。北は米国が主張する核の放棄は受け入れられません。これに対して、韓国ならびに中露が、北の核保有を前提とした問題解決を志向し、北がそれなら乗れると判断した可能性があります。ある意味では、韓国は日米と離反してでも中露と共同歩調をとる可能性があります。

したがって今回の韓国のオファーでは、北の核保有は容認の姿勢と見ます。そのうえで、中露が主張する「相互凍結」に向けて合意を得ようとしている可能性があります。相互凍結とは、まず米韓合同軍事演習を凍結すること、これを前提に北朝鮮が核実験・核開発を凍結する、というものです。米国は軍事演習を冬季五輪後に先送りしましたが、中露、そして北朝鮮は永久に凍結してもらいたいはずです。

ここまで北朝鮮はミサイル発射、核実験を見合わせ、米韓は軍事演習を延期しましたが、これが中露の求める「凍結」まで行けるか、まだ不透明な面が多々あります。これまで北の核ミサイル実験はネオコンの影響下で行われてきた面がありますが、すでに完成の域に達しつつあるところで、北がネオコンと距離を置く可能性があります。このままでは米軍の介入リスクが高まると見た可能性があります。

日米と距離を置きたい韓国

それと韓国の対米、対日関係は悪化する可能性がありますが、韓国のムン・ジェイン大統領はあえて日米と距離を置き、中露に接近している節があります。トランプ大統領とムン・ジェイン大統領の関係は冷え込み、日本に対しては慰安婦問題での日韓合意をひっくり返しました。米国がTHAADを韓国に配備することに中国が強く反発し、韓国に冷たい仕打ちをしたことで、韓国企業や経済が大きな打撃を受けました。韓国は中国、ロシアに良い顔をし、接近する一方、日米離れは明確になっています。

中露と韓国グループは、朝鮮半島から米国の支配力を排除し、彼ら自身による統治を回復したいと考えています。米国もトランプ大統領は在韓米軍を引き揚げ、余計な軍事コストをかけたくない意向のようですが、ネオコン勢がアジアでの覇権を中国に奪われ、米国の影響力がここで低下することには抵抗しています。

Next: 半島を揺るがすトランプ大統領とネオコンの対立構造



トランプ大統領とネオコンの対立構造

そこで2つ目の問題は、米国でのトランプ大統領とネオコン(軍産複合体)との違いがどうでるか、です。トランプ大統領はもともと軍産複合体支配を崩したいと考えていました。ところが、次第にネオコン・軍産にとりこまれ、半ば軍事政権のような形になってしまいました。ネオコンの影響力が強まっていますが、トランプ大統領ゆえに彼らの思い通りにいかない可能性もあります。

つまり、トランプ大統領の「アメリカ第一主義」を貫けば、朝鮮半島にカネをかけずに、米軍を引き揚げ、当事者に任せる可能性があります。この場合は北の核保有を前提とした中露韓の支配圏となります。しかし、ネオコンがこれを許さなければ、米軍がどこかで力ずくで北の核排除に動く可能性も排除できません。それでも北がミサイル発射を自粛すれば、ピョンチャン五輪前の軍事介入の可能性は後退しました。

日韓の「核武装論」を高める恐れも

ネオコンが手を出さず、中露韓の連携で北の脅威が解決されると、次の問題が生じます。北の核が容認される形となるので、南北朝鮮が統一されればともかく、南北併存の場合、韓国にも核武装の機運が高まり、これは日本にも波及します。つまり、日韓の核武装論を高める可能性があります。日本が原発を続ける理由の1つに、核保有の思惑があると言われます。

また、北の脅威が後退すると、自民党の求心力が低下する可能性があり、米国も北の脅威で武器を日本に買わせるインセンティブが低下します。米国は北に代わる脅威を日本や韓国に与える必要がありますが、冷戦相手の中国がこれに利用される可能性はあります。米国第一とはいっても、中露に日韓がくっついて連携すれば、米国は警戒せざるを得なくなります。

Next: 半島情勢は新局面へ。中露韓と北の対話がカギに



半島情勢は新局面へ

以上のように、韓国が米国よりも中露のシナリオをもって北に接近し、南北会談が始まったことで、新しい可能性が浮上しています。

依然としてネオコンが影響力を誇示して軍事介入に動くリスクは残っていますが、その可能性に代わって、中露韓の「相互凍結」合意に基づく北との対話が進めば、当面は地政学リスクが後退し、金融資本市場には安心材料になります。

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image by:aradaphotography | Evan El-Amin / Shutterstock.com

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マンさんの経済あらかると』(2018年1月10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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