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偶然ではない、森友学園問題と「南スーダンPKO撤収」を結ぶ点と線=近藤駿介

唐突な「南スーダンPKO撤収」に、森友学園問題から世間の目をそらす意図があったことは想像に難くない。だが単に世間を欺くだけなら、ネタは他にもあったはずだ。筆者は、安倍総理に「南スーダンPKO撤収」を決断しなければならない切実な理由があったと考えている。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料メルマガ『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。月初の購読は得にお得です。

支持率急落に怯える安倍総理は、一体何を守ろうとしているのか?

「森友学園」と「南スーダン」は繋がっている

それは余りにも唐突な記者会見だった。

「今日2時に私学審議会あてに、瑞穂の国記念小学院の設立申請書を取り下げてまいりました」

その記者会見で、森友学園の籠池(かごいけ)理事長の口から発せられた内容は、2日前に公開した28分58秒に及ぶ動画のなかで、

「大阪府庁へ。大阪府庁へ。どうぞ声をあげてこの我々の学園を開校するよう声をかけて頂きたいというふうに思っております」

と訴えていた理事長の姿からは全く想像できない、信じ難いものだった。

安倍総理に「しつこい」と言わしめた籠池理事長が、わずか2日で心変わりをして、執念を見せていた瑞穂の国記念小学院の開校申請をすんなり取り下げるというのはにわかには信じがたいこと。それは、この2日間に国と森友学園との間で様々な駆け引きがあったことを想像させるものでもある。

大阪で開かれた籠池理事長による唐突な記者会見に合わせるかのように、首相官邸では唐突に国家安全保障会議(NSC)が開かれた。そして会議終了後、安倍総理から、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊の施設部隊の活動を、5月末をめどに終了することが発表された。

NSCの招集者についての明文規定はないが、招集者は内閣総理大臣である。したがって今回唐突なタイミングでNSCを招集したのも安倍総理だということである。

安倍総理が「PKOに派遣している陸上自衛隊の施設部隊の活動を5月末をめどに終了する」という緊急性の乏しい決定をするためのNSC開催は、籠池理事長の記者会見から世間の目をそらす意図があったことは想像に難くない。

ただ、籠池理事長の記者会見から世間の目をそらすことだけが目的だったとしたら、テーマは南スーダンPKO撤収である必要はなかったはずである。しかし、筆者は安倍総理にとっては、今回は南スーダンPKO撤収である必要があったのではないかと考えている。

森友学園問題と南スーダンPKOという、地理的にも問題的にも全く関係ないように思える2つの点が1つの線で繋がっており、その線が安倍内閣の弱点に突き刺さりかねない状況になったために、安倍総理がこの線を断ち切ろうとしたと考えると辻褄が合うからだ。

Next: 安倍総理の「秘蔵っ子」 内閣のアキレス腱になり得る人物と言えば…



すべては稲田朋美防衛大臣に対する「駆けつけ警護」だった

「活動終了の判断は総合的に勘案した結果で、治安悪化を理由とするものではない」

菅官房長官は記者会見で、南スーダンPKO撤収の理由は現地の治安悪化ではなく、施設部隊の派遣が今年1月で5年の節目を迎えたことによるものだと強調した。

しかし、節目を迎えるという理由で唐突にNSCを招集するというのは、いかにも説得力が乏しい説明である。こうした弁解じみた発言が、南スーダンPKO撤収を決めたのは国内事情によるものだということを物語っている。

森友学園問題と南スーダンPKOという2つの点は、ある人物によって結ばれている。それは稲田朋美防衛大臣である。

「国会議員の先生は私を全然知らないと言っておりましたけど、よく存じ上げている方もいらっしゃいますね。そして10年前にしか会っていませんと仰ってましたけど、そんなことはないですよね。2年ほど前にお会いしたことがあるんじゃないかと僕は思います。ある特定の会合の中で」

籠池理事長は唐突な記者会見の2日前に公開した動画の中で、暗に稲田防衛大臣に対してこのようなコメントをしている。

翌9日、この籠池理事長の発言を受けてマスコミの質問を受けた稲田防衛大臣はノーコメントを貫き、出席した参院外交防衛委員会の委員会室前で待ち構えているマスコミを避けるために傍聴用の出口から脱出するという離れ業まで見せた。

稲田防衛大臣は安倍総理と同様に保守系の議員で、安倍総理が後継者として期待していると思われている政治家である。

しかし稲田防衛大臣は、昨年の臨時国会で、終戦記念日に開かれた政府主催の全国戦没者追悼式を欠席したことを「言行不一致」だと追及され、言葉を詰まらせ涙ぐむなどひ弱さも目立ち、野党追及のターゲットにされている大臣でもある。

今年2月の衆議院予算委員会では、南スーダンPKOに当たる陸上自衛隊が現地情勢を伝える日報で「戦闘」という表現が複数回使われていた問題をめぐり野党の追及を受け「法的な意味で戦闘行為はなかった」という苦しい答弁を繰り返し、集中砲火を浴びたことは記憶に新しいところ。

森友学園問題でも、稲田防衛大臣の夫が籠池理事長の顧問弁護士であったこともあり、その関係について野党から厳しい追及を受けている。

そうしたなか、国会での「10年は会ったことがない」という答弁に対して籠池理事長から「10年前にしか会っていませんと仰ってましたけど、そんなことないですよね。2年ほど前にお会いしたことがあるんじゃないかと僕は思います。ある特定の会合の中で」と反論を受け、野党やマスコミからの厳しい追及に晒される羽目になった。

森友学園問題は、安倍総理自身に関わる初めてのスキャンダルであるという点で、これまでの大臣の失言問題等とは次元が異なり、対応を間違うと政権の致命傷になりかねない問題である。

その中で、総理の秘蔵っ子であり追及に弱い稲田防衛大臣が、PKOと森友の2つの問題で野党とマスコミの標的になるということは、政権のリスクマネジメント上大きな問題となる。

南スーダンPKO撤収という唐突な決定をした背景には、稲田防衛大臣がPKO問題と森友学園問題の両方から追及を受けたらもたないという総理の判断があったと考えるべきだろう。つまり、南スーダンPKO撤収は稲田防衛大臣に対する「駆けつけ警護」だったということだ。

Next: 「安倍内閣支持率と不支持率が逆転」衝撃の調査結果が後押しか



「安倍内閣支持率と不支持率が逆転」衝撃の日経クイックVote

安倍総理は、南スーダンPKO派遣部隊の撤収について「昨年9月からNSCを中心に具体的な検討を始めていた」と発言している。

昨年9月と言えば稲田防衛大臣が、かつて「長期的には日本独自の核保有を単なる議論や精神論ではなく国家戦略として検討すべきではないでしょうか」と核保有に前向きな発言をしていたことに関して厳しい追及を受け、答えに窮した稲田防衛大臣に代わって安倍総理が答弁をした時期でもある。

稲田防衛大臣が、国会で野党の追及を受け涙ぐんだり、答えに窮したりする姿を見せたちょうどその時期から、総理が南スーダンPKO撤収の具体的な検討を始めたというのは果たして偶然なのだろうか。

こうした下地がある中で、安倍総理がこのタイミングで南スーダンPKO撤収というカードを切ったのは、一部の調査で安倍政権の支持率急落が報じられたことが影響している可能性が高い。

同時にお聞きした内閣支持率は36.1%となり、今回の不支持率(63.9%)と前回調査の支持率(63.7%)とが逆になった格好です。

出典:日経電子版クイックVote 森友学園問題「参考人招致すべきだ」7割(2017年3月9日)

この調査はインターネットによるもので、通常の世論調査とは対象も方法も異なるため単純に比較はできないが、「不支持率と支持率とが逆になった格好」というのは衝撃的な内容だといえる。

こうした調査結果もあり、これ以上森友学園問題を長引かせたくないという政権の思惑が、籠池理事長の申請取り下げ、南スーダンPKO撤収発表に繋がったと考えれば筋が通る。

折しも10日は韓国の憲法裁判所が朴槿恵大統領の弾劾訴追について判断を示す日であり、一時的であっても社会の関心が森友学園から離れやすいタイミングであった。

さらに偶然かもしれないが、同日、マレーシア警察当局が、日本からの指紋提供によって先月空港で殺害された人物が金正男氏であることが明らかになったと発表している。

しかし、南スーダンPKO撤収の発表だけで森友学園問題を収束させることは不可能な話。そこで必要だったのが、森友学園の小学校設置認可申請取り下げとの「セット売り」である。籠池理事長が動画を公開してからの2日間、政府との間で「セット売り」に向けて様々な駆け引きが行われたとしても不思議ではない。

どのような駆け引きが行われたのかは知る由もないが、籠池理事長の記者会見での「潰さない。潰さないような方向で考えてもらわないといかないと思っていますね」「まあ延期ですよね。開校の延期ですよね」という発言に、そのヒントが隠されているように思える。

報道ではこの国有地は今年3月末までに小学校建設のために使われなかった場合は、国が売却価格で買い戻すことが出来るという契約になっている。麻生財務相も学園側との契約に基づき、今後、土地の買い戻しを検討することになるという認識を示している。

しかし、前回のコラム(森友学園と国の「危険な共謀」仕組まれたゴミ混入率が意味するものとは?)でも指摘したことだが、「この土地については地下埋設物を考慮して評価された時価で既に売却済みですから、したがって実際に撤去されたかを契約上確認を行う必要がない」という見解を示してきた財務省にとって、国有地を買い戻すことは実際にゴミが撤去されたかを確認する義務が国に戻ってくるということでもあり、決して歓迎すべきことではない。

つまり、森友学園に払い下げられた国有地が再び国有地に戻ることは、森友学園にとっても国にとっても望ましいことではない可能性があるということである。

Next: 財務省近畿財務局は、籠池理事長に「逆手を取られた」のか?



財務省近畿財務局は、籠池理事長に「逆手を取られた」のか?

財務省は否定しているが、森友学園の埋設物撤去及び土壌改良工事中に出て来た産廃土に関して、財務局が場内処分するよう要請したという報道が出てきている。

学校法人「森友学園」への大阪府豊中市の国有地売却問題で、2015年に地下3メートルまでの埋設物を撤去した際、財務省近畿財務局が費用抑制を理由に、一緒に出た産廃土をその場に戻す「場内処分」を求めてきたと、工事関係者が証言した。

出典:森友学園の産廃土「財務局が埋め戻し提案」 関係者証言 – 朝日新聞デジタル(2017年3月7日)

さらに16年3月、工事関係者が籠池理事長に、財務局側の提案で産廃土を「場内処分」したと初めて伝えたところ、籠池理事長は工事関係者に不満を示したことも報じられている。

仮に業者が財務省の提案に従ったとすると、その「処分地」は校舎建設が予定されている範囲であった可能性が高い。建物が建ってしまえば掘り返して確認することが難しくなるからだ。

業者が籠池理事長に財務局側の提案で産廃土を「場内処分」したことを伝えた翌月の2016年3月、森友学園側から杭打ち工事中に大量の生活ごみが出てきたという報告が財務局に寄せられることになる。

そして、財務省と国交省は森友学園の主張を確認もせずに受け入れ、8億円超のゴミ撤去費を差し引いた「評価された時価」で国有地を払い下げることになる。

国有地が不当に安く払い下げられたのは、財務局の要請によって生活ゴミを含む産廃土が建物建築部分に埋められたことを籠池理事長に逆手に取られた結果であった、と考えれば話の辻褄が合う。

こうした想像が正しいとしたら、国にとっても森友学園が建物を解体して更地にして返却することは決して喜ばしいことではない。国有地に戻ることで再度正確な土地鑑定評価をする必要が生じ、その過程でゴミがきちんと処分されているかの確認が必須になり、財務省にとって掘り返してはいけない事実が表に出てきてしまう可能性があるからだ。

こうしたリスクを財務省が単純に負うとは考えにくい。頭のいい財務省なら他の手段を駆使してくると考える方が自然である。そしてそれは、安倍政権お得意の「解釈の変更」である可能性が高い。

国有地買い戻しの原則は「現状回復」である。ここでのポイントは「原状」をどの時点のどのような状態だと定義するかだ。

メディアやコメンテーターは校舎を解体し更地にすることを「原状回復」だと決めつけている。確かにそれは正論である。しかし、籠池理事長が「窮鼠猫を噛む」を地で行くような政府に脅しをかけるような動画を公開したのと同様に、追い込まれた財務省が「窮鼠猫を噛む」ような行動に出ないという保証はない。

Next: 「現状回復」の定義を拡大解釈?考えられる今後のシナリオ



「現状回復」の定義を拡大解釈?考えられる今後のシナリオ

この国有地は2015年6月に森友学園と定期借地権契約を締結した後、2016年6月に売却されたものである。こうした経緯に、この土地を掘り返してほしくない政府側と、校舎を残したい森友学園の両者が折り合う手掛かりがあるともいえる。

考えられるシナリオの1つは、「現状回復」の「現状」の定義の拡大解釈である。

実際に森友学園が国有地を取得したのは2016年6月である。「現状」を、森友学園と売買契約がなされた時点、つまり、「国と森友学園の間で定期借地権契約が締結され森友学園が学校建設工事に着手していた状況」にあった2016年6月だということで合意できれば、建設中の校舎を残せる可能性があるはずだ。

籠池理事長の記者会見での「潰さない。潰さないような方向で考えてもらわないといかないと思っていますね」「まあ延期ですよね。開校の延期ですよね」という発言は、こうしたことを念頭に置いた政府への提案だと受け取ることもできる。

8日に籠池理事長が公開した動画は、安倍政権にとって脅しが効き過ぎたのかもしれない。

動画公開後、安倍政権は慌ただしく「森友学園隠し」のために様々な画策をしてきたが、残念ながら今のところ徒労に終わっている。

週明け13日の国会では、2005年10月の民事裁判に関する準備書面で、稲田防衛相の名前が同学園の訴訟代理人弁護士として記載されていることが明らかにされ、追及に弱い稲田防衛大臣に対する野党の攻勢は一層強まっている。

政府や森友学園に対して国民が抱いた疑念は、政府と森友学園の都合だけで国有地の地下に埋めてしまうには大きくなりすぎたようである。それは、彼らに政治家を脅すことはできても、国民を脅すことは不可能だからだ。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年3月14日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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